14.敵は内側に
お読み頂き有り難う御座います。
誤字報告誠に有り難う御座います!
やっと陛下に謁見できたようですね。
「珍しい組み合わせだな。ヒネてなくて安心感が有って実に話が和やかになりそうだ」
「久々だな、アローディエンヌ。フィオール・ブライトニア皇女に、サジュ・バルトロイズも。面を上げて良いぞ」
此処は陛下の……個人的な応接室と言うのかしら。重厚な黒褐色家具と、秋の葉っぱのような色の絨毯が落ち着いている素敵なお部屋ね……。今更入れて頂いて何だけど、本当に良いのかしら。こんなプライベートな空間に私なんぞが……畏れ多いわ。あああ、マナーを思い出して慎ましく……!
「陛下に置かれましてはご機嫌麗しゅう。急な拝謁願いにも関わらず、快諾して頂きまして歓喜に堪えませんわ」
「ブガア」
「……拝謁至極、です」
「サジュ坊は少しばかり挨拶が上手くなったな。マデル嬢の教育の賜物か?」
「……チェネレ団長、マジ勘弁してください……」
サジュ様とチェネレ様の遣り取りは和んで良いのだけれど。
……良いのかなあ。有事とは言え……こんなに軽くご拝謁が叶ってしまうの……。
……うーむ、こういう権限って、目茶苦茶偉い人か……官位無しならRPGでも後半の方の特権よね。
しかも何故か私からご挨拶って。こういう場合、ブライトニアからなのでは。いや今は濁音でしか鳴けないから仕方ないのだけれど。
うう、カーテシーが自信無いわ。
因みに義兄さまはこの場には居ないのよね。
いや、一応拝謁の手立てを取ってくださって、当然の如く着いてこようとしてたのよ。
でも……。
「アレキ、顔を貸せ」
「嫌だね。お前なんかと一緒にいたら王子臭くなる」
「義兄さま!!」
こ の ひ と は!!
小学生か!!この世界には居ないけど、なんちゅう文句を言うのよ!!
ああああ!!子供なら無理矢理頭を下げさせるのに、跳び跳ねても無駄なレベルでデカイし!!
「何て文句仰るんですの義兄さま!!本当に失礼致しましたルディ様!いえ、ショーン殿下!」
「ムビイ」
「何つーか、相変わらず仲悪ィよな」
誰が聞かれてるか分からんから正式名称の方が良いわよね。
それにしても……お嫌そうな顔でもキラキラしてらっしゃるわね。本日のルディ様は、白と金で纏められた王子様ルック。ご本人はお嫌なんでしょうけれど……目茶苦茶似合うなあ。高貴オーラが倍々って感じよね。
「僕だってお前なんかと心の底から一秒たりとも居たくない。ああ、呼び名はルディで良いぞアローディエンヌ」
「ではあの、僭越ながらお伺いしますわ。何か起こりましたか?ルディ様」
「レルミッドを抑えるのに手を貸せ。王命だぞ」
……えっ、レルミッド様に一体何が!?
「馬鹿じゃないの。何で王城で最強の鳥番を俺が抑えられるんだよ。普段無駄にベタッと張り付いて従弟面してるお前が、命を賭けて止めりゃいいだろ。役立たず王子」
「ふむ、ではその無駄に悪どい頭と凶悪な性根で察して考えろ、公爵。緊急事態だ」
ええと、レルミッド様が……もしかして、進まないフォーナ捜索に痺れを切らしたってことかしら。
確かに、お止めする人材なら……ルディ様と義兄さまが必要よね……。……でも義兄さまで大丈夫なのかしら。目茶苦茶煽る未来しか見えない……。
「先輩に何か有ったんならオレも行きましょーか、ルディ様。物理なら止められると思いますけど」
「小細工の方が必要だ。僕だってアレキなんぞより、サジュかアローディエンヌの方が良いんだぞ」
「は?誰がショーンなんかにアローディエンヌを連れていかせるか」
「うわ、熱!」
また火花が!!
いや、だから!何で廊下で一触即発なのよ!おかしいでしょ!!
「ゲゲググブ!!」
あっ!もう!何か暑いと思ったら、ブライトニアの染料で未だ黒い毛皮に火花が!!何してくれてんのよ!!
