最後の約束
トゥットファーレは災禍を免れた店の一つだった。
「おかわりはいかがですか?」
「いただくよ」
「もらう」
「ヨエル君は?」
「あっ、いただきます…はっ! っていうか手伝いますー!」
いつもはもてなす側なのでこんな風にもてなされてしまうとてもち無沙汰なのである。
「助かります。でも、これでやっと落ち着けますね」
「ああ、ネレム君だっけ? 彼の治療に呼び出されていただけだったのに帰ろうと思ったら立て続けに地揺れが起きるなんて。今回は本当に長居してしまったよ」
「本当に助かりました。レオナルドから連絡が入ったときどうしようかとおもいましたよ。前回のこともありましたからね」
「私もまさかまたあんなことになるとは思いませんでした」
「本当に、歴代の当主は私をいいように使ってくれるねぇ。だから隠れるんだけど」
「頼りにさせていただいてます。今回はケイトとアデラを会わせることもできましたし、本当によかった」
「そうだねぇ。ナタリーが指輪に気づかなかったら会えたかどうか…まぁ、私たちが会わせようと思えば出来はしたんだけど、それだと彼の希望には沿わないからね」
「ええ、あいつの最後のわがままでしたから」
病床に伏せるスティーグの言葉を思い出す。
「それで、イリス君」
「なんでしょう?」
「彼が残したもう一つのわがままに応えるのは今が頃合いだと思うんだけれど」
マティアスにいわれ、自分の迷いを見抜かれたことに心臓がはねた。
「…そう、でしょうか? あれだけの資料で足りるのかまだ不安で」
「資料ねぇ。薬はケイトとナタリーで十分試せたし。ほかの症例に関しては私が集めたものを合わせれば十分じゃないかい?」
「他の症例まで集めていらっしゃったのですか…」
「まぁ、何がどうつながるかわからないからね」
私の研究はまた別だから、とマティアスは続けた。
「心強い味方ではありませんか、イリス様」
ヨエルが暖かいカップを差し出す。
「おかわりです。熱いのでお気をつけて」
「言っただろう。時が来れば手を貸すと」
「今がその時、ということなのですね…ありがとう、ございます!」
時は来た。亡き友の、いやそれだけではない。我々の自由のために。
真っ暗な部屋の円卓だった。キャンドルの明かりがゆらゆらと揺れる。誰もが当主たるその部屋で一番最初に名を上げるのがその会議の議長と暗黙のルールがあった。
「白薔薇当主、本日の招集に快くお応え頂き感謝いたします」
「黄薔薇当主、薔薇会議とあらば何をおいても駆けつけましょう」
「あ、青薔薇当主代行、当主不在のため失礼いたします。及ばずながら参加させていただきます」
「黒薔薇当主、中央にまだおりましたし、問題ございません」
「赤薔薇当主、薔薇当主の皆様におきましては、当赤薔薇の最高のもてなしをお楽しみいただきたく、」
「食事を楽しみに来たのではありませんわ」
「は、はぁ」
言葉をさえぎられた赤薔薇は口ごもるしかなかった。しんと静まった部屋の中。白薔薇の声が響く。
「それでは、薔薇会議を始める」




