12.ティム様の不在と義兄さまに群がる人達
お読み頂き誠に有り難う御座います。
誤字報告誠に助かっております。
前回の続きです。どうやらティムにアポを取れなかったようですね。
「……駄目でしたわね」
「だな……。王子だもんな、忘れてたけどよ」
「グモウ」
偉い方にアポ取りって大変なのね……。
冷静に考えてみりゃそりゃそうなんだけれど……。ティム様は、思わぬ所でヒョイヒョイと我が家へいらしたりしてるからなあ。
初対面も良くなかったけど、何度お会いしてもモヤッとするわ……。なのに、お会いせねばならないのに。
お会いできないのよねー。何故によ!?いや、お忙しいんでしょうし分かるけれど!!
オルガニックさんへのお見舞いを終えて、サジュ様とブライトニアを抱えた私……の三人は廊下を歩いているの。
結局今日中のティム様へのお目通りは叶わないみたい。……フォーナの命も掛かっているし、急いでるのだけれど!
ああ、歯痒い。
無事で居て頂戴!フォーナ!
「ティム様へのご面会……どうしたらいいのかしら」
「第二の騎士が部屋の前に居るから相談してみっか」
話は少し遡るの。
どうやってティム様にお目通りするかに悩んでたら、サジュ様のお勧めで、控えておられた騎士様に女官を呼んで貰ったのよね。
でも、……この人がまた感じ悪かったんだけれど……。
「……ティム殿下へお目通りで御座いますか?どういう御用向きで御座いましょう?
……失礼ですが、殿下は御夫君の邪魔をされる公爵夫人のようにお暇では……」
あ、義兄さまのファンか。中々失礼ね。
まあ、部屋に詰めさせられてる時点であまり良くは思われてないだろうなーとは思ってたけれど、お仕事の邪魔してると思われてるのね。
でもこういう頭ごなしに決めつけて、初対面を罵る人に「してない!」とか抗議するのもなあ。……ひとりなら何とでもなるけど、此処王城だものね。
ユール公爵夫人っぽくするには……ううむ。全く公爵夫人っぽい対応が不明すぎるわ……。どうしましょう。
「おい、義妹姫に向かって不敬だぞ!!」
「ガアッ!!」
「あっ、ブライトニア!?」
「ぎゃああああああ!!」
突風が巻き起こったわけでもなく……人が、吹っ飛んでいったわ。
あの感じの悪い女官が、廊下の壁に……。
……止めてくださる騎士様の甲斐もなく、ブライトニアが吹っ飛ばしてしまったのよね……。
……前足をべしっと振り下ろしたワンアクションで、人一人が吹っ飛んだわ
い、痛そう。呆気に取られて何にも出来なかった……。
「……これ……マンガみたいに引っくり返ってザマア気味なのかにゃあ……」
「まー、仕方無くね?アレッキオ卿が聞いてたらこんなもんじゃ済まねーだろ」
え、えええええ。
確かにそりゃそうなのだけれど、どうしたもんなの?
人が転がってるのに、誰一人として駆け寄らないわ……。見張りの騎士様も放置されてご報告に行かれてしまったし……。駆け寄ろうとしたらブライトニアが腕の中でジタバタするし……。
「ブガミガブブブ」
「……ブ、ブライトニア……やりすぎだけどアロンたんに失礼限界突破加減でグッジョブとしか言えないじゃないのおん……」
「グミィ!」
「オ、オルガニックさんまで……。せめて座らせなくていいんでしょうか」
……関節とか、折れ曲がってはいけない位置には曲がってないみたいだけれど。息はしてる、みたいよね?
凄い姿勢で足をピクピクしてるのね……。体が柔らかいのねきっと……。これ、放置していいの!?いや確かにさっきの言動に腹立つのは腹立つけどね!?
別に私の私利私欲でお会いしたいって訳じゃ無いのに!大体、私利私欲なら出来るだけお会いしたくないわよ……。
「義妹殿、高位貴族の割に腰低いからナメられてんなー。確かにアレッキオ卿が気にすんのも分かるわー」
「ええと……感じ悪いなあとは思いましたけれど……。ご面会には、筋を通さないといけませんし……業務外だから面倒だったかしら、位で……」
「はわわアロンたん深窓のお姫様きゃわたん」
「ムミイ!」
えっ、私の一体何処が深窓のお姫様なのかしら。
オルガニックさんのたまに飛び出るフィルター分厚い本音……いや、ご趣味も大概よね……。私に夢を見過ぎでは……?義兄さまもそうだけれど。
「あれれん?あの女官さんは?」
とまあ、密かにオルガニックさんに呆れていたら、いつの間にか居なくなってる!?
