13.光と闇に溶け込む姫
お読み頂き有り難う御座います。
誤字報告誠に助かっております!
明日の新聞に載りそうな抱擁を王城内で繰り広げてしまった後のお話です。
「それでえ?蝋燭野郎、惨たらしく死んでたあ?」
「ガガガブガビイ!?」
「何でですのよ!?とってもお元気ですわよ!!って、離してくださいなアレッキオ!」
後ろの騒ぎが気にならなくなるような過激な言動やめてくれない!?
「なあんだあ。木属性の縄が巻き付いてたから吸われて死ぬかと思ったのにい。まあ、蝋燭野郎の魔力じゃあ無理かあ」
「はあ!?何ですって!?気付いてらして放置したんですの!?」
ジタバタしてたら漸く離してくれた!!もう!!でも、今回は未だマシかしら……。若干?手を離してくれるの早いかしらね。そうでもない?
「おー、知ってて放置してたのかよ、アレッキオ卿……。相変わらずまーまー酷えなー」
「いえサジュ様、結構酷い事ですわよ……」
「ガガガアッ!!」
「煩いなあ。生意気にも俺に文句?気付かないお前が悪いんだろ能無しフロプシー」
「ギギギア……」
ああ、ブライトニアが耳を逆立ててショボンと……器用ね。って変な感心してどうするのよ!!
ああああもう!腹が立つけれど……義兄さま位しか魔術に詳しい人が居ないな!
「……アレッキオ、この縄?ですが……何か分かりますの?仕掛けた人ですとか」
「御免ねえアローディエンヌう。僕、他の属性の気配は分かるけど火属性と水属性しか探れないんだあ。まあ、其処のフロプシーは騒ぐしか能がなくて、有用な事はなーんにも出来ないけどお」
「……ガギイ……!!」
そ、そりゃそうか。万能チートに見えるけれど得手不得手が有るわよね。ただ、言い方!!
「いちいちブライトニアを煽らないでくださいな!大体私なんて、何にも出来ないんですのよ」
「アローディエンヌの向上心は素敵だねえ。でも、存在してくれてるだけで奇跡的に稀有で可愛いからあ、そのままでいてえ」
「可愛く有りませんし、話がズレてますわよ!」
「アレッキオ卿に其処まで言える自体が稀有だよな、確かに」
「モブガ」
……うっ、ブライトニアが鼻を鳴らして怒ってるわね……。そうよ、話を戻さなきゃ。オルガニックさんの巻かれていた魔術縄?の件よ!
「木属性に造詣がお有りの方を探していますの。ティム様はお留守のようで……」
「ティミー?ああ、王妃の所に入り浸ってたよ。アイツ、新婚の癖に親戚の新婚家庭に踏み込むとか頭おかしいよね」
「……ですから、言い方!え?……王妃様の所ですの?」
た、確かにおかしいわね。オルガニックさんお見舞いの足でそのまま行かれたのかしら……。
「そお。血縁者なのかなーんにも分からないままなのにねえ。新婚の妻を放置して入り浸りの浮気野郎だよねえ」
「いや、流石に親戚の陛下のお妃にそりゃねーだろ。いやでも……あー!知らねーけど」
ティム様だからなあ、みたいなお言葉を飲み込まれたサジュ様が成長されておられるわ……。そうよね此処王城だし。私も要らん事を言わないように気を引き締めなきゃ。
「……ええと、お母様と伯母様に、王妃様の面差しが似ておられるんでしたっけ」
……血縁関係がややこしすぎね。
陛下と王妃様……のご関係もだけれど。
もし、王妃様がおふたかた……ティナ様とジーア様のどちらかでいらっしゃるなら、お従兄妹同士、だったかしら?ややこしいなあ。
王家のお血筋で……尚且つ、お父様は魔法使いディレク様と言う……其処まで他人の空似……も国内におられ無いでしょうし。
あ、もしくはティム様のお従姉妹説も有るのか。
……遺伝子検査とか此処に有ればいいのに……。いやでも、そんなデリケートな事……望まれないかもなあ。ううーん、難しいわ……。
「暇さえ有れば、王妃を捕まえて齧り付いて話し倒してるらしいよ」
うーむ、とても……執着されてるっぽいなあ。ご事情がご事情だから……。でも、お互いの伴侶は……承知の上なのかしら?義兄さまが変な事を言うからモヤモヤするじゃないの!もう!
「……陛下と王子妃殿下は、複雑でいらっしゃるかもしれませんが、流石にお立場も有りますし大丈夫では?」
「陛下はティミーを腫れ物扱いが止まらないから罪滅ぼしに嫁に張り付かせるのを許してるんじゃなあい?でも、政略結婚させた時点でお察しだけどお」
「ゴガア」
「あ、そうですわね……。ティム様は政略結婚なんですのね」
貴族の癖に全く縁が……ああいえ、最初の方は私も義兄さまいえ義姉さまも政略結婚する話だったわね。うーむ、大して経ってないのに最近の人生が目まぐるしいわ。どうなってるの。
「ティム様は……ソーレミタイナに結果的に……ミーリヤ様の件等が有りましたし、コレッデモン王国からお妃をお迎えになられたんでしたっけ」
「左様です、雨の器の義妹姫」
「ぎゃあっ!?」
「ブミャ!」
「ふふっアローディエンヌう。大胆なんだからあ!もお!」
「いや違いますけれど!?大丈夫ブライトニア!?」
「モミャ」
うっ、コケかけて目の前の義兄さまの胸で顔打った!!受け止めてくれたのはいいけれど……顔痛い!って、ブライトニアは無事……みたいだけれど!!ああ、それよりええと、何!?誰!?
