10.言うことを聞いた上で聞かない
お読み頂き有り難う御座います。
基本、悪役令嬢は好きなようにしか動きません。
「オルガニック、オルガニック!!どうして!?オルガニックーーーー!!」
「ごっほぁ……」
何故か差し込む光でキラキラ光る部屋の中、悲しげな叫び声が響いている。
ブライトニアが泣いているわ。
駆け寄りたいけれど、私の体はまるで岩になったかのように動かないの。
さっきから、必死に、動こうと……!!足を、動かし……浮いてる!!
「義兄さま!!離してくださいな!!何で居られますのよ!!」
何なのよさっきから!!抱え込むなあっ!!
お陰で廊下から一歩も動けないんだけど!!どうして邪魔をするのよ!!
ええ、結局着いてきたと言うか、オルガニックさんの寝ているお部屋の前で待ち構えてたのよこのひとは!!
さっきの騎士様がたの前で繰り広げられた茶番は、何だったの!?無駄恥をかいたの!?
「入らない方がいいよおアローディエンヌう」
「いや、ですから何でですのよ!」
「噎せてるじゃなあい蝋燭野郎。きっと風邪でも引いたんだよお、やだなあ気持ち悪い。早く死ぬべきだよねえ」
「何てこと仰いますのよ!!て言うか下ろしてくださいな!!」
た、確かに……さっき僅かに呻いてらしたけれど。大丈夫なのかしら。
「あー、寒い地下室に閉じ込められて血めっちゃ被ってだろ?寒いよなー」
「へー、騎士サジュ、見習い卒業したばかりで捕虜体験したこと有るの?早速捕まるとか鈍臭くない?何の為の訓練なんだか。むあ。なあにいアローディエンヌう。キスする?」
「何でですのよ!!しません!!」
「酷いよ痛いい!」
何ちゅう失礼のオンパレードなのよこのひとは!!思わず近寄ってきた口を叩いてしまったじゃないの!!
「ああもう義兄さま!!それに失礼致しましたサジュ様!!で、ですが捕虜になられたことがお有りなんですのね。辛い事を思い出させてしまって」
「あー違う違う。牛の出産って血とか色々被るから似たようなもんかなって。あ、捕虜演習は有ったけど家より気温が高いからなー。楽では無かったけど」
「え、牛の出産ですか……」
思ってたのとは違うわね。て言うか捕虜の演習ってあるのね。……何をどうするのかサッパリ見当がつかないのだけれど。
「サジュ坊は頑丈過ぎなんで全く参考になりませんけどね。捕虜演習は毎年数十人脱落する試練ですよ義妹姫」
「そ、そうですか。騎士様は大変なお役目ですものね」
アルヴィエ様のご口調からも、演習が厳しいみたいなのは分かったけれど。でも、厳しいそっちよりもハードとは……牛の出産のフォローって大変なのね……。
そりゃ出産現場なら血も色々被るし……それに命が掛かってるものね……。いや演習もそうか。
うーむ……比べる対象が少々ユニークよね、サジュ様ったら。いやそれよりも本当にオルガニックさんはお風邪なの!?ブライトニアがお腹の上に突撃したからじゃなくて!?
「軟弱だねどっちにしろ。たかがちょっと閉じこめられて毒を盛られて血を被った位で」
「いや結構に悲惨な事件でしたしょうが!体調を崩されるのは当たり前ですわ!」
あの時現場で目隠しされてたけど、かなりの事よね!!それをちょっとってどういう事!?相変わらず義兄さまは人の心が無いにも程がある!!
「俺ら騎士みたいに体力ねーだろーし風邪ぐらい引くって。ただ、オレは引いたことねーから医者呼んでくるしか分からねーけど」
「そ、それが最善だと思いますわ、サジュ様」
「ああオルガニックーーーー!!」
ブライトニアは目茶苦茶泣いてるけど……ベッドがガタガタ鳴ってるの大丈夫かなあ。
「フロプシー煩い。永遠の眠りに付かせてやろうか」
「止めてください義兄さま!と、兎に角お医者様を」
「いやもう手配してますよ義妹姫。て言うかさっきまで付かせてたんだけど何処行ったんだ」
お手洗いとか、それとも何か他の処置とかお食事の手配かしら。偶々席を外されたタイミングで私達が来たみたいね。まあ、見張りの騎士様がおられるから安全面には問題ない……わよね?
