6.穏便に生きたい者達(レルミッド目線)
新年あけまして初投稿になります。お読み頂き有り難う御座います。色んな思惑が交錯するドゥッカーノ王城にてお送り致します。
「ハアアアアア!?」
何で俺が、徴呪章院で働かなきゃなんねえんだよ!?
全く呪いに興味ねーのに!!使う気もしねーし!!
「………鳥番が?鳥の世話と呪いの世話まで?ハッ、何それ」
「人手不足なんですよ公爵。レルミッドもそろそろ成人だろう、働いてくれ」
「つか、俺は来たくて来たとでも思ってんのか!?つか今鳥の世話させられてんだろーが!!」
「そうだぞ陛下。レルミッドは草原から遥々僕に会いたくて来てくれたんだぞ。余計な仕事を押し付けるとはどういうことだ」
「……いや、俺は父ちゃんに無理矢理来させられただけだが」
「傑作。お前の為じゃ無いってさ。馬鹿ショーン」
「他の思惑はどうでもいいが、僕の為だし問題ない」
意味が分からねえ。確かにあの頃はルディは心配だったが違うっつーの。
しかも何時の間にかルディの背中に庇われてるが、何で野郎に庇われなきゃなんねーんだ。
別に庇わなくていいっつーの。タッパの差が腹立つな。
俺はルディの背中を押し除けようと……くそっ、動かねえな!!
「退けルディ!理由を聞かせて貰おうかオッサン!?」
「元々あそこは王族と神殿関係者が2人で管理する所……だったようだ。資料が碌に残って居なかったが」
「それと俺と何の関係が」
「……レルミッド、王族は今私とお前達しかおらん。そしてあそこは危険な徴が保管されている。使えるのは王族だけだが……」
オッサンがアレキちゃんに目をやってるが、本人は無視してシアンの顔をハンカチで拭いてやがる。
「……つまりだ、アレキちゃんに勝手に使わせんなってことか?」
「……アレッキオだけじゃなくてな」
……俺の頭上を見んな。タッパの差がムカつく。
ああ、ルディだな。それとティムの奴。
コイツラが要らん事しねーように、守れってか?
「……お前しかおらんだろう。適正に管理できそうなのは。王位も固辞するし」
「固辞じゃ無くてガチ嫌がってんだよ」
「じゃあいいだろ。学園での成績は良かったと聞くぞ。しかも徴呪章院は王城に近い。何か有ったら呼び出せるし素晴らしい職場だろう」
「ふざけんなオッサン共」
「心配せずとも、もう1人適任者に頼もうかと思っている」
「……ちょっと待ってください」
あん?シカトしてたんじゃなかったのか?
何でアレキちゃんがこっち睨んでんだ?また火花散ってるしよ……。
「陛下。……まさか、俺のアローディエンヌをもう一人の長にする気じゃないでしょうね?」
「ええ!?義妹殿をか!?何で?」
「義妹って……アロンさん!?です?」
「ハア?」
「あきゃ?」
何で義妹?
……オッサンはさっき何て言ったか。
『王族』と、『神殿関係者』。
腹立つが俺が『王族』で……『神殿関係者』は……義妹か?
『神官』の孫娘、のアイツが……?
いや、まあ……世間知らずのお嬢の割にマトモだが、アイツを城に上げて仕事させろって?
俺もだが出来んのか?
「ハア?大体アイツ、今神殿と関係ねーだろ!?」
「全く、鳥番の言う通りです。大体他の貴族共にはどうご説明する気で?『王女ローリラ』の愚行をご披露なさるつもりですか?」
「そうしようと思っている」
「態々波風を立てて?」
「……波風を立てずに此処まで歪んだんだ。私だって、穏便に生きたいし穏便な状況で妻を迎えたい。だが、この状況下では無理だ。その為になら仕方あるまい」
「アローディエンヌを巻き込むな!!」
どん、って音がしたが何だ?
……?
あれ?………オッサンの顔色が悪いよーな気がすんな、と思ったら背後の壁が溶けてた。
…………。溶け?
