28.悪役令嬢達の秘密
お読み頂き有難う御座います。
アローディエンヌとニックがルディ君のプロポーズに興奮しております。
「オルガニック!!あたくしのみの番!世界で一番愛しいオルガニック!!
あたくし、神だろうが運命だろうが貴方を何処にもやらなくてよ!!」
「おええふあ!?ぐえっふぉう!?」
王子様であらせられるルディ様の生プロポーズを見せて頂き、あれから……ちょっと経ったのかしら。
オルガニックさんと感動の余韻に浸ってたから定かではないのだけれど。
いや……本当にもう、ブライトニアの淑女らしさは……何処に行ったのかしら。
壮大な愛の告白タックルは何故……?
義姉さまは何をブライトニアに吹き込んだの……?
でも、あの直情さも可愛いと思う私って駄目だわ……。
「ふふう、私の可愛いアローディエンヌう」
「ぐ、いい加減離してくださいな義姉さま……!!」
こっちもね……。頭を嗅ぐなと言うのに!!
しかも!何が何処はとは言わないけれど言いたくないけれど!!……顔が埋もれて柔らかくていい匂いで本当に腹が立つわ……。
「ルディ様がまさかあーゆープロポーズで来られるとは……思わなかったねアロンたん」
「ええ……全くですわね。……白昼夢ではありませんわよね?」
いやじゃあどういうのがって聞かれても困るけれど……想像と違うけれど、素敵だったわね。ええ。
「多分違うと思うけどねん……どわ!あいた!」
頬っぺたを捻られているわ、オルガニックさん……。
お気持ちは分かるけれど痛そうね。何故そんな全力でご自身を捻られてしまうの……。偶にちょっと天然でらっしゃるわよね……。その辺のギャップが攻略対象であられる所以なのかしら。
「ミニアさんてば、ちょいツンデレさんだよね。お花がこんなに咲いてるし……」
そうなのよ。一生懸命ツンケンされてらしたけれど、よく見れば足元にお花が咲いてたの。窓の外の芝生にお店に売ってそうなお花が少し広がっていて……とても綺麗。
……喜びが漏れてしまわれたのね。目茶苦茶お可愛らしいわ。
……後始末がてら、ちょっと摘ませて頂きたいなあ。狭めだけれど、こんな華やかで豪華なお花畑、そうそう無いもの。
でもシアンディーヌが齧るかしら……。あの子最近……いや、前からか。草と見れば齧るからなあ。
「早速レルミッドさんにご報告だってミニアさんを置いてきそーになられるし……」
「る、ルディ様はレルミッド様の事になられると少し……ご様子が変わられますものね」
それとも本来の御気性であられるのかしら。
素直で無邪気度が増すというか……キラキラが二割増しと言うか。
兎に角、レルミッド様が大切で大事でわー!みたいな……。
ええと、まあ、ミーリヤ様とのご結婚の話だけれど……モヤアッとなさるだろうなあ、とは思うけれど!
うう、……良い感じのお執り成しが全く出来なかったわね……。
「でもまあ、あのカプ成立して良かったよー。並ばれるとマジゴージャスだよね」
「おふたり揃われたら、更にお美しいですものね」
「正直……うん。ゲームよか萌えるよね……。あのチンピラヒロインちゃんよりお似合いだと思うよ」
ち、チンピラヒロイン……。ロージアの事よね。即座にあの無邪気に見せかけた自分勝手な根性悪笑いが思い出されてしまったわ……。
何方かもチンピラって言われてたけれど……義兄さまなんて薄赤い屑呼ばわりだったし。
……まあ、可愛らしくて素敵な渾名を付けたい子では無いのだけれど。……ゲームでは、ルディ様や陛下にレルミッド様、サジュ様とのエンディングが有った訳だけれど……。
……今から思うとロージアは全く何方とも似合わないわね。何方にも相応しくないわ。
あー、思い出すと表情が死んでしまいそうね……。まあ、元々なのだけれど。
「……そうですわね」
「ほうわあ、あの子の話題、ヤなことだったね!?
ゴメンねアロンたん!!」
えっ、伝わってしまったかしら。いかんいかん!!
