6.謎の王妃候補
お読み頂き有り難う御座います。
地味に間が空いてしまって申し訳なく。
義兄さまがシアンディーヌを抱えて、レギ様を拉致してしまった、その後。
いや、ホントはレギ様を助けに行くべきなんでしょうけどね……。
「アロン、あたくしの最近を聞きなさい」
結局……ブライトニアの侵略トークに耳を傾けていたわ、私……。
ブライトニアってお喋りな方でもないのに、頬っぺたをピンクに上気させてイキイキしてお話してくれたわ……。
トーク内容が侵略じゃ無きゃもっと良かったのだけれど。
……まあ、征伐?した相手が民衆の皆さんを虐げる強欲な貴族だったみたいだから其処まで残酷トークでも……いや、残酷表現有ったわね。
それでも普通に突っ込みつつも聞いてしまう私って……。
「あたくし、オルガニックが偉業を成し遂げたって記録させたいの」
「え!?それ、改竄じゃ無いの……?」
言いたかないけど、滅茶苦茶後世で叩かれそうよね。オルガニックさんの立ち位置って。
別に国が欲しいとか、侵略してくれって頼んで無いのに国がふたつ滅ぼされて……挙げ句その王配?あ、皇帝だから皇配?(有るのかしらそんな単語)なのかしら?
……傾国って誤解されそう。
日記でも残して置かれたら良いんじゃないかしら。いや、後世気にしてどうなるって訳でも無いけど。私なら無茶苦茶気にするわ。でも差し出口よね……。
「それでね、アロン。あたくしオルガニックを崇め奉らせたくてよ」
「いや、信仰は強要しちゃ駄目でしょ……」
「そう?オルガニックは素晴らしいから、自ずと崇める気になるわね」
……ど、どう軌道修正すりゃ良いのよこれは。ええと、うーん?正しいと信じ込んでる紫色のキラキラした視線が刺さるわ!
「オルガニックさんは目立ちたく無いでしょうし、拝まれる立場なんて窮屈だと思うわ」
「オルガニックは慎ましいものね。式典の時に拝ませる位なら良くて?」
「いやだから……何で拝ませたいのよ。良いじゃないの今迄通りで」
あ、頬っぺた膨れたわ。こういう顔は綺麗なんだけど、年相応で可愛いわよね……。じゃなくてよ。
「だって、オルガニックは特別なのよ。だから崇めるべきよ」
「特別なら尚更強要するよりも、ブライトニアがオルガニックさんを大事にしてる様子を見せるとか……」
「其処から勝手に他の奴らが察するってことで良くて?」
「そ、そうよ。そんな感じね」
うう、ちゃんも訂正出来たかしら!?長い薄茶色の睫毛を瞬かせて、考え込んじゃったわ。
「そうね、オルガニックの機能的で満足な手足となるよう、手下の自主性を先に育てる必要があるわね」
て、手下あ!?オルガニックさんに、手下!?
「いやちょっと待って!?何かが違うわよね!?」
「解っていてよアロン。あたくし、オルガニックの為の人材育成が必要なことを忘れていたわ」
「いやいやいや!人材育成は大事だけど、人材を大事にしましょうね!?」
「ええ、限り有る資源だもの。大事に出来ない奴は放り出すわ」
……だ、大粛清とか起きないわよね!?
ええと、コレ、誰か責任有る大人とか必要よね……。
……ブライトニアの暴走を止められそうな大人……!?グレゴリオさんじゃ失礼だけど駄目だし……!
……どうしよう。マデル様に相談してみようかしら。そうしましょう。
……と、取り敢えず今は……話題を逸らしてみようかしら。
「そう言えば、王妃様になる方ってどんな方なのかしら」
「あら、あたくし見てきたわ」
「ど、どんな方なの?」
強引だったけど話に乗ってくれて良かったわ……。
いや、この話題も結構気になるしね!本当に!!