オイ……。
マジかよ。爆発もさせずに石を溶かした?どういう事だ。ブッスブス鳴ってるぞ、石が。
……石溶かしたのか、アイツ。
外の庭からの風がフツーに入って来てるしよ。
「……まあ、まだ被害が少ない方か」
「デインのオッサン……」
「まあ、聞いて下さい公爵」
「誰が聞くか!!!俺は帰る!!」
アレキちゃんは物凄い勢いで俺らの前を横切り、溶かした壁と庭に踏み込んだ、と思ったら消えてた。
……転移魔術な。
よくあの怒り狂った状況で練れんな、魔力。普通それこそ基礎なんて頭からブッ飛びそうなもんだが。
「……へ、陛下……お怪我は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ……。……アレッキオの魔力は凄まじいな……」
「此処、一応魔術封じの部屋なんですけどね。アレッキオとレルミッドには役に立ちませんでした」
「ほう、使いにくいとは思っていたがそうだったのか」
……アレキちゃんにキレて床揺らしてた奴に言われてもな。つか魔術封じしても役に立たねえとかどういうことだよ。俺にも効かねえってのも気色悪いし。椅子のせいだろーなあ。
「……相変わらず規格外だな、先輩」
「待て、何で俺見んだ」
「しかし……公爵の機嫌を損ねてしまいましたね。此れでは中々公爵夫人に接触しづらいでしょう。まあ、レルミッドが居るからいいですが」
「待てやデインのオッサン。俺はやるとは言ってねえ」
「ではレルミッド。お前はルカリウム一族として生きると?」
「それ以外に何が有る?」
「僕もルカリウム一族として生きたいぞ」
「ルディ様は無理だろ……」
「ショーン殿下はお後でお願いします。フォーナ嬢の立場を揺ぎ無く固めたいとは思わないのか?」
フォーナ?
頭に冷や水を被せられたような気がした。
……フォーナの立場?俺は守れねえって言いたいのか!?
「………俺がフォーナを守れねえって?」
「今の立場ならな。君は未だアルヴィエ家に守られるべきお子様お孫様だから、貴家の庇護下に有る。だが、成人したらどうかな?立場の弱い元皇女様を守るには、ただのルカリウム一族としては弱いと思わないか?」
「……」
確かに、だ。
俺には何の社会的立場も無い。
ルカリウム一族では、守れない?
……草原に連れてって、フォーナと暮らすのは、無理……?
「すまないな、私はディマと違って狡い大人なんだ。私も私の妻と穏便に生きていきたいから、未来に大人になる奴へ無茶振りも出来る」
「チェネレ団長……」
「大人は近いぞお子様達。良い決断を聞かせて欲しい。では、解散しよう」
……殆ど変わらねえ表情を、僅かに歪めたデインのオッサン。
知ってる奴の、底知れぬ何かに……背筋が冷たくなった。
「………」
「先輩、兎に角……ロナウド様に相談してみたらどうだ?アルヴィエ侯爵様も先輩にはいんじゃねえか」
「………ああ」
「あの、えっと………わた、私のせいです。よね。すみません」
「…………」
サジュの後ろのレッカが謝ってきたが、返事する気になれなかった。
コイツのせいじゃねーが、王城に来ることになったのはコイツのせいだしな。
「つまり、陛下は僕とアレキの力を相殺……は無理だから削ぎたい訳だな」
「アァン?」
「徴呪章院にレルミッドとアローディエンヌが席を置いていれば、悪用はしまいと。成る程な、考えたものだ」
「何で悪用しないって分かんだよ」
「責任の所在がお前らになるからだぞ。ふむ、放置するよりも組み込めと。凝り固まる老いた者も僅か、己の利権に貪欲な生き残り共もティムが片付けたし、通しやすくはなったのだな」
「ティミー……が。ですか。あの子、私には悪い子じゃない、です、でした」
やけにティムの肩持つな、コイツ。
「ふむ?ティムが?意外とレッカには高い評価なのが驚きだな。祖父や親は抜きにしても、あれも君の親に虐げられて君を恨んでいる者の1人なんだが?」
「!!」
「ルディ様、あんまそれは……」
「僕以上に言う者も出てくるだろうな。言論統制したところで無駄だ」
「アンタが言えば余計図に乗る奴も出るだろーが!」
「そうは言うが、最早近隣諸国には漏れているだろう。暢気なのはウチの日和見貴族共のみだな」
イラついてきたサジュにもルディの笑顔は変わらねえ。
段々メンチの切り合いみたいになってきたな。
「此れがお前と姉のご親切の経過だぞ?サジュ・バルトロイズ。投げ出すか?」
「投げ出さねーよ」
「そうか、よく言った。では徴探しを頑張らねばな。明日、8時に徴呪章院に集合だぞ」
「え?」
「何だ?レッカに徴を捺すんだろうが。止めるのか?」
「い、いやいや止めねえよ!!つか何だよその切り替え具合!!」
「僕は何時もこんなものだが?」
「そーだけどよ!!」
「あ、有り難う御座いますルディ様!私、頑張ります!」
レッカがお辞儀した途端、目深に被った派手な帽子が捲れた。
アァ?何か、違うか?
