真相と指輪
カツコツと靴がなる。この音をステファンは結構気に入っていた。
「こないだ会ったのはこのあたりでしたよね」
「ああ」
「この街に住んでいるんでしょうか」
「じゃなかったら見つけ出すのが難しくなるな」
お前のせいで。と言葉尻についているのがよく分かる。
「そうですよねぇ…すみません、僕のせいで」
「だが、かすかに匂いが残っている。最近ここを通ったんだろう」
「本当ですか!? でももう日も暮れてきましたし…」
「まて、匂いが強くなってきた」
ヨハンネスが神経を集中させてあたりを見渡す。
「えっ、じゃ、じゃあ近くにいるんですか!?」
「おそらく」
そこで鼻歌が聞こえてきた。金髪の髪が揺れている。
「遅くなっちゃったから急がないと。お客さん待たせてないといいなぁ」
「あっ、彼女じゃないですか!?」
ほんとにいた、と思ったのは口に出さなかった。
「あ、あの!!」
「えっと…あぁ、こないだの…今日もお疲れ様です」
丁寧に頭を下げてくれるものだから、つられてステファンも挨拶を返す。
「おい」
それに焦れたヨハンネスがステファンを促した。
「で、でも」
本人を目の前にすると迷いが生じてしまった。
「私に何か?」
わざわざ声をかけてきたのだ。用があるのは分かり切っている。
「おい、腕を出せ」
背の高い高圧的な方にいわれ、恐る恐る右腕を差し出す。
「これでいいですか?」
「…すみません。本当にすみません!」
何をする気なのか分からないステファンはとりあえず平謝りだ。
「えっ? きゃぁっっっ」
街中で銃はだめだと前回叱ったからか、小型のナイフで腕を切り裂いたのだ。細く白い腕にざっくりとした傷ができる。
「ヨハンネスさん! やりすぎですよ!!」
「これくらいすぐ治る」
それを見ていた周りの住民たちもなんだなんだと遠目に様子を見ている。
「女性の方なんですよ!?」
「そんなこと、悪魔狩りに関係あるのか」
「あ、くま…? っっ」
「この匂い…間違いない。お前は吸血鬼だ。俺と同じくな」
そういって、今度は自分の腕を切り裂いて見せた。見る見るうちに傷がふさがっていく。
「ステファン:傷は…まだ治りませんね」
「個体差があるのだろう」
「けど傷が治らないってことはもしかしたら悪魔つきではないのかもしれないじゃないですか!」
まだそんなことを言っていたのか、とヨハンネスは息を吐いた。
「この匂いに間違いないと言っているだろう。何故わからないんだ」
「僕には悪魔の、吸血鬼の匂いは分かりません!」
「何を、おっしゃっているのですか…? 私が…悪魔? 吸血鬼?」
「連れていく。立て」
「きゃっ」
カトリーナが持っていた荷物が道に散らばった。
「女性に乱暴はやめてください!」
「女だろうが子供だろうが関係ない。そうやってきたんじゃないのか?」
「そう、ですけど」
目の前でこんなことが起きるとそうもいっていられなかった。その時だった。
「何を騒いでいる」
良く通る声が響いた。
「誰だ」
声の主は同じ赤薔薇の制服を身にまとっていた。
「ナタリーさん! 僕たちの上官ですよ! 何で覚えてないんですか…どうしてここに」
「自宅へ帰るところだ。何をしていると聞いたと思うが」
「こいつが、上官…? なぜ…」
珍しくヨハンネスが動揺を見せた。
「悪いか? お前の話は聞いているぞ、ヨハンネス。…その女性は?」
「ヨハンネスさんが反応を示しました。傷をつけて検証していたところですがまだ治る気配がなく、とりあえず連れて行くといって…」
「…そうか。失礼」
ナタリーはカトリーナの腕をとって傷口をみた。ふさがる気配はなく、血もとめどなくあふれている。
「っっ」
「傷は治っていないみたいだな」
「だがこいつは吸血鬼だ。…お前ならわかるんじゃないのか?」
「…何を言っているかわからないが、傷はいえていない。一般市民を傷つけたとあってはこちらに非があるのは明らかだ。ステファン、ヨハンネス。一週間の謹慎だ」
「っっはいっ」
「…どういうつもりだ。お前は」
「謹慎だといっただろう。戻れ」
ナタリーはヨハンネスの言葉をさえぎってカトリーナをゆっくりと立たせた。
「行きますよ、ヨハンネスさん! 失礼いたします」
ヨハンネスは目を細めてナタリーを見つめると、そのまま口をつぐんで背を返した。
「大丈夫ですか? うちのものが失礼いたしました」
「っっ、これは一体…? 先日も声をかけられて、今日二度目何ですけど。悪魔がどうとかって…」
「っっこのチェーンと指輪はあなたのものですか?」
二人の足元にあるものを踏みそうになったナタリーが気付いた。
「そう、です…いけない。さっき切れて落ちたんだわ」
それを手にとると指輪を確認した。何度も見た、大切な指輪が血で汚れてしまっている。
「その通してある指輪は…っっ! ちょっと見せていただいても?」
ナタリーはそれを受け取ると、歩きながら指輪をハンカチで拭く。
「これ、ですか? どうぞ。幼いころに亡くなった母の形見なんです。もう顔も思い出せないんですけど…っっっく」
「お母上の…!! これは…ということはあなたは…」
「…?」
「…そうか、あなたが…」
「あ、あの?」
「うちのものが大変失礼しました。手当をさせて下さい」
「ありがとう、ございます…? えっと」
「ナタリーと申します。怪しいものではありません。お嬢様」
ナタリーは優しい木漏れ日のような笑顔を見せた。