「白い髪に赤い目の女よ。火属性かしらね」
「へえ、そうなの……」
白い髪かー。お知合いじゃあティム様とマデル様が白っぽい髪よね。まさかご親戚だったりしてね。んな訳ないでしょうけど。其処まで世間が狭い訳無いわよね私ったら。
「ルディが誰かに似てるって言っててよ。色々ジロジロ見ていたわね」
「へえ、ルディ様が……」
ルディ様のお知合いに似てるってことかしらね。しかし、何でルディ様と一緒に居たのかしら、ブライトニア。ま、まさか忍び込んで!?嫌な予感がしなくもないわ。
「ね、ねえブライトニア。王城に招待されたのよね?何時?」
「勿論勝手に入ったわ。そしたらルディがほっつき歩いていたから肩に乗ってやってよ」
「まさか、蝙蝠ウサギの姿で!?」
「そうよ、その時歩くの面倒だったの」
やっぱりなの!?何で勝手に入るのよ!?
隣国の皇太子殿下だから顔パスなのかなーとか、少しだけ思ってたのに!!
て言うか、変身解いたら全裸じゃないの!?よくそんなリスキーな事を!!
「飛ぶ方が大変なんじゃないの!?飛べないから知らないけれど!!
て言うか、王城で蝙蝠ウサギにならない方が良いわよ!事件になるわ!!」
全裸美少女が現れたら性犯罪になるじゃないの!いや、ブライトニアなら襲われる前に倒す!?いやもしもの事が有るわよね!イレギュラーと危険は潜んでいるのよ!危ないわ!
「アロン、飛びたいの?飛ばしてやっても良くてよ。馬鹿兄貴には出来ないものね!」
「いやいやいやいや、そっちじゃないわよ!要らないわよ!!変身する場所を考えてってば!」
て言うか、ブライトニアは他人を飛ばせるもんなの!?高所恐怖症は無いけど、それ地味に怖いわね!!前にフォーナが浮いてるのも滅茶苦茶可哀想だったし!!
「遠慮は要らなくてよ」
「するわよ!ああもう……。
ブライトニア、何にせよ会話するには変身を解かなきゃいけないし、服が必要でしょう?直ぐに用意出来ない場所で蝙蝠ウサギへの変身は控えて頂戴。心配なのよ」
「アロンは心配性ね、もっとあたくしの世話を焼いて良くてよ。許すわ。撫でなさい」
む、無駄に偉そうで可愛いわね。思わず何時もみたいにグイグイ頭を押し付けてくるから撫でてしまったわ。
「それに、あたくしも早々肌を晒さないように煩く言われたから覚えているわ。今回はルディに用意させてよ」
「そうルディ様に……何ですって!?」
い、今着てる服、ルディ様に貰ってんの!?
七分袖の白いワンピースは膝丈でシンプルだけど……滅茶苦茶いい生地ね。ま!まさか誰かの服を!?えええええ!?ミーリヤ様といい感じなのに、ブライトニアとサイズが似通った女性用の服を何故お持ちなのルディ様!?
「えっと、どうして女性ものをルディ様がご用意が有るのかしら……?」
「あたくし、淑女らしくしたのよ。これから行くから服を用意しておけと手紙を出してから行ったの」
「何ですって!?」
い、いや、ドヤ顔で言うこと!?淑女らしさが滅茶苦茶間違ってない!?押し掛けるから服を寄越せってどんな悪人よ!?
いやでも、アポ無し訪問よりは……進歩したのかしら!?いやでも、幾らルディ様とブライトニアの仲が悪くなくても服を贈らせるのは駄目でしょう!?
「ええと、ブライトニア。王城のルディ様に先触れのお手紙はとても良かったのだけれど……。流石に王子様に服を贈れってのは淑女らしくないんじゃないかしら」
「あたくし皇女で皇太子だから身分的には問題無くてよ」
「いやそうなのだけれど。いや、違うでしょ。
何て言うか……恋仲でも無いじゃないの」
「ああ、本に書いてあったわね。まさかアロン、馬鹿兄貴に脱がされる為に服を贈られた事が有って?」
「……!?」
と、特大の薮蛇を出してしまった!!背中に大量の汗が伝ってきたんだけど!!
わ、私の馬鹿!!
「あの馬鹿兄貴、本当にどうしようもないわね。アロン、何かあればトコトン嫌がるのよ。トコトン嫌ってやりなさい」
「い、いやあのねブライトニア。義兄さまは関係ないのよ今回は。ええ、それに私の衣装は……」
義兄さまが選んでるし買ってるから……と言い掛けて、駄目じゃないの!!余計に墓穴じゃないの!!
ブライトニアが首を傾げてるの、グラデなツインテールが垂れ耳みたいに揺れて可愛いけど!
