望まれぬ招待
もうすぐナタリーが迎えに来る頃だろう。少しだけ街を歩いてみることにした。そんなことが出来たのかと褒めて貰うために。
「ナタリーはお仕事終わったかしら。お父様たちにもお土産買いたかったけれど出かけたのがばれてしまうから買えないのが残念だわ。…ナタリー、喜んで、きゃっ」
「あらあら、大丈夫? ごめんなさいね」
ぶつかって荷物がばらけてしまった。幸い壊れそうなものは買っていない。
「ったたたた」
「あらあら。荷物がバラバラになっちゃったわね。よいしょっと」
丁寧にポンポンと埃を払いながら拾ってくれるご婦人に
「あっ、こちらこそごめんなさい。周りがよく見えなくて…」
と謝る。顔の周りの布のせいで視界が限られてしまっているのだ。
「あらあら、気を付けないとね。はい、どうぞ」
「ありがとう」
「お嬢さんはこの街の子かい?」
「いいえ。街へはあまり来れないわ。お父さまが許してくれなくて。普段は青の領地にいるの。お父様のお仕事にくっついて遊びに来てるのよ」
「青の領地なら涼しいだろうけど、中央はこんなに暑いのにフードをかぶって。周りが見えないと歩きづらいだろう?」
「これはっ…肌が、弱くて」
「まぁ、肌が…それは大変だねぇ。おや、怪我をしてるじゃないか」
腕の所に血がにじんでいる。
「あっ…」
「ほら、腕を出してごらん」
「あっ、だ、大丈夫」
すぐ傷は治るともいえず。
「大丈夫って…血が出ているじゃないか」
「肌が、そう、肌が荒れていて人に見られたくないの」
「そう…誰かと一緒にきたの?」
「このあたりで待ち合わせをしているの。もうすぐ来ると思うわ」
「それなら大丈夫だろうけど…一人で大丈夫? 一緒にいようか」
「大丈夫よ。もうすぐ待ち合わせの時間だから」
「そうかい? おばさんおせっかいを焼いてしまったかしらね」
「いいえ、ありがとう」
「そう、じゃあ気を付けてね」
「ありがとう。いい一日を…ふぅ…危なかった…」
冷や汗をかいた。手がじっとりと濡れている。怖くて仕方なかった。ナタリーのことを何度も呼んだ。勿論よんでも来るわけではないが。ふぅ、とため息をついた時だった。
「見つけた」
怪我をした方の腕を鷲掴みにされ、低い男の声が降ってきた。
「っっ! あなた…仲間…?」
目に入ったのは薔薇の紋章。でも、この匂いは間違いなく仲間のものだ。
「この匂い…間違いない」
相手もそう断言しているのだから間違いはないのだろう。
「きゃっ、いやっ何!? 離して!」
ナタリーによってぐるぐる巻きにされていた布が暴かれる。
「黒い髪に紫の瞳。間違いないな。暴れるな」
「なぜ…どうして赤薔薇のの制服を着ているの!?」
「なぜって。これが俺の仕事だからな」
「いっっ痛いっ! 引っ張らないで!! どこに連れていくつもり!?」
「赤薔薇に決まっているだろう」
「いやっ! いやよっ!」
「叫ぶな。暴れるなとも言っている。お前は浄化されなければならない。そして俺は連れて行かねばならない」
「あなただって同じじゃない!! なのに!」
「…俺は俺の仕事をしている」
「…仕事?」
「そうだ。俺に与えられた役目。悪魔は…吸血鬼は排除対象だ」
「いやっ、はなしてっ、助けて!」
ざわざわと騒ぎになって人だかりができている。
「静かにしろ」
口の中に布を押し込まれ、ナタリーを呼ぶ声がもう届くことはなかった。




