山の医者
何故、どうして、黒い髪、誰のもの? 二人とも何で怖い顔してるの・・・やめて痛い痛い痛い痛い痛い痛…
「っぁはぁはぁ…ここ、は…?」
「あっお姉ちゃん目、さめた!」
「ねぇたん、さめたさめた!」
「え? え? っったぁ」
全身が痛い。顔にも何かがまかれているのかごわごわする。
「起きちゃだめ」
「らめ! らめ!」
入れ替わり二人の女の子が視界に入る。
「あなたたちは、誰? ここはどこ?」
そう尋ねて通じるだろうか、と思った時だった。
「やぁ、目が覚めたかい。ダメじゃないか、起きたらすぐに知らせに来るようにいっただろう?」
ようやく話が分かりそうな大人の声がした。
「今行くところだったの!」
「らったの! ケ」
「わかったわかった。外で遊んでなさい」
マティアスに口を押えられようやく静かになる。
「はーい」
声をそろわせた二人を微笑ましくみおくったのは優しそうな男性だった。
「本当に困った子たちだ。元気でな何よりなんだけどね」
「あ、あのっっっいったぁっ」
このままでは失礼だからと体を起こそうとして痛みに動けなくなる。
「こらこら、まだねていなさい。ふぅ、君も目を離すと危ないねぇ」
「あの…」
「けが人なんだから大人しくしていなさい。それとも君もあの子たちくらいの扱いをした方がいいのかな?」
聞き分けよくしろ、ということか。大人しく寝ていることにした。それを見るとにっこりと笑う。
「…あの、私何でこんなけがを? 家に帰らないと…祖父母が流行病で寝たきりになっているんです!」
「残念だけど」
「え?」
「二人はなくなっていたよ」
「そんな…」
熱も下がってもう大丈夫だってお医者様もおっしゃっていたのに。
「私は医者でね。君が飲んでる薬があるだろう?」
「はい…小さい頃から欠かさず飲むように言われています」
「あれを作ってるのが私なんだ。納品ついでに様子を見にレオナルドと立ち寄ったら君が倒れていてね。二人は手遅れだったよ」
「そんな…そんな…」
「しかもこの流行病に乗じて強盗も増えているようだ。可哀そうに。怖かっただろう。君の家にも入った後だったようでね。部屋もあちこち荒らされていたよ。髪も切られてしまって」
「あ、ほんとに髪がこんなに短く…私、何も覚えてなくて…」
そっと指を動かして毛先に触れる。
「それがいい。人間はとても怖いことや嫌なことがあると忘れてしまうことがあるんだよ。防衛本能というやつだ」
「防衛、本能」
「ああ、だからそれでいい。いやなことは忘れてしまいなさい。気が落ち着く香も焚いてあげよう」
コトリ、と香炉を置く音がした。柔らかく甘いにおいがする。
「でもなんだか大事なことを忘れている気がして…っっ」
「頭が痛いのかい?」
「思い出そうとしたら頭痛が…記憶にもやがかかってるみたいで」
「大丈夫。必要なことはそのうち思い出すよ。今は気が動転しているんだろう」
「そう、でしょうか」
「今は体を回復させるのが先だよ。口をあけてくれないか。折角目が覚めたんだ。薬を飲んでおこう」
「この味は…いつもの」
「言っただろう? 君のいつも飲んでいる薬を作っているのは私だと。ほら、これ」
「一緒のやつですね」
「用心深いのはいいことだ。さ、これも飲んでまたお眠り」
「すみません。ありがとうございます。…かなり甘いですね…」
「あの子たちに飲ませるためのとっておきなんだ。じゃないと苦いといって飲まないからね」
痛いがつい笑ってしまう。
「これならいくらでも飲めちゃいますね」
「薬だからそれもそれで困りものだけれど」
「あの、治療のお金はどうしたら…」
どれくらいかかるか分からないがここまでお世話になっているのならばそれなりに払わなければならないだろう。
「それは気にしなくていい。医者は病人を助けるのが使命だからね」
レイモンドあたりが聞いたら苦笑しそうなこという。
「でもいつものお薬、も…お金…(寝息)」
「効いたようだね。…お代は貰っているんだよ、君のお父上にね。…これでまたしばらく眠っていなさい。髪と瞳の色が戻るまでは街に帰せないんだから。それまで鏡はどこかに隠しておかないとね。あの子たちは頼まれたら見せかねないから」
すやすやと眠るケイト、いや、カトリーナの短くなった髪をそっと撫でる。
「人間の愛情というものは、柔らかいものだけではないのだよ」
そういって自分の過去を思い出す。
「その時がきたら思い出すさ。いやでもね」




