23.炎に誘われる蛾(悪役令嬢目線)
お読み頂き有難う御座います。タイトルに誰目線か付けてみました。
今回悪役令嬢義姉さま目線です。
残酷表現ありで御座います。お気をつけの程を。
「貴女は、永遠の命を得たいとは思いませんか?」
「くっだらな」
「おやおやあ、のっけから中々ですねえ」
ああ、私は一体何でこんな面倒な仕事をしているんだろう。
同じ床で蠢くものなら、シアンディーヌを見ている方がいい。あの子は本当にアローディエンヌの次に可愛い。
あ、勿論アローディエンヌが横に居る前提で。
思い出すだけで心がふわあってなるよねえ。本当に、アローディエンヌは世界一可愛い。横のティミー煩い。
「牢屋帰りの割には派手な出で立ちで、結構な事です」
この這いつくばってるヤツ……まあ、性別はどうでもいいか。大体、見た目と中身が一緒だとも限らない。どうでもいい。興味が微塵も無い。
細々とした産業しかなくて、何時のか分からない遺跡の跡地を観光にして生き延びているような……何処の国も相手にしなかった凡庸な国、スティフ。
異様に国の様子が変わったのは、コイツ……王の傍系の血筋から、政変を起こして王に成り上がった奴。
漏れ聞こえてくるくだらない噂からは、神の力を借りたとか、借りないとか。
心の底からどうでもいい。大体神なんて、見るからに面倒そうな存在に借りるヤツの気が知れない。無力ならば、無事で居られる訳がない。
……そう言えば、コイツも何時だったか、矢鱈私に張り付いてきてたな。……ああ、不愉快。
「くだらない!そうですよね。私としたことが、方法も示さぬ内に貴女に持ち掛けるお話では無かったようだ」
言いたいことだけ話す、気分の悪いヤツ。……聞く価値有るのコレ。
でも、アローディエンヌにお仕事してくださいって可愛く言われたしなあ……。ティミーも余計な事を吹き込むだろうし。ああ、ウザったい。
「アローディエンヌ・マイア!!流石私の女神。よくあの青い瞳の娘を捕獲しましたね」
「捕獲なんてしてない」
寧ろ逆。アローディエンヌの方が僕を見つけて助けてくれてプロポーズ迄してくれたんだ。
ああ、あの時は本当に私だけの王子さまみたいなお姫さまだなあって思ったなあ。未だに鮮やかに思い出せるよ。
まあ、コイツに知る必要は無い。
と言うか娘ってその言い方腹が立つな。私の伴侶に。ああ、イライラしてたら火花が散ってきた……。
「あの娘は、女神によって齎されたひとり!女神の力を持っているに違いない!」
「……はあ?」
「女神の力……ねえ。アローディエンヌがですか?それはまた荒唐無稽な」
……女神?女神によって?
私のアローディエンヌが、女神の仕業で齎されたって何だそれ。女神って、あのくっだらない理由で増える女神?それとも他国の掛ける女神?割る女神ってのも居たな……。横のティミーの表情は……相変わらずニヤニヤしてるな。後で絞めるか。
「知らないのですかアレッキア様!かの娘は、異世界から齎されたのですよ!そう、此処とは全く違う世界から!!」
「……人の伴侶を池から湧いてきた、みたいに言われてもね」
「異世界とはまた、尋常でないですねえ」
齎されたも何も、アローディエンヌは此処での出生証明もあるし、消したとは言え両親の存在も有る。
ああ、前世の記憶が有るってヤツ?
……それ、何かアローディエンヌが生きるに当たって健康上とか精神面で問題でも有る?
大体、そんなのは古い文献を捲れば幾つか居たし全く問題ない。
「伴侶?……まあ、アローディエンヌ・マイアの伴侶はユール公爵でしたね」
「おやおや、それはご存じなんですねえ……」
……アローディエンヌの元の家名迄は知らないか。まあ、入念に跡は消したもんな。
「他国の公爵夫人と知っているなら、敬意を払え。国際問題を考えれば?」
「そうですよねえ。お招きされた国に少しは敬意を払って貰いたいですよねえ。おイタをされたお立場なんですし」
「ハッハッハ……。私は神の国を治める王となる存在ですよ」
神の国だか何処の国だか心底どうでもいい。
神だろうが紙だろうが勝手に治める妄想に浸ってろ。
どうせ、直ぐに燃やしてやる。
「良いですか、我が女神。私は、神を創り出す存在なのですよ」
「へー」
まあ、そう言う事を延々ブチブチと牢屋の中でほざいてたらしいしね。取り巻きも含めて。ああ、愛人だっけ?どうでもいいか。
……アイツら、牢屋の中を無料の休憩所か何かと勘違いしてたのかな。牢番に扮してるのが騎士で、きちんと記録も取られてるって考えないんだろうな……。まあ、普通の牢番でも不審な会話の記録は付けるけど。
もしかして、拷問に掛けられないからタカを括って慢心してる?……仮にも国王の癖に、対策とかしてないって……馬鹿なの?