「義兄さま!私達は陛下の元へ向かいますからお仕事をなさってくださいな!!火花が掛かってますから!」
「嫌だよアローディエンヌう!!僕達が離れるような流れじゃないでしょお!?」
「いやそういう流れでしたし、言い方!大袈裟でしょうが!!」
「何言ってるのお!王城なんて危険で魑魅魍魎で屑の温床なんだよお!!」
「止めてくださいこんな所で!!筆頭公爵なんでしょうが!!」
「……義妹殿と離されるアレッキオ卿の抵抗はマジスゲーな。つか、何回目だ?」
「モビイグア!」
いやそもそも、私が用もないのに義兄さまの執務室に缶詰にされてるから悪いのよね!?義兄さまのワガママのせいで!!
ああもう、ムカムカしてきたわ!!
「いいですから、ルディ様のご命令をお聞きください義兄さま!!お仕事を!してくださいな!!」
「あ、義妹殿がキレた」
「ほう、初めて見た気がするぞ」
「うわあああんアローディエンヌうううう!!怒らないでええええ」
「ギアムボガ……」
何でそんな怯えた顔で見るのよ!義兄さまにブライトニアも!!
……ああ、思い出したら何か……恥ずかしい上に途轍もなく罪悪感が襲ってきたわ。っていえいえ、切り替えなきゃ。
「陛下、この度は」
「気楽にしてくれ。どうせデインしか居ない」
「そうそう、親戚のオッサンと知り合いのオッサンだと思ってくれて良いですよ義妹姫」
「まあ、お優しいお言葉、痛み入りますわ」
まあ、何でお優しいのかしら。
全くそんな風には勿論思えないけれど、お気持ちは有り難く頂いておきましょう。
「それで?公爵から聞きましたけど……ニック殿に棒が刺さってたんですってね」
「あ、コレッス。チェネレ団長」
……会話で聞くと更にとんでもない状況よね。目茶苦茶重症っぽい……。オルガニックさんには……他のお怪我が無くて本当に良かったわ。メンタルは心配だけれど。
「ディマ、見てみろ。木属性として役立て。まあ何ともないと思うが迂闊に触るなよ。お前に何か有ると、この国で一番の面倒だからな」
「分かっているがデイン、お前の言い方がな……」
陛下がしげしげと、チェネレ様の差し出される……と言うか、突き付けられた棒を見ておられるわ。
いや、何と言うか……不敬ながらもシュールな光景ね。
「これは……主にガキの頃に遊びで使った棒に似ているな」
「えっ、拷問用の魔術器具じゃ無いんですか!?」
「いや、こんな拷問器具は普通に使えないからな……。主に木属性の子供が見つからんように友達に差して、いつも気付くかで遊ぶ」
「ほー、暗い遊びだな」
「お前ともやってただろうが!!」
仲が良いわね……。て言うかおふたりは、そんなお小さい頃からの交流がお有りなのね。しかしそんな遊びが有るの全く知らないなあ……。
同じくらいの歳の子供と遊んだ覚えが義兄さまとしか無いから全く知らないわ。
「それで、えっと、陛下。それで何か……例えば、差した方ですとか、分かるんですの?」
「そうだな……。……」
陛下から、緑色の光が仄かに……。……あら?何で部屋の外へ光が漏れて行くのかしら。……廊下を這うように延びていく……。これが、陛下のお力なのね……?
……もっと派手なのかと思ったけれど、結構控えめな……いえ、義兄さまを基準にしちゃ駄目ね……。私なんか光すら出せないのに。
……凄く……細長く向こうまで続いてるわね。
「何だあの光。……蛇の這った跡みたいで気持ち悪い」
「やれと言っておいて何なんだ!!デイン!!」
「えーと、つまりどう言うことなんすか?」
「ブガガ」
「……つまり、この城内にフォーナ嬢を拉致した黒幕が居ると言う事、だな」
「えっ!?」
「自国と他国の人間でしょうかね」
それってつまり……フォーナを拐った敵が、この王城に潜んで居るってことなの!?
