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coat of arms  作者: apy
最終章
48/49

この手に抱く

 薄暗い部屋に残された面々は、思い思いに資料に目を通していた。


「私は…私は悪魔ではなかったのね…悪魔では…」


「アンネリエ様…」


 その言葉に、レオナルドは何とも言えない気持ちになる。ネレムのことを知っているからこそ。


「レオナルド、彼女を頼む」


「はいっ。イリス様はどうされますか?」


 そう聞いた時だった。


「イリス様!」


 ナタリーが部屋に駆け込んできた。


「ナタリー、どうした」


「お嬢様の、ヴィオラ様の香りが!! 急に香りが!!!」


 イリスにすがるように告げる。


「ヴィオラさんの!?」


「可決したんだ。彼女を探そう」


「はい!!」


「私も行きます!」


 勢いよくアデラも立ち上がった。


「奥様…」


「ヴィオラさんは私の子供でもありますもの」


 その強い眼差しに、イリスは頷きを返す。


「急ごう」


「今までこんな香りがすることなかったのに…」


「だったら気づくはずですものね」


 赤薔薇に入って十年以上たつ。それなのに匂いを嗅ぎつけられたことなどなかった。


「まさか怪我をしてるんじゃ…」


 ヨハンネスはちょっと指を切っただけのヨエルの匂いをたどって広場に来ていた。


「大変! 急がないと」


「こっちです!」


「ちっ、行き止まりか」


「でも、この向こうからお嬢様の香りがかすかに…他にも混ざってしまっていますが」


「確かに血の匂いはするが俺には区別がつかない。間違いないのか」


「間違うはずがございません」


 はっきりとした視線に、イリスはあたりを見回す。


「よし、どいてろ。何か仕掛けがあるはず…」


「イリス様! この置物、動かした跡がありますわ」


 アデラが棚を指さす。


「それだ! こうか、いや、こうだな」


 ずずずずずと、鈍く扉が開かれた。途端、アデラにもわかるほどの血の匂いが漂ってくる。


「隠し扉が、こんなところに…うっ、血の匂いが…」


「これはひどいな」


「私にもわかりますわ、この先にいったい何が…」


「しっ、誰かいる」


 小さな蝋燭一つを頼りに降りていくと奥の方で黒い影がもぞもぞ動いた。


「うぅ…か…さん」


「この声…ウリカ? ウリカなの!?」


 声に反応したのはアデラだった。


「あれ‥? もう死ぬのかな…やっと…俺…」


「ウリカ! ウリカ!!」


 何かで足場が濡れて歩こうにも滑ってしまう。それでも、何度転んでもその黒い塊へとアデラは向かった。


「いい、夢、だなぁ…」


「アデラ、気をつけろ!」


 罠かもしれない、そういわれてもかまわなかった。


「!! ウリカ!」


 ぐったりしていたのはやはり人間で、思い浮かべていたより大人になったウリカだった。


「あ、れ? 母、さん…? ほんもの…?」


「ウリカ…ウリカ…! こんな、ひどい…」


 傷だらけの体。血で染まった服はウリカだけの血ではないのだろう。周りに黒い人間の塊がごろごろしている。


「ちっ、これはひどいな」


「こんな部屋があったなんて…こちらの子供は皆もう…」


 きっと連れてこられた子供たちはここに連れてこられていたんだ、とナタリーは気づけなかった自分を責めた。


「ダメか…これをあの赤薔薇が…?」


 だとしたら。転がる人間を見て回るがそこにヴィオラの姿はなかった。それに匂いも違う。


「!! お嬢様が危ない!」


「おひめ、さまなら…奥に…そこの鎖を引っ張れば…うっ…かはっ」


 やはり別の部屋があるようだ。


「ナタリー、いけるか。私はこの子を診る。傷はふさがっても血が足りなければこの子も危ない」


「はいっ! お嬢様! お嬢様!!」


 吊り下げられた鎖を引くと石積みの壁が動く。


「どこですか! お嬢様! お返事を、お返事を下さい!」


「声が…ナタ、リ…」


 朦朧とした意識。何かをかがされてもう何も感じなかった。嫌悪感も、痛みも、苦しみも。


「ひめぇ…ひめぇ…渡さない…誰にも渡さない…ひめぇ…!! 私のひめぇ!!」


 何かが自分に絡みついている。鬱陶しいという感覚さえも鈍くなっていく。


「お嬢様! いるのですか!? お嬢様!!」


 そんな中で、こんなにいい夢を見れるなんて。ヴィオラはきっとこれが最後というものなのだと思った。だから大好きな声が聞こえるのだと。自分を助けに来てくれる声が耳に入ってくるのだと。 


「っく! かはっ…都合の、いい、夢…」


 お腹が熱い。と思ったら猛烈な痛みが襲ってきた。


「これで、これで天使も姫も私だけの、私だけの、」


 ああ、この私に近寄ってくる男が、ナタリーだったら。


「貴様ぁっ!!」


「ぐはっ」


「お嬢さま! お嬢様!!! 今この鎖を…! くっ!!!」


「ナタ、リー?」


 都合のいい夢を見ているのかしら、とヴィオラは笑ってしまった。


「ああ、お嬢様、こんなに怪我を…痛かったでしょう、怖かったでしょう…」


「傷なんて、すぐに治るわ…ナタリー‥ナタリー!! 会いたかった…会いたかった…!」


「私もです。お探ししました…お迎えが遅くなって、申し訳ありません」


 何故赤薔薇の制服を着ているのかしら、なんて思ってナタリーを見つめる。するとそんな事どうでもよくなって、ただただ再び会えたことが嬉しくて。


「ずっと、まっていたわ」


 涙がこぼれた。


「はい、はい…! ご褒美楽しみにしてましたもんね」


「いい、の…もう、いいの…あなたが男でも、女でも…大好きよ、ナタリー」


 そう、伝えたかったことはそれだけなのだ。本が教えてくれたのは、恋をすることだったのだ。お姫様を迎えに来る王子様。世界中でたった一人、私だけの、私を見つけてくれる誰か。ヴィオラが待っていたのは、ナタリーだったのだ。


「お嬢様…!」


 ようやく、ようやく迎えに来ることが出来た。もう、彼女を離したりは、傍を離れたりはしない。




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