11.手掛かりは、厄介に繋がる
お読み頂き有難う御座います。
狸寝入りのニックが目覚めましたね。
「ブミャググ、ギミャ……ミャン!」
「ふぐお……。何でブライトニアが此処に……や、まあ!やみてええん!!くしゅぐったーい!!」
う、オルガニックさんのあられもない声が響き渡っている……。いや、でも何でなのかしら……ギャグっぽ……い、いやいや!
私ったら、とても居たたまれない現場に対して何て事を!!
「ブ、ブライトニア。具合が良かろうと悪かろうと人様のお腹に突撃するのは良くないわよ!ね、出ましょう?」
「ブミギギ」
や、やっとオルガニックさんのお腹から這い出てきて……肩に乗って顔を擦り付けているわね。
……て言うかいつの間に潜り込んだの。どうなってるの。素早すぎるでしょ!
「狸寝入りとは良い度胸だな、蝋燭野郎。そのままくたばれば良かったのに」
「ぴええええん!しゅみませんおにいたまー!!」
「やめてくださいな義兄さま!!オルガニックさん、お目覚めになって本当に良かったですわ。
って、いい加減降ろしてくださいな義兄さま!」
ああもう、義兄さまは義兄さまで、さっきからバシバシ腕を叩いてるのにビクともしない!
オルガニックさんは具合がお悪いのに普通脅す!?いや普通じゃないけれど酷すぎるでしょう!
「良かったなーニック。いや、具合は良くねえか」
「はっ!ししし心配してくれてありがとね、サジュくん!アロンたんも。あ、レルミッドさんの叔父様のアルヴィエ様ですよね。有り難う御座います。寝台の上からでスミマセン!」
お腹を擦りながらペコリとオルガニックさんが頭を下げられる。ご無理をなさらないで良いのに。あっ、いつの間にかドヤ顔してるブライトニアが、オルガニックさんの頭によじ登ってるわ。
どういうバランスなの……?器用よね……。
「いやいや。取り敢えずオルガニック殿が思ったより精神ぶっ壊れて無くて良かった。流石にウサギ姫の伴侶は案外逞しい」
「えええええ未だ伴侶とちゃうですが!?ヒイイくすぐっちゃい!」
「ブムムバビ!」
……ええと、アルヴィエ様のご意見もどうなのかしら。いえ、オルガニックさんの神経がやられていなくて良かったのだけれど……。
「公爵、俺は報告に戻りますが公爵も陛下に呼ばれてます」
「へえ。アローディエンヌも行こっかあ」
「はあ!?何処にですの!?」
「陛下の所に決まってるじゃなあい」
「行きませんわよ!」
何でよ!?
お菓子屋さんに行こっかあ、みたいなノリ止めてくれる!?えー何で断るの?みたいな目で見てこないで!!
「いや何でですのよ!?だから私は謁見する地位は有りませんってば!!」
「んもお、ユール公爵夫人でしょお。地位なら高いじゃなあい」
「それは義兄さまに付随する地位ですけれど!?私個人には何もありませんし、お呼び出しもなく謁見なんて畏れ多いですわよ!!
さっさと行ってきてくださいな!」
「グガ!」
「ええー?アローディエンヌが行かないの?じゃああ、止めとこお」
「いやいや公爵!?陛下お待ちですからね!頼んますよ!?」
またゴネだした!!……さっきの光景再びって事かしら。
いい加減にして欲しいわ!?
「……やっと、行きましたわね……」
「義妹殿はいっつも大変だよな……」
うっ、サジュ様の労りのお言葉が嬉しいけれど地味に居たたまれない。
ちょっとバカップルだなー的な生温い視線も感じるわ。……くそう、そりゃそうよね!?
