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サポートキャラに悪役令嬢の魅了は効かない(その後の小話集)  作者: 宇和マチカ
狙われた希少スキル

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21.自分の価値をどれだけご存知?(第三者目線)

お読み頂き有難う御座います。誤字報告助かっております。御評価、ブクマ真に有難う御座います。

サジュは思わぬ人物と出会ってしまったようですね。

 サジュは廊下を走っていた。

 普通なら厳しく叱咤されるところだが、今は非常時。他の騎士も慌ただしく動いている。


 石となったフォーナを元に戻す為に全力で走る、そんな中。

 サジュの耳に、可愛らしい声が実家の名前を呼んだのが聞こえた。


「あら、アレ、モブニカ伯爵家の者なの?」

「そうですね。あっ、ち、違います! ジェオ様!

 今は我がコレッデモンのモブニカ家の騎士ではなくて、ドゥッカーノの騎士です」

「……?っは!? っぐ、え!?」


 目の前には、長い金の髪に灰色の目を持つ豪奢な衣装の可愛らしい少女と、青い髪に色違いの紫の目を持つ男が立っていた。

 直接会った事は勿論無い。だが、サジュは思い出した。

 コレッデモン王国には、三人の王女が居るが、その内のふたりは滅多に表に出てこない。

 ふたりは双子で、一風変わった処刑人を婚約者として居る。

 彼らは仕事でのみしか姫君の傍を離れない。そんな処刑人達を姫君達はこよなく愛しており、彼女達から離れる事も決してないという。

 双子の姉のジェオルジアにはエルジュ・ヤンシーラ。

 双子の妹のウェルギリアにはジョゼ・ギウェン。


 処刑人が王女の婚約者、というだけでも異色だが、サジュは詳しいことを知らない。突っ込む気も起きない。

 処刑人の片割れジョゼ・ギウェンは見るからにド派手だと聞いている。だが今、目の前にいる男は地味だった。

 と言うことは、もうひとりの方だろうか。何故か手に大きめの黒い布袋を持っている。国から運んできた荷物だろうか。


「……エルジュ卿……!?」

「こ、今日は」


 気弱そうな返事が返ってきたので、サジュの記憶は間違いなかったようだ。

 だが、もうひとり。其方の方が重要だった。


「ってことは、ジェオルジア姫様!!」


 殆どコレッデモンでも見ない組み合わせが、何故此処に居るのか。

 コレッデモンからは、長女のユディト王女が来ていた筈なのに。いや、彼女が居る方がサジュにとっては怖いのだが。


「んん?エルジュで私を見分けるの?失礼なの」

「し、失礼致しました!!

