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「まさかうちの子が黒髪紫眼だなんて…」
胸に抱いた我が子をいとおしく見つめるエミリア。
「本当にな」
「それでもこんなにかわいいのね」
「ああ」
「私今までなんてひどいことしてきたのかしら…母親の資格なんて、こんなに幸せでいいはずないわよね」
何人も、何人も。これを正義だと振りかざして。
「バカなこと言うな」
「ディック…」
「この子の母親はエミリア、お前だけなんだから」
「ええ、ええそうね。しっかりしなきゃ」
弱音なんて吐いていられない。
「それに白薔薇が配給している薬をもらえば症状はそのうち落ち着くらしいぞ」
あの安定供給されることになったらしい。
「まだ飲めないから、もう少し、お日様は我慢してちょうだいね…」
そういって頬を寄せた。
「まさかいつの間にこんな仲良くなっていたなんて、やーきーもーちー」
「イルヴァ!」
からかうイルヴァにアンネリエが恥ずかしそうに服のすそを握る。あの高飛車な姿は虚勢だったのだろう。
「アンネリエ様ってかわいいんですね、顔真っ赤じゃないですか」
「またナンパ? 記憶ないくせに」
「もう! イルヴァったら!」
「ほんとですよー俺記憶ないのにーまただなんて!」
「それは…私昔あなたにひどいことをしてしまって…マティアス様にあなたの記憶を消していただいたの。ごめんなさい」
アンネリエはまだ昔の話をできないでいた。何があの日起こったのか。あの日までどういう付き合い方をしていたのか。
「…先日なんとなくの話は聞きました」
「マティアス様に頼めば元に戻してくださるとおもいますわ」
「やったじゃん。これで元通り」
けれどネレムは首を振った。
「いいんです、もどさなくても」
「え?」
「あれ? いいのぉ?」
「その代わり、教えてください」
「何をかしら?」
教えることなんてあったかしら。
「そんなの決まってるじゃない、二人のな・れ・そ・めでしょ?」
「えっ!?」
「わーほんと顔真っ赤になるわね」
「やっぱりかわいいですね」
最近二人にからかわれてばかりである。
「まだ渡さないんだから」
「まだ、ですね」
「二人してからかわないでちょうだい! …それよりネレム?」
「はい、なんでしょう?」
少し言いにくそうに視線を外す。
「…様、なんてつけなくてよろしくてよ」
「はい?」
「ったくにぶいわねー。呼び捨てにしてってこーとー!」
「えぇっ!? しかしですね、」
「いいんですの。ネレムは特別ですもの」
真っ赤な顔は必至で、それがまた可愛らしい。
「うわーびっくり。アンネリエが素直」
「じゃあ改めてよろしく、アンネリエ」
そう、これはあの日のやり直し。
「あの、ご挨拶遅れました! ステファンです!」
丁寧に頭を下げるステファンに、のんびりにっこり笑いかけるヨエル。平和だ。
「ヨエルですーよろしくねぇ」
「何緊張してるんだ? 変な奴だな」
いつもよりかたいステファンの様子にヨハンネスは片眉を上げる。
「いや、なんとなく…」
「兄さん冷たいなぁ。大事なパートナーなのに。ごめんねぇ、うちの兄が。大変だったでしょ」
「はい! あっ、いいえ!! えっと」
「あはは、この子面白いねぇ」
つい肯定してしまったが失礼だったことに気づいてどうしようというさまが手にとるように分かった。ヨエルにまで楽しまれてしまっている。
「お前ら似てると思っていたがそうでもないな」
「そういえば以前そんなことをおっしゃってましたね」
昔弟さんの話を聞いた時に、そんなことを言っていた気がする。
「へぇ僕のことを? 詳しく聞かせてよ」
「はい!」
「気は、合うようでなによりだ」
青薔薇の屋敷は賑やかになった。
