2.オルガニックさんからの通信
お読み頂き有り難う御座います。
日数空いてて申し訳無く。
「お前の愛しの鳥番が喚いてるのに、無駄に静かだねショーン」
「アローディエンヌしか受け付けない心の狭いお前と違って、僕は従兄を大事にするし、父上を敬愛している。
身内と仲が良いんだぞ」
「は?馬鹿なの?」
「馬鹿はお前だ」
「義兄さま!!ルディ様に喧嘩を売らないでくださいな!!大体、ご親族を心配して何が悪いんですのよ!」
ああもう!!ピリピリムードは兎も角、通常運転で何故喧嘩をいや、最早言い掛かりよね!
いや、もう……何時も通り過ぎるわ!!後、喧嘩のレベルが低い!!偶に私の頭のレベルでは突っ込めない位なのに!!
「だってえアローディエンヌう!!ショーンは存在してるだけで腹立つんだもん!!」
「そのままそっくり返すんだぞ」
「義兄さま!!黙っててくださいな!!」
「何でえ!!フロプシーと鳥番の不始末に手なんか貸さずに帰ろうよお!!」
いや、この話の流れで何で帰らなきゃならんのよ!?
「いや、だから!さっき、拐われたおふたりの為にお力になりたいですって言いましたわよね!?聞いてませんでしたの!?」
「アローディエンヌの言うことを僕が聞き逃す訳ないじゃなあい」
「だったら!」
「ちゃあんと聞いてたよ。でも僕はアローディエンヌに関わって欲しくないんだもん」
こ、このひとは……。ああもう、何てイラッてするのかしら。
プイッじゃないわよ!!あああ!!伴侶になっても顔が良いのが無駄に苛つくわ!!
「義兄さま?……話が進みませんから黙っててくださいな!!」
「ええー」
「……お話を伺ってからでないと帰りませんわよ!」
「ま、まさかアローディエンヌ!!浮気するの!?」
はあ!?浮気ィ!?いや、何でそう思うのよ!何ガーンってしてんの!?
いや、此処でイラッとしたら義兄さまの思うツボだわ。
此処は冷静に……。そうよ、モブだけどせめて。私は落ち着いた貴族の婦人を目指さなくてはならないわ。せめて外面……は無表情だから、内面も落ち着いていかないと!
「……すると思いますの?」
「え?思わないしさせないよお。僕のアローディエンヌは小さい頃から僕だけが大好きだもんねえ?
大体、アローディエンヌの心を動かせる奴が居るとは思わないもん」
「……」
い、いや……。何なの。何なのよ!!怒りにくい言い方を覚えてえええ!!
「何だ、其処で浮気してやると叫ばんのか?アローディエンヌ」
「アローディエンヌは思慮深くて常識的だからな。ショーンに群がる小細工女とは違うんだよ」
「まあ、僕に憧れだけしか向けないアローディエンヌは稀有な存在ではあるがな」
……うっ、偶にルディ様に見惚れているのがバレてるわね……。
「こほん、ですから義兄さま。……人道的に、ルディ様のお手伝いすることをお許しくださいな」
「アローディエンヌになら何だって許したいけどお」
……くっ!何を望んでる訳!?
期待した目で見ないでよ!!ええー?に、義兄さまの要望に答えろってこと……!?そりゃ意に添わない頼み事なんだけど……対価を求めるその姿勢……!相変わらず悪い笑みね腹立つわ!!
「……暫く、此方ではご一緒しますから」
「やったあ」
「アレキ抜き……とはならんか。残念だぞ」
「……申し訳御座いません、ルディ様」
うう、高みの見物がよくお似合いだわ……ルディ様……。
何時の間にかティーセットが用意されているし……。うーむ、優雅ね……。
「アレキが静かになったところで、これだ。前にニックから貰ったものが有ってな」
「貰ったもの、ですの?」
何かしら……。便利アイテム?
地味に知識チートしてらっしゃるわよね、オルガニックさんったら。
今更だけど、流石攻略対象でいらっしゃるわ。
私も何か特技……シアンディーヌに手が掛からなくなったら……いやそれって何時なのかしら。その内アウル君も産まれるでしょうに。
モブ役立たず人生が続いていくのかしら……。くそう、自立というか、義兄さまが居なくても立派に……そんな人生は諦めきれないわ……。うーん、でも、義兄さまにちょっかい掛けられながら自立……何と言うハードモードなのかしら。
いや、今はそれどうでもいいわね。普通に非常時なのよ。
……小さめの袋に入った粉みたいね。前にフォーナが使っているのを見たけど……イマイチ覚えていないわ。
「その粉は何でしょう、ルディ様」
「蝋燭通信だそうだ」
「まあ」
あー、……アレかあ。
あの出会い?は強烈だったわよね。私もオタクだったのに、いや今でもそうだけれど。申し訳ない程狼狽えてしまったわ……。
キャラ濃かったわよね、あの時のオルガニックさん……。今は若干ブライトニアに振り回される可哀想なお兄さんイメージが強く……いえいえ、失礼よね。
ルディ様のお手には何時の間にやら小さな燭台が。
成程、此れを使われるのね。
煌々と燃える炎が……あれ、何で突然消えたのかしら?窓も閉まっているのに。
「此れを炎の中に入れると……おい、アレキ」
「何?煩いよショーン。話し掛けるな」
「何じゃない。消すな。お前がやったのは分かってるんだぞ」
「え、今義兄さまが消しましたの!?何でそんなことしますのよ!?」
火花飛ばせるけど、消すのも出来るの!?何で!?何なのこの人!!いや悪役令嬢だけど!!
あ、蝋燭の芯が水掛けたみたいにジュワジュワ鳴ってるわ!!何で……。このひと……あっ、前に聞いてた私の水属性を使ったの!?