いや、それも込みで対策してる?王族だから、裁かれないと?
……有り得ない。
コイツの行く末は、諸国の王族の間で決定している。
そう、被害者達が決めた。……国際裁判所は遠いからな。時間も掛かる。
「もう、良くないですかアレッキア」
「……」
「神を創るには知識が必要でした。私の知識は、私の境遇により……」
癪だけど……。少し、魅了を強くしてみるか。
……あー、嫌だなあ。どの屑も向けてくる、気持ち悪い目。ティミーが離れたのを目の端に捉えてから、抑えている力を少しだけ……抜いた。
「アローディエンヌの事を喋れ」
「はい。アローディエンヌ・マイアは……前の生で女神に押し潰されて殺された」
「え、……何ですって?」
殺、された……!?
……は?
何それ。
押し潰されて、殺された!?
僕の、アローディエンヌが!?
「殺された?……女神に?ですか」
「オルガニック・キュリナも」
「え、師匠!?師匠もですか!?」
「それはどうでもいい。アローディエンヌは、いや、アローディエンヌの前世は……女神に殺されたって事!?」
燃やそう。
あの王都の女神像、ひとつ残らず燃やそう。今まで心底どうでも良かったけど、アローディエンヌに害を為したなら前だろうが後ろだろうが構うものか。
適当に点火役を用意して、王都の封印外から焼けば良い。どうせあの結界からは女神像は出られない。
ああ、生ぬるかった。あの薄赤いチンピラ屑の時に、サッサとこの王都ごと焼いてしまえば……。
「違う。女神に疎まれた者がやった」
「は?女神に疎まれた者……?サッサと言えまどろっこしい」
「命を懸けての願いを女神は叶えた……」
「そ、それは、その方は……」
……命を懸けての願い。
それは、もしかして。
アローディエンヌに近しく、命を懸けて、女神に願ったのは……。
「神官アローリット……に憎まれた女、『王女ローリラ』」
「あの屑王女……」
「王女、ローリラ……で、すか」
つまり、アローディエンヌ……前世のアローディエンヌはあの屑王女のとばっちりで、殺されたってこと!?
「アレッキア!?え、な、泣くんですか?……ええ!?アレッキアって、泣くんですか……」
目の前が真っ赤に染まって……目が抉られるように痛んで、視界が滲む。頬っぺたの冷たさに気がつけば、私はボロボロと泣いていた。ティミーが何やかんや煩い……。
「ティミー、寄るな」
「で、ですけどねえ……。ええー?どうしましょう」
でも、泣きもする。アローディエンヌ。ああ、アローディエンヌ。君として生まれるまでに、どんなに苦しかっただろう。
何て酷い目に遭っていたんだろう。
その前世で、私が守ってあげられていたら。
許せない。
許せない。
許せる訳が、ない。
あの屑王女は、魂を四分の一に別たれた。
中身は各々、あの薄赤いチンピラ屑に、あの屑皇女……そして、ガーゴイル……になった。
どれもある程度処理はしたけど、ある程度じゃあダメだ。アローディエンヌが悲しむから、甘くしちゃった。
ガーゴイルも今は大人しくしてるけど、何時何が起こるか分かったもんじゃない。あんな目玉ひとつでは……。
それに……もうひとつの欠片の屑は、何処に。それも探して始末しなきゃ……。
「恋を愛する女神に……間近で力を受けたのだから、アローディエンヌ・マイアには……強い女神の力が宿った筈。
石にしたあの小娘は、前座。
アローディエンヌ・マイアを……いや、オルガニック・キュリナも共に組み合わせて閉じ込めれば……きっと質の良い、新たな神が……巻き戻しの塔へ」
「フォーナを前座とは……とことん」
まだ……耳障りな、声がする。
聞きたくもない、戯れ言。
ぼとり、と固形物が落ちる音と共に焦げ付いた臭いと炭の塊が床に敷かれた絨毯にへばり付いた。
「誰が誰と組み合わせて、だって?」
「……アローディエンヌ・マイアと、オルガニック・キュリナ……。他にも見つかるなら、それらを組み合わせ……私のみに加護を与えるよう創った神に」
「アレッキア……アレッキア、もう、終わりかけのようですよ」