「と、兎に角。私は義兄さまに……全部が全部押し切られ無いように暮らしてるから大丈夫よ」
「アロンは本当に甘いわ。ひとが良くてよ。だから馬鹿兄貴が付け上がるのよ」
いや、そんな呆れた目で見ないで欲しいわ。
私だって義兄さまに丸め込まれないよう頑張ってるのよ。本当よ、あんまり成功してないけどさ。うう、結果を伴いたいもんだわ。
「あたくし、オルガニックに服を贈ることにするわ」
「いや、逆じゃないの?」
ブライトニアがオルガニックさんの服を剥がしそうな光景がアリアリと浮かんできて、本当に怖いわよ。逆の方がまだほのぼのして平和的で良かったのに……。
「オルガニックは照れ屋だから、あたくしの寸法を聞いてくれなかったの」
「……そ、そりゃそうでしょうね」
この世界の服って、オーダーメイドだとスリーサイズより細かいもんね……。それはもう、貴族女長年やってるから慣れたけど。
あ、前世の常識と庶民感覚だろうオルガニックさんには、服を贈れサイズはコレねって言われても困る……かしら。恐らく、滅茶苦茶ハードル高過ぎかも……。
「ん?じゃあ何でルディ様はご存じなの?」
「結婚式出席の衣装をあっちのお針子で仕立て終えたから、それを流用したんじゃなくて?」
へー、そういうルートが。
とんだイレギュラー無茶振りにもスマートな王子様よね、流石ルディ様。
「話がズレたけど、王妃様になられる方のお名前とか歳って分かる?」
「記憶が混濁してるってルディが言っててよ」
「え?記憶が混濁!?どういうこと!?」
どういう現場で知り合うのよそれ。うーむ、ドラマチックなようで全く分からないわね。
「何だかボケッとした女だったわね。本名も歳も分からないって嘯いてたみたい」
「それ、記憶障害をお持ちってことかしら」
そんな状態の女性と陛下が、ご結婚……。二次元だとよく有りそうなシンデレラストーリー的な感じだけど、現実となると……ちょっと急ぎすぎじゃないかしら。記憶が戻るまで愛を育む暇が無いとか?
「さあ、本当なのかどうか胡散臭くてよ。でも、ディマは余程その怪しい女に惚れてるのね」
そ、そうなのか……。私が知らない間にドラマチックな出会いが有ったんだろうな……。何時か又聞きで良いからお聞きしたいわー。
「護衛の数が凄かったわ。まあ、アレくらいならあたくし全滅させられてよ」
「何でよ!?しないでよ!?」
「アロンがそう言うならしないことにするわ」
私が言わなくてもしないで欲しいわ……。
「ルディ様は他に何か仰ってた?」
「詳細を知ってる者があんまりおらんぞって言ってたわ。何の詳細なのかしらね。あの男、本当にまどろっこしくてよ」
「詳細を知ってる者……」
うーむ、気になるフレーズね。
「一応、遠縁の王族の女って事にしてあるみたいよ。身分に拘らなきゃいけないのは面倒よね。その点、オルガニックは神官だったから押さえ付けが楽だったわ」
「いや、何をしたのよブライトニア。あまり無茶苦茶すると、オルガニックさんが肩身の狭い思いをなさるから控えた方が良いわよ」
オルガニックさんの気の毒そうなエピソードがちょいちょい入ってきて、全く集中出来ないわ……。
兎に角、次の王妃様は記憶が曖昧な白い髪に赤い瞳の女性ってことか……。乙女ゲーというより、シンデレラストーリー的よね。超見たいわ。
「結婚式、地味に参加してみたいけれど、義兄さまが何て言うかしら」
そもそも私が参加して良い感じの格式なのかしら。うっ、マナーに自身が頗る無いわ。今からマナー教本開かなきゃ。
「あたくしが連れて出てやるわよアロン」
「それはそれでモメそうだから、義兄さまにちゃんと話すわよ」
ええ、それはもうブーブー拗ねまくる未来が見えるわ。
「そう?渋るんじゃ無くて?」
「聞けば一応答えてはくれるし、希望すればなるべく叶えてはくれるのよ……」
「ふんっ、早く見限れば良くてよ」
ブライトニアは本当に義兄さまと仲が悪いわね……。いや、義兄さまと仲の良いひとがあんまり居ないのが現状なのだけれど。
ブライトニアは何処にでも入り込みます。




