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coat of arms  作者: apy
0章
8/49

運命の人

 薄暗い店内。灯るのは小さな明かりだけ。


「お待たせ」


 そういってレオナルドが出したものは、週末の二人のご褒美だった。


「きたきたーほらディック、乾杯しようぜ」


「マスター悪いね、いつも閉店間際に」


「いえいえ、遅くまでお疲れ様。店じまいしてるから、終わるまで飲んでていいよ」


 気をきかせて少し離れたところで作業をしてくれるようだ。


「ありがとね、てんちょ。ここで飲むの、なんか懐かしい感じして好きなんだよね」


 そういいながらあたりを見渡す。


「懐かしい、かい?」


「なんだろ、自分でもよく分かんないんだけど。ほら、俺昔のこと記憶ないからさ」


 ネレムはあっははーと頭をかいてみせた。記憶があるのは赤薔薇の施設で生活するようになってからだった。


「都合のわるいこともすぐ忘れるもんな。今日も、」


「はい、かんぱーい」


 失敗談をきかせまいと無理やりグラスを合わせる。その様子にくすりと笑うと、


「まぁ、あんまり時間はないけど。飲んでて」


 と、作業に戻っていった。


「んー仕事終わりのいっぱいってどうしてこんなにおいしいんだろ」


「お前はいつ飲んでもうまいんだろ」


 そう眼鏡を直しながらいうと、


「こういうのって気分もだいじなのー」


 わかってないなーと返された。


「酒は酒だろ?」


 グラスの中で揺れる液体。人によっては陸でも溺れてしまう悪魔のような液体だ。


「またそういうこという。面白みがないともてないよー? ディック」


「もてなくて結構」


「ふぅん」


「なんだよ」


 意味ありげな視線に、身構える。


「最近どうなのよ」


「どうって…何が」


 どうと聞かれる何かあったか、と考えながら酒を口に含んだ時だった。


「エ・ミ・リ・ア・と」


「ごほっごほっごほっ」


「あはは、動揺しすぎー」


 いたずらが成功した後の子供のようにネレムは笑う。


「何かあったんだ」


「…ない、わけではないがいちいち話すことでもないだろう」


 ここでないとしらを切ればいいものの、嘘を付けないものだからネレムの餌食になってしまうわけで。


「何それ、そんなこと言っちゃうの? 何年も一緒に組んでるのにそれは冷たいんじゃなーい?」


「いや、なんていうか」


 せわしなく眼鏡を触るときはだいぶ動揺している。それを分かってネレムは追い詰める。


「あ、もしかして恥ずかしいとかぁ?」


「…まぁ」


「なになにかわいいところあんじゃーんうりうりうりー」


「おい、やめろ、酒がこぼれるだろ」


 いつもはディックのほうがしっかりしているように見えても実際の所ネレムのほうが年上だ。踏んでる場数が違うのでこういう時結局は遊ばれてしまう。


「いやぁ、ディックがこんなかわいいところがあるなんて、エミリアはこれにやられたなぁ?」


「しるか」


 ふてくされてしまった。


「いいなぁ、恋人かぁ」


「…お前も作ればいいだろ。遊んでばっかりのくせに」


「いやぁ、一人に絞るともったいないでしょ」


「もったいない?」


「そ、俺が。「みんなのネレムくん」じゃないとね」


 真面目に聞いた俺が馬鹿だったんだ、とディックは頭を抱える。


「お前…顔で得してるよな。ほんとに年上か?」


「ん? まぁ得はしてるけど…いきなり何。年齢は記憶がないからなぁ。大体って感じだけど、お前よりは年上なのは確実だね」


「やってること最低なのに見た目可愛いから許されてるんだぞ。俺がやったら…」


「エミリアに殺されるに違いない」


「そういうこと」


 カラン、とグラスの中の氷が解けて音が響く。思い浮かべるだけでも恐ろしい。ふと、ネレムがグラスを空から回しながら言った。


「…なんかさ、ずっと誰かを探してる気がするんだよね」


「運命の人、みたいなやつか?」


 普段はこういう話をするとからかうネレムが、酔っているのか真面目に話している。 


「んーどうなんだろう。誰といても、この子じゃない感じっていうか」


「なんだそれ」


「わっかんないんだよねーそういうのない? エミリアにはビビっときた?」


「だからそういうのは、」


 聞かないでくれ、と続ける前にレオナルドが止めてくれた。


「お二人さん、楽しそうなところ悪いけどそろそろいいかい?」


「あ、はい」


「もうちょっと早くこれたらいいんだけどねー。今日もおいしかったよ。これお代ね」


「また来ます」


「是非。お待ちしてます」






 一杯だけでも強めのお酒は回りがいい。質もいいから悪酔いもしないし、とネレムが体を伸ばす。


「なんかさ」


「なんだ?」


「ここに来ると思い出せそうな気がするんだ。大切な、何か…」


 懐かしい匂い。形。音。何かは分からないけれど、何か。








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