行方知れず
トゥットファーレは今日ものんびりと開店している。
「また女性のところではないですか? 以前にも似たようなことありましたよね」
「思い当たるところは探したわよ? でもどっこにも居なかったの」
「とりあえずうちにはしばらく来てないですねぇ」
「…だとしたらやはり…」
「え、何。何か知ってるの!? ひっどい! こんなに探してるのに!」
ネレムがいなくなってから一か月が経とうとしている。
「まぁまぁ落ち着いて。お子さんに悪いですよ」
レオナルドになだめられたがまだ不満げな顔をしている。
「それで何か思い当たることでも?」
「少し前に、上からの指示で黒薔薇の当主に会ったんだ」
「えっ!? 黒薔薇の…当主に、ですか?」
レオナルドの手が止まる。
「黄薔薇の当主なら知っていると思うが、女性で…」
「あー‥」
その時点でエミリアは何か感づいたらしい。
「綺麗な方ですよね」
レオナルドはベールから透ける顔を思い出す。
「帰ってからもずいぶん気にしていたんだ」
「じゃあそれじゃない! ネレム絶対その黒薔薇のご当主様に会いに行ったのよ!」
「まさかそこまで馬鹿だとは…思いたくなくてな」
単身で乗り込むなんて。しかも赤薔薇の命令でもないというのに。
「しかしそうなると少々、ではなく問題ですねぇ。かなりの」
「俺たちではどうにもできん」
「あ! もしかしてそれでレオナルドさんに聞いてみようって言いだしたんじゃ…」
「備えあれば憂いなしっていうだろう」
ふふん、と得意げに眼鏡の端を持ち上げる。
「私は備え、ですか。一応これでも黄薔薇なんですけどね…でも黒薔薇へ…厄介ですね」
「厄介?」
「言っただろう。あそこは取り締まりが中央よりも厳しいんだ。当主も人の話を聞くタイプではない」
「彼女は頑固ですから、昔から」
「ははーん。ネレムなら何かやりかねないってことね。一番上なのに目が離せないんだから! もう」
「私が行くしかありませんね。君たちにまで何かあったら薔薇会議ものですから」
「ありがとうーレオナルドさん!」
「申し訳ない、うちの馬鹿が」
「いえいえ、これも私の仕事の内ですから」
「仕事の内? 私たちのお願いなのに?」
「いえ、こちらの話です。お気になさらず。では急ぎましょう。店を閉めるのを手伝っていただけますか?」
手にしていたカップを置くと店を閉める準備を始めたレオナルドにエミリアが驚く。
「もう行ってくれるんですか!? レオナルドさんって案外行動的なんですね」
「お前は短気だ、と言われたことがあります。あ、お二人はいつも通り過ごされてください。お腹の子のためにもね」
「よーし。さっさと片付けちゃうわよーえいっ」
「おい、重いものはもつな」
と店じまいをしている時だった。カランカランと店のベルが鳴る。
「やっほー‥って今日はもう終わり? どしたのー? あっ! なんか面白いことやるのー?! まぜてまぜて!」
「イルヴァさん! いいところに来ました! お二人も運がいい。そして彼も」
「へっ? え? 何? 面白いことは?」
「今から起きますよ。ですから私をあの方に会わせてください」
「あの方って…」
イルヴァに言って会えるのはただ一人。
「アンネリエさんです」