ええ、宥めすかして最後には……半ば怒るような形で、アルヴィエ様と行って貰ったわ。
後がとても面倒そうよね……。はあ。
「ゴメンね……ボクの不注意で皆にご迷惑を……。チラッとお医者さんから聞いたけど、フォーナも未だ見つかって無いんだよね?」
「ブフミャググ」
……お体のそこかしこを動き回るブライトニアを諦めたオルガニックさんが、私とサジュ様にお尋ねになられた。お、お疲れ気味よね。止められなくて本当に申し訳無いわ……。
「そーなんだよなー。先輩もイライラしてっから怖えーし」
「フォーナが心配ですのに、何も出来ませんのよね……」
「何かこう、ボクにフォーナのピンチ……いや危機でも汲み取れる能力でも開花すりゃいーんだけどね……」
ええ!?流石にサポートキャラに……そんな都合の良い……。いやでもサポートキャラは名前通りお助けキャラだものね。地味に私もだけどヒロイン消えたし。
私にはそういうサーチ能力が有ったとは到底思えないわね。
多分ロージアもこの世に居ないんでしょうけど……うーん、ロージアの名前も久々に思い出したわね。……やっぱり腹立つわ。
オルガニックさんには、そんな隠し能力をお待ちなのかしら。知らなかったけど……。
「人の危機をイチイチ感じ取ってたら、しんどそーだな。助けに行けるとも限らねーし」
「そ、それもそうですわね」
「取り敢えずそいつらの国?の奴等は捕まえてる。だけど口を割らねーんだよなー。聞き方が足んねーのかな?」
……ちょ、ちょおっと、うっすらだけれど寒いわね。何時も穏やかで爽やかなサジュ様の目が……。
……憤ってらっしゃるわよね。レルミッド様とも仲が宜しくていらっしゃるし、フォーナとも友好的でいらっしゃるもの。
「モギグア」
「ブライトニア……髪の毛をハミハミしないでくれるかなあ。洗われたとは言え、アラサーの頭部は絶望が近付いてる儚さで繊細でデリケートなんだよ!」
……き、気が抜けるわね。
て言うかさっきからオルガニックさんの髪をフンフンと嗅いで……くすぐったく無いのかしら。ブライトニアの感覚も謎よね……。
「モミャ」
「んん?ちょっと待てニック。何か頭に結ばってるぞ」
「はえん?」
「ギミャグギャ」
「薄着っ子、ちょっと退いててくれ」
「ブミャミ」
……サジュ様が近付かれたら、ブライトニアがその肩に乗って、私の方へ浮かんできた。
え、あれだけ執着してたオルガニックさんの頭を譲ったの!!
「……せ、成長したのねブライトニア。
嫌だわ、場違いにもちょっと感動しちゃった!」
「ブモン!」
思わず今は黒い垂れ耳を撫でくり回してしまったわ。
染料で染まっててもモフモフでツヤツヤな毛皮よね……。
「義妹殿も薄着っ子にダダ甘ーな……」
うっ、確かに褒める所じゃ無かったかも。
いやね、ティム様への不敬と良い……何か最近情緒が不安定と言うか不穏と言うか心の中がダダ漏れチックと言うか!!
何なのかしら。
……しっかりしなきゃならないわ!
「いや、アロンたんは優しーからねえ……。色味も違うから他の蝙蝠ウサギな感じに見えるね。いやん、ブライトニアを可愛がってるアロンたんガチカワユス」
「何言ってんのか半分以上分かんねーけど、取れたぜニック」
サジュ様の手には、緑色の……1m位有る……長いもの。
……オルガニックさんって、長い髪の毛をお持ちじゃないのに何なのかしら、あの紐?糸?の長さ。
あんなの何処に巻き付いてたの!?
「これ、魔力縄っぽいなー」
「にゃんですと魔力縄!?えっ、まさか時限で爆発的なアイテムなのん!?」
「ええ!?」
ああああああの誘拐犯達、何て物をオルガニックさんに仕掛けているのよ!?あああああ!だ、大丈夫なのかしら!?
サジュ様は軽ーくお持ちだけど、なななな何か有ったら!!
「いやこの細さじゃ無理だろ」
「グギャン」
「え、そなの?」
「フツー、こうブッ刺した奴の魔力を吸いとって丸太位に成長したらドカッと」
「爆発!?」
「いや、目茶苦茶重くなって刺した奴を押し潰す。木属性の魔術器具だな」
……そ、それも地味に嫌なアイテムね。
目茶苦茶力持ちならワンチャン有るかしら……。いやでも、頭に目茶苦茶重い丸太乗っけられる人も……早々居ないわよね。
「て言うかボクに結構刺さってた筈なんだけど、痛くも痒くも無かったよ。魔力、吸われて無いのかな」
「いや、コレなー。目茶苦茶魔力強い奴にしか効果ねーんだよ。でもそんな奴には刺せねーし気付かれんだろ?無駄だから廃れた器具の筈……」
それ、何に使うのかしら……。ボヤッとした気性の魔力の高い人への嫌がらせ用?