ボサッ、バサッ。
……んん?何?この服を脱ぎ捨てるみたいな音……。
「ブグゲゲ!!」
あっ、テンションが上がりきったのか、ブライトニアが蝙蝠ウサギ姿になっちゃった!
って、何でよ!あっ!しかもいつの間にかオルガニックさんの上に降り立ってる!!
「ちょっとブライトニア!具合の悪いオルガニックさんの上で跳ねちゃ駄目だったら!!」
「グゲギギギガガ!!ブア!」
「うぐお……被ダメ……モフグハッ」
す、凄いガラガラな声でオルガニックさんが呻いているわ……。絶対悪夢を見てお出でよね……。
「ガミ!?グブブゲゲ!!」
「おい薄着っ子!さすがに口に張り付いてたら死ぬぞ!!」
前足でオルガニックさんの顔をてしてし叩いてるけど……まあ可愛い和むわね……だけど駄目でしょうこれは。呻いておられるじゃないの!!
「ほら、いらっしゃいブライトニア!オルガニックさんを寝かせてあげましょう?」
「ムビググガ」
義兄さまに抱えられたままで目茶苦茶締まらないものの、腕を広げてみた。
「ね、ブライトニア……。今はもう少しゆっくりと寝かせて差し上げましょう。さっき目を覚まされたのは時期尚早だったのよ」
「ムビイ……」
あ、首を振るブライトニアの垂れ耳と蝙蝠羽がふよんふよん揺れてるわ。ショボンとしてる。
蝙蝠ウサギの姿だと、染料が取れきらない場所が顕著ね。薄茶色にほんのり黒みが掛かってて、耳だけ黒いわ。可愛いな。
スンスン鼻を鳴らしてる姿だけ見ると別人いや別ウサギみたい。ああ、オルガニックさんがお辛いのが悲しくて元気が無いのね……。
「それに蝙蝠ウサギになる位ブライトニアも疲れたんじゃないかしら?気を張っていたものね」
「ブモブビギギガガ」
返事が何言ってるか分からないけど、気落ちしてる鳴き声ね。
「フロプシーなんて摘まみ出して棄てればいいよお」
「いやアレッキオ卿、フツーに無理だろ」
「騎士サジュなら出来るでしょ。ホラ、掴んで海中にでも棄ててきて。昼食好きなものを奢ってやるから」
「え?好きなモン?っていやいやいや!!一応薄着っ子は国賓だろ!ニックもだけどよ」
「ブガガガ!!」
「あれ、アレッキオの執務室に缶詰になってるアローディエンヌじゃありませんか。へー、出てこれたんですね」
……うっ、この暗めの美声にチェンジされた割に落ち着かないお声は……。義兄さまで隠れて見えないけど、間違いなくティム様でいらっしゃるわ。
何で此処に……いや、ご実家だしこういう騒ぎには面白がって来られるご気性をお持ちよね。
「今日はアローディエンヌにアレッキオ、お久しぶりですね。サジュ君も。ああ、騎士ロナウド・アルヴィエ迄」
「うっわ……ティム様。ご、ご機嫌麗しゅうだっけか」
「おいサジュ坊、ちゃんとしろよ」
「何ティミー、それが光と闇の神子殿?」
……誰それ。いや、それ呼ばわりは酷いわね。
て言うか何その厨二ネームは。
誰か他にも居られるのかしら?うう、背伸びしてと義兄さまが邪魔で見え辛い……。
「ハイ、ユール公爵。他の方々も初めまして。ティム様の妃シャロットで御座います」
「「ええ!?」」
……あっ、そう言えばご結婚なさってたんだった!!
えーと、コレッデモン王国の女性と!!よね!?
うわーどうしよう!!初対面で義兄さまに抱っこってアホの極みでバカップルじゃないの!!何て感じ悪い事に!!
「下ろしてくださいアレッキオ!ああ、妃殿下に御無礼を働きましたことをお許しくださいませ」
「え、僕には良いんですかアローディエンヌ。シャロットのより偉いのは僕の方なんですけど」
「そ、それはそうですけれど……お久しぶりで御座います、ティム様。このような姿でお目もじすることをお許し願えますでしょうか」
さっきから腕をバンバン叩いても義兄さまは下ろさないし!!ああもう!!
