182.あべこべの木の秘密
私は、素材採取で暫く畑にも顔を出していないことを思い出して、アトリエを出て、外回りに畑へと向かった。
……ちゃんと、妖精さん達にも挨拶がいるわよね。
畑に着くと、妖精さん達はせっせと薬草達の世話をしてくれていた。
「お留守番ありがとう、妖精さん達。みんな元気にしていたかしら?」
すると、畑の薬草達をチェックしていた小さな妖精さん達が、私の周りに集まってくる。
「あのねー、あのねー」
そんな妖精さん達の中の一人の男の子が、私に話したいことがあるように、私の服の裾を引っ張った。
「どうしたの?」
その子を、私の指先に座って、お話ししようと、私は指を差し出して誘導した。
その意図をわかってくれたらしく、その子はちょこんと私の指に腰掛ける。
「あのね、あの変わった木達がいるでしょう? 中に、変わった子がいるの」
そう言って、『素早さの種』や『力の種』、『あべこべの種』が植っているあたりを指さした。
「え、そうなの?」
確かに、そろそろまた収穫時期なのよね、などと思い出しながら、『変わった子』に興味をそそられつつ、その子を指に乗せたまま、私はそちらへ移動した。
そして、その木達が植っているあたりに到着すると、ふわんとその妖精の男の子は、自分の羽で飛んで、膨らみだした種達のうち、あべこべの種の木に実った、一個の種子の近くの葉っぱに腰を下ろした。
「この子だよ」
うんうん、じゃあ鑑定で見てみましょうか。
【体力向上の種(実)】
分類:種子類
品質:高品質
レア:A(新種)
詳細:肉厚な実は栄養いっぱい。みずみずしく甘くて美味しい。追加効果はない。
気持ち:僕も食べて〜!
その実は、完熟のようだったから、やっぱりカラフルピーマンのような実をめくって、中から種の部分を取り出して、さらに鑑定をしてみた。
【体力向上の種】
分類:種子類
品質:高品質
レア:A(新種)
詳細:総体力量が上がる。効果は永久的。
気持ち:ずっと上がったままなんて、魅力的でしょ?
……あれ? ずっと上がったまま?
『素早さの種』とかは、一時的な効果のはずだったはずだけれど。
というか、私とアリエルとリィンは、総体力量が少なすぎて、ドレイク戦には危険って言われていたけれど、これを、上手く育てて種を増やし、いっぱい食べたら、少しは安全にならないかしら?
ただし、年頃の女の子としては、気になったことがあったので、ダメ元で新種の種に尋ねてみた。
「ねえ、あなたをたくさん食べたら、筋肉ムキムキになっちゃうのかしら?」
当然、そこは要確認事項よね⁉︎
すると、鑑定の『気持ち』にお返事が返ってきた(便利ね)。
『大丈夫! 体力は持久力のことだからね! 単純に筋肉が大きくなったりはしないよ!』
……やった! これでドレイク対策がさらに安心・安全になるわ!
「教えてくれてありがとう!」
妖精の男の子に笑顔でお礼を言うと、満足そうに彼は飛び去っていった。
「リコ〜!」
次に私は、大きな声で、彼女を呼んだ。いつの間にか私から離れたようで、姿が見当たらないのよね。
暫く待つと、リコがふんわりと飛びながら、畑で待つ私の元にやって来た。
「デイジー! 大きな声でどうしたの?」
「あべこべの木に、新種の種ができているのよ、来て!」
手招きして誘うと、彼女は私の横へ来る。
そして、手のひらの上に乗せた、『体力向上の種』を見せると、リコはびっくりしたのか、目をまん丸にした。
「前回は運が良かっただけとはいえ、次もまたすぐになんて、幾らなんでも、早すぎない?」
そして、彼女の目線は、『あべこべの木』に向く。つられて、私もあべこべの木に視線を向けた。
……鑑定してみる?
前はレベルが足らなかったようでダメだったんだけど、今はどうだろう?
【あべこべの木】
分類:植物
品質:高品質
レア:S
詳細:同種族の植物の交配に適した木。他の木で行うよりも成功率が高い。
気持ち:新種作っちゃうもんね〜!
【あべこべの種】
分類:種子類
品質:高品質
レア:S
詳細:食べると、一定時間の間、体力量と魔力量が入れ替わる、不思議な種。
気持ち:使い所は難しい⁉︎
「やっぱり、この木が原因だったみたいよ」
私は、リコに鑑定の結果を説明した。
「じゃあ、交配は他の木の花粉を『あべこべの木』の花に受粉させた方がいいのかしらね。それに、新しい種は、急いで育てて、量産しなきゃ!」
リコは大張り切りしている。
それにしても……あべこべの種は、どう使ったらいいのかしら?
私は首を捻るのだった。
更新が遅れ気味ですみません。現在二巻準備中のため、更新はゆっくりにさせていただいています。
決して、エタとかではありませんので、ゆっくり待っていただけると幸いです。