4.救出への計画を
お読み頂き有り難う御座います。
未だモメておりますね。
「そ、そういう面も有って、色々分かり有ってるのよね?ブライトニア……」
どうフォローしたもんなの……。
我ながら嘘臭すぎて何言ってるんだか、意味不明すぎるわ。
「ふーん、フロプシーも中々見てるね。同意してやってもいいよ」
「義兄さま!?」
「まあ、花咲か令嬢を持ち出してショーンを焚き付ける手は悪辣でいいんじゃないの?」
「えっ」
「ミリアーナ・ダンタルシュターヴ嬢を模倣されて嬉しい存在じゃ無くなったんでしょ。良かったね、ショーン。恋多き王子が恋を知ったってやつ?わあ、気持ち悪い」
「お前の模倣が溢れている方が気持ち悪いぞ」
「……どういうこった?」
レルミッド様が訝しげに義兄さまを睨んでおられるわ。
私も判らないのだれけど。首を捻ろうにも……背後の義兄さまが邪魔ね……。て言うか義兄さまの模倣って溢れているの?コスプレ……ではなくてファッションリーダー的な?
うーむ、……確かに気分は良くないわね。ちょっとイラッとするわ。
「つまりねえアローディエンヌう。フロプシーは、鳥番が関わる以外にやる気の無いショーンを焚き付けたってこと。色々ウロウロ浮かび回ってね」
「浮かび……いや、そうなんでしょうけれど何だか違いません?」
確かに蝙蝠ウサギ姿だと飛んでるっていうより、ふわっと浮かんでるけど……何だか表現がしっくり来ないわね。
……ホバリングでもないから、確かに忙しく動き回ってるイメージは無いけれど。
……そういやあんまりブライトニアって走らないわね。あんなに動きは……殴る蹴るに関してはアクティブなのに。
皇女様だからかしら。
寧ろフォーナの方が走り回っているわね……。ああ、フォーナは無事なのかしら……。音沙汰がサッパリ無くて心配だわ……。
「淑女として触りだけはマデルに交渉術を学んでよ」
「マデルも要らんことをするんだぞ」
ルディ様が苦々しげだわ……。これは、ブライトニアの成長を喜んで良いのか微妙な所ね……。
いや確かに物を壊す脳筋プレイじゃなくて理知的にスマートになってくれるのは良いことなんだけれど。
……見た目通りのフワッとしたフロプシーなブライトニアでいて欲しいような……いや、フロプシーがフワッとした感じで居たことなんて……寝てる時以外無かったわね。起こさないようにフワフワな背中と蝙蝠羽と尻尾を眺めたもんだったわ……。
悪役令嬢への美化が酷いな。こんなに一緒に居るのに妄想が過ぎるわね、私ったら。
「それで、大口を叩くからにはオルガニックを安全に救うコツが有るんでしょうね!?」
「は?一回目でコツも何も生まれる訳無いだろ、物知らずフロプシー。大体蝋燭野郎と綿毛神官に安全とか勿体なさ過ぎだしどうでもいい」
「アァ!?んだとコラァ!?」
って、ひとがボケッとしてる間にまた諍いが!!
「大体ひとに計画をお願いするからには下手に出ろ。失敗しても責めない心掛けが必要だろうが」
「いやそれ義兄さまが仰る科白じゃ有りませんわよね!?フォーナもゆくゆくは陛下のご親戚で、大体、オルガニックさんは国賓ですわよ!!」
「ふうんだ!陛下の親戚なら僕がそうだしい!あんなの並みいる貧相な厄介客の最下層じゃなあい!!」
「何て事を仰いますの!!レルミッド様とブライトニアの大事な方ですのよ!
大体、義兄さまは誘拐救出の指揮を取ってくださらないのに皆様を怒らせて!
邪魔をされるなら後で迎えに行きますから、おひとりで帰ってください!!」
「……」
あ、黙ってくださった。
……あら?
……何だか、回りもシーンとしちゃったてる……わ。
何時ものように……いえ、何時もより強めに公爵を叱り付けたのが行けなかった!?大して出てないと思ってたけど、声のデカさで引かれたの!?え、どうしよう。
ん、何だか後頭部が冷たい。
「アローディエンヌ酷いいいい!」
「はあ!?……泣く程ですの!?」
「アローディエンヌが居て良かったな。アレキがしてやられるのを見るのは健康にいいんだぞ」
「全くね、同意してやってよルディ」
え、健康に……?そ、そんな馬鹿な。いえ、そんな晴れ晴れしたお顔を向けられても……。しかし、久々に見たわね、ブライトニアのニヤリって嗤う顔……。
「いやお前ら性格悪ぃな!!て言うか本気で泣く所か!?お前散々言いたい放題言っててそれかよ!?」
「鳥番煩い」
「嘘泣きか!?」
「アローディエンヌの意地悪ううう!!」
……いや、これは、ガチ泣きね。
何で泣くのよ……。え、私が悪いの?