 オレ……サジュ・ミエル・バルトロイズで御座います。仰せの通り、モブニカ家からバルトロイズ子爵家へ養子となり、此方で騎士を拝命致しました」


 余りの驚きに平伏しそうになり、前転を辛うじて持ち直し、跪いた。

 焦りすぎて、勢い余って膝を着いた痛みも気にならない。


「ま、まあまあ……。ええと、初対面ですもんね。ご丁寧に。

 すみません。此方はコレッデモン王国第二王女殿下であらせられます、ジェオルジア姫様です。

 あ、僕はヤンシーラ家のエルジュです」

「……ヤンシーラ家……。うわっ、ヤンシーラ公爵家!?」

「分家筋ですのでお気になさらず。あはは……。

 と、所で、何か有ったんですか?」


 左右僅かに色の違う目を困ったようにウロウロと彷徨わせながら、エルジュはサジュに尋ねた。

 公爵家の縁戚なのに、腰が低いようだ。


「あ、えーっと。風呂を探してまして」

「お風呂?詳しく話すの」

「い、いや、えーっと」

「早く話すの」


 実家の有る国とは言え、他国の王女にペラペラ喋って良いのだろうか。

 以前の事もあり、サジュは言葉に詰まった。


 が、隠し事が下手な上に、相手が悪い。

 洗いざらい打ち明けさせられる羽目になった。


「じゃあ此処の客室を使えば良いの」

「ジェオ様!?」

「石化したなんて気の毒なの。それに、用が済めば私達もとっとと帰るの」

「そ、それもそうですが……え、ええと……」

「お姉様ならきっと使わせるの。サジュ・モブニカ……バルトロイズ?」

「は、はい。ジェオルジア姫様」

「このジェオルジア・コレッデモンがこの部屋の使用を許可するの。早速仕度に入るの」

「ぎょ、御意に。ご厚意痛み入ります」


 ……ポンポンと話を強引に進める所は、姉姫とそっくりだけど、婚約者がアワアワしてんのが……コレッデモンらしい。

 顔に出ているのを自覚したサジュはそっと視線をエルジュから外す。

 この件を報告する為に、早急に自分の上司を探さなくては。


「ご、御前失礼します」

「許すの」


 丁寧……ではあるが、大仰に頭を下げ、サジュは走っていった。


「ジェオ様……宜しいので?」

「どの道今日帰るんだから良いの。それよりも、此方の陛下も中々なの」

「はい……。まさか、お詫びとは言え招待客全員に……」

「招待された国の数と、破落戸の数がピッタリなのが奇跡的なの」

「いや、流石に下々の端数は此方で処理されると思いますが……。それに、ご提案なさったのは姉姫様でいらっしゃいますよ」

「お姉様は合理的なの」


 チラリ、とジェオルジアはエルジュの持った袋を見る。

 黒い袋を動かすと、中で固そうなものが転がる音がする。


「いいお小遣い稼ぎになるの」

「後、幾つでしたっけ……。

 まさか、招待客全員が手数料をお支払いになられても、此方をお望みになられるんですねえ」

「まあ、旅行のお土産は軽い方が良いの」

「ジョゼ卿が選ばれるんだとばかり」

「アレを持ち帰るのは物理的に無理なの。重いし、腐るの」

「そ、そうですけど!! 腐るのは困りますねえ」


 婚約者を引き連れたジェオルジアは、とある階段の前で止まった。

 下から、中から割れんばかりの喚き声が聞こえる。


「我々が女神を有効活用出来るのよ!! 早く、女神を寄越せ!」


 意味の分からない事をがなり立てる狂信者は、女のようだ。

 この先は牢屋区画だが、貴人用ではないらしい。


「貴人用の牢屋では無いんですね……。うう、こんな汚い所へ僕の宝石ジェオルジア様を……」

「グダグダ言わないで早く行くの」

「ま、待ってくださいよお!!」


 兵士がふたりの姿を認め、鉄製扉を開ける。


「アレの割り当て先は何処なの?」

「アレカイナのホンマケ領主、ナラン殿ですね」

「そう。アレカイナ人には会った事無いの。お金に細かいって聞いたの」

「向こうのお国は商人さんが多いですからねえ」


 カツン、カツンとふたりの靴音が響く。

 がらんと空いた牢屋、その奥にはひとりだけの囚人……美しいが、目付きの悪い女が居た。

 少し前まで豪奢な衣装を着ていたようだが、今は粗末な囚人用の服を着せられている。


「……何?アンタ、誰よ。早く女神を持ってきなさい」

「女神って持ち歩けるものなの?」

「ジェオ様……お下がりください」


 アワアワしながら、エルジュがジェオルジアの肩を掴むも構わず、牢屋に近付いた。


