7.元凶は潜んだまま(レルミッド目線)
お読み頂き有り難う御座います。誤字報告、ブクマ、拍手誠に有り難う御座います。
レルミッド主体なのでフォーナと恋愛しておりますね。
「………そうですか、ファーレン姉様……ふええ……」
「……泣くなや」
案の定泣かれた。泣かれた!!
ルディ、覚えてやがれアイツ!!でも言わねえ訳にはいかねえし……他の奴に任せてソイツの前で泣かれるのはもっと腹立つしよお!!くそっ、どうすりゃいいんだよ。
「すみません……。すみませんレルミッドさん。ファーレン姉様がご迷惑をお掛けしまして。私、暢気に……家族が何とかする問題なのに、他国にご迷惑を……」
やっぱフォーナは泣いた。ボタボタ泣いた。
濃い赤紫の目からぼたぼた、ボタボタ。頬っぺたに流れる涙に、俺は目を背けそうになって、ぶっきらぼうに聞くしか出来なかった。
俺に出来ることなんて殆どねーが、何か……俺が口突っ込めることなら何とかしてやりてえ。
「………フォーナは姉ちゃんにどうしてえ」
「……ぐすっ、どう、もしません」
「アァ?」
どうもしねー?どういう意味だ。てっきり、助けてやりたいって泣いたかと思ったのに。
「私はソーレミタイナの人間ですが、此処で御厄介になっている身です。ですので、陛下と、お父さん……皇帝の決断に従います。支持します。ですが」
「……何だよ」
「もし、叶うならですが……ファーレン姉様が出られる日が決まれば、お見送りをしたいです」
「………」
「為にならないのは分かっています。なので、何処か姿を隠して、ご出発を見送れる場所から……ふぐっ、図々しくてすみません。ふぉ、お願いします」
「………そんくらい、別にいーだろーが。顔付き合わせても」
「いいえ、いけません。ふぇ、ファーレン姉様は、ティミーちゃんに謝ってないんです。……ふえ、レギちゃんにも、ふぇ!」
「……」
確かにな。母ちゃんからちょくちょくツッコミだの俺の生活だのに煩く書かれた手紙は来るが………フォーナの姉ちゃんに関しては何も書いてなかった。
何も書くことがない=何も変わらなかった、って事だよな。
て言うか鼻づまりスゲエな。
「ふえっ、おひとりで、見つめ直すお時間を頂けた事は本当に妹として嬉しく思います。陛下には多大なご厚意を頂きました。ふぐっ、少しでもお返ししなくてはふぐっ、いけないのい、私が私事でお心を無碍にするようなことは出来まじぇん。ふへっ、してはならないんふぁっ、れす」
駄目だ。スゲー顔になってやがるな。
……真面目な話なのに鼻づまりで入ってこねえな。
「………鼻噛め」
「ふええええ!!れうみっどしゃん!」
視界の直ぐ下に、紺色の髪の毛が翻る。ぼす、と衝撃が来てつんのめりそうになるが、何とか留まれた。コケてたまるか。
フォーナに抱きつかれた、のか。王城に行かされるのに着せられた高そーな服がべっしゃべしゃだが仕方ねえ。
「お前ら、イチャつくのは密室にしとけよ。廊下はダメだぞー」
「何?レルミッド、早速ソーレミタイナに婚約の知らせを送った方がいいな」
「未だ何もしてねーよボケエエエ!!」
叔父上様とじいちゃんは何とかなんねーのかよ!!さっき帰ってきたばっかで何聞いてんだボケ!!
「ふ、ふえええ!す、ずみまぜえん!!」
「フォーナは顔洗ってきな。昼飯出来たからな」
………まあ、あのツラで飯はちょっとな。分かるけどよ。
先行っとくか。
「………それはそうと、レルミッド」
「うおビックリした!!何だよじーちゃん」
急にマジなツラして背後に立つなや!ビックリすんな……!!昼間でも廊下が暗えからビビるだろ!!
「二股の滴の沼を覚えているな?ロージア・ハイトドローも使ったと聞いた」
………?何だよ急に。
二股の滴の沼?
………あーーー!!義妹が飲み込まれた気色悪ィ原色のマダラの変な魔術の事か!!……突然だったから全く何なのか分かんなかったが……そーいや属性も解んなかったな。
………よく知ってんな。
って、アァン?クソボケブスも?