いや襟に鼻を擦り付けないで欲しいんだけれど!!
「……まあ、結局陛下から秘密裏に救えとは言われてるけど」
「オッサンから言われてんのかよ!!ならちゃんとしろや!」
「馬鹿なの鳥番。会議は紛糾させてこそ暇潰しに値するんだろ」
……鼻声で酷い事を言ってるんだけれど、さっきの大泣きが胸に刺さってしまって強く突っ込めない……。
「それで?アレキの意見を聞いてやる。囮にアレッキアにでもなってくれたら放り込むが?」
「……通りだけじゃ無くて街全体が消し炭になるだろーが、ルディ」
「僭越ながら、私も同意見ですわ……」
……義姉さまを囮に……。
考えただけで恐ろしいことを仰るわ、ルディ様……。
……確かに、私がよく知らない希少スキルをバカスカお持ちでしょうし、何せこの美しさだしなあ。
……ひとの後ろでグズついてるけれど。
囮になって、人質を救出……しそうにないわね、義姉さま……。絵面は映えるとは思うけれど、悲惨な展開しか思い浮かばないわね……。
「アローディエンヌう!私を心配してくれるんだねえ!?」
「いや、別の意味で心配ですのよ……」
「ふん、勘違い出来る頭って幸せね馬鹿兄貴!」
「煩いよフロプシー!」
「……義兄さま、ご機嫌を直されたなら少しは考えてくださいませんの?お力を貸してくださいな」
「ええー?此処に居る面子でえ?
じゃあ先ずフロプシーが地下室の有る家を探せば?」
「地下室?」
「土属性で金銭にご苦労様されてないショーン王子殿下には、判らないだろうけど」
「僕に金銭を自由に遣う暇なんて無かったが」
「平民が地下室を作るなんて、かなりの財産を擲つ事なんだよね。王子には考えも及ばないような」
「イチイチ突っかかんなや」
「大体お前も金銭に苦労してなくてよ」
「俺は自分の才覚で増やしてるだけ。お前らと一緒にしないでくれる?」
うっ、レルミッド様からの視線が痛いわ……。すみません……。
「……義兄さまの才覚が素晴らしいのは存じてます」
「偉いい?」
うっ、頭に顔を擦り付けないで欲しいわ……。伴侶とは言え、旋毛の臭いを嗅がれたくない……。モブの私からは単なる汗と脂しか排出されないし、いい匂いなんてしないんだってば!!
……どうでもいいけど、さっきからこの身長差で中腰辛くないのかしら義兄さま。
「何時もシアンディーヌや使用人達と平和に暮らせるのは義兄さまのお陰ですわ。感謝してます」
「アローディエンヌううう!!」
「ぎゃあっ!!」
だ、抱き上げるなあっ!!何なのよこの頃!!義兄さまはヒョイヒョイ抱き上げすぎじゃないの!?恥ずかしい!!
「……なあルディ。コレ最後までアレキちゃんの話聞かなきゃなんねえ?義妹とイチャつきたいだけなのによ」
「いや、もう分かった」
「えっ!?ルディ様はお分かりに!?」
な、何て察しの良さなの!?一体今ので何がお分かりになるの!?
って言うか地下室を探せって言う……ミステリーの出だしの不親切なヒントみたいな話を、嫌味だらけで言われただけよね!?
何で地下室!?
「意味が分からなくてよ」
「つまり、南の通り沿いの地下室の有る家を薄着の皇女が探せばいい。ニックが閉じ込められているのは、床が煉瓦で壁が土なのだろう?
平民がそうそう作れるものではないのなら、地下室を持つ家は少ないだろうからな」
「まあ!」
……成程!!
そう言えばブライトニアは音波振動で、空洞が探せたわ!!
それからオルガニックさんも探せる!!
……って、頬擦りしてくる義兄さまで気が散るな!!
