囚われの姫
ここは赤薔薇の神殿。最奥の間。
「ウルリク様の指示を受けました地方にて3体捕獲いたしました。皆1歳未満。やはり匿われておりましたので少々手荒にはなりましたが、息はあります。現在初期検査を受けさせているところです」
赤薔薇の制服に身を包んだナタリーは、両足を揃え敬礼している。
「おお、そうか。報告には聞いていたが、本当に優秀だな、ナタリー君」
でっぷりとした体は大きな椅子からも溢れている。垂れた目で上から下まで舐めるような視線にも、ナタリーは微動だにしない。
「それが仕事ですから」
「君は確か…青薔薇の紋の人間だったな」
青薔薇。それが自分の本来使えるべき薔薇の紋だ。
「はい」
だがこの赤薔薇でどうしてもやらなければやらないことが出来てから、出向という形で地位を上げてきた。
「青薔薇は当主不在のなか、君のような者が育つとはなぁ。さすが薔薇の紋だ」
「旦那様と比べてしまえば、私などまだまだです」
「謙遜しなくてもいい。それに…美しい」
視線に色が増した。ねっとりと絡みつくような感じに鳥肌が立つ。
て
「あ、あの?」
「君の瞳は芽吹いたばかりの葉のような色をしているな…美しい…」
「み、緑の瞳など珍しくありませんよ」
珍しくはない。が、特別ではある。
「いや、きらきらと、そう、未来への期待が秘められた輝きだ」
未来。そんなもの、あの日からきまっている。
「…っこの国の平和のために、この身をささげる覚悟であります。申し訳ございません。私は次の仕事がありますので失礼してもよろしいでしょうか」
その為なら、何でもすると誓ったのだ。
「あ、ああ、いきなさい。次も期待しているよ」
「失礼いたします」
解放の言葉にようやくほっとした。
蝋燭の明かりだけで暗い石段を下りていく。先人が隠れ家に使っていたものを偶然に見つけた。
「私としたことが…彼があんなに美しい目をしているとは、な。…だがやはり、あなたには誰もかなわないでしょうね…」
すっと照明を上げると顔をそむけた女が鎖につながれていた。黒い髪は長く伸び、白い肌は蝋燭の火だけで焼けてしまいそうだ。
「…またきたのか…」
忌々しそうな声が響く。
「本当は離れたくないのですがね。立場上それを許してはくれないのですよ。ああ、この髪。今日も梳いてあげましょう」
太い指が髪をすくう。
「前任者は、私を悪魔だとののしり蔑み唾を吐き、鞭で打ってでは満足げに笑っていたよ。ああ、この手を壁にはり付ける杭を何本も何本も追加してくれもしたな」
今は鎖である程度の自由はきくようになっている。それまでははりつけ状態だった。そしてそのたびにすぐに治る傷を見て何度も何度も…。
「ああ、私はそれをみていられなかったのです。しかし、止める術ももってはいなかった。そこであらゆる手を使いましたよ。地位をつかみ取るためにね」
「そしてお前は権力を手に入れた」
「誤解しないでいただきたい。私は力になど興味はありませんよ。私の心をつかんではなさないのは、この漆黒の髪…アメジストの瞳…ああ、この雪のような白い肌は触れると溶けてしまいそうだ。
足を撫でられ身を引く。
「私に触れるな!!」
「そうは言いましてもね、姫。あなたはそろそろ血が欲しいのでしょう?」
「っくっ。血など、欲しくは…」
ゴクリ、と喉がなった。
「その牙で、私のこの喉を、噛みたくて噛みたくて仕方がないのでしょう? ほら、この血管は貴女の牙を待っていますよ」
心臓が、体がわきたつ。
「昔のように管で流し込めばよいではないか!! 罪人の血があれば十分だ!」
「罪人にそんな事させるわけがないでしょう。さすがに首は差し出せませんが、いつも通り、腕ならよいのですよ。そのために、私はいつも一人であなたの前にいるのですから。その牙の疼きまで、私が沈めてさしあげましょう」
「やめ…ろ…」
「さぁ、我慢なさいますな…っ」
「これが、欲しいのでしょう?
「あ…あ……あああああああああああああああ」
また、耐えられなかった。牙はウルリクの腕に食い込み、流れ出す血をすする。なんと浅ましいのだろう。なんと愚かなのだろう。なんと汚らしいのだろう。ヴィオラはそれでも自分を止めることが出来なかった。
「存分に、お召し上がりください」
「っくっ…」
最後のあがきで牙をより食い込ませる。
「っっっ…ああ、私と姫は今つながっているのだ…!!!!はは、はははは、ははははははは」
真っ暗な蝋燭だけの明かりの中、ウルリクの歓喜の笑い声と血をすする音が響いた。