「…………も?」
「過去に使われたことがある」
「何だと!?まさかあのババアにかよ!?」
「そのババアにだ。今、ソーレミタイナのファーレン皇女とレッカ嬢が居るな?」
「居るけどよ…」
つかさっき片方に会ってきたがよ。最近強制的に関わり合いになってるけどな。
「いいか、怪しいと思ったら目を見ろ。薄赤くなって、二股の滴の光が宿っていたら、危険だ」
「目玉に二股?………初耳だぞんなのは」
つか人の目玉なんか、親しくもねーのにジロジロ見ねえよ。目合わせるつっても色くらいしか意識したことねーし。
「………私も今まで気にも留めていなかったんだが、思い返すと確かにそうだ。ティミー王子が手紙をくれた」
「何文通してんだよ」
地味にティムの野郎、人のじーちゃんと仲いいな。
「ロージア・ハイトドローを一時期観察していたようだからな。彼女も、目の中に二股の滴が貼り付いていたそうだ」
「目玉に……」
あのクソボケブスが?
嫌いなヤツの目玉なんて気にもしてなかったから、全く気づかなかった。薄赤い頭のブスとしか覚えてねーな。
もしかして、義妹なら何か知ってるか?アイツ、絡まれる迄はダチだったんだよな?いやでもあの状態のアレキちゃんが側に寄らせる訳ねーな。………王城なら兎も角、不意打ちなら焦がされるかもしんねえ。アイツの遣り口は陰険だしな。どんな汚え手を使ってくるか……。
「あのババアはロージア・ハイトドローが居なくなって、どちらかを干渉……最悪乗っ取るかもしれん」
意味が解らねーんだが。
クソボケブスが死んで、それで終わったんじゃねーのかよ。
乗っ取るって何だよ。魂がどーの言われたけどフツーに別人なんだろ!?つか、死人が何しに出てくんだよ!!
「乗っ取る!?ババアのオバケが!?レッカかフォーナの姉ちゃんを!?」
「………死んでからも非常識で大迷惑な女だ。いいか、レルミッド。死霊に関してはルディの方が頼りになる。あの2人に近寄る時はルディと行動しなさい」
いや勘弁しろや。アイツらに元々そんなに会いたくねえが、ガチ近寄りたく無くなってきた。
「サジュは大丈夫なのかよ。アイツ、レッカ家に入れてんだが」
「あくまで危ないのはお前とルディ、ティミー王子に義妹姫だ」
俺等の共通点……ババアが入れ上げてた男の孫か?
…………勘弁しろや。
何時まで付きまとう気だ、あのババア。………アレキちゃんの言葉が脳裏に甦る。
『は?馬鹿なの?殺せばいいだろ』
…………。
アレキちゃんは此れを知ったら、益々キレんだろーな。
過保護に義妹に近付けねーのは……正しかったってことだな。……まあ、アイツそれ抜きでも色々してそーだが。裏で義妹に絡むヤツとか始末してそーだ。……残酷な野郎だしな。
…………兎に角、だ。
悪いが俺はフォーナしか守る気はない。後ルディと家族な。レッカやフォーナの姉ちゃんはその対象じゃねえ。
すまねえな、サジュ。お前は苦労すんな。
「おはよう?こんにちは?今おひさま真上よりひくいね。こんにちはの時間?」
行きたくねえが、また王城に呼び出された翌日。
今日は徴呪章院の中を漁るらしい。
しかし……今度はまた知らねえガキの声が聞こえんな。
誰だよ。
「そぉよぉ、おひさまが真上に近づくとこんにちはなのぉ。お空が暗ぁいとこんばんはぁ」
「こんばんはぁ」
「偉い偉ぁい」
背丈はガキ……にしてはちょいデケエ?フロプシーの歳位か?
……しかし、も1人は子供に教えるような言い方だなって……聞き覚えの有る声だな。つい最近……。
「………ってミーリヤねーちゃん?」
「あぁらぁ、レルミッドちゃあん、おはよぉー」
「おはよぉー?だぁれ?おれ、カータ」
隣にいたのは………獣人のガキか?黒い頭に、黒い立った特徴的な耳。………草原にいた、リカオンの耳だな。しかし、リカオンって茶と白と黒の斑じゃなかったか?こんな黒いの居たか?
