新しい芽生え
黒薔薇の領地は、中央から数日かかる。それでも近いほうなのだが、やはり領地間の移動は疲れるものだ。
「どうしたの? 戻ってきてから二人ともへんよ?」
「んー」
何か考えているのか居ないのか。ただただ空中を見つめてぼんやりするネレム。
「変って、こいつがだろ。一緒にしないでくれ」
「まぁ、確かに主にネレムね。いつも変だけどさ、なんか近頃考えてばっかじゃない?」
「んーちょっとねぇ」
「黒薔薇に行ってからかしら」
つんつんとつついてみても反応はない。
「まぁ、なかなかに手ごわい相手だったからな、薔薇の紋は」
「しかも中央の別宅じゃなくて本拠地に乗り込んだんでしょう? あんなところまでいかないといけないなんて」
「これも仕事だからな。お前は体調が悪いみたいだったが大丈夫なのか?」
今回本当は三人での任務の予定だったのだが、エミリアの体調がよくないということで二人で行ったのだ。
「え、あ、ええ、もう大丈夫」
歯切れの悪い返事に、ディックは不思議に思った。
「なんか悪いものでも食ったのか?」
「人を落ちてるもの食べるみたいにいわないでくれる?」
「そんなこと言ってないだろう」
「言ってる!」
「痴話げんかやめてくんない? 考え事してるんだけどー」
ネレムにそんなこと言われる日が来るなんて、と二人は少しショックを受けた。
「これはっ別に痴話喧嘩じゃ…はぁ…まぁ、大丈夫ならいいんだ」
「それにしても黒薔薇かぁ…最近悪い噂ばっかり。つかまると出てこれないってみんな怯えてるわ。子供にも容赦しないって」
「その辺も認めていたし、むしろ何が悪いって言われたよ。そのうち中央もあんな風になるんじゃないか?」
「うそでしょ」
「本当だ。黒薔薇は昔から赤薔薇とのつながりが深いからな」
「何よそれ。そんなんじゃ安心して子供産めないじゃない!」
「え」
「え」
ディックとネレムの声が重なる。
「あ」
その反応に、やってしまった、とエミリアは二人に背を向けた。
「なになになになに、何の話?」
さっきまで考え事の邪魔をするなと言っていたネレムもいつものネレムに戻っている。
「おま、ど、どういうことだ!? 仮定か? 仮定の話なのか!?」
「痛い痛いつかまないで! …もう…この子がびっくりするじゃない」
そういいながらやさしくお腹をさする。
「ひょー、てことはてことは?」
「子供ができちゃったみたい」
そういってえへへと笑うエミリアに、ディックは愕然としている。
「うわーエミリアが母親!? ディックが父親!?」
「俺が、父親…」
「めっちゃおめでとう!」
ネレムはとりあえず喜びを表したいようだ。
「あ、ありがとう…?」
「何よ、嬉しくなさそう」
もっと喜ぶと思ってたのに、とエミリアが拗ねた。
「いや、嬉しいというか、驚いてしまって」
自分たちは親を知らない。覚えていてもいい思い出なんてない。それなのに親になんてなれるのだろうか。
「もう、しっかりしてよね。お父さん?」
「お父さん、だって」
それでもやるしかないのだ。
「ネレムもおじちゃんってよばれるのよ?」
「えーそこはお兄ちゃんってよばせる」
「何言ってるのよ。いくら童顔でもこの子が育つ頃には立派なおじちゃんじゃない」
「いいや、これは譲れないね」
「大人げなーい」
「俺が、父親…俺が…」
それぞれの新しい芽生えだ。




