離反
地揺れの被害はどんどんと大きくなっているそうだ。そんな中、外に目を向けステファンが言った。
「祈っていて、いいのでしょうか」
「お前は、どうしたいんだ」
無機質な声は、感情を見せることがない。
「僕は…僕は助けに‥」
「じゃあそうしたらいいだろう。それともこのまままた礼拝堂にこもるのか?」
このまま進めば礼拝堂がある。きっと皆で今頃神に祈りをささげているのだ。と、向かいの通路から真っ赤な正装の男が歩いて来た。
「それは…あっ、ウルリク様!」
「お前たち! 何をしている。こんな時にふらふらしおって! なぜ礼拝堂から出ている!」
今礼拝堂を出るのが許されるのは限られている。
「お前もここにいるから同じじゃないか」
ウルリク相手にまでそんな風に話すヨハンネスにステファンはぎょっとした。
「なんだと!? 貴様…!!」
「ヨハンネスさん! ウルリク様…我々も救助に行った方がよろしいのではないでしょうか」
一応当主なんですから、とたしなめる。
「何を言っている! 今は神へ許しを請わねばならんだろう!? 大体お前のような悪魔がいるからこんなことになっているというのに…」
「彼は何もしていません!」
ウルリクの言葉につい口をついて反論が出てしまった。
「お前、私にたてつくとは…! こいつに毒されたか!!?? もしや悪魔がお前にも取りついたのか! 私が確かめてやる!」
懐から取り出されたナイフはステファンではなくヨハンネスの手の甲を切り裂いた。
「うわっ」
「っっくっ…ちっ」
僕のせいで、とハンカチで傷口を抑える。
「ヨハンネスさん!? 血が!!!」
「すぐ治る」
その言葉通り、ハンカチをとると傷はもうなくなっていた。これが、彼らを悪魔と呼ぶ所以か、と初めて目の当たりにしたが怖くはなかった。
「こ、この悪魔つきめ!!」
「いくぞ」
「えっ行くってどこにですか」
「お前は助けたいのだろう? 人を」
「は、はい」
「じゃあ今すべきことは何だ」
まっすぐと見つめられる目に、ステファンは固まってしまう。今、すべきこととは何か。
「貴様ら…いい加減にしろ!!」
「いい加減にするのはお前だ!」
珍しいヨハンネスの迫力ある声にウルリクが身をすくませた。
「ひっ、あ、悪魔」
「いくぞ」
「あっ、待ってください」
ステファンは思った。何故この男について行ってしまうのだろうかと。
「戻れ! お前ら! 戻らんか!!」
後ろで引き留める声が響くのがどんどん小さくなるのを感じた。
「さて街だが。どうするんだ?」
「えっと、こういうのは初めてで…どうしたらいいでしょうか」
「俺だって初めてだ。俺に聞くな」
見渡すとあっちこっち人が走り回っている。けが人も多そうだ。
「えっと…あの紋は…黒薔薇!?」
「ほう。奴らが出てくるとはどういう風邪の吹き回しだろうな」
「あっちは白薔薇…青薔薇と黄薔薇まで…! 赤薔薇は…やっぱりいないようですね…」
やはり皆で祈っているのだろうか。あの薄暗い礼拝堂に跪いているのだろうか。
「ん?」
スンスンと、ヨハンネスが空気を嗅ぐ。
「どうしました?」
「これは…弟の匂いだ」
「弟さんの!?」
「ああ、でもこれは血の匂い…あいつに何かあったのか‥」
久しぶりに嗅いだせいなのか、いつもの精悍さがなく、ただその匂いの原因を考えているヨハンネスに今回はステファンが一喝する。
「何してるんですか!」
「何って…」
「急ぎましょう! まずは弟さん助けないと」
困ってる人を助けるために飛び出したんですから、と。
「ああ、そうだな」
「どっちですか?」
「こっちだ」
「はい!」
ステファンは広い背中を追いかけた。




