不穏の影
整えられた応接間。身ぎれいな二人の雰囲気には会わないトーマスがにやにや腕を組んでいる。
「ヨエルにイリス、そんな仏頂面して。目当てのやつにゃ会えたか?」
「会えるには会えたのですが…」
「花をもらった」
と、机の上に広げられた花をさす。部屋はこの花の香りでいっぱいだ。
「匂いのもとはこの花か!」
鼻がむずむずしていけねぇな、とスンスン鼻を鳴らす。
「でもなんかロマンチックだな」
「笑い事じゃない。これに何かあるはずなんだ」
ここのところイリスはピリピリしていた。
「で、マティ、おっと、始祖さんはなんだって?」
「始祖様は時が来ればと約束してくださいました」
すぐに、というわけにはいきませんでした。と残念そうにしているが、トーマスからしたらいつかは手伝ってくれるってことだろうと返事が返ってくる。
「にしても時がきたらねぇ。もったいぶるもんだ」
「お前は何か知らないか。この薬が完成すれば、黄薔薇にも悪い話じゃないだろう」
「ああ、そうだな。だからこっちも情報渡してるわけだ」
「隠し事してもいいことはないぞ」
「おいおい、待ってくれよ。医療についてなら白薔薇以上に知ってるなんてありえねぇ。むしろこっちが欲しいくらいだ」
「そういえばイリス様。今日青薔薇から手紙が届いてましたよ。こちらを」
トレイに乗せられた手紙を差し出す。
「青薔薇から? あいつから連絡が来るなんて何十年ぶりだ」
「なんだ、青薔薇のだんなも仲間だったのか。隠してるなんて水臭い」
「他言無用だ」
「わーってるよ」
「青薔薇はお嬢様が赤薔薇に捕らえられて、気が気ではないのでしょう」
「噂で行方不明とは聞いていたが…赤薔薇に…なんてこった」
「あの馬鹿が。外へ出すからだ。あいつの子は見た目に出ているタイプだったからな」
「へぇ、まぁ確かに二人は見た目じゃわからねぇもんなぁ。その辺歩いてても違和感なんてないからな」
「それで、青薔薇様はなんと?」
「…近々こちらへ来るそうだ。相談があると言っている。いやな予感しかしないよ」
そういうと手紙をトーマスに回した。
「何でしょう…まさか赤薔薇へ乗り込むとかじゃないでしょうね」
「まさか。あいつはそんな馬鹿なことはしないよ」
「おっ武器ならうちから頼むぜ」
「やるならこいつだ」
というと、そうですね、とヨエルが笑った。
「大体争いごとに巻き込まれるのはごめんなんだ」
「そういうやつだよなぁ、お前は」
「…私の兄も赤薔薇に捕らえられてるのでしょうか…」
ふと、ヨエルが口を開いた。
「ヨハンネスか。まぁそうなったら生きている保証はないな。俺をおいて中央へ遊びに行くからあんなことになるんだ」
「逆によかったんですよ。あなたまで危険な目に合う所でした」
「兄は生きています…そう感じるんです」
「へぇ、双子って言ってたよな。そういうもんなのか」
「なんとなく、ですが。うちの領地が中央から離れていてそうそう探しに行けないんです。イリス様は薬のことしか頭にないし…はぁ」
「あいつのことだ。どうにか逃げてるよ」
「そう…ですね。兄さんならきっと…」