「ああ、レッカは来ずともいい。バルトロイズ家で大人しくしておけ」
「………な、何だよ急に……。ルディ様の気まぐれっちゃあそーだけど」
………いや、何が違うか分からねえ。
でも、ルディは基本掴めねえ野郎だが、レッカへの目は違った。
………あれに向けてた目と似てた。あの、薄赤い髪のブスに向けてた目と……。
んで、レッカも……何だあの違和感。あの薄赤い目……。
サジュがレッカを連れて帰ってくのをボーッと見てたら、ルディがボソッと何か言った。
「どした、ルディ」
「あれも同じだな」
「アア?」
「あのまま放っておくと、ロージア・ハイトドローと同じに染まる」
「ハア!?」
「レッカの目がおかしい。最初は僕に怯えていたのに、あの目は何だ?」
「目?」
「薄赤く無かったか?レッカの目は、濃い茶色だったぞ」
そうだ。そうだよ。違和感だ。
レッカの目の色がおかしかったんだな。
「確かに……」
「1/4でも本質は変わらんのか。魂の方が歪めに来ているのか。早々にスキルは封じた方が良かろう。手遅れかもしれんがやらんよりマシだ」
「魂が歪めに来てる?」
「仮定だが、『僕達』と関わると本来の質が出てきやすいのかもしれん。」
「……………ハア!?」
俺らと関わると!?どういうことだよ!?
「正確には僕達に流れる祖父の血に反応しているのかもしれん。フォーナの姉を覚えているか?ファーレン・カリメラを」
「この間母ちゃんが連れてっただろーが」
「僕達と顔を会わさんと、それはそれは品行方正だったらしいぞ」
「そりゃあんだけ糾弾されてんなら大人しくもなんだろ」
「伯母上も同意見だ。流石に親子だな」
ふざけてんのかコイツは。微笑ましい目で見んなボケ。
「まあ、あの被害妄想加減と見て見ぬふりは人として害悪だがな。アレキの捺させた『まめしい傍仕え』が今は効いているようだ」
「まあどーでもいーけどよ」
「そうだな。取り敢えず彼女の尊い犠牲のお陰で色々な事が分かった」
「ふーん」
「フォーナに伝えておいてくれ。その内放逐すると」
「…………ハア!?」
「どうした?」
いやどーしたじゃねーよ!!サラッととんでもねー事を!!
「フォーナの姉ちゃん放逐ってどー言う事だ」
「役立たない他国産ものを税金で養ってどうする。お前の両親もウチの父上も払っている国民の大事な税金だぞ」
そりゃそーだが……。あの姉ちゃんは確かにイケ好かねえが……それでもフォーナの姉ちゃんだろうが。
「国に返せや」
「受け取り拒否されたぞ。薄着の皇女からな。ああ、レギからもだ」
「ハア?弟からもかよ!?」
「慕っていた姉に色々ぶちまけられて結構心にきたようだな。結局薄着の皇女に同意したそうだぞ」
「…………」
確かに、色々酷かったけどよ。俺には兄弟はいねーが……いや、考えてももうどうしようもねえな。
起こったことは覆らねえ。レギが許したくねえなら、そーかよとしか。
「だから祖国にも居場所はない。そして、レッカが此処で生きたいと言ったから此処にもない」
「…………レッカとフォーナの姉ちゃんは違う奴だろーが」
「ああ、だからファーレン・カリメラ元皇女は自分の力で祖国に戻れるよう妹と弟に詫びるなり、伯母上に頼み込んで嫁ぎ先を決めるなり、他で生きる手立てを探すなりすればいい。何もしないから放逐だ」
「…………そうかよ」
レギは思いきった。フォーナは泣くかもしれねえな。逆に言えば、レギとフォーナ以外はあの姉ちゃんに対して何とも思わねえ。
襲われるガキの頃のティムを見棄てた時のように。
「何せ『王女ローリラ』の欠片は強烈だからな。少しでも疑わしければ即対処する。もう毒を盛られたくはないぞ」
「そりゃ、まーな」
あのクソボケブスは結局……詳しくは分からねえが、恐らくアレキちゃん流に『処刑』された。署名したのは俺だし、悔いはねえが。
「あれらがそうならんとは限らない。そうならんかもしれんが、ファーレン・カリメラ元皇女の行動ではこれからを信じる価値はないな」
「…………」
やっぱ王城に来るんじゃなかったな。
ややこしい事しか待ってねえ。
…………だが、考えて、やるしかねえ。
俺が守れる範囲を。
って考えてたらルディが上向いて窓をじっと眺めてやがる。
………鳥も虫も何にもいねえ。まさか。
「………ほう、中々含蓄があるな」
「ルディ、何処見て何言ってやがる」
「過去は消えないし、傷に被せただけでは膿が溢れ返る。恨みは潰えるものか………と其処の窓に引っ掛かって半分になった死霊がブツブツ言っていてな」
「オバケと会話すんなボケエエエ!!」
コイツのオバケ見える能力こそ引っ込める徴ねーのかよ!!
義兄さまがブチ切れてますアローディエンヌへのお仕事推薦は勿論本人には伝わっておりません。勿論後でアローディエンヌに怒られます。