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coat of arms  作者: apy
3章
24/49

別れの時

 広い庭でリイナ、カリナと遊ぶ少女をみてマティアスは目を細めた。


「あの子はずいぶん変化したね。髪も栗毛だし、瞳の色も青くなってる」


「時間はかかりましたが、効果が緩やかな分体への負担が少ないようです」


「んーいい感じだねぇ。体の成長も普通と変わらなくなってきたようだし」


「あの頃だと、私たちは1年で3年分ほど成長しますからね」


「身長の伸びも落ち着いてきたことだし、これなら街で人に紛れても生活できるだろう」


「…この薬、私たちには弱すぎるのですよね…」


「そうだねぇ。私たちには緩やかすぎるようだ。リィナとカリナにも飲ませてみたんだが全然ダメだったよ。ナタリーもダメだったね」


 実験書類の山をみてため息をつく。


「カリナとリイナは、私たちとも何か違うのでしょうか? 幼いまま成長が止まってしまっているようですね」


「ああ、今ではケイトのほうが姉のようだ。ケイトがしっかりしている。…あの子たちは特別なんだよ」


「特別、ですか?」


「まぁ、色々ね。私の方の薬は効かなかったが、ナタリーはどうだい?」


「はい。私の作った薬で傷の治りは遅くなっています。瞳も緑になったままです。投薬をやめればすぐに戻ってしまいましたが」


「もともとは青い瞳だったんだって? 興味深いねぇ」


「今は私の薬を飲みつつ赤薔薇へ潜入し、攫われたケイトの姉を探しているようです。トーマスに薬を渡してもらっています」


 ここで飲んでいる頃から時々血を吐いていたこと思い出す。そこまでしてナタリーは…。


「あれをずっと飲み続けているのか…体に負担が大きいだろうに」


「ここにいるときも数回血を吐いていましたが、スティーグと約束したと言い張って…」


 会話がちょうど途切れた時だった。扉を叩く音がした。


「失礼します」


「ヨエルか、入れ」


「トーマス様がお着きです。お連れしました」


「おう! 来たぜ」


 開かれた扉から入ってきたのは一応正装したトーマスだった。自分だけならまだしもマティアス様もいるんだから、と無理やり着せるようにしている。


「悪いな、呼び出して」


「そう思うなら店のほうにも顔出せよ」


 この服は窮屈でいけねぇや。


「無駄ですよ。イリス様、私が中央に行くのも嫌がるんですから」


「中央は赤薔薇の直轄地だからな。面倒ごとは嫌なんだ」


 実際ヨハンネスは中央で問題を起こしたじゃないか。


「まぁ、マティアスを白薔薇の領地まで呼びつけたくらいだからなぁ」


「あれは! ここを離れるわけにはいかない状況で、ってマティアス様を呼び捨てにするなと何度も言っているだろう!?」


 兄弟げんかのようなそれを微笑ましくみるマティアスとヨエル。


「いいよいいよ。で、見つかったのかい? ケイトの新しい両親は」


 区切りのいいところで、マティアスが今日の本題を切り出した。


「あぁ、うちの近所の洋裁店だ。歳はまぁくっちまってるがまだぴんぴんしてるから問題ねぇだろ」


「もう、ですか…早いですね…」


「だがこれがスティーグの願いの一つだ」


 死に際にスティーグが言った。二つの願い。生きている頃からずっと思い描いていた願いだった。


「俺も息子がいるから気持ちは分かる。手放してでも安全に生きていてくれってな」


「そう、ですね」


「じゃ、早速ちゃちゃっとケイトの記憶をいじってしまおうか」


 マティアスがポン、と手を鳴らす。


「記憶を!? そんなことができるんですか」


「催眠のようなものだよ。記憶があるままじゃぁ不都合だろう。どうするつもりだったんだい?」


「いや、…どう、しようかと…」


「そういうところ抜けてるんですよね、うちの当主様は」


「そういうことなら、アデラにも伝えてくるぞ」


「あぁ、最後の別れはちゃんとさせてあげて」


「ヨエル、ケイト嬢ちゃんを連れてきてくれ」


「あっ、はい!」


 ヨエルとトーマスが二人を呼びに走り去った後。


「この部屋は香を焚くから誰も入らないように。記憶の混同を避けるために催眠後は私とトーマス以外はもう会えないからね。そのつもりで」


「…私も、ですか?」


「君も何か忘れたいことがあるのかい?」


 意地の悪い笑顔だった。


「…いいえ。忘れてはいけないことばかりです」


 イリスは、少しだけ悲しそうに笑った。



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