「つまり一般の方には役立たないんですのね。オルガニックさんがご無事で良かったですわ」
「ありあとーん!アロンたん!」
「ムブウ」
「うーむむむん、ボクの魔力チェック結果は神殿の健康診断で二年以上前だけど、レベル=凡人だから小枝いやヒョロ枝なのかにゃあ……。ロースペックがお役立ちとはコレイカタコ煮」
調子が戻ってこられたみたいね……。て言うか健康診断魔力チェックとか有るのか。神殿って企業みたいね……。
「ですが、敵の残していった物ですから手掛かりになりますわね!」
「ブミュガガ」
「……どー見ても緑に塗られた細ーい木の棒にしか見えないね……」
サジュ様に持って頂いてる棒……竹串の直径位の木の棒よね。どう見てもその辺に落ちてそうな枝……真っ直ぐなのを緑色にペイントした、みたいな。
……どういうメカニズムで刺さってたのか巻き付いてたのか……。さっきまで……というか今もだけど、普通の頭でいらしたわよね、オルガニックさん。魔法グッズは訳分からなさすぎる……。こういう所が長年住んでるのに異世界としか思えないわ……。
「しかし、木属性かー。パッといねーんだよなあ心当たり。誰か魔力の強い奴に聞くしかねーけど」
確かに……。
私とサジュ様と先程出ていかれたアルヴィエ様は水属性、ブライトニアは風属性。義兄さまとオルガニックさんは火属性。そして、土はルディ様。
見事に……誰も居ないな、気軽に聞けそうな方。
「ミーリヤ様は如何でしょう」
他国の方だけど、誠意を込めてお願いすれば駄目かしら。フォーナの恋も応援してくださったし、きっとお力かお知恵をお借りしたいわ。
そして、あわよくば素敵なお姿を拝見して、あの柔らかくて脱力系の甘ーいお声を久々にお聞きしたいなあ。
「あー、ダメだぜ義妹殿。今、他国の出入りは禁止されてっから。後、姫様……ユディト王女殿下が居て怖えーのに、ミーリヤ様まで来られたらかなりガチ怖え。耐えらんねー」
あ、そうよね。フォーナの件で、王都は厳しい規制がされているんだったわ。……ちょっと位……とかは無理よね……。多国間のバランスも有るし……。
……サジュ様のお顔の色が悪すぎる。髪の毛と同じ青なんだけど。そ、そんなにお嫌なの?
「だ、大丈夫?サジュ君、恐怖ダダ漏れでやんすよ……。ホントに苦手なんだね……。キレーだし優しーしお仕事出来るしガチ女神なのに」
「ガフ!?」
「寧ろ何でニックは平気なんだよ。大体悪魔も女神も怖えもんだろーが。アレは恐怖対象!」
……女神像は確かに畏怖する物みたいだけど、其処まで怖がらんでも。
余程の事がコレッデモンでお有りだったのね……。
「え、じゃあ……お力の有る木属性って、国王陛下ウォレム様か、ティミーしか居ないじゃん」
「「え」」
そ、そうだったわ。
お知り合いで、木属性。しかも実力者……なんだけど。
……今から陛下にお目通りする訳にもいかないし……。
「消去法でティム様……」
「マジかよ……」
「グブブア」
「……さっき帰ったよね……。も一度アポ取れるかにゃあ……。あの子、メッチャ気紛れだから」
「悪いけどよ、義妹殿かニック主導で話してくんね?あの方、イラつくんだよなあ……」
サジュ様が眼帯を抑えられて嫌そうになさっているわ……。……ふ、複雑でいらっしゃるわよね。
私も、得意な相手では決して無いのだけれど。ブライトニアの背中の毛皮と蝙蝠羽の境目を揉んでたら、ちょっと癒されるわね……。
「うん、フォーナの為だもんね……ボク、頑張るよ!兎に角お着替えして」
「ブミャグガガギギ!!」
え、何で急にジタバタしだすのよ!?さっきまで大人しかったのに!!
「ちょっとブライトニア!?何で急に怒りだすの!?」
「まさかフォーナの為とか的な嫉妬か?いや、お前の姉ちゃんの危機だろ!?」
「ブミミミイイイ!!」
「ぴえええ!?何!?何なのブライトニア!?」
「落ち着いてブライトニア!!大切な貴女のお姉さんなのよ!?オルガニックさんのご協力の何がいけないの!?」
「グゲゲゲ!!」
……今日、悪役令嬢のご機嫌取り多すぎじゃ無い!?
地味に、気軽に色々聞けそうな木属性は少ないのです。