「ええどうぞ許しますよ。いやあ嬉しいなあ。親近感を持ってくれてるんですよね?どんどんどうぞ」
「うっわ……」
「サジュ坊」
「スンマセン」
しかもサジュ様にとばっちりを……。
「ほ、本当に申し訳御座いません。サジュ様も」
「何でアローディエンヌが謝るの。
別に御無礼なんてしてないし、してた所でどうでも良いじゃなあい。どうせ非公式だよお。でもバタバタするアローディエンヌ可愛い」
「ブミッ!!」
あっ、急にブライトニアが飛んできた!!
あれ?
え、バシって!?何か鳴ったけど何!!うわ、イヤーカフとかがしゃりんしゃりんする!!何か火花がまた飛んでるし!?何!?
「っ!!フロプシー!!」
「……やりますねえフィオール・ブライトニア。不意打ちであのアレッキオに蹴りを繰り出すとは」
「スゲーなしかも当たったな。音波振動スゲーな。咄嗟に衝撃殺した結界ぽいのもスゲーけど」
「グググバミガガガ!!」
「フロプシー、お前、よくもこの俺を蹴ったな」
……全く私には何も分からなかったけど、音もなく飛んできたブライトニアが義兄さまの肩を蹴ったみたい。……音波振動アリってことは、ビリってしたのかしら。周りのエフェクトは派手だけど、全く何も感じなかった……。どんだけ鈍いの私ったら。
「ハイハイハイ!!頼みますから病人の前で揉めないでくださいよお子様達!!ティミー様はお妃連れで何をしに此方へ!?言っておきますが公爵もウサギ姫も機嫌悪いから危険地帯ですよ!」
ひ、否定出来ないわね……。あああもう、何か火花と……何かしらこれ、ブライトニアの薄茶色の毛皮にキラキラした粉が付いてるわ。さっきの床のキラキラって、もしかしてこれ?細かいなあ。ラメか何か?いやでも、何故病室にラメが飛ぶの……。何の粉なのこれ。
「義兄さま、ブライトニア!お平らになさってくださいな!」
と、取り敢えず空中で浮いてるブライトニアに手を伸ばして抱っこして、もう片方の手で義兄さまの胸を叩いてみたけど……。
「だってえ!フロプシーに暴力を振るわれたんだよお!?私刑でいいよお!!」
……もう!人の頭に頭に鼻を擦り付けて来て、イラッとするわ義兄さま!しかも私刑って何よ!目茶苦茶酷いことをしそうね!?ああもう!
「はあ!?止めてくださいな!義兄さまが酷いことを仰るからでしょう!?ブライトニアも暴力に走っては駄目じゃないの!」
「ブグウ!」
「だってえ!フロプシーが全面的に悪いもん!」
叱ったら、ブライトニアは鼻を鳴らしてフイって顔を背けちゃったけど、取り敢えず振動と火花は弱まったかしら
義兄さまはイマイチ反省してないわね。ムクレてるし。
ああもう、腹の立つ!
「あはは、アローディエンヌの言う通りですよ。平和が一番です」
「うっわ、胡散臭え……」
サジュ様のお声が心底お嫌そうね……。分かるけれど。
「ええ?酷いなあ。シャロットが師匠の役に立つかと思って連れてきたんですよ?」
「僭越ながら、毒消しをお届けに参りました」
「まあ、オルガニックさんの為に」
毒消し!そんなものがあるのね。
……し、しかしよく見えないな……。ティム様のお妃様を見てみたいのに。どんな方なのかしら。コレッデモンの方だとは聞いたけど……。
「解毒なんて専門家でも面倒なのに、何で毒の種類が分かる訳?お前また敵とグルなの?」
「あはは、信用ないですねえ」
「ググギ……ガギ!」
お、お振るまいが相変わらず軽いなあ。こういうノリも有って、微妙に信用出来辛いのよねえ……ティム様。
……ブライトニアまで前足をシッシッて追い払う感じです振ってるわ。
「心配しなくても、ニック師匠の不遇を憂いている不肖の弟子なんですよ、僕は」
「以前に闇属性の保存術で保管したことのある毒の術後の姿だと判明しましたので、解毒薬をお持ちしました」
……魔術の事は未だよく分からないけれど……。闇の保存術って何だったかしら。えーと、結構長く保存出来るけど取り出したら壊れるんだったかしら?
