13.ふたりの伴侶候補は憤る
お読み頂き有難うございます。
王城でふたりの風属性が怒っております。
「アァン!?フォーナを何処やったオラァ!?」
「オルガニックは何処にいるのよこの下郎!!」
……。
…………。
……こ、怖いわ。
目の前で殴る蹴るまでは行われてないけど……。
行われているのが庭なのに、ここバルコニーで2階なのに。部屋と言うか建物が振動して、凹んでいる……。
義兄さまの火花も大概だけど、轟々と風が吹いて物凄い振動が……。あ、何だか……後ろの柵と植木がミシミシ鳴ってるわ。
ええと。
陛下の結婚式は恙無く終わったのよね。ホントに。お式だけは。
だけど……その後のガーデンパーティで、オルガニックさんが先ず姿を消してしまった。
それで大捜索が始まって……ガーデンパーティは中止になったの。
そしてフォーナ。
「おい、コケたんだから休めよ」
「はい!飲み物を取ってきますね」
「おい」
とレルミッドさんに言ってから、カラフルなテーブルによろけつつ寄ったフォーナも人混みに紛れ……1秒くらいしか経っていないのに消えてしまったの。
忽然と、よ。魔法のように姿が消えてしまったの。
因みにコレは私が目撃したから間違いないの。ええ、本当に。ああ、ボケッとせずに私がフォーナに飲み物を持ってきてあげたら良かった……。
……一体、何処へ……!?
それにしても……オルガニックさんてば二回目よね、拐われるの。ヒロインなのかしら。不謹慎ながらちょっとそういう要素お持ちよねって思ってしまったわ。
「連れを守ることも出来ない愚かさだから、荒れるしか無いよねえ」
「何て事言いますの義兄さま!」
早速なの!?人の心が無い発言やめて欲しいわ!!
「しっかし、ニックはウチの国民だからかなー。コレッデモンも力を貸すわ」
ユディト王女様までそう仰ってくださったのだけれど。
お式から数時間。未だ手がかりは……いや有るには有るんだけど。
拐われたおふたりの……未来の伴侶達がね。
それっぽい容疑者にキレまくっているんだよなあ。
……加害者の尋問に被害者の関係者が怒鳴り散らすって……良いのかしら。人道的に……。
いや、人拐い自体が人道的じゃないから言うだけ無駄かあ。
因みに私達が何処から見ているのかというと、中庭に面する二階のバルコニーなの。
……何かそう……。残酷表現的なのが行われたら止められるように、との事でね。
レルミッド様には、お母様であるノエミ様と叔父様であらせられるアルヴィエ様が待機されているわ。
で、ブライトニアには私……。そもそも私に止められるのかしら……。モブ以上の技能のないこの私に……。
「式も終わったしアローディエンヌ疲れたでしょお?何で鳥番とフロプシーの世話まで任せられるのかなあふざけてるよね。帰ろお」
って人がシリアスに悩んでいるのに!!この甘い声が腹立つんだけど!!
