想いの種
街はずれにある被服店。切り盛りしているのはまだ若いが腕はいいと評判だ。
「ディックってさ、ほんっと仕事人間なの」
「そうなんですか? あ、でもちょっとわかるかもしれないです」
ディックのきちっと分けた髪、銀色の眼鏡姿を思い出しふふふと二人で笑う。
「でしょう? 見た目に出てるわよね」
そういうエミリアも、肩で切りそろえられた髪。少し吊り上がった瞳は勝ち気な性格を出しているとも思うと、カトリーナはふふふともう一度笑いが込み上げてきた。
「真面目って感じしますもん」
「そうなのよ。あふれ出てるわ」
「でも制服を取りに来るのはエミリアさんなんですね」
「ほんとよ。自分の制服くらい自分で取りにいけっての」
「頼りにしてるんですよ。いつも赤薔薇の方にはご贔屓にしてもらってます」
「これはいいように使われてるっていうのよ」
「エミリアさんとトゥットファーレで知り合ってからずいぶん赤薔薇のお客様が増えたんですよ」
たまたまプライベートでお茶を飲みに行ったときに相席したのがきっかけだった。
「それはカトリーナの腕がいいからよ」
「そんな。まだまだです」
「丁寧で何より早いのよね。私たち荒っぽいこともするじゃない? だからすぐ制服いためちゃうの。ほんとに助かってるのよ」
「エミリアさんたちのお仕事って、悪魔の捕獲、ですよね。あんまり想像つかないんですけど、気を付けてくださいね」
「ありがとう。危険っていうことはあんまりないんだけどね。ただディックがネレムと一緒になって、危ないことばっかしてさ。目が離せないっていうか」
「そうじゃなくても目が離せないのに?」
ぽんっとエミリアの顔が赤くなる。
「そうだけど!」
「ふふふ。あ、今回の肩のほつれの補修、確認してもらえますか? ここでしたよね」
「うん…さすが、ばっちりぃ」
「ありがとうございます。ついでに少し補強しておきました」
「カトリーナ大好き! あー、いつか私だけの服を縫ってほしいわ」
「勿論! どんなのが似合うでしょうね」
流行りの服でもいいし、体のラインに沿ったものを一から作っても楽しそうだ。
「カトリーナに任せる! 最近街でも評判なのよ。ここの服着てるといいことがあるって」
「ええっ!? そうなんですか?」
知りませんでした、と口に手を当てる。
「最近トゥットファーレに服卸してるじゃない? あれ争奪戦なんだから」
「嬉しいです、そんな風に言っていただけるなんて」
「私もあやかりたいわ」
「あ! そうだ。最近お店に置き始めた髪飾りなんですけど…できたでほやほやのものがあるんです」
「えっ!? ほしい!」
「えっと…これなんですけど」
横の戸棚から箱を取り出す。
「かわいいー! 全部ほしくなっちゃうわ」
「明日納品なので全部は困っちゃいますけど、お好きなのをどうぞ」
ごひいきにしてもらってるお客様には特別です。
「じゃあ…これ! どう? 似合う?」
「はい! よくお似合いです」
紫の花飾りは、髪色にもよく映えた。
「いいことあるといいなぁ」
「いいことがありますように。特にディックさんと」
「もうっ…、あいつ夜の仕事をかって出るから飲みにも行けないの。ネレムとばーっかりつるんでさ」
「あのお二人って昔から仲がいいんですか?」
「そうね、結構最初から仲いいかなぁ。もう何考えてるかわかんないコンビよ」
そのお守しないといけないんだから困っちゃうわ。とため息をついた。
「お手上げ」
「まぁ、ネレムさんは…確かによく分かんないですね。ディックさん以上に」
「だよね? それと一緒に仕事してると思うと私よくやってると思うの」
「おかげで安全に暮らせています。そういえばこないだ変わった赤薔薇の方に会ったんです」
「どんな?」
「えっと、」
箱をしまいながらつい先日のことを思い出す。
「二人組の男性でした。お一人はマスクをしていらっしゃって…」
「チームは二人か三人がおおいからなぁ。誰だろ。マスクしてるやつもたまにいるしなぁ」
知ってる人だろうか、と考えるが管轄が違うと見知らぬ人も多い。
「いきなり銃を向けられてしまって」
「銃を!?」
「はい。もうびっくりしちゃって」
「何だってそんなことになったのぉ!?」
「私にもわからなくて。ただ歩いていただけなので」
「ほんとにわけわかんないわねそれは。抗議してもいいくらいよ」
「そんな! 抗議だなんて…なんだかものすごく謝ってもくれました」
「銃をいきなり向けてものすごく謝るって…もうなにがなんだか」
「みなさんのおかげで安心して暮らせていますしね。お疲れだったんでしょうか」
カトリーナは苦笑する。
「そういってもらえるとやりがいがある。けど、私からも謝るわ」
「エミリアさん何も悪くないですし、私も気に病んでいるわけではないので」
「それならよかったわ」
ゴーンゴーンと鐘が鳴り響いた。
「っと、こんな時間! またくるわね。今度お茶にでも行きましょ」
「是非! 楽しみにしているので、怪我なさらないようにしてくださいね」
「ありがとう! じゃあまた!」
「ありがとうございました!」