「貴女は女神を自由自在に出来るの?」

「女神に限らず、神は我が国のみに必要なのよ!」

「そうなの?貴女の国にその価値が有るの?」

「この国にも他の国にも価値なんか無いわ! 我がスティフこそ……!!」


 狂信者の目は濁っていた。しかし、ジェオルジアは彼女の胸元を見つめたまま、ぽつりと呟く。


「貴女達、沢山に迷惑を掛けたの」

「知ったことですか!! 我が国の、あの方の御為なら何を犠牲にしようと構わない!!」


 ガシャン、と女は牢屋の鉄格子を蹴る。慌てて控えていたエルジュは、己が婚約者の少女を引き離そうとしたが、やんわりと手を外させる。


「そう?なら、貴女の大好きな国の為に犠牲になってもいいの」

「当たり前よ!!」

「じゃあ、自分の心臓の重さ、ご存知なの?」

「は?」


 思わぬ単語に、女は呆気に取られて、ジェオルジアを見た。

 まだ幼い少女の灰色の瞳は、感情を乗せること無く……此方をじっと見ている。

 女の胸元を、じいっと。


「命を巡らせる心臓は、大体握り拳と同じ大きさで、ケーキに入れるお砂糖の分量くらいなの。

 でも、人によって少し違うから本当の所は分からないの。取り出して、秤に掛けないと、分からないの」

「……何の話よ」


 何故か、女のじわりと胸元が光りだした。

 まるで服の中に蝋燭を入れてたかのように、じんわりと。

 脂汗が流れてくる。女は思わず胸元を押さえるも、やんわりと光るのみで……静かだった。


「……っ! っふ!?」

「ねえ、貴女の心臓の音は今、聞こえるの?」


 女は胸元を掻き毟り、息を飲み……込むことが出来ず、パクパクと口を開閉させる。

 ジェオルジアが無邪気に首を傾げると、ごとり、と体が力を失い床に倒れ込んだ。


「……お、終わりました」

「私がやったみたいに見えたかもなの」

「僕の全てはジェオ様の物なので、ジェオ様のお手柄です……」

「そういうのは良いの」

「ジェ、ジェオ様あ!」


 オロオロと後ろに控えていたエルジュ……心臓を止めた処刑人は預かっていた鍵を開け、女の傍に跪いた。

 そして、牢屋から出てきたエルジュのその手には、握り拳大の……キラキラと光る赤い石が握られていた。


「ルビーなの?」

「ガーネットですかね……。どの宝石になるかは先方には運だとお伝えしてあるので」

「そうなの?意外と運任せなの」


 エルジュは拳大のガーネットを、持っていた袋に放り込む。

 ゴトゴトリ、と中で同じような物とぶつかる音がした。


「後は大使と、国王のみなの?」

「ええと、其方は後程出張費をくださるそうです……。うう、ジェオ様と離れるのは今から考えても辛いです」

「手を繋いであげるからメソメソしないの」


 手を繋いで牢屋から出ると、牢屋番の兵士が黙って鍵を掛ける。

 手を繋いで歩くふたりの進む先の廊下では、大声が響いていた。

 どうやら石化したフォーナに何か有ったようだ。


「お湯に浸けると石化は治るの?」

「わ、分からないですね……。僕、土属性では有りませんし」

「見物したいけど次があるの。残念なの」

「あ、後で結果を教えて貰いましょうね」


 ジェオルジアは、姉からの頼みを完遂しなければならない。


「それにしても沢山公妾連れてるの。大使の癖に生意気なの。お陰でやることが多いの」

「結構重くなってきました……」

「ついでに配って歩くの。非常時なんだから先触れとか要らないの」





他国の王侯貴族を引き留めていたので色々物入りでした。それなので、コレッデモン協力のもと、現物でスティフ国にお支払い頂いたようですね。

『守備範囲内に跡取りが多い』https://ncode.syosetu.com/n7025fc/

にジェオとエルジュは出て参ります。宜しければどうぞ。

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登場人物紹介
矢鱈多くなって来たので、確認にどうぞ。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 処刑人、かなりエゲツない能力ですね。 心臓を奪って貴石にするのですね。 男の人の方が立場が強いと思ってましたが、流石は王女様、見事に尻にひかれております。 常識は…
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