そんな……安全だと思って……いえ、他国の方々が未だおられるから、そうでもなかったのね。
「そ、それは。とても危険なのでは……」
「そ、そうだな……ディアナ!!」
「落ち着けディマ」
ガッコン!!ズルッ!
え!?…………あっ。陛下が飛び出され……ようとされて、チェネレ様に足止めを……喰らわれた、のね。
い、痛そう。こ、コメントし辛い!いやそうじゃなくて!!ええと、ディアナって、王妃様の御名前だっけ!?
「陛下!!大丈夫でしょうか!?」
「ブブガ」
「へ、平気だが……デイン!!」
お顔を抑えられて……血は出てらっしゃらないみたいだけれど。……目茶苦茶憤慨されておいでよね。チェネレ様を睨んでおられるけど、ご本人はシレッとなさってるわね……。
「国王が後先考えずホイホイ走り出すな。
山程見張りの第二も居るし近衛も居るしティム様も一緒なんだから、碌な襲撃結果になるまい。大体光の蛇は王妃の居室の逆方向だ」
「襲撃されるのは確定なのか!?襲撃者の心配か!?後、蛇じゃない!!」
「それよりもレルミッドだろう。あれは徴呪章院の方向では?」
チェネレ様が窓の外を指された先には……古びた建物が、少しだけ見える。
あれが、徴呪章院……。……建物のちょっと端しか見えなさ過ぎてよく分からないわね。行ってみれば良かったわ。いや、用も無いのに王城を彷徨くのは駄目だけれど。
「あっ!彼処にルディ様とアレッキオが……!?」
「あー……。急いで駆けつけたら却って危ないヤツか?」
「ガギミイ」
い、いやそうなのだけれど!!確かにあのおふたかた戦闘力は目茶苦茶強いんだけれど……駆け付けたら無駄なパターンになるでしょうけれど……!!そもそも、戦闘能力が無い!!
ああ、でも心配……!!目茶苦茶な喧嘩に至ってないかとかも心配だけれど、もしもの事が有ったりしたら……!!
「地鳴りも無く暴風も無く火柱も上がっていない所を見ると……平和そうだ。逆に心配だな」
それもどうなのとは思うけれど、とてもチェネレ様のお言葉に頷いてしまった……。
「あ、オレ、見てきましょーか?」
「サジュ坊が行くと見物人になって、悪ければその場を更に壊すだろう。後、普通に指揮系統が乱れるから駄目だな」
「うっ、スンマセン……」
「……其処まで言わんでも良いのではないか、デイン」
「お前はお子様共に甘いからなあ。兎に角、俺とお前しか騎士がこの部屋におらんのだから、国王と皇女と公爵夫人を守れ」
「あ、ハイ。……そういや、義妹殿を任されてたんだったな。悪ィ」
「い、いえ。私よりも陛下を」
「ブガガガ!」
何故なの。ブライトニアが腕の中でドヤ顔してるわ……。
「ウサギ姫に守って貰ってください、義妹姫。その内公爵がお迎えに来られますよ」
「ガガギギグゲ!!」
「もしかしてアレッキオに何か……無いとは思いますけれど……ですが……」
「アレッキオが心配なのか、アローディエンヌ」
「陛下……」
陛下の眼差しがお優しいわ……。王妃様がご心配でしょうに。
「アレッキオは幸せ者だな……」
「あれ程傍若無人なのに、それでも無条件に愛せる義妹姫は豪気ですよねと何時も話しているんですよ」
「デイン!!」
……いやまあ、無条件、でもないし時々腹立つけどなあ。信じているから、なんて……いやまあ、仲違いしてる方々とのドンパチしないとは絶対思えないけれど……。あんな陛下の眼差しの前じゃ言えないわね。
「他の方々の救出には……シャロット姫ですとか、ユディト王女様ですとか、レギ……フェレギウス皇太子殿下ですとか……」
「いや、そっちは頼まなくとも追い払うだろーな。……無駄に強えーし。特に姫様いや、ユディト王女殿下は」
「グモギギ」
サジュ様が首を振られて、たしたし前足でブライトニアが私を大丈夫だとばかりに叩いてきたわ。……ヤキモキするわねえ。特にレギ様。
うう、どうか皆様、ご無事で居てください……。
次は義兄さまサイドの話ですね。
 