「いや帰りませんし。大体、親しい方が人拐いに有ったんですのよ。協力するのが当然でしょう!」
「そもそもさあ、鳥番はショーンが何とかすればあ?無駄にツルんでるんだからさあ。ついでにフロプシーも面倒見りゃいいじゃなあい。この前肩に乗せてるの見たよお」
「お前に言われずともやっている。煩いぞアレキ」
あ、ルディ様だわ。
うっ、……相変わらずキラキラされているわね。眩いわ。こんな状況でなければガン見したのに……。
「ルディ様、アレッキオが失礼を申し上げました」
「アローディエンヌが謝る必要はない。アレキが謝れ」
「ショーンに謝ることなんて一生無いね。
もおアローディエンヌったらあ。ショーンに気を使わなくて良いんだったらあ。でも僕を思ってくれてるそういう細かくて慎ましい所好き!」
「細かくて悪かったですわね!!」
「あ、ちょっとイラっとしてるね!その細やかなところが良いの!」
「意味が分からんぞ」
「ショーンに分かる訳無いだろ!!俺とアローディエンヌは常に愛し合っているから常に新たな気持ちでいい所が分かるんだよ!!」
ああもう、人の頭上で喧嘩しないで欲しいし訳が分からないわ……。このふたりが揃われると本当に喧嘩が絶えないわね……。何とかならないのかしら。
「それでルディ様、僭越ながら……あそこで尋問を受けている方は何者なのでしょうか」
「朝にアレキとアローディエンヌに絡んだ他国の者を覚えているか?アレは騎士団にキッチリ拘束して梱包されているんだが」
え、梱包?って何……。い、言い間違いよね?そうであって……。
「……ええと、覚えていますわ。お国へ送り返される処置を、されたんでしょうかしら」
「ううん?文字通り箱詰めだよお?僕とアローディエンヌに不敬を働いたんだもん」
「……人道的な対応は」
「なあい」
……あ、この言い方絶対に変えない言い方だわ。目は見えないけど、絶対凍ってそう。
実は滅茶苦茶怒っていたのね義兄さま……。このひと、口説かれるの凄く嫌いだものね……。
……やりすぎでは、と思わなくもないけれど……トラウマが有るもんなあ。
「……その方々と所縁がおありの方なんですのね?下で尋問を受けている方は」
「アローディエンヌは切り替えが早いな。情に厚いかと思いきや、切り捨ても早い」
え、私ってそんな感じで思われていたの?別に情に厚いとか……思って頂けるようなそんな事したかしら……。ボランティア活動に励んだ訳でも無いし。
大体、義兄さまが強引に進めたんでしょうけど、王城での決定事項なのだもの。モブで無位な私が口を挟んじゃダメでしょ。権限ゼロだし。
「恐れ入りますわルディ様。アレッキオは私の夫とは言え、国の重鎮。一介の貴族に過ぎない私が決定事項に口を挟む訳にはいきません」
「やだアローディエンヌう!!僕を立ててくれるの!?大好き!」
「ぐえ!!だから!!ひとが真剣に喋ってる時に抱き寄せないでください!!」
「ほう。成程な、最近『魔公爵夫人』と呼ばれるだけは有るか」
「え?まこ……はあ!?……何ですのそれは!?」
ま、魔公爵夫人!?何それ!?誰!?私!?
……凄く厨二ネーム過ぎやしない!?ていうか義兄さま、どんだけ異名持ってんのよ!!いや、私もだけど!!義妹姫が無くなってなくて、更にそれ!?また思いっきり似合わないし!!
「ひとを魔公爵呼ばわりするのって酷いよねえ。北の魔王が居るのにさあ。大体ダサいんだよ。僕のアローディエンヌにはもっと可愛い呼び名しか似合わない。呼んだ奴燃やす」
「そもそも無駄にイライラして火花を散らしているからだろう。どうでもいいが」
ってそうじゃなくてよ!!ああもう、脱線するわね!!
「……そもそもそんな風に呼ばれても自分のことだとは思いませんし、ルディ様の仰る通りどうでもいいですが」
「些細な事を気にしないアローディエンヌってばあ、可愛いよ」
「義兄さま黙っててください!!フォーナとオルガニックさんを拐う目的は何でしょう……。矢張りレルミッド様とブライトニアの伴侶である身分を狙った身代金でしょうか」
「あのふたりのスキル狙いだろうな」
え、あ。そうなんだ……。
確かにレアなスキルをお持ちよね。オルガニックさんは火気厳禁で音波無効だし、フォーナは……壊れたスキルを嵌め込めるんだっけ。
……その線かあ。やっぱりレアスキルって狙われるのね……。義兄さまがいなきゃ、私もとっくに……よね。
「……他人事ではありませんわね」
「え、他人事だよ?目茶苦茶余所事だよ。もおアローディエンヌってばあ、可愛いよお」
だからシリアスを燃やさないで欲しいんだけど!!何なのよさっきから!!ひとの後頭部で三つ編み作るな!!イラっとするわね!!