「い、いえ……本当のことですもの。何方もロージアの犠牲にならず本当に良かったですわ」
「ま、全くだよね……。あのチンピラヒロインちゃんの毒牙に掛からず、こんな華々しいエンディングだとは……。スチル欲すぃ……」
「ま、まあ……現実は結婚で終わりでは有りませんしね」
寧ろ此処からが大変……なのでしょうけれど、あのおふたりチートだからなあ。結構涼しいお顔で乗り越えられそう。何かご苦労が発生するならお手伝いしたいもんだけれど。
「そだね……。てゆか、フォーナの石化と陛下とティミーの伯母様のカプの方は……どーなられたのかも未だ不明だよね……」
そ、そうだったわ。
美しいカップル誕生してハッピーになってる場合じゃ無いのかしら。
どちらも悲劇だけれど、フォーナにはレルミッド様の愛で乗り越えられそうな気がするし……いえ、手が必要なら全力で尽力したいわ。モブの私に全くお手伝いが出来るとは思えないけれど、私はフォーナの友達だもの。気を揉む位は……いや役に立たないな。
でも、陛下は……折角愛された女性が、御従妹で……いや、御従姉?お歳が何故か若返られてるけれど、本来は御従姉よね。いや本来……ああ分からない。どっちなのかしら。
兎に角…『魔法使いディレク様』のお嬢様のおひとりであられるジーア様は、王家にいい印象を全くお持ちでは無い。
だからお別れしたいみたいな……事だったわよね。
陛下ご自身がお嫌いだとか、そうではなく……。
ああ、根が深い……。そして、ティム様は間違いなく陛下を邪魔されるわよね。
あの方の妨害が……嫌な予感しかしないな。
「皆が幸せに暮らしました、では終わりませんものね……」
「そだよね……」
どうしたらいいのかしら。散々ご苦労されている陛下にお幸せがやっと来たと言うのに。
と、しんみりしている所に……。
蝙蝠ウサギの姿で連れていかれた筈のブライトニアが、赤いワンピースドレス姿でオルガニックさんに全力で体当たりしたのよね。
ワンピースは、義姉さまが適当に着せたんでしょうね……。いえ、適当でも着せてくれて良かった。流石に裸で放り出されていたらキレていたわ。
とまあ、……悪役令嬢に捕らわれたサポートキャラの図の今に至る訳だけれど。
「一体何をブライトニアに言われましたのよ、義姉さま」
「大したことじゃないよお?
フロプシーがボーッとウロウロ浮かんでるだけじゃあ蝋燭野郎が消え失せるって話い」
「はあ!?」
「ひえ!?」
消え失せる!?き、消え失せるって、オルガニックさんが!?何故!?いや、聞くまでもないか!?間違いなくオルガニックさんを被害者にしようとしてるのよね!?
「まさか、オルガニックさんを害するってことですの!?止めてくださいな!!」
「私はしないよお。そういう事も有るかなあって話い」
「どういう事ですのよ!?また危険が!?」
まさか、外部からまた危険が!?また!?
どれだけ狙われるのよオルガニックさんは!!ヒロインより酷い目に遭われているじゃないの!!
いや、ヒロインが酷い目に遭っていい訳じゃ無いけど……ロージアを除いて。
……私も大概根に持つわね。もう居ないのに。
「オルガニック!あたくしが守るわオルガニック!!」
「いやだから、ブライトニア!!ボクの服の中に顔を突っ込もうとしないで!!今の君のサイズを考えて!?掌サイズじゃないんだよ!?」
「ねえオルガニック、舐めても良くて!?」
「話を聞いて!?いや血迷ってたわボク!!何のサイズでも服の中に入っちゃダメどわあ!!」
「ブライトニア!!」
「煩いよサッサと帰れ!!」
「何て事を言いますの義姉さま!」
ああもう!!引き留めておいて何ちゅうひとなの!!
……結局、オルガニックさんは本調子で無かったから未だお泊まりになられたみたい。
ブライトニアは一緒に泊まりたいみたいだったけれど、それは止めたわ……。
目茶苦茶大変だったけれど。
それでまあ王城から出たら……もう夕暮れね。
シアンディーヌは寝てしまったかしら。
……預けっぱなしだな。本当にドートリッシュには申し訳無いわ……。
「さあ、帰ろおアローディエンヌう」
「え、ちょ……」
義姉さまは久々のドレスなのに、優雅にサッサと私を抱き上げんばかりに馬車に乗せてしまう。
……どういう事なの。何で馬車泊が隠し通路……。
いやまあ、一応いえ、結構重鎮だからそういう……?
「……義姉さま」
「なあにい?私の可愛いアローディエンヌう」
「一体何が有りましたのよ」
「……んー」
馬車の窓から入ってくる淡いオレンジの光に照らされた、長くて赤い睫毛に覆われた氷のような薄い青の瞳が、私を捉える。
……その綺麗な目にじいっと……映しているのは、可愛げもないモブな顔に無表情の女……つまり私。
氷の海が溶けて……凪いだような薄い青の瞳も、赤く塗られた形のいい唇も……柔らかで締まった女性らしい体も、私を撫でる白い手も。
義姉さまは、綺麗だわ。そんなに愛おしそうに見つめないで欲しい。
くそう、ドギマギする。百合展開は嫌なんだってば!!いや、確かに性別はどっちでもあるけれど!!
「アレッキア」
「事が片付くまで、秘密う」
「…………はあ!?」
「ふふう、アローディエンヌの瞳は本当に綺麗だねえ。吸い込まれちゃいそう」
「はあ?……義姉さまの方が、いえ」
「えっ、何アローディエンヌう。私の何が好きい?ね、ねえ?ねーってばえ!!」
ああもう、うざったい!!
魅了されてない筈なのに見惚れてしまって!!悔しいんだけれど!!
「そう、憂いが壊れるまで……秘密」
……悪どいのに、それでも美しい義姉さまの笑顔が近付いてきて……。
「だから、窓が空いてますし、公共の場でやめてくださいな!!」
「痛あ!!」
公共の場でなけりゃ流される所だったじゃ無いの!!
悪役令嬢ふたりの利害一致で御座いますね。