ああ、しまった。口調がおかしくなってきてる。イライラしすぎて魅了を効かせすぎた。
もう痛みを感じる神経が焼き切ってしまったかな。我ながら魅了って、本当に碌でも無い。
仕方ない、拷問としては終わりだな。
「神の創り方を学んだのは、『巻き戻しの塔』か」
「ええ。巻き戻しの塔の民が、住まう人間から神を創って、獣人を創った。間違えたら巻いて戻す……巻いて、戻す……。私は、幽閉先で……巻き戻しの塔に……どうして、私が、あんな寂しい塔に……どうして」
「は!?それ、何処で聞いた!?」
「……碌な事しないな」
要らない本音を聞いてしまった。
どいつもこいつも勝手だ。
つまり、スティフがコイツを幽閉しなきゃ、要らない知恵を付けてこなかった訳か。
その幽閉先が……『巻き戻しの塔』。ティミーの祖父『魔法使いディレク』が居たであろう場所。
「遺跡に隠れる蛾では嫌だ。私の……美しき紅の蝶々……貴女を、貴女のように……」
項垂れた屑が、力尽きてきた。……目がウザったい。目でも焼けば良かったかな。
「蝶々、蝶々と……本当に煩い」
「……蛾、ねえ……。蛾も蝶々も、そんなに変わるものですかねえ。……まあ、嫌われるのは辛いですけど」
本当に、昔から変なのに好かれる。
好きでこんな生まれになりたかった訳じゃないのに。
この魅了だって、本当に嫌いだ。……使えるものなら武器としてなら使うけど。
アローディエンヌに出会わなければ、きっとこんな風に吹っ切れる事も無かった筈だ。国くらい滅ぼしてただろうな。
ついイライラして焼いた、スティフ国王のもうひとつの腕が、ぼとり、と焼け落ちて絨毯に染みを作った。
虜囚の癖に……金に明かせた派手な服が床に、羽の様に広がっている。力尽きた体に似合わぬチグハグさ。
まるで、手足を炎に焦がされた、派手な羽の蛾のような死骸だ。
くだらない。
私に憧れるとかも意味が分からない。何も楽な事はないのに。
それに、ティミーの言う通り蝶々も蛾も似たような虫でしかない。それなりに生きるしかない。
……何でそんなことを思っちゃったんだ。ああ、気持ち悪い。
アローディエンヌを害そうとした、気持ち悪いヤツ。なのに、他の気持ち悪さまで植え付けてくれた。
……蒸し殺しにでもしてやれば良かったかな。
ああ、でも売れそうな『宝石』にするには生きてなきゃ駄目なんだっけ?
……もういいや。何か言ってきたら適当に……。
それに、女神。女神も……どうしたもんか。
屑王女の不幸を願ったアローリット殿が関わっているなら、短気を起こして女神像を焼く訳にもいかない。
「……アレッキア?……何だか、凄い話を聞かされましたねえ。本当か嘘か、まさか『巻き戻しの塔』の話迄」
「それはティミー、後で吐けよ」
もうこうなっては、見逃す訳にもいかない。見逃さない。
「……参りましたねえ。とんだヤブヘビでした。好奇心は猫ちゃんを殺すって本当ですねえ。
師匠の言うことを聞いておくべきでした」
「ふざけた教え」
「ええ、良い気性なんですよ。師匠は」
……気が付けばティミーを置いてきたな。まあいいか。
勝手に付いてきたし……アイツが報告すればいいか。
久々にドレスを着て高い踵の靴を履いたから疲れたのかな。……アローディエンヌとお出掛けする時にするお洒落なら全く疲れないのに。
……アローディエンヌ。
……何時の間にか、自分の執務室の前に居た。結構遠かったけど……。この中に、アローディエンヌが居る。
それだけで、ホッとする。
「まあ、義姉さま?」
「はわ!?おねえたま!!」
「ムギイ!!グゲエ!!」
アローディエンヌが僅かに目を見開いて、私の背中に手を回してくれた。
ちょっと吃驚してる。急に扉を開けたからかな。
蝋燭野郎が居るのはウザったいけど、膝の上をフロプシーが占めてる。
……フロプシーが暴れるのも面倒。ソーレミタイナだけじゃなく、コレッデモン迄絡んでるし。……餌として置いておくしか無いか。
顔を伏せたらアローディエンヌの旋毛で、染めた色が抜けて戻り始めた灰色がかった黄色の髪の毛が唇に当たる。
……静かで穏やかな、彼女の香りがする。私の贈った小雨の香りに混じって……。