「それならオルガニックを安全に探せるわね!」
「おい、フォーナは探せんのか?フロプシー」
「駄姉?駄姉の気配なんてどうでも良くてよ。あたくしの記憶はあたくしの思うが儘に遣うのだから余剰は無いわ」
「おい!!だったら意味がねーだろうが!!」
「まあ、どの道騎士団が警備強化している上に、許可が無ければ王都からは出られん」
……あ、そうだったわね。
王都って、簡単に入れるけど……王族の許可が無いと出られないんだったわ……。少し本を読んで勉強はしたけれど難しすぎて……詳細は分からない。古代の結界利用がどうとか、だったかしら。ゲームに出てきてた表沙汰っぽい以外のシステムが多すぎるわ……。
不便なようで、安全……?変わったシステムね……。
……分からないことで溢れすぎよ。知ったかぶりしてた過去が恥ずかしいわ。
「捕まえてフォーナの居場所を吐かせよう。模倣の件もな」
……ルディ様の表情が、キラキラの笑顔なのに怖いわ……。
ゲームではこんなキャラだと思わなかったものね。サジュ様も少し違うけれど……概ね気のいい方だし。
あ、レルミッド様も目茶苦茶違うわね。
……キャラ通りなのって義兄さま位じゃないかしら。
「僕、凄い?アローディエンヌう」
「……ええ、凄いですわね」
何だか、言いようの無い目の前の赤い髪の毛をワシャワシャ掻き回してしまった。……義兄さまの体温が移った髪は……いい匂いが漂ってきて、指触りがフワフワしている。
私も大分掛け離れて違うものね……。まさか伴侶だなんて、未だに意味が分からないわ。
……おとなしく撫でられてるのが何だか……こっち迄くすぐったいわね。
「ふふう、アローディエンヌに褒められちゃったあ!」
「アロン、馬鹿兄貴を甘やかすのはやめなさい。あたくしを撫でるべきよ」
うっ!!
またルディ様とレルミッド様から呆れたような目線が!!
しまった!!
「義兄さま、お話を詰めなければ。下ろしてくださいませ」
うっ、結構力を込めて肩をベシベシ叩いてるのに、ペシペシしか鳴らない!!ビクともしない!!
「やだあ。アローディエンヌは僕を労らないとやだあ」
「……お前は話を放棄して、ルディが殆ど話していたじゃなくて。図々しい馬鹿兄貴ね」
「よ、よく考えるとそうよね……」
「酷おいアローディエンヌう!僕、前に調べたのにい!」
「まあいい。それで、薄着の皇女は変装せねばな」
「あたくし?何故。馬鹿兄貴やルディみたいに派手な容姿はしてなくてよ」
「確かにおふたりの色味は華やかだわ。でも、ブライトニアも充分個性的で素敵だけど、目につく容姿なのよ」
薄茶から黒へのグラデ髪だしなあ。
余所で見たこと無いわ。
「適当な染料で髪の色だけ変えれば印象は変わる。鬘でも良いが用意がない」
何でも外のお部屋に染色の用意をさせた使用人を控えさせてるみたい……。
いつの間に手配なさったのかしら。仕事が高速過ぎてらっしゃるわね……。
「面倒ね。アロンもやるの?」
「え、私?私も染めるの?」
間違いなく背景に溶け込めるんだけど……私も変装が必要かしら。フードとかで良さそうなんだけど。
「ええ。アロンとお揃いなら良くてよ。あたくしの身内みたいなものだし」
「お前とアローディエンヌは単なる他人だよ。ペットの癖に図々しいなフロプシー」
「煩えな。だったらお前の派手な赤毛も変えたらいーだろーが」
「……ふん?じゃあアローディエンヌの色」
え、何で?レルミッド様のお言葉は利にかなってるけど、私の色?
「は?この地味な灰色がかった黄色にですか?
……損なうんじゃないですかしら、色々と」
主に美貌とか。……想像が付かないな。地味色の義兄さま。
「アローディエンヌの色が僕を損なうなんて有り得ないよ。じゃあ帰ろうアローディエンヌ。偶には違う装いも可愛いかも」
「いやそういうお洒落の為ではなくて……おふたりの救出の為なんですのよ!?」
本来の目的分かってるの!?折角纏まったのに!!
……でも義兄さまは聴かなくて……結局、夜にまた集合って事になってしまった……。
「王城なんかで服を脱ぐ気になれないよ。気持ち悪い。自邸に限る」
「いや、言い方!」
確かに濡れるかもしれないから服は脱ぐかもだけど、如何わしいわね!!……あ、でもそういう可能性もあるのか。
抑えてるとはいえ、無差別魅了が耐性の無い使用人に効いたりしたら……義兄さまが、傷つく。そして使用人も危ないわね。
「分かりました。一旦自邸に戻ります。染まり次第直ぐに戻りますので」
「アローディエンヌが言うなら仕方有るまいな」
「アロン、赤はやめなさい。あたくしオルガニックのクリーム色が良いわ」
「色を抜くのは時間が掛かる。却下だな。濃い色にしろ」
「面倒ね……」
……そういう問題もあるのか。じゃあ私の色の義兄さまは無理ね。
「じゃあ義兄さまは濃い色ですわね」
「明日でもいいのにい」
「いや良くないですから!!」
兎に角、急がなきゃ。
全員彷徨くタイプなので、街中で顔が知られてるようです。果たして髪の染色ぐらいで何とかなるのでしょうか。
 




