新しいパートナー
パートナーが変わるのは昇進か昇格か。しかも相手を誰もが決まって嫌がる場合。
「は、はじめまして!」
「ああ」
窓辺に座って本を読んでいた彼は、ちらりと視線だけこちらへよこした。
「ステファンって言います!」
噂は山ほど聞いていた。この緊張はそのせいだ。
「ヨハンネスだ」
低い声は、名前しか発していないのに十分なほどに迫力を感じた。僕がないだけかもしれないけれど。
「今日から一緒に行動させていただくことになりました!」
「聞いている」
「今まで捕らえた悪魔は6体。内1体は教会に入る前でした!」
「そうか」
何をどう話せばいいのか分からず、とりあえず自己紹介をしてみた。そしたら自分のことも話してくれるんじゃないかな、というステファンの目論見は見事に砕け散った。
「ヨハンネスさんと一緒に組めることになり、光栄です」
そういった時、ヨハンネスが初めて本から顔を上げた。
「光栄?」
「は、はい! ヨハンネスさんは身の内に宿る悪魔をはらうため、自ら赤薔薇で奉仕をされている信心深い方だとお聞きしました!」
身に宿る悪魔ね、といってヨハンネスは鼻で笑った。
「そしていつか悪魔を追い出し、清められた時信仰のあるべき姿を体現する存在として…」
「何を聞いたか知らないが」
ヨハンエスはステファンの言葉をさえぎって本を閉じた。
「は、はい?」
「俺は別に信心深いわけではない」
カバーを見せられた本は赤薔薇の紋の聖書でもなんでもない、少し前に流行ったただの騎士物語だった。
「あ、え、えっと」
「俺は俺の仕事をこなすだけだ。そしてその新しい見張り役がお前。今回はずいぶん若いな」
「見張り役って…そんな、」
「若ければ若いほど、それだけ俺のことを監視していないといけないってことだ。身の内に悪魔を抱える奴を単体で野に放つわけにはいかないだろう。逃げるかもしれないしいきなり暴れるかもしれないからな」
「ヨハンネスさんが逃げたり暴れたという記録は一切ありませんでしたよ」
「へぇ、記録を読んできたのか」
失礼かもしれないと思ったけど、好奇心が勝ってしまった。
「はい。街中の任務は初めてなので足を引っ張らないようにと思い読ませていただきました」
体のいい理由を付けて。
「赤薔薇の人間が見回るのは、森の中か街はずれが一般的だからな。俺がやってることは一部の人間しか知らない。まさか街中に悪魔がいるとは思わないからな」
悪魔にも色々いるが、一見して分かる悪魔は中央ではなかなか見る機会はない。その前に浄化のため、赤薔薇の施設に入れられ浄化されるからだ。
「このような重要な特別任務につけたこと、嬉しく思います」
それは本心だった。人の役に立ちたい。そして悪魔を浄化して…。
「嬉しい、か」
ヨハンネスは本の背表紙をそっと撫ぜた。なんだかそのしぐさがひどく優しく思えて、うわさに聞く冷血漢とはつながらない。
「はい。赤薔薇のため、人々の安全な暮らしのために頑張ります」
「御立派なことだが一人でやってくれ。俺は信心深いわけじゃないんでな」
「そうだ、明日はどのルートを回るか決めませんか」
「任せる」
そういった彼は立ち上がった。ステファンよりも頭一つ分ほど大きい。
「えっ、でも」
「任せるから。決まったら前日の夜に教えてくれ。俺は部屋に戻る」
足も長いので、大きい背中はすぐに見えなくなってしまった。
「あ、いや、一緒に…行っちゃった…はぁああぁ…緊張した…僕、これから大丈夫かなぁ」
うまくやっていける自信が、ない。