「どうしましたの。そのお姿、お珍しいですわね」
「ん……」
付け毛ごと抱き締められて背中を擦られる。
優しくて、小さな手。
昔、何でも知っていたアローディエンヌ。今は、何も知らされないアローディエンヌ。それでも受け入れてくれたアローディエンヌ。
そうだ。アローディエンヌに聞いてみよう。
「アローディエンヌ」
「はい?何ですの?」
「女神をどう思う?」
「は?女神?」
怪訝な声がする。動かない顔もとことん可愛いけど、声は何時も素直だよね。
「また何か壊されましたの!?物に当たってはいけませんってば!!」
「……未だ壊してないもん」
「壊す予定なんですの!?いけませんってば!!義姉さまにはどうでもよくても、大事になさってる方は居られますのよ!?」
「め、女神……?あの、おねえたま、僭越ながらあのう、あんま、神様系には手を出されない方が……そのお、此処の神様って、あんま良くない系ですし」
「……」
……蝋燭野郎も、アローディエンヌと同じ所に居た前世を持ってるって、あの屑は言った。
……本当かどうかは分からない。……でも、イライラする。
「ひょひょひょえ!?」
「義姉さま?アレッキア?」
「アローディエンヌ」
「何だかよく分かりませんけれど、神様だろうが何だろうがあちこちに喧嘩を売らないでくださいな。もしお怪我でもしたらどうしますのよ」
「グモ……ゲエー」
……アローディエンヌの優しい声が台無し。相変わらず汚い鳴き声だなフロプシー。
「……私が怪我をしたら、心配?」
「寧ろ心配しないと思われてますの?え、怪我してますの!?どちらを!?ちょっと、義姉さま!?具合がお悪いならどうしておっしゃらないの!?アレッキア!!あっ、涙の跡が!!」
バッ、と離れて……ペタペタと私の頬や、腕を触ったり、持ち上げたり……。
わあ、今きゅん、って心が跳ねた。
可愛い……。ちょこまか私の回りを回って、しゃがんだり見上げたり……私を、私を心配してる……。
「ちょっと、アレッキア!!お顔が赤いんですけれど!!」
「はわわ……アロンたん。おねえたま、具合がお悪いんじゃ無いんじゃあ……」
「グミア」
……蝋燭野郎とフロプシー煩い。
でも、アローディエンヌの手が心地良くて……ずうっと撫でられてたい。モヤモヤが溶けていく。
「そうなんですの!?神がどうとか……何時もは全く気にもされない事を仰るから……まさか、あの変な方に感化……!?いや、本当に!?」
「……感化はされてないよ」
「そうなんですの?じゃあ、変な事を言われて傷付きましたの?義姉さま」
「……私は、アローディエンヌが悲しくされなきゃ……」
「はあ?別に何も有りませんでしたけど?目茶苦茶平和でしたわ。
まさか、……会った事も無い方に貶されましたの!?女神関係とやらで義姉さまを不安にしましたの?」
……アローディエンヌが怒ってる。あ、ポフッて、抱きつかれた。珍しい、嬉しい……可愛い。暖かい。柔らかい。
「ねえアレッキア、何だか知りませんが、私が居ますわ」
「アローディエンヌ……」
「女神、女神の話でしたわね?」
私の頬をそっと袖で拭ってくれるのは、本当に昔と同じ……。ああ、アローディエンヌ、好き。
「えーと、恋を愛する女神像神殿で祖父が信仰していたとしても私自身に信心はありませんし、どうでもいいんですのよ。今普通に無事ですし。
一時のお怒りで変なものをつつきに行かないでくださいませ」
「へ、変なもの……!?あ、アロンたん、豪胆……」
「ゲブモモモガグギ」
「……そっかあ」
「過去とか、本気でどうでも宜しいんですのよアレッキア。あなたと居られて幸せですわ。まあ、限度は有りますけれど」
「アローディエンヌううう!!」
「ぎゃあっ!!ちょっと、言ってる傍から!!」
ああ、アローディエンヌ!
君が君で本当に良かった。前世に辛い目に遭った……かもしれないのに、本当に君は、得難くて可愛い。
アローディエンヌに壊すな燃やすな穏やかに、と言われたので、未だ控えめな破壊活動のつもりの義姉さまです。




