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coat of arms  作者: apy
6章
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再会の時

 最高品質の家具が無機質に置かれた応接間は、黒薔薇の異質感をより強固なものにしていた。


「お久しぶりですわ、レオナルドさん」


「アンネリエさんも、お変わりないようですね」


 もっともそれは見た目の話だけなのだが。


「ほんとにずっとお店に行ってなかったんだ…」


 イルヴァがお茶をすすりながらつぶやく。


「変わらなくて困っているくらいです」


「薔薇会議でお会いしてもベールを被る規則ですからね。久しぶりにお顔を拝見しましたが。確かにあの頃とお変わりなくお美しい」


「まぁ、ふふふ。レオナルドさんも髭を生やされたのね。イルヴァには聞いてはいましたけど」


「父のように威厳が欲しくて真似をしてみましたが…なかなか思い通りにはいきませんね」


「そんなこと考えてたんだぁ、威厳ねぇ…出てるのかしら」


 イルヴァは指で隠してみたりするがどうも威厳が出ているように感じられない。


「ないよりはましかと思いまして」


「トーマスさんのことは残念でしたわ。ごめんなさい、お店へ行けなくて…」


「事情は分かっていますから」


 もう十数年前の話だというのに。きっとアンネリエにとっては昨日のことのように感じられるのだろうとレオナルドは思った。


「私分かってないんだけどぉ」


「おや、お聞きになっていないのですか」


「アンネリエって頑固なの。なーんにも教えてくれないんだから」


「そうでしたか」


 アンネリエは何も言わずに困ったように笑った。


「それで、今日はどうなさったの?」


「それがですね、ここにネ…赤薔薇の者がいますよね?」


「ほら、こないだの」


 イルヴァがあれよあれ、と思い出させようとする。だが思い出すべくもなく誰のこと高はすぐに分かった。


「イルヴァさんにお聞きしても詳しくはあなたに聞けと」


「だって私が話していいかわかんなかったんだもん。領地内のことだから」


 もうそれだけで認めたようなものなのだが。


「…おりますわ。それが何か?」


 少しだけ考えてアンネリエが答えた。


「彼の友人に相談を受けまして迎えに来たんです。かえしていただけませんか」


「彼は…捕えておりますわ。罪人ですの」


 罪人、という言葉に息をのむ。


「何をやらかしたか、お聞きしても?」


「それがね、アンネリエに剣を向けたの。あ、言っちゃった」


「かまわないわ」


「剣を!? いったい何があったのですか」


 自分の知っているネレムは女性に意味もなく剣を向けるような人間ではない。


「私のやり方は間違っている、と。それを止めなければならないと言っていましたわ」


「…はぁ…本当に目が離せませんね…」


 でもその気持ちはきっと大事なものだったんでしょう、とレオナルドは一人納得がいった。


「お望み通り、捕らえて鞭打ちの罰を与えております。それをお望みのようでしたから」


「…アンネリエさん。この領地に入ってから、私から見てもやりすぎなところが見受けられました。どうしてそこまでやるのですか」


「どう、して?」


 赤薔薇の人間といい、何故理由を求めるのだろうか。罪を犯したものを罰しているだけなのに。


「あなたが本当に罰したいのは、あなた自身なのではないですか」


 その言葉にハッとした。腑に落ちたような気がした。


「…そうですわね。私は悪魔を宿している。そうあの時感じましたもの」


「あの時って…私が居なかった時間のことよね? もうわけわかんない」


「今のやり方は見直すべきです。このままでは薔薇会議で問題になりますよ」


「そうなれば、誰かが私を罰してくださるのかしら」


 今にも泣きだしそうな苦悶の表情に、レオナルドはたまらず声をかける。


「アンネリエさん!」


「…あの方は連れて帰ってくださってかまいませんわ。もう十分わかった頃でしょう。ついていらして」


 光の無い目で、アンネリエは立ち上がった。





「ここは?」


 遠くから鞭の音と叫び声が無数に聞こえる。地獄の門なのではないだろうか。


「刑場よ」


「叫び声が響くので家の地下に作らせましたの」


 こつんこつんと蝋燭に照らし出された石階段を降りていく。


「そこまでしますか…っと、どうかされました?」


 その足並みが止まった。先導のアンネリエが立ち止まったからだ。目が見開かれて動揺が見て取れる。


「…この…甘い、においは…っっ」


 ふら、と壁にもたれかかった。


「甘い…?」


「においって…もしかして…いけませんアンネリエさんっっ!」


「嘘…嘘でしょう…」


 スカートのすそを持ち上げ間違いであってほしいと走る。


「アンネリエ!? どうしたの!?」


 訳も分からず、イルヴァは走り出したアンネリエを追いかけた。


「そうか、血に反応してっ」


 少し先の壁に吊るされた男の頬をアンネリエは叩いていた。


「起きなさい!」


「っったぁ…鞭打ちはもうちょいあとなんじゃないの?」


 腫れてネレムかどうかも分からない。だが声は確かにネレムだった。


「あなた…あなた、もしかして…」


「ってあれ…黒薔薇の…っっく…顔がはれてるからよく見えなくて…」


 朦朧とした意識の中、こちらをのぞき込むアンネリエの存在にネレムは少し驚いた。何故ここに。


「これはひどい…すぐ白薔薇へ連絡しましょう。手配してきます!」


 レオナルドが来た道を引き返した。イルヴァがいるので万が一でも大丈夫だろう。それまでもなく、きっとアンネリエは同じ過ちは繰り返さない。


「あなた…名前は…?」


 今にも泣きだしそうな声だった。どうして今まで名前さえ聞かなかったのだろう。


「…今、更ですね、はは…」


「いいから答えなさい!」


「…ネ、レム…」


 腫れた口でははっきりとした発音ができないようだが聞こえた。ネレムだと。


「えっ…ネレムって…」


 そしてそれはイルヴァにも聞こえた。


「あ…あぁ…私はまた…あなたを…」


 傷だらけの体のネレムの足元にへたり込む。涙が、嗚咽が止まらない。その肩をそっと抱くことしか、イルヴァには出来なかった。




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