繋がる絆
ここの所、中央では大きな地揺れが発生していた。家屋も倒壊し、甚大な被害をもたらしている。
「くっ…こんな時に祈ってなどいられるか!」
走ってメガネがずれるのがうざったそうに、ディックはふちをおさえた。
「家にエミリアいるんだよね?」
「ああ、連れてくればよかった」
「赤ちゃんお腹にいるんだから無理でしょ」
「お前も帰ってきて早々にこんなことになるなんてな」
むしろ帰ってきたからこうなってるんじゃないか、と軽口をたたかれる。
「いやぁ、白薔薇のお屋敷生活、快適だったー」
「いい思いしたようで何よりだ。人に心配かけるだけかけといて」
探し回ったのだと聞いて、ネレムは申し訳ない気持ちもあったが嬉しくもあった。
「それはごめんってばー。それにいい思いってだけでもないんだよね」
「何かあったのか?」
「ちょっとある資料を見せてもらったんだけどさ」
「資料?」
「そ。まだ詳しくは言えないんだけど、世の中変わるよ」
に、っと口の端が上がる。
「ほう? っくっまたっ」
「今度の、揺れも、激しいねぇっ」
「くそ、急いでるときに!」
「あっ、あれって…ディック! あそこにいるのエミリアじゃない?!」
「なんだって!?」
「一緒にいるのは…えっ!? アンネリエ様…!?」
「エミリア!!」
揺れがおさまるのを待ってかけよる。
「ディック!? ここよ! きゃぁっ」
振ってきた店の看板からアンネリエがエミリアをかばう。
「危ないっ」
「何か振ってきそうなところからは離れたほうがよさそうね」
「アンネリエ気をつけて!」
「大丈夫か!?」
「大丈夫!?」
「私は大丈夫よ! でもこの方々がさっきから私をかばって…」
「アンネリエ様、どうして黒薔薇のあなたがここにいらっしゃるのです?」
「私もいるんだけどー」
ネレムの眼中にはアンネリエしかないものね、今も昔も。とイルヴァはため息を吐いた。
「えっ!? 黒薔薇の…!?」
「噂のご当主様だ」
「これは納得」
「地揺れの支援で来ましたの。様子見でしたので人数はおりませんが」
まさかこんなに家屋が崩れていたなんて。とあたりを見回す。
「街がこんなことになっているのに、赤薔薇は何やってるのよ!?」
「祈っています」
「はぁ!?」
イルヴァの顔が大きくゆがんだ。
「悪魔への神の怒りだと、ウルリク様…赤薔薇の当主がおっしゃって…」
「なんて愚かな…」
「赤薔薇ってそこまで間抜けだったの…?」
「でもどうしてあなたが自ら…こんな危険なところまで…」
黒薔薇の領地ならばまだ安全なのに。
「助けていただきありがとうございます。私もこの子も助かりました。私怖くて怖くて…あっ血が、」
白いブラウスに血がにじむ。
「大丈夫ですわ。怪我は…すぐに治りますの。ほら」
袖をめくって見せると、すーっと傷口がふさがっていくところだった。
「アンネリエ…」
「えっ…まさか…」
「…私が怖いかしら?」
エミリアは少しためらって、首を横に振った。
「…以前のあなたよりも素敵です」
ネレムが柔らかく微笑むと、アンネリエも恥ずかしそうに笑った。
「だな」
「でも私にできることは何もなくて…」
「…ここに来る前に広場で白薔薇が支援をしているときいたわ」
イルヴァがあっちの方って言ってた、と指をさす。
「じゃあそこへ向かいましょう! ここにいるよりも安全だし何かできるかもしれない」
「ああ、情報も欲しいな」
「決まりね、急ぎましょう!」
「アンネリエ様、手を」
「あっ…ありがとう…」
「これくらいなんてことないですよ。エミリアを助けてくれてありがとうございます。」
「いいのよあれくらい」
アンネリエはネレムの手を取って言った。
「ねぇ、ネレム。あの時、私を止めてくれて、ありがとう」
本当はそれを言いたかっただけなのかもしれない。