「だってえ。僕、蝋燭野郎と話したくないもん」
「お前にニックと話せなんぞとは言ってない。邪魔をするな」
「アローディエンヌは過去の傷を抉られたくないよねえ!?」
「いえ別に。過去の傷とか有りませんけれど」
そもそも、あれからオルガニックさんは穏やかかつ紳士的なオタク……いえ、丁寧に接して頂いているもの。
何のトラウマも無いってば。
「まさか、勝手に何か過失を捏造しようとしてますの?止めてくださいます!?」
「えー、大体アローディエンヌが蝋燭野郎と接触する意味無いでしょお。
フロプシーが無駄に騒いで無計画に踏み込んで目の前で綿毛神官と抱き合って死なれて、絶望すりゃいいよ」
「何てこと言いますのよ!!皆様が助ける為に尽力してますのよ!?後、フォーナにも失礼でしょう!!」
「えー?番ツガイ煩い割に守れないフロプシーと、適当な鳥番が悪いんだよお?
僕はアローディエンヌを片時も離さないと誓ったもの」
いや、ええ!?
て言うか、誘拐犯から守れない方が悪いってどんな理屈よ!?
「ほう、普通に人権侵害で軟禁発言だな。アローディエンヌ、今からでも訴え出るか?」
「い、いえ。お忙しい中、アレッキオが妨害して申し訳有りませんルディ様。
あの、オルガニックさんへのご連絡のやり直しをお願い致しますわ」
て言うか、片時も離さない宣言は……軟禁になるのね……。何時もの事だからスルーしてたけど。
「……やはりアローディエンヌがいる方が楽で良いな。アレキがいない方が100倍助かるんだが」
「お前と一緒の部屋にいる方が有害だ。馬鹿じゃないの」
「義兄さま、暑いでしょう!!」
チカチカ目の前がおかしいと思ったらまた火花飛ばすし!!
「さて、では……聞こえるか?ニック」
『…………はい!?は、はいぃ!あ、ルディ様!!良かった!!』
「其方は無事か?」
「足ひとつくらい裂かれてりゃいいのに」
「義兄さま!!オルガニックさん、ご無事で!?」
『ぴえええ!!無事ですうう!!あたた、ただ!おあう!』
「早く言え」
「あ、あう!!そ、その!フォーナが!!多分偽者なんです』
多分!?
多分って何なのかしら……。偽者って、どういうこと……。誰か他の人と閉じ込められてるって、ことかしら。
「多分偽者?と言うことは、本物は別の所にいるのか?」
『何処かは分からないんですよ……。今、見張りっぽい人も扉の側に……偽者っぽいフォーナが寝てるから……』
「ほう、逃げられそうには無さそうだな」
「死んでから出りゃ良いんじゃないの?」
『ぴえええ!!』
「義兄さま!!オルガニックさんを脅すのは止めてください!!て言うか拐われた方を脅すとか何考えてますのよ!!」
ああもう!!話が進まない!!
「……それで?何か特徴は有るか?」
「壁が土です……。床は、煉瓦ですね……」
「何の役にも立たない情報どうも」
『ううっ!!あっ、何これ……ハートの煉瓦……あうっ!?』
「あっ、火が消えてしまいましたわよ!!」
ええ!?あ、蝋燭の火が点滅して……消えてしまったわ。
……今回は義兄さまが消したんじゃないみたい、よね。
し、しかしハートの煉瓦!?明らかに、閉じ込められてるところにしては場違いなものが……有るのね。誰の趣味なのかしら。
「ほう、鳩の煉瓦……?」
「ええ!?ハト!?」
は、ハト!?鳩だっけ!?ハートって、聞こえたけど……。
「しかし、誰かに気付かれたか?」
「っ!!そ!そうですわね!?」
「……火に向かってボソボソ喋ってるなんて怪しいもんねえ。向こうに気付かれて袋叩きに遭ってると面白そおだよ」
「えっ!?あっ、いや、まさか……!あっ、オルガニックさんが危ないじゃ有りませんの!!」
確かに!!
火に向かって喋ってたら……その偽者フォーナが起きちゃって怪しまれてしまうわよね!?
「平気だよアローディエンヌ。フロプシーが蝋燭野郎の服に色々やってたもん。多生の殴る蹴る位」
「えっ、それじゃあ……いやでも殴る蹴るされては良くないでしょう!?」
「まあ、早く助け出さんとな。いい加減、ノエミ伯母上とユディトにレルミッドと薄着の皇女の抑え役を頼んだが、そろそろ頃合いだろう」
あ、そ、そう言えば静かだったわね。あのおふたりなら……激昂されていたなら、かなりの被害だったでしょうに。
し、しかしレルミッド様はお母様……だから抑え役は良いとしても、ブライトニアにはユディト王女様に……だなんて。
裏方を担って頂いていたなんて……いいのかしら。いや、その代わりが出来るって訳じゃ無いんだけど!!
……この静けさは尊いものなのね……。
「母ちゃん!!何だよ何処に連れてくんだよ」
「いい加減オルガニックの居場所は判ったの!?早く言いなさい攻め入ってやるわ!!」
あ、来られたみたい。
「は?何で来させたの早くない?」
「別に居場所は分かったから良いだろうが」
「ええ!?もうお分かりでしたの!?」
な、何で!?
今の会話の何処にヒントが有ったって言うの!?
「燃えてたら大体何処にいるか分かるよお」
「会話の際、ニックが土を放り込んだからな」
……い、いや。意味が分からないわ。
私、何故此処に居るのかしら……。この上なく役に立ってない……。
ハートの煉瓦、怪しいですね。
 




