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169.癒しの魔法石の行き先

「素晴らしい宝石ができたわね。でも、うーん。本当はリリーが身につける想定でいたんだけれど、私もリリーもポーション使い放題だから、この魔法の宝石はあまり必要ないわね……」

 本当は、リリーの宝物の小石を譲ってもらったので、偶然宝石化できることを発見したこれは、リリーに譲ってもらった石の代わりに、そして、初めて作った宝石を記念として、彼女に身につけてもらうつもりだったのだ。


 この魔法の宝石はとても貴重だ。

 なぜなら、私達の国では、回復師が少ない。だから、この宝石があれば、回復魔法を使えるようになるということで、非常に価値が高いのだ。


 王家に献上する?

 うん、リリーの成長をご報告するには良いかもしれない。

 でも、王家の方々って、常に護衛がついているし、滅多にお怪我はなさらないだろうから、実用的に必要かというと、少々疑問である。


 家族の誰か?

 私とリリーは一旦除外して。

 お母様は、あまりお怪我をされる事はないわね。

 お兄様とお姉様は、まだ未成年で研修生の身分だから、実戦に身を投じることはまずない。

「お父様、かしら」

「おとうさまは、おくにのために、たたかうのが、おしごとなのですよね。おけがを、されることも……」

 私と、私の方に振り向いたリリーは、顔を見合わせて、うん、と頷き合う。姉妹で、思うことは一緒だ。

 王都の外での公務で、お怪我をされた場合、この石はお父様のお役に立つだろう。

 支給されるポーションだって有限だし、回復師も同行するだろうけれど、時を急いだり、一人の回復師では手が回らないことだってあるかもしれない。


「お父様に差し上げるとしたら、どんな宝飾品がいいかしら。指輪? それとも邪魔にならないペンダント?」

 うーん、と顎に手を添えて思案する。すると、くいくいとリリーに服の裾を引かれた。

「あのね、おねえさま。わたしは、ゆびわがいいです。このいしをみたら、わたしたち、かぞくをおもいだして、くださるように」

 再び私の方に振り向いて、じっと私を見つめるその瞳に、戦場へ赴くお父様を憂う小さな影が揺れている。

 そんな彼女の様子に、すでにすっかり我が家の末っ子、お父様の末の娘になり、幼いながらもお父様の身を案ずるリリーを、とても愛おしく感じた。

 そんな彼女を少しでも安堵させてあげたくて、まだ私の膝の上にいる彼女をぎゅっと抱きしめる。


「リリー。お父様が、どんな辛い戦況下に身を置かれていても、これを見たら絶対無事に、家族の、リリーの元へ帰るんだ、って思うような、そんな指輪にしましょう」

「……はい!」

 私の腕の中で、リリーが嬉しそうに私の腕に頬擦りをした。


 指輪への加工は、やはりリィンの工房に頼むことにした。ケイトには、アトリエに残ってもらうことにして、私とリリー、そしてリーフをお供に、彼女の工房へ向かう。途中歩くのに疲れたというので、リーフの上に乗せてあげたらリリーは大はしゃぎだった。


 ドラグさんとリィンの工房につくと、私はその閉じられた扉をノックする。

「こんにちは、錬金術師のデイジーです。リィンはいますか?」

 すると、大きく扉が開いて、リィンが姿を表した。

「いらっしゃい、デイジー! と、そっちの小さい子は?」

 リリーとは初対面のリィンが、私とリリーの顔を交互に見比べた。

「はじめまして。わたしは、リリー。デイジーおねえさまのいもうとです」

 ぺこり、とお行儀よく頭を下げてリリーが挨拶をした。

「へえ、こんなちっさい妹がいたんだ。アタシは鍛治師のリィン、よろしくな!……っと、こんな所で立ち話もなんだから、中入って!」

 そう言って、リィンに促されるがままに工房の中に足を踏み入れた。ドラグさんは……、今日も留守らしい。


「……という訳で、これを指輪に加工してもらって、お父様にプレゼントしたいのよ」

 案内された椅子に三人とも腰掛けながら、事の経緯をリィンに説明した。

「へえ。リリーちゃんが宝石作りに初挑戦してできたものを、お父さんにね。いい娘達だってお父さん感動して泣いちゃうんじゃないか?」

 言葉は茶化しながらも、リリーに向けるリィンの目線は優しく、そして、腕を伸ばして髪の毛をくしゃりと柔らかく撫でた。

 ということで、男性に似合いそうなデザインを幾つか提案してもらった中で、「おとうさまに、にあいそう!」と、リリーが一番気に入った、男性らしい、シンプルで台座になる金属をたっぷり使ったデザインで作ってもらう事にした。


 プレゼント当日。

 私も帰省し、家族がみんな揃った日の夕食後。

 プレゼント用にリボンをかけられた小さい箱に入れられた指輪は、リリーからお父様に手渡された。

「これを? お父さんに?」

「はい。おねえさまといっしょに、リリーが、はじめてつくった、ほうせきなの」

 リリーは、はにかみながらお父様に答えた。

「開けてもいいかな?」

 お父様が、確認するかのように、私とリリーの顔を交互に見る。

「「はい!」」

 その返事を聞いて、お父様はするりとリボンを解き、箱を開ける。その中には、銀の台座の上に嵌められた魔法の宝石が鎮座していた。

「お父様。それは、はめた者が回復魔法を使えるようになる、魔法の宝石です。癒しの指輪はすでにはめていただいてありますが、状況によってはさらに回復魔法が必要になることもあるでしょう。指輪にしたのは、お父様がこれを見て、リリーを含めた家族のことを思い出して欲しいからです。どんな辛い戦況であろうとも、必ず帰ってきていただきたいと。リリーが選んだんですよ」

 私の言葉を聞いて、お父様の瞳が大きく見開かれて、そして、「おいで」とリリーに大きく両腕を開いて見せる。

 おずおずと、リリーがお父様の腕の中に入る。すると、お父様は私にも来るようにおっしゃった。

 お父様は私達二人を大きな腕で抱き抱える。

「私は幸せな父親だ。こんなに私のことを想ってくれる娘がいるのだから」

 そう言って、ぎゅうっと私達を抱きしめて、交互に頬擦りをしてくれたのだった。

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