「母さん! この子ったらまた服をこんなにしたのよ!」
泥だらけの服をもってケイトが腰に手を当てる。
「まぁ、ウリカは今日も元気ね」
「へへへ、やっと太陽の光浴びれるんだもん、いいじゃん」
「それは、嬉しいかもしれないけど…」
気持ちが分かる分、怒りづらいところもある。
「薬が効いて本当によかったわ」
あんなに外に出たいと言っていたものね。と壁にかけてあるケープを目に入れる。最初に外に出るときは使っていたが今はもう使わなくても大丈夫になった。それが少し寂しいようでうれしくもある。
「ただいま戻りましたー」
ナタリーの声が広い館内に響く。
「おかえりなさい」
「ナタリー! お帰りー! ヴィオラ姉さんも!」
嬉しそうに笑うウリカに、自然と周りも笑顔になった。
「ただいま、ウリカ。ケイト、アデ…母様」
「今ヴィオラ姉さん、母さんのこと母様って…」
「まぁ…まぁまぁ…」
今までアデラさん、と言っていたのを小さく母様、と言い直した。
「くす。ケーキを買ってきました。お茶にしましょう」
「いやぁ、怒涛のような日々でしたね」
クローズした店の中。ここにいるのは客ではなく、特別なお客様だ。
「今もだよ」
例の特効薬を量産しておかないといけないからな、とグラスの氷を回す。
「ですが、よくやったと二人とも喜んでいるんじゃありませんかね」
「ああ、スティーグのやつ、面倒なことを二つも押し付けていきやがって」
「信用なさっていたのでしょう。父がよくお二人のことをうらやましがっていましたよ」
二人はべったりはしないが結局一番お互いうぃ信用しているんだって言ってました、と空いたグラスに酒を注ぐ。
「トーマスが? あいつは俺たちの弟みたいなもんだったからな」
「父がですか? 見た目は真逆ですね」
「小さいころは可愛かったんだぞ。ちびの癖に一緒にあそぶってきかなくてな」
「そうでしたか。想像がつきませんね」
「…二人とも生き急ぎやがって」
「折角です。四人で飲みましょうか」
数のうち位にレオナルドが入っていることに笑みがこぼれた。そうだ、また、それほどの年月が経ったのだと。
「…お前もでかくなったもんだな」
「もういい年ですよ。さ、乾杯です」
「ああ。約束を守れたことに、乾杯」
「乾杯」
かちりとグラスの合わさる音がした。それと同時に聞こえた気がした。
「辛い役目を押し付けてすまなかった。ありがとう、イリス」
「やりきるって分かってたけどな」
勝手なことばかりして。
「あいつら…」
残されるのは、辛いものなのだぞ。
「先生! このお花は?」
ぎゅっと握りしめられた花はくしゃくしゃになっている。
「んーちょっとちがうなぁ。ここが丸いのは…」
「てんてーこれはー?」
「ちょっと待ちなさい、いまリィナに説明を…」
「リィナが先なの!」
「カリナもなの!!」
こういうことをしていると自分を優先させたがっていつも喧嘩になってしまう。だからいつも一人でやっているのだがたまに連れてきてみればやはりこれだ。
「はぁ…喧嘩はやめ! おやつ抜きにするからね」
「やだー!」
「やらー!」
必死の形相で二人が足にまとわりつく。
「…やれやれ。お前たちの薬の材料を探しているというのに。私にはまだまだ先があるからねぇ…さ、今日は戻ろうか」
私たちのまだまだ先は長いのだ、とマティアスは二人を小脇に抱えて家へ帰った。
END
最後まで読んでくださりまして本当に本当にありがとうございました。
小説用に少々加筆修正が加えてありますが、いつか音声作品にできたらな、とおもっております。
興味を持ってくださった方はこちらから是非!
https://youtu.be/1qGCboSAJRc
https://coatofarmskikaku.wixsite.com/coat-of-arms




