ケープ
街はずれの洋裁店でアデラは足を止めえた。
「こんにちはー!」
声をかけると以前より少しだけやせた少女が出てきた。
「いらっしゃいませ! あ、アデラさん!」
「久しぶりね、カトリーナ。開いててよかったわ」
「長く店を閉めてしまってすみません」
「お二人のことは残念だったわね。強盗まで入っただなんて」
「はい…でも、私にはお客様もいるし! 元気だけが取り柄ですから」
元気そうでよかったわ、とアデラは微笑んだ。
「そうそう、聴きたいことがあるんだけれどいいかしら」
「なんでしょう?」
「お二人に以前頼んでいたものがあるのよ。はやり病のせいで街に降りてこれなかったから受け取れていなくって」
もしできていないのならそれでいいんだけれど。
「あっそうなんですね! どんなものですか?」
「服を一着仕立てていただいていたの。ケープなんだけれど」
「二人とも仕事はとっても早かったので多分できてると思うんですよね。こっちかなぁ」
カトリーナが服の山をかき分ける。以前よりやせたが顔色はいいようだ。そういえば髪が短くなってしまっている。何かあったのだろうか。
「カトリーナはしっかりしてるわね」
「えー? そんなことないですよ」
「お店のこと一人でできているじゃない」
そう褒めると気恥ずかしそうにした。
「まだまだ分かんないことがたくさんですけどね」
「はじめはそういうものよ」
「そうなんですか?」
「ええ。しっかり店番できててえらいわ」
「ふふふ、照れるじゃないですかぁ…あっこれかな…えいっ」
カトリーナが引き抜くと服の雪崩が起きた。
「大丈夫!?」
と声をかけると
「大丈夫ですー」
と山の下から声が聞こえた。
「これじゃありませんか?」
カウンターに広げてみてみる。
「ええ、これこれ。まぁ、素敵な仕上がりだわ。想像以上よ」
「これってー‥子供用のケープですか? アデラさんには小さいですよね」
「そうなの。うちの子肌が弱くてあまり外に出してあげれないから、相談して作っていただいたのよ」
ケープがあれば少し日が出てる日くらいならば一緒に出歩けるかもしれない、そう思ったのだ。
「アデラさんお子さんいらっしゃったんですね。ご結婚されてないっていうのは知ってたんですけど」
「実の子ではないんだけれど、なんだか運命のようなものを感じて、ね」
「血のつながりとか、そんなことじゃないですよ! だってこんなに愛されてるですもの。素敵!」
「ありがとう」
「次はきっと、二人で来てくださいね」
「ええ、真っ先にカトリーナに会わせるわ」
「楽しみです! 女の子ですか?」
「男の子なの。やんちゃで困ってるわ」
「元気なのが一番っていうじゃないですか。お向かいにも男の子が三人いていつも賑やかなんですよ」
「まぁ、三人も。それはきっと毎日がお祭り騒ぎね。ふふふ」
「見てると私も兄弟が欲しかったなぁって思うんです」
「隣の芝は青いっていうものね」
「私両親を知らないのでおねだりもできないんですけど」
「そうだったわね。それなのに育ててくれたお二人もまた…辛いでしょう」
二度もそんなことが起こるなんて。
「正直寂しいですけど、でも、私、この街の人、みんな家族だっておもうようにしてるんです」
「みんな、家族?」
「そうです。そしたら大家族で寂しくないでしょう?」
「ふふ、素敵ね。きっとあなたのお母さまは優しい方だったんでしょうね。覚えていなくても、大事にされていたのよ」
「私もそうじゃないかっておもってるんです。とっても優しいお母さんとちょっと厳しいけどかっこいいお父さん! なんちゃって」
「あのね…私には実の娘がいるの」
「そうなんですね! どんな方なんですか?」
「分からないわ」
そういって悲しげな表情になる。
「わけあって今は一緒に暮らしていないからどうなっているか分からないわ。でもカトリーナ、あなたみたいに育っていてくれたらなって、今思ったの」
「アデラさん…」
「そばにいられなくてもいつもあの子のことを思っているわ。幼いころのあの子の面影に、少しあなたがにているからなんだか不思議な感じよ」
「私が、ですか?」
「ええ。ああ、そろそろ帰らないといけないわ。お留守番ちゃんとできているといいんだけれど」
「いっぱいほめてあげてくださいね」
「ご褒美の約束をしているの。頑張ってクッキーを焼かないと」
「いいなぁ! 私も食べたいです」
「じゃあ今度焼いて持ってくるわ。その時はうちの子も一緒に」
「わぁ! 楽しみにしてますね」
カウンターから身を乗り出す。
「ええ。じゃあまたね、カトリーナ」
受け取ったケープを喜んでくれるだろうか。そう想像しながら家路を急いだ。