ど、どういうこと!?さっき、ピクピクしてたのに……。実はノーダメージだったのかしら。だとしても逃げるスピード凄いわね。
「アレ?ホントだな。何処逃げた?まー、アタマが茶色で服の腕章が緑だったからそれ報告しとくか。第二の騎士も見てっしなー」
「腕章ですか?」
「何か規定が有るらしーぜ。オレもよく知んねーけど」
「そうなんですのね。それにしても困りましたわね。別の方に取り次ぎを頼みましょうか」
……しかし、この部屋に備え付けの小さいベルで一体人を呼べるのかしら。この大きな王城じゃあ、福引きの当たりの時にガラガラ鳴らすヤツくらい大きくなきゃ無理じゃないのかなあ。
勿論優雅さはゼロだけれど、物理的に聞こえそうに無いとしか思えないわ。それとも何か他に魔法とかのオプション付いてるのかしら。鳴らすと控えてる場所で大音量が鳴り響くとか……。
兎に角鳴らしてみるか。
チロリリン。
うーむ、出来るだけスナップを聞かせて振ってみたけど、返事はないな。困ったわね。
「……誰も来ませんわね」
「女官の質悪ぃなー」
「グムブミガグキギ」
うっ、機嫌悪そうなブライトニアが前足をブンブン振ってるわ。離れてる所に飾られた花瓶がガタガタ鳴ってるし……!やめてよ!?結構大きな花瓶だしお掃除も大変だし、どうやって弁償するのよ!!
「ブライトニア、前足を振り回さないで。可愛らしいけれど破壊活動をする気でしょう?物を壊すのは駄目よ?やめてよ」
「奥方様」
「あら?……貴方、我が家の……侍女さん、よね?」
「左様で御座います奥方様。御用向きは」
……何でウチの使用人が此処に?
そして何故此処でも働いてくれようと……?いや、私が頼りないからでしょうけれど。
「女官も質が未々悪いようで御座いますね。ユール公爵家の名で……厳重注意を致しましょう」
「えっ、そうなの?確かに注意は必要だけれど……でも、職を失ったりしないかしら。逆恨みとか有りそうね」
「職務怠慢はどの道規約違反で御座います、奥方様。他の者への示しも付きません」
「ムミャブ」
……いや、そう言われればそうだけれど。
ユール公爵家の名前で抗議……と言われると残酷な展開になりそうな気しかしないな。いや、自分の家なんだけれど、大丈夫なの!?
「では御前失礼を」
あっ、ボヤボヤしてる間に行っちゃった!!
「まー、部下に任しときゃいーんじゃね?」
「……義兄さまに伝わって家が燃やされないか大変心配なんですけれど」
「……まー、アレッキオ卿だしな」
「いやサジュ君、納得したらいかんで候……。だ、ダイジョブじゃないかなあ。流石におにいたまでも、暴言に対する仕返しには……労力掛かるだろーし。いや、暴言はとてもいけないと思うけど、常に火花纏ってるから燃やすのに労力要らないのかにゃあ」
「……義兄さまに言っておきますわ」
それが一番……何ともならない気もするけど!!
で、それから漸く女官さんが来たのよね。
その人は気の毒な位目茶苦茶恐縮してて、走って行ってきてくれたから人によるんだと思うけれど。
で、結局答えは……と言うか王子妃殿下共々在室されてなくて、面会の日取りを後にお付きの方が伝えてくれることになったらしいわ。
……急いでるのになあ。他に木属性のお詳しい方居ないのかなあ。魔法の国なんだから、魔術師長的な立場とか……居なさそうね。
と言う訳で、取り敢えず……サジュ様とブライトニアとオルガニックさんのお部屋を辞したの。どうしようかしら。帰ろうかなあ。
「ユール公爵アレッキオ様ー」
「んん?」
「お待ちくださーい、ふふふふっ」
何だ金切り声……あの結構向こうのあのドレスの群れからかしら。……の向こうに何処かで見た赤い髪が……。
「何だアレ」
「ブガ」
「まあ」
義兄さまが誰か……と言うか複数の知らない貴族の女性に集られている、みたいね。
「相変わらずお美しいですね!私を覚えていらして?」
「閣下にはお子様がお生まれになったとか」
「まあ、あの奥方様ではお子様に掛かりきりでお寂しいでしょう?」
「少し気晴らしをされるのが宜しいんでは」
声大きいわね。しかし離れてるのによく聞こえるなあ。義兄さまがイラつかなきゃいいんだけれど。
ゴッ、ブッボオオオオオ。
「……ん?え、えええええ!?」
何、今の音、おかしくない!?
何で……。ええ!?
「……燃えてんなー」
「ぎゃああああああ!!」
「いや、え、はあ!?」
「ブアア……ブミ」
いや、え!ええ!?
ちょっと、あの……義兄さま?を囲ってた人達が蜘蛛の子を散らすように逃げていく……いや、噴水に突っ込んでいくわ……。
今の、燃えた音なの!?え、何が燃えた音なの!?
「あっ、アローディエンヌう!終わったあ?もお、ホントにあんなのにお見舞いだなんてアローディエンヌったら優しいんだからあ!」
「は?え、ええ!?」
……何で向こうの方に居た義兄さまが、後ろから私の頭を撫でているの。また瞬間移動!?