「いやだから黙っててくださいな!話が進まないでしょ!私の頭で遊ばないでください!!」
「大体僕はアローディエンヌしか呼んでないんだぞ」
「俺が居ない場所にアローディエンヌを連れていけるか。頭どうかしてるんじゃないのショーン。元からイカレてるけど」
そうなのよ!!そうなのに、我が物顔で着いてくるし!!
……はあ、でも義兄さまのお力も借りたいし……。いや借りざるを得ないんだろうし。
「ぎゃっ!!」
え、何!?あ、お庭が!!
……特に、壊れてはないみたい……だけど?
……いや、ひとが5人ぐらい倒れてるわね。何で?レルミッド様とブライトニアが尋問?してたの、ひとりだった気がするんだけど。
お二人はピンピンしてるわね……。まだちょっとご機嫌は悪いみたいだけど。
「少し炙り出せたようだな」
「え!?炙り出せ……!?」
「『犯人の一部が捕まった。中庭で尋問中』って噂をちょっとねえ。こんな単純に沢山引っ掛けるだなんて易い組織だなあ」
……つまり、あのおふたりの尋問?はパフォーマンスだったってこと……?
え、じゃあ私が止め役に此処に据え置かれた意味は一体何……?
いや、でも万が一の事があるしなあ。特に何の役にも立てる気がしないけど……そりゃ必死で止めるけれど。
「ブライトニアも少し気が長くなったとは言え、暴走しかねないから保険で私を留め置かれたのでしょうか、ルディ様」
「それもあるが、アローディエンヌを先に帰らすと薄着の皇女が煩いからな」
「……そ、そうですか」
……心底嫌そうでいらっしゃるわ……。本音っぽいけど、そっちなの……?
いや、良いんだけど……。それに、成長したわねブライトニア……。怒り出さなくて物も壊さなかったなんて!!いや、怒り出しはしたんでしょうけどね……。
「全く!!他人の結婚式なんて疲れるものに招待されただけでも大変なのにねえ。早く帰りたいでしょおアローディエンヌう」
「ぐえ!!頭を引っ張らないでください!!」
いや後頭部が重いな。この垂れてきた見たことないくるくるした金色のリボンは何なのよ。……結婚式で派手に飾られた筈なのに解かれて、更に派手になってる気がするわ。何してんだ義兄さま。
「いや、私は自分で行きたいって言いましたわよね義兄さま。後、畏れ多くも陛下は義兄さまの叔父様であらせられます。他人じゃありませんわ」
「親戚は他人の始まりだからねえ」
「他人でありたい親戚も存在してしまうからな」
……このおふたりは……本当に仲が致命的なんだからなあ。
まあ、私のみも親戚関係に関しては……今はルーロ君位しか分からないもんなあ。血縁関係に関しては下手なことが言えないのがなんともなあ。シアンディーヌや、これから生まれるアウル君の事もあるし、ちゃんと理解を……どうしたらいいもんかしらね。調べる手立てが無いもんなあ。
「アローディエンヌはスッと理解してくれるけど、あの短気の塊達に説明するのウザかったよお。慰めてえアローディエンヌう」
「お前はレルミッドと薄着の皇女の機嫌を更に損じただけだろうが。図々しいアレキだ」
だろうな。……その場に同席させて頂いた方が役に立てたような気も、しないでもないわね……。
いや、立てると断言できないけれど。きっとアルヴィエ様とノエミ様と、もしかしたらユディト王女様がご苦労されたんだわ……。
……いや、此処でそんな事言ってられないわね。全てはふたりが無事にお戻りしてからよ。
「兎に角、フォーナとオルガニックさんがお早く助かるよう、全力を尽くしますわ」
「……全く、何でアローディエンヌの前で拐うんだよ。本当に面倒臭い」
「アローディエンヌの協力が得られたことはいいことだぞ。陛下も多少安心なさるだろう」
「陛下の御心に沿えるよう、微力ながら」
「何にもしなくていいんだよお」
「義兄さま!!」
王城なのによく入り込まれるのは、火事やらティミーの騒動やらで人手不足だからです。




