115.リリーのポーション作り②
『癒しの石』の合金調合をしていなかったなあ、と思って、納品用のポーション作りはマーカスに頼んで、自分は合金の方をやってしまおうと思っていた矢先、外から元気な声がした。
「おねえさま〜!」
そして、ケイトが開けたのだろう。チリン、とドアベルの音がして、錬金工房の中にパタパタと子供の足音が響いた。
「おねえさま、マーカス。こんにちは」
リリーが、習いたてのカーテシーでお辞儀をする。なぜ『習いたて』とわかるのかというと、本人はしっかりできているつもりなのだろうが、少しグラグラしているのを一生懸命我慢しているのが見えているからだ。
うん、可愛いわ。
そして、その背後で、お供でやってきたのだろうケイトも頭を下げた。
リリーは、私とマーカスを交互に見る。そして、その立ち位置で察したのだろう。
「マーカス!『ぽーしょん』つくるの?」
マーカスのもとへ行って、彼のシャツの裾を掴んで尋ねる。
「はい、そうですよ。国に納めるポーションを作るんです」
「わたしも、『ぽーしょん』つくれるわ!ねえ、やらせて!」
そう言って、お父様に買っていただいたのだろう、まだ真新しいポシェットの中から、この間作ったポーション瓶を取り出して、自慢げに披露した。
「えっと……」
マーカスは、その瓶を見て驚きつつも、困った顔をして私に助けを求めてきた。
うーん、そうねえ。どうしようかしら。
でも、製品の見極めはできるのだから、危なくない範囲でやらせてあげてもいいかもね。
「刃物はまだ使わせたくないから、下処理はしてあげてちょうだい。あとは、リリーは味見をしながら確認をするから、小皿とスプーン、それから味見後には吐き出すからコップも出してあげてちょうだい」
「はい、承知しました」
そうして、リリーはマーカスとケイトの見守る中、またポーションを作るのだった。
さて、私は『癒しの石』ね。エプロンと軍手をはめてっと……。
【癒しの石】
分類:鉱物・材料
品質:良質
レア:B
詳細:装備品に加工することで、自然に体力回復の効果を発揮する。他の装備品に同じ効果がある場合は加算される。
気持ち:シルバーさんが優しそうだから一緒になりたいな。
じゃあ、シルバーのインゴットと『癒しの石』を入れてっと。
魔力を込めようかな、と思った矢先に、大きな声がした。
「できた!こないだの、おねえさまのと、おなじあじの『ぽーしょん』!」
またできた、と大はしゃぎでリリーがバンザイしていた。
「デイジー様、品質に問題はありません。本当にできています」
味でわかる方もいるんですねえ、と、驚きつつも鑑定で見ているので納得している。
「ねえ、つぎ!つぎの『ぽーしょん』もつくりたいわ!」
せがまれたマーカスは、また困った顔でこっちを見て、助けを求めている。
……そうねえ、ハイポーションは魔力操作がいるからちょっと早いわね。マナポーションだったら、魔石を触媒にして反応を促進させるだけだから、ちゃんと手順を覚えればできるかもしれないわ。
私は、手に持っていた攪拌棒を壁に立てかけて、軍手を脱いで、リリーの側まで移動する。
そして、リリーの横にしゃがんで目線を合わせる。
「リリーは、ダリアお姉さんとの『魔力操作』は上手になったかしら?」
リリーは、剣を持って仕える家柄の子だったこともあるし、魔力操作に馴染みはなかっただろう。そう思って尋ねてみた。
すると、リリーは素直に首を横に振った。
「まだ、じょうずにできません」
その表情は、ちょっと悲しそうだった。
「まだリリーは始めたばかりなんだから、できなくても大丈夫よ。そのうち出来るようになるから、安心して」
そう言って頭を撫でてやると、ほっとしたように笑顔を浮かべる。
……だいたい、教師が努力家の『聖女ダリア様』だもの。
「じゃあ、魔力操作がいらない新しい調合をしましょう。ちゃんと練習を頑張って、魔力操作ができるようになったら、その次のポーションの作り方を教えてあげるわ!」
「はい!」
リリーが嬉しそうに大きく頷く。
「マーカス、下処理はマーカスがお願い。で、マナポーションの作り方を一度見せて、完成したものを味見をさせて。そうしたら、次に、リリーに同じようにやらせてみてちょうだい」
「承知しました」
マーカスは頷くと、下処理を慣れた手つきでササッと済ませる。
そして、マーカスにお手本を見せてもらったら、リリーの番だ。
【マナポーション???】
分類:薬品
品質:低品質
レア:C
詳細:そもそも元になるエキスが薄い。
気持ち:全然だね!
リリーがまた味見をする。
「ぜんぜんあじがしないわ」
マーカスの見様見真似で、スプーンでくるくるかき混ぜている。
もう少したつと、気泡が大きくなってきた。
【マナポーション】
分類:薬品
品質:低品質
レア:C
詳細:それぞれの素材のエキスが出たってくらいだね。
気持ち:これからだよ!
リリーがまた味見をする。
「これは、あじがちがう」
唇をぷうと尖らせて、首を横に振った。
さらに経つと、時々ポコポコし始めた。
「魔石さんの上でちゃんと反応してね」
そう言ってリリーはスプーンで溶液を撹拌した。
【マナポーション】
分類:薬品
品質:高級品
レア:C
詳細:有効成分が出来上がっている。一般品の2.0倍の効果を持つ逸品。
気持ち:よく出来ました!
「あ!マーカスのと、おなじあじがする!」
リリーは、加熱器のスイッチを自分で止めた。
「凄いですねぇ。天性の味覚、と言ったところなんでしょうか……」
マーカスは、感心しきってリリーの才能に感嘆するばかりである。
……あ、また『癒しの石』をインゴットにするのをしそびれたわ……。
あと、リリーが味見して確認する癖があるのなら、万が一のために『守護の指輪』を残っているインゴットから作ってもらわないといけないわね……。