「うおっ、気配が全く無かったぞ!?……あっ、さっきのティム様の」
「俺からは見えてたよ。鈍いんじゃないの騎士サジュ」
義兄さまを押し退けて……ええと、さっきのティム様のと言うと……。
あっ、王子妃殿下!?何故此処に!?
「先程ぶりにお目に掛かります、皆様方。ワタシ、シャロット・ルー・ドゥッカーノ。生まれはコレッデモン王国、ディルマウリス伯爵家出身です」
……ええと、先程はお顔が見えなかったけれど……。
凄いグルグル眼鏡……のサングラスバージョン?をお召しだったのね……。
……何かこう……黒飴のロリポップキャンディみたいな眼鏡ね……。そんなもん無さそうだけれど。
さっきは義兄さまで見えなかったけど……さっきもお召しだったのかしら。
「えっ、ディルマウリス伯爵家!?」
「まあサジュ様、妃殿下のご実家をご存じで?」
そういやコレッデモン繋がりでご存知でもおかしくないわよね。
「いやあんまり交流はねーけど……第二騎士団にそのお名前を聞いたような」
「最近継いだ長兄が所属させて頂いてます」
「へえ、何でティミーを放置してる?乗り込まない?新婚早速捨てた?棄てられた?」
おおおおい!!
何て事聞くのよこのひとはああああああ!!
「ししし失礼致しました妃殿下!!」
「い、いえ、お気遣い無く義妹姫。
余所者のワタシ、王城内では大人しく内気に振る舞えと申し付けられておりますの」
「へー、早速家庭内暴力?酷いねティミー」
「ブガ」
「義兄さ……アレッキオ!!」
な、何ちゅうことを言い出すのよおおあお!!
でも妃殿下は全く動じてないな……。あのでっかい眼鏡のせいかしら?ええと、周り聞こえてない、わよね!?ああ、向こうは向こうで未だ大騒ぎだわ。良かった、いえ、良くないのだけれど!
「いや、アレッキオ卿……。ウチ、いやコレッデモンの家庭内暴力許す率、目茶苦茶低いぞ……?」
「どうでも良い」
へえ、コレッデモンは警備体制がしっかりしたお国柄なのね……。素敵なことだわ。流石施政者が良いのね。
「ティミー様とは、お互い求め合うものが少しズレてますので、その内調整します。ワタシ、狩りは得意なんです」
え?……狩りって何なのかしら。何かの比喩?
横のサジュ様がちょっとお嫌そうな顔をされているわね……。
「それで何か用?」
「義妹姫からティミー様へのご面会を申し込まれたとお聞きしました。恐らく、あの方は気の済むまでお帰りにならないかと」
「ええー?何で僕に言わないのアローディエンヌう。ティミーくらい首根っこ引っ掴んで持ってくるのにい」
「いや、だから頼めませんのよやめてください!!ティム様は物じゃ有りません!」
しかも王子様の首根っこって!!文字通りで済めばいいけれど、って、いや良くないわ!!残酷で無さそうだけれど、気が変わるかもしれないわ!絶対良くない!!
「正式に!穏やかに!お会いしたいだけですから!」
「ええー?正式に穏やかにティミーが訪ねてきた事なんて無いのにい」
うっ!そ、そりゃそうなんだけれど!!
相手、王子様なのよ!?そりゃあの方は、癖が有りすぎて頼りたくは無いけれど!!
「何かお困りでしょうか?ご事情をお聞きします」
「へー、慈善事業?寄付でも求めて?光と闇の見張り神子殿」
な、何て嫌味な言い方なの……。何時もの事ながら何て酷い!
でも、このシャロット様の印象がどーも、何て言うか……ティム様より明らかに癖が薄いのに、何か癖強いわ……。そしてその厨二病な渾名はホント何なの……。
「支度金は弾んで頂きましたから不要です。政略のお陰で」
「うわあ……ンな事言っていーのかよ。向こうのオバサン達に聞かれたら物理で黙らすしかねーじゃん」
「ガフ」
「いや小声でお話すれば済みますわよサジュ様!ブライトニアも前足を振らないで!!」
「ブガ!!ガガギイ!」
ブライトニアは何時もの事だけれど、サジュ様迄!!
何でこう、物理特化で物事を解決しようとなさるの!?確かに聞かれたら困るけれど!!ああもう、悪いけれど早くどっか行ってくれないかしら!!ハラハラし通しよ!!