……ツラの作りは悪くねーが、アホそうな奴だな。しかし、何でこんなフリフリした格好してんだ?動きにくくねーのか?
「………アァン?あ、レルミッドだけどよ」
「………?魔術?とりの匂いとくさとおうさまの匂いするね」
「ハァ?」
鳥と草は兎も角よ!!
何だこのガキ!?て言うか王様の匂いって何だよ!?まさかオッサンの臭いでもするのか!?俺まだ19だぞ!?
「驚いたわぁ、本当にぃお鼻が利くのねぇ」
「えへん。レトナにありがとーしてね、緑のりんご」
「有り難ぉするわぁ、カータちゃん」
頭を撫でてやってるのは良いが、ちょっと待て!
「…………待て待て待てや!突っ込みたい事だらけなんだけどよ!!」
「えぇとねぇ、紹介するわねぇ。私のぉ幼馴染みのぉ、レトナちゃん覚えてるぅ?金髪のぉ、緑がかったぁ青ぉいお目目のぉ」
「レトナはね、おっぱい大きくてかわいーよ。でも手を出したら噛むよ、おれの番だよ」
「お外でぇ言わないのぉ。レトナちゃんだけにぃ言ってあげてぇ」
「あい?」
番?
金髪に緑がかった青い目?ミーリヤねーちゃんの幼馴染み?おっぱいがデカイ……。
……あー、何となく思い出してきた。あのねーちゃんも美人だったな。このガキが番?番……動物みてーだな。獣人だっけか?ニックかちょっとボヤいてたな。フロプシーもそうだから極端だって。
………コイツも極端なのかよ。あんまレトナねーちゃんの事でテキトーな事話したら面倒そーだな。
「……かくれんぼの時、ユディトねーちゃんと一緒に帰ったねーちゃんか?」
「そぉ!賢いわぁ。流石レルミッドちゃんねぇ」
「いやそもそも、何でミーリヤねーちゃんが此処にいんだよ」
「ちょぉっとぉ、レッカちゃん関連でねぇ」
「レッカ?」
昨日の話もだが、最近その名前に嫌な予感しかしねーな。
「えっとぉ、元カレちゃんとぉ言うかぁ……」
「もとかれ?レトナと会うううーんとまえ、こう」
「お外でぇ言わなぁい」
口塞がれちまったな。
何だってんだ?
…………変なヤツ。まーどうでもいいなら良いけどよ。
「どーゆーこった、ミーリヤねーちゃん」
「ルディちゃんがねぇ、カータちゃんを連れてこいってぇ!人使いが荒いわぁ!かくれんぼでぇ負けた癖にぃ!」
「まけちゃったねー、しろい蝶々」
「白い蝶々?誰だそれ、ルディか?」
赤い蝶々ならアレキちゃんだろ?何か変な渾名有ったよな。恥ずいヤツ。………俺のも大概恥ずいが、アレも酷かった。
忘れたけどよ。しまった、今度喧嘩売られた時用に覚えとくべきだったな。
「ルディ?そんな名前みじかかった?もっとながかったよ。でも怖いよおばけ見えるの」
「ルディちゃんでぇ間違いないわよぉ。あのねぇレルミッドちゃん、この子はぁちょっと特殊なのぉ」
「まあ、見たら分かるけどよ」
犬耳生えてる時点でフツーじゃねえだろ。
しかし、何でこのガキを呼んだんだ、ルディ?
何でこの犬耳の子供を?分からねえ。
「おおレルミッド!ご苦労、ミニア。よく来たなカータ」
ルディが来やがった。
今日はおっちゃん家から来たのか、服がキラキラしてねえフツーのフードだな。
「あ、しろい蝶々。おはよぉー。きょうはおばけないないする?」
「お早う。今のところは目に付くところにはおらんぞ」
「…………要らんこと言うな、ルディ!!」
見えないところにフツーに居るって事じゃねーか!!
「大丈夫よぉ。おばけが出たらぁ、軒並みルディちゃんにないないしてぇ貰いましょうねぇー」
「そんな面倒なことしたくないぞ」
「カータちゃんは怖がりちゃんなのぉ。出来ないなら帰るわぁ。泣かせたらぁレトナちゃんにぃ怒られちゃうぅ」
「………分かった、仕方あるまい」
渋々だがルディを動かすたあ………ミーリヤねーちゃんスゲエな。
「それにぃ、早朝から駆け付けさせた私にはぁ何にもぉ無いのぉ!?」
「ふむ、何をさせたいんだ」
「…………そぉねぇ、デートかしらぁ」
「デート?デート………?したことないぞ」
「「ハァ!?」」
ルディがデートしたことねぇ!?