って、そうじゃなくて!!
「ちょっと、義兄さま!!何を燃やしたんですの!?」
「えー知らなあい。怪奇現象じゃなあい?」
「怪奇現象!?」
「確かに火花散ってなかったけど、アレッキオ卿じゃねーのか?」
「ガブウ」
えっ、火花が散ってなかった……!?あの距離で見えたのサジュ様!?それはそれで凄いな!!
「あの屑共、他人の庭とか城の噴水とか汚してるから損害賠償させなきゃあね」
「いや、義兄さまが燃やされたんでは」
「いやあああああ!!」
「わ、私のドレスがああああ!!」
「髪があああああ!!」
……ワーワー騒いでるから体は無事みたい、よね?
いや、髪が燃えたとか騒いでる人もいるわね。だ、大丈夫なのかしら!?
「この王城には色々潜んでるらしいしね。不貞に厳しい女神像の余りとか」
「不貞?げっ、あの恋がどーのな女神像!?」
「恋を愛する女神像だよ」
……ええと、あの怖い顔のセーブポイントな女神像の事よね?前に私の祖父が勤めてた神殿があったって言う……。その余りって何なの。
「ブモウ!グミ!」
「いや、それも気になりますけれど、彼方で怪我人とかおられませんの!?」
「あ、騎士団が来たね。あれらの夫とかも」
……あっ、確かに大騒ぎになってるみたい。
「違いますのよ!!ユール公爵閣下に!」
「燃やされましたのよ!!国を上げて抗議を」
「お前は何を言っているんだ!?気でも触れたのか!?」
「……ご婦人方、一体、何処が燃えているのですか?」
……え、あら?
「だからユール公爵閣下に」
「閣下は先程まで陛下の御前で私達と会談をされていたのだぞ!?
すぐ先程廊下でお別れしたばかりだし、彼方でご夫人と歓談中だぞ!?」
「……え」
あ、こっちに集団の視線が目茶苦茶来たわ。
「集団で噴水に飛び込むなど、どうかしている!!」
「そう言えばお前、狂言癖が有ったな……」
「公爵に燃やされた、等と……ずぶ濡れ以外ピンピンしている癖に何を」
口々に夫人を責めておられるみたい。此処からでは距離が有って様子が見えないけれど。
……ええと。これは。
「義兄さま、何をなさいましたの?」
「性犯罪に繋がりかねない不貞って、幻覚に囚われるんだねえ」
は?え?幻覚に……?ど、どう言うこと?
「おお、幻覚関係って火属性だよな」
「……ガブウ」
「義兄さま」
あの人達を嵌めたの!?いや、確かに絡まれて居たけれど……。物理的に燃やさなかっただけマシ!?いやそれでもあんな……。
「聞いてえアローディエンヌう!!」
「はあ!?」
「あの屑共が集団で僕を引き摺り込んで性犯罪に及ぼうと計画してたんだよお?怖くてえ」
……え?
ええええ!?せ、性犯罪!?
ちょ、ちょっと……ええ!?
ちょっと、信じられない。あの人達が、私のアレッキオを襲う!?
遠くで見えないけれど、あの人達が!?……目の前が怒りで真っ赤になって、倒れそう。
「ほ、本当なんですの!?あの、あの人達が義兄さまに!?アレッキオを、害しようと!?」
「うん、だからちょっと事前に嫌がらせしただけ」
「……集団の女は怖ーからなあ」
「グルガア」
義兄さまが、狙われていたなんて。
そうよ、余所の国の人達が、今は王城に居たりするのよね?
子供の時みたいに。あの雨の器の繁み。悪い人に……襲われる!?
いや、嫌。
私は、頭に置かれた義兄さまの手を取って向き直った。
「アローディエンヌう?」
小さかったあの時から変わらない、薄い青の瞳。
あの時、恐怖で涙に濡れていた瞳が私を映している。ずっと、ずっと。
そうよ、あの時救えた、んだから。もう、怖い思いをさせたくない。
「どおしたのおアローディエンヌ?今日も可愛いのに、積極的?可愛いねえ」
「アレッキオ、貴方を私が守れるかどうかは分かりませんが……傍に居ますから」
「えっ、何!?嬉しいよアローディエンヌううう!!」
「仲いーよな。オレも何か慣れてきたぜ」
……この時、レルミッド様とか……いいえ、ブライトニアが人の姿で突っ込んでくれていたら……。
新聞の一面を飾る必要なんて、無かったのに!!
いえ思いきり八つ当たりよね!?私が分かってるけれど!特にレルミッド様、お忙しくて不安なのにホントにすみません!!そしてサジュ様、お見苦しい真似を!
ああああ!何で私は王城の中庭なんかで義兄さまとひっしーっ!と!抱き合ってしまったのよ!?
アホなの!?そんな場合じゃ無いってのに!
この異世界では水が毒で、風が麻痺、幻惑が火ですね。他の属性はまた何れ。
水属性の毒は嘗てチンピラヒロインが使ってました。