……イメージが全く湧いてこないわね。
「まあ、医者に見せてからオルガニック殿に投与して貰いますよ、ティム様」
「そうしてあげてください。それに、フォーナも心配ですよねえ」
「ティム様はフォーナの連れ去り先に何かお心当たりは」
「僕、小さい頃から抜け出してソーレミタイナによく行ってましたからねえ。国内には目茶苦茶疎いんですよアハハハハ」
わ、笑い事じゃないのに。腹立つなあ。
「拐ったであろう彼等も外国人です。……国内には疎いでしょうから詳しい者を抱き込んだんでしょうねえ」
「まあ、聞き込んだ所で証拠がなきゃ知らばっくれるだけだしね」
「先輩が目茶苦茶凹んでんだから、デケー声で言うなよアレッキオ卿」
「へー、そうなの。揶揄いに行ってトドメ刺してこよう」
ちょ、はあ!?何て事しに行こうとするのよ!!
「駄目ですわよ義兄さま!!」
「えー」
「えーじゃないでしょう!」
「だってえ。アローディエンヌの優しさにつけ込んで犯罪捜査に協力なんておかしいじゃなあい!友達ヅラしたショーンは勝手にやりゃあいいけど!拉致されようが全く惜しくない!」
「ガガガガブガッ!!」
「義兄さま!!」
「そうだ、ティミーが綿毛神官を助けなよ。どうせこの件が終わるまで流刑先に返されないでしょ。アローディエンヌが巻き込まれて大変なんだから」
……いや、私なんて全く何の大変も味わっていないのだけれど。髪の毛が多少赤くなった位で……しかも何の役にも立たなかったし。
今、そういや黄色めのニンジンくらいの色落ち加減になってるわね。つまり大して変わりないってこと。明日には多分元の地味ーな灰色がかった黄色だと思うわ……。
って、私の頭なんてどうでもいいな!何ですって!?
「僕が関わって良いんですか?へえー」
「って流刑先ってヒデーなオイ!アレッキオ卿!先輩の実家だぞ!」
「だからだけど」
いや、サジュ様が呆れられた、それもだけれど!!それよりも、ティム様が関わられるって、駄目なんじゃないの!?
「ティム様がフォーナの捜索に関わられる!?何をされるか分かりませんのに!?」
「い、義妹姫が失言するのは珍しいですね……」
しまった!!思わず口を押さえたけどもう遅い!!アルヴィエ様のご指摘通り失言してしまった!!あああどうしよう!!
「フニャブフ」
……って、腕の中のブライトニアが欠伸してるわ……。気が抜けるなあ!いえ謝らないと!!
「申し訳御座いません!!つい不安が」
「いえいえ。アローディエンヌが失言する程心を許してくれてるってことですし」
「……お詫び申し上げます」
……いや、気を許した覚えは全くないのだけれど。其処までズケズケ言えないわね……。しかも普通に謝れないのがまた!!
「ティミー、調子に乗るなら燃やすよ」
「ぐえ!?アレッキオ!」
「ブフウ!!」
何で義兄さまは此処で抱き込んでくるのよ苦しい!!じたばたする訳にもいかないし!!どうしたらみっともなくなるの!?
「まあ、僕には大して伝手は有りませんしねえ。友人の無事を祈るだけにしておきますよ。兄上様とレルミッドに恨まれたくないのでね。
行きますよ、シャロット。」
……あ、歩いて行かれたっぽいわ……。
……何だったの。本当に毒気の強い方ね……。
「……ティミー、性格ガチヒドス……」
「ブミミミミミイイイイ!!」
ああ。ブライトニアがロケットスタートのように、ぼやいてお目覚めになったオルガニックさんに……突っ込んで行くのを止められなかったわ……。
今の鳴き声はきっと『オルガニックーーー!!』よね。
どうやらニックは狸寝入りだったようですね。




