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coat of arms  作者: apy
0章
6/49

青薔薇の花弁

 真っ暗な屋敷のなか。カリカリとペンを走らせる音が響く。


「ここにいたのか」


 その声に気づくと微笑んで近づく。


「スティーグ、帰っていらしたのね。私ったらお迎えもしないで」


 まだ着たままのコートを受け取ると、胸元に頬を摺り寄せた。


「気にしないでくれ。今戻ったばかりなんだ」


「無事にお戻りになってよかったですわ。お疲れでしょう?」


「そうだな。薔薇会議は肩がこる」


 眉を顰めて綺麗な顔が歪んでしまった。アデラに良く注意されてしまう。あとがついてしまうではないか、と。


「薔薇の当主会議は極秘で行われますものね。最近は赤薔薇主導だとお聞きしてます。悪魔狩りの盛んな中央に行かないといけないなんて…」


「いつ我々の存在がばれてしまうのかわからないからな。もしくはばれているのか」


「何もしていないというのに」

 

 憤るアデラの腰を引き寄せた。


「アデラ、人は自分の知識の及ばないことに恐怖を覚えるものなんだよ」


 幼い子に言い聞かせるようだ、とアデラは少し恥ずかしくなる。


「けどひどすぎます! 彼らはあまりにも横暴で…」


 自分がそちら側の人間なのかと思うと。


「確かに。彼らが本当に良心で行っているのか。それとも地位を確立するためにやっているのか。分からなくなってしまうよ」


「私には後者にしか思えません」


 言い切って服を壁に掛けた。もう熱を失ってしまいひんやりと冷たい。


「せめて前者であってほしいものだがね」


「どちらにしても、です」


「そうだな。悪いね、私達がこんな体だからいつも心配をかけて」


 こんな体、だなんておっしゃらないで。


「あなたのせいじゃありませんわ」


 きっと誰のせいでもない。


「ケイトは?」


 話を変えるように娘を探す。


「あちらの部屋に。ナタリーが面倒をよく見てくれるので助かります」


 ナタリーは十数年前に拾ってきた子だ。匂いで分かった。同族だと。きっとナタリーもそれを感じたのだろう。付いてくるかと聞いたら悩みもせずに頷いた。


「ああ、ナタリーか。ヴィオラの面倒も幼いころからよく見てくれていた」


「本当に仲が良くて…早くヴィオラさんにも会わせてあげたいわ」


「そう、だな」


 もう一人の娘、ヴィオラ。数年前からもう抱きしめることが出来ないでいる。


「今回も手掛かりは?」


「おそらく赤薔薇だろう。これだけ情報がないとなれば、な。今の赤薔薇は吸血鬼、に限らず悪魔完全排除派だ。即処分をモットーに活動を広げているらしい」


「まぁ…なんてひどい…」


 アデラの目の端に涙が浮かぶ。


「もし、あの中にヴィオラがいるとしたらもう…」


「いけません! ヴィオラさんはきっと生きてます。ケイトの姉ですもの」


 ヴィオラがいなくなってからアデラがずっとこうして励ましてくれている。これがなかったら、自分はどうなっていたか。


「アデラ…」


「あなたが諦めてはだめ。難しい時期なのはわかっていますわ。でも、前の奥様との大切な娘じゃありませんか」


「ああ…そうだな」


 ただの人間だった前の妻は私を置いて年老いて死んでしまった。いや、あれは年老いるのを嫌がって自分で…。


「白薔薇は相変わらず人間に友好的みたいですけど、黒薔薇は代替わりしてから過激になってきているとききましたわ」


 女性の情報網とはすごいものだ。


「黒薔薇のやつら、代替わりしてから人間は家畜だといっているよ。白薔薇のイリスは最近会議出ても来ない。仕方のない奴だ」


「そんな…」


 この国を支える薔薇がそんな状態ではどうしようもないではないか。


「あんなやりかた、赤薔薇を刺激するだけだっていうのに。賛同した輩が集まって黒薔薇の領地は荒れに荒れている」


「まぁ、直轄地では安心して暮らせないでしょうね」


「必ずしも血を必要とするわけでもないのに、ただ本能に従って気のすむまでむさぼるなんて獣と同じだ」


「あなたがむやみやたらとそんなことしないの、分かっていますわ」


「でも惹かれてしまうんだよ。どんなに否定しても、自分がそういう存在だと思うと嫌悪感で頭がおかしくなりそうなんだ」


「スティーグ…大丈夫よ。ああ、今夜はちょうど満月でしたわね」


 そういうと胸元のボタンを一つ二つと外し、首元をあらわにした。


「アデラ…」


「あなたのことはわかっているわ。だから安心して? あなたのその渇きと疼きを抑えられるのは私しかいないもの」


「私は飲みたくないんだよ」


 それなのに。


「大丈夫よ、怖がらないで」


 引き寄せられるように、アデラの首筋に顔をうずめる。思いっきり息を吸い込むと何とも言えないいい香りが鼻をくすぐった。


「アデラ…私は君に出会えて幸せだよ」


「私もよ。愛してるわ、スティーグ…んっ」






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