コイツあんなにモテ野郎なのに!?
思わずミーリヤねーちゃんと声が重なったじゃねーか!
……?あれ、ルディ何処行った?
「ルディちゃぁん?」
………何だしゃがみこんで。具合悪そーには見えなかったが。
「う、煩い!!何だレルミッドまで大声を!!僕は三半規管が弱いんだぞ!」
………そーだったのか?初耳すぎんな。
ルディに弱点が…………有るか。有るわな。
「それも初耳だけどぉ!!え、何?三半規管が弱いってぇ、船酔いとかぁするのぉ!?」
「当たり前だ!!」
「でもお前、馬車にも船にも涼しいツラで乗ってたよな!?」
「当たり前だ。アレキにバカにされるからアレキの前では絶対に我慢する」
「何なのこの子は、可愛い………。意地っ張りとか、えええ」
耳が弱い、ねえ。知らなかった……が、確かに前にも耳押さえてた時あったな。
しかし………ミーリヤねーちゃんの赤くなる意味が分かんねーし、感想がイカれてる気がする。
カータが耳を押さえてるルディの頭を撫でてやがるが、マジかよ。度胸あんな。
「しろい蝶々、でーとしたことないの?おれもないなぁ」
「カータ、頭を撫でるのは止してくれないか。君の番に怒られたくないんだぞ」
「おみみいたいいたい、とんでけー」
……聞いちゃいねーな。
「レトナちゃんにはぁ言わないからぁ平気ぃ。あぁ可愛いぃ。癒されるぅ。レルミッドちゃんもぉ並んでぇ?」
「ハア?」
強制的にルディの側に固められたけど、何なんだ。そんなキラキラした目で見られてもモゾモゾすんな。
「まぁ可愛い!!王子様達とぉ噛み犬ちゃん!!絵に描いて貰いたぁいわぁ!」
「あい?」
「…………ミニアの趣味がサッパリ判らんな。やはり、負けてやったのは早計だったやもしれんぞ」
「知らねえよ、つかミーリヤねーちゃん、俺は王子じゃねーぞ」
「似たよぉなお立場なのよぉ!私的にぃそうだからぉいいのぉ」
「おうさまおうじさま?」
「………カータ、レルミッドでいい」
「ながいね。とりさまでいー?」
「ハァ!?長くねーだろ!!しかもまた珍妙な渾名が出たな!!」
「鳥の王様だからとりさまか………いいんではないか?」
「ハァ!?」
何ルディは同意してんだよ!!鳥から離れてえのによ!!
「あい、とりさま。しろい蝶々」
「何でルディには様付けしねーで俺だけ!?変な渾名付けんな!」
「名前ながいもん」
「獣人のぉ拘り的なぁ感じかしらぁ。恐らくぅ突っ込んでも無駄よぉ」
……………マジかよ。獣人ヤバくねーか?
いや、フロプシーもかなりヤバかったけどよ。
「では、カータ。レッカを引き戻す任務頼んだぞ」
「あーい」
「待て待て待て。徴を探すんじゃ無かったのかよ!!」
「安心しろ、昨日の内に見つけた」
ルディは古い本を2冊、こっちに見せてきた。
…………いつの間に出したよ。
「生身と生身じゃないのに業務をさせたら案外上手く行ったからな」
生身と生身じゃないの………?生身じゃないのにォ!?
ゾゾゾ、と………背中を這いずった!!何か這いずった!!
「きゃいん!?おばけ!?おばけ!?」
「お前、オバケ使うなって言ってんだろーが!!」
「ルディちゃぁん?」
「っ………2倍声が大きいな。分かった、分かったぞ。僕が悪かった。兎に角不思議な感じと王城の文官の力で僕は本を見つけたんだ」
「あう、きゃうん……」
「…………いい加減レルミッドは慣れて欲しいぞ……」
「慣れるかボケ!!」
ふざけんなよ!!カータと違って怖くなんかねーが、変なものは受け付けたくねーだけだ!!
ルディ君は弱点を曝してもいい人にしか曝さないスタンスです。
そして、『王女ローリラ』の影がチラついてきたようですね。