「ワタシも王城に繋がりを持たないと、と思いまして」
「へー、ティミーと草原に植わるのかと思ってたよ」
「アレッキオ!」
「それはそれで楽しそうですが、未来の事は分かりませんし」
「じゃあ聞いてもいいか?えーと、妃殿下」
「呼び名は折角希望通り王子様に嫁いだので、シャロット姫が希望です。バルトロイズ子爵令息サジュ様。どうぞお気楽に喋ってください」
……いや、キャラ濃いわね。王子様に嫁いだから姫呼び……分からんでもないけれど……いや、分からんわね。
私なんか……姫ですらないのに未だに義妹姫呼びされる上に呼ぶ人が増えてるの何でなの。ああもう、何とか廃れないかしら。これから歳を喰うと益々ヤバい事にしかならない!!
って、希望通り……?希望して、あのティム様に嫁がれたってこと?
ご、豪気だなこの方。いやでも、忘れてたけど乙女ゲームの王子様なんだものね。多分センターポジション設定の。そうでなくても見た目はイケメンに育たれたし……性格は……ちょっと、色々とお付き合いしにくいけれど。
「シャロット姫……ね。オレはサジュでいーぜ」
「では、サジュ卿。そのお手の魔力の塊についてお困りです?」
「……分かんだな?」
「ええ、光属性と闇属性しか分かりませんけど、魔力の塊で有る事は分かりますよ」
そうなのね……。
……私には細長い長い木の棒にしか見えないから何ともだけれど。悉く魔法、いえ魔術センスが無いのね……。
「ええと、シャロット姫様。それを紐解けば、レルミッド・ルカリウム様の婚約者のフォーナの行方が分かるかも知れないんですの」
「それで木属性のティミー様をお探しでしたか。気が向かれるといいんですけど」
うっ!確かにさっき断ったに等しいし……!どのツラ提げてって感じよね。
「ユール公爵と共に、陛下に謁見なさっては?何か分かるかもしれません」
「……え」
「あの方も木属性ですよね」
そ、そりゃそうなんだけれど。
陛下に、誘拐事件の協力を頼んで良いものなのかしら……。もっと努力してから、とか……。もっと、下のお立場経由の方が……いえ!!いいえ!
……人命が掛かっているのよ!駄目よアローディエンヌ!!何を弱気になっているの!フォーナの為じゃないの!!
「アレッキオ、陛下に謁見したいですわ」
「そお?じゃあ、新婚なのに放置された陛下に、常に愛し合ってる僕達の仲良しぶりを見せびらかしに行こうかあ」
「いや、言い方!!それに目的違いますから!!」
「……ガフウ」
ああもう、ブライトニアが飽きて来ている!!
ムニャムニャ顔まで洗って!!本気でフォーナに関心が無い!何でなのよ!?
「可愛らしい獲物……ウサギさんですね」
「え」
どういう事?
お、思わず寄ってこられたから身を捩ってしまったわ。
「シャロット姫、そいつアレッキオ卿とタメ迄とは行かねーけど目茶苦茶強えから獲物は無理」
「こんな能無し駄目蝙蝠ウサギより、騎士サジュの方が強いんじゃないの?」
「ブア……」
ほ、本人はマイペースね……。
と、兎に角拗れそうな前にお礼を言わなきゃ。
「シャロット姫様、御助言有り難う御座います。陛下に謁見して、必ずフォーナを助けられるよう全力を尽くしますわ」
「ありがとな、シャロット姫」
「日陰者王子妃のワタシの無茶振りにも礼を尽くしてくださるその御姿勢、痛み入ります。義妹姫にサジュ卿。そのお声、覚えおきますね」
無茶振り……だったの?て言うか、ええ!?結構ニマニマしたお顔ね……。いや、お口許しか分からないけれど。
「日陰者王子妃って……。そんな事を言う方がおられるんですの!?何て」
「口さがない無礼な爵位持ちは居るからねえ」
「て言うか、ヒデー陰口だなそれ。直に被害を被ってから悪口言えよな……」
「そ、それもどうかと思いますけれど」
「そんな貴方達に小さな陰口をお伝えします。
犯人組織の本当の狙いは、レルミッド・ルカリウム様です」
……え?
「ど、どーいうこった?」
「お前、犯人とグルなの?」
「いいえ?ワタシ、光と闇に気配が溶け込めてしまうから気配が薄くって。目の前に居るのに、何故かその場で陰口を話されるので……よく聞いてしまうんです」
い、いや……。え、えええ!?
その体質もビックリだけれど、えええええ!?
「は、犯人の、特徴は?」
「……ワタシ、光と闇が過剰に目に入るので目が良くないんです。昔から人の顔を覚えられないんですよ。
正直、ティミー様のお顔もイマイチ覚えていないんです。美形だとは聞いてますのでそれで良いんですけど」
何て事を次々と告白してくるのこの方!!
「オレ、義父殿……いや、近衛か!?取り敢えず偉い騎士を呼んでくる!!」
「流石、あのティミーの伴侶。面倒だね」
「ムミュブ……」
……ああああ、頭が混乱してきたわ!!
シャロットのコレッデモンサイド話は『守備範囲に跡取りが多い』の『過剰苛烈な光と闇』に少しだけ載ってますね。




