愛情の形
それは古い洋裁店だった。腕のいいことで評判だったが、最近流行り病にかかってしまい寝込んで店を閉めていた。そんな老夫婦の面倒を見ていたのは、小さい頃に引き取ったカトリーナという少女だ。
「はぁはぁ…っく…」
だが今度はこのカトリーナが苦しんでいる。
「ああ、なんてことだ」
「まさか、この子が…」
熱に浮かされていた二人が正気を取り戻した時、カトリーナは自分たちが知っている姿とは違ってしまっていた。金色の髪は闇より黒く、何かで塗りつぶされたようだ。
「何でこんな急に…」
「分かりませんよ、私にわかるわけがないじゃないですか」
黒い髪、紫色の瞳。それは赤薔薇がいう所の悪魔に当たるもので、二人は騒ぎすぎないようにするので精いっぱいだった。もし大騒ぎになれば連れていかれるかもしれない。
「熱を出して寝込んだと思っていたらこんなことになるなんて」
「赤薔薇様に相談をしましょうか」
「だめだ! 連れて行くと殺されてしまうぞ」
殺されてしまうかもしれない、という言葉にぶるっと身震いをする。
「でも! この子に悪魔がとりつくなんて」
「…なんて黒い髪なんだ」
こんな色の髪は見たころがない。せいぜいいても焦げ茶色だ。
「綺麗な金の髪が…」
「こんな髪になってしまって‥カトリーナ、わしたちが助けてやるからな」
カトリーナの汗を拭いていた手を止め振り返った。
「何をするつもりですか」
「自分たちでどうにかするしかないだろう」
「どうにかって、私たちに何ができるっていうんだい」
悪魔に効く薬なんて聞いたこともないよ、というと
「何かは何かだ。そうしないとこの子は助からないんだから!」
「そんな…私たちにできるはずがないでしょう」
「やるんだ。じゃないとカトリーナは殺されてしまうんだぞ」
「っっ。こ、殺されるだなんて」
「浄化するといっているが浄化された人間を見たことがあるか? ないだろう」
「それは、そうですけど」
みんながみんな、赤薔薇のいう悪魔狩りの支持者ではない。あくまで協力者となりうるだけであって、批判的な人間も存在する。この人物の場合は懐疑的なだけであったが、赤薔薇への不信感は強い。
「わしはこの子を殺されたくないんだ。訳ありのもらい子だがもう何年も一緒に暮らして、こんなに大きくなって」
「あんなに小さかったのに。少し体が弱いところはありますけど明るくいい子に育ってくれて」
「そんなかわいいわが子を、得体のしれない赤薔薇に差し出すというのか?! やつらが私たちに何を施してくれたというんだ」
「っううう。でも…けど…!」
頭の中には思い出がよぎる。好奇心旺盛な子供で、仕事道具で怪我をしてしまった時など大騒ぎで病院に連れて行った。風邪を引けばただの風邪だと言われても安心できずに寝ずの番で看病をした。
「この子は神に試されているに違いない。そして私たちも試されているんだ。この子を悪魔から守れるのかと」
「私たちが守ってあげないと…」
「ああ、そうだ」
息苦しそうに苦しむカトリーナを見ているのが辛かった。
「ああ…神様…カトリーナをお守りください、悪よりお救い下さい」
「はぁはぁ…お…ば、あちゃ…」
「…あぁ、カトリーナ…っっ!! みてちょうだい、瞳の色が!」
「瞳の色まで悪魔は変えてしまうのか…時間がない…このままだとこの子は完全に悪魔になってしまう」
「どうしましょう、そんな…どうしましょう」
「よし、暴れないように柱に縛り付けよう。悪魔をはらうしかない」
「許して頂戴カトリーナ」
「…やるしかないんだ」




