14.悪党退治する従兄弟達(レルミッド目線)
お読み頂き有り難う御座います。
ちびっこにされた上フリフリピンクを着せられて、得体の知れない性格の従弟と放り出されたレルミッド視点でお送り致します。
残酷な表現が御座います。お気をつけを。
「あの路地とかどうです?ゴミが散らばってますし異臭もしてます。滅茶苦茶裏稼業の者が通りそうでは?」
「うるせーよ」
何フツーにしてやがんだ。そもそも、何なんだコイツ。
馬車の中の会話……義妹の顔色は変わらなかったが、おかしーだろ。
詳細は解らねーが、明らかに何か、おかしかったぞ。
また変な事に巻き込まれんじゃねーだろーな。ああ、ウゼエ!
「君の鳥は忠実ですねえ」
「うるせーっつってんだろ」
この狭い路地じゃ流石に鳥は付いてこれねえみてーだが、上空を旋回してんな。最近付きまとって来なかったのに、急にしつけえ。俺が徴呪章院に勤めるから鳥の世話から開放されて、せいせいしてたのにな。
猫も飼えるかと思ってたのに、何で今更着いてくんだ。アレキちゃんにチビにされたせいだったらアイツマジ許さねえ!!死ぬ程ムカつく!!
ああ、でも目の前のティムもまーまームカつくな。
さっきの義妹への何か訳分からねえ問答は何なんだ。
「おまえ、いもうとをきずつけてーのか?」
「ええ!?まさか!」
うわ、嘘くせー。思わず自分でも半目になるのが分かったぜ。
「可愛いお顔で睨まないでくださいよ。
僕は彼女の身を慮ってるだけですよ?何せ、幼少期に彼に見初められて軟禁生活ですよ?」
「……ハァ?マジかよ。イカれてやがるな」
「でしょう?」
詳しくは聞いてねーけど、アイツ等の関係は異常っぽくはあった。
改めて聞かされると碌でもねーな。義妹も結構な身の上じゃねーか。
……最近の俺の周りの身内とか知り合い、フォーナにしても普通の環境の奴があんまりいねえ。
あ、サジュん所は普通か?他は知らねえが。
改めて、自分が恵まれた環境下に居たって事が、地味に滲みた。
だけどよ……別に俺は悪くねーよな。
コイツの境遇は悲惨だが、俺が何かした訳でもねーし。
何でかコイツと絡むと、無駄に罪悪感を刺激されんな。ワザと挑発してきやがるしよ。
だが、此処でキレてもな。……一応俺の方が歳上だしよ。
つか、ティムに何か有ると叔父上様がうっせーからな!
「だとしても、いもうとがアレキちゃんをこばんでねーんなら、がいやがどーのこーの、いうこたぁねーだろ」
「おやおや、君の精神は本当に健全ですねえ」
つまんなさそーに言いやがるな。
俺にイカレろって言いてえのか。ふざけんな。
「イトコの中で君くらいですよ。家に利用されず、のびのびと育った羨ましいお生まれなのは」
「しらねーよ」
「兄上様が羨ましいですよ。君が味方なんですからねえ」
知らねーよ。
つか俺がルディと仲が良いのが何の関係があんだよ。
「兄妹喧嘩かい?お綺麗な坊っちゃん嬢ちゃん」
「こんな所に迷い込んで可哀想に」
絵に描いたような奴等だな。仕込みかって位囲んでやがる。
わざと小汚なくしたみたいなナリに、下卑た目。
5人ってところか。
……最近減ったが、親父がガキの頃とかには、草原にも結構こういう奴らがデカイ面してやがったらしい。
街の方から来て、子供やら女を拐って、売り払うヤツが問題になってたらしい。
成程な、こーゆー輩が好き勝手してやがったのか。
ニヤニヤ下卑た顔で距離を詰めて来やがる。
「お兄さん達が良いところに連れてってあげような」
「良いところって何処ですか?」
ティムの野郎、胡散臭いツラだなおい。
背丈のせいで下からしか見えねえが、それでもニコニコと。
……コイツも大概物騒だしな。俺が喧嘩っ早く見えねえ位によ。
俺って実は平和主義だったのかもしれねえな。……コイツ等と比べてもしゃーねーが。
「勿論、楽しい所に決まってんだろ?」
「さっき、妹ちゃんも居るって言ってたな。何処に居るんだ?お嬢ちゃん似の妹ちゃんか?」
……俺の妹じゃねーし。
つか、地味に上で旋回してる鳥の羽が落ちてきてうぜーな。鼻がムズムズする。
「なあ坊っちゃん、ニコニコしてんな。興味あんだろ?」
「触らないでくださいね」
正面に居た奴が、ティムの手を取りやがった。それを難なくいなすと、何故か俺の方を向いた。
……何のつもりだ、ティムの奴。
「おい」
「まあ待てよ。なあ、行こうぜ坊っちゃん。カワイイ子と楽しーいことを」
「残念ですけど、僕もこの子もカワイイ子には不自由してないんです」
ねえ、とティムが馴れ馴れしく俺の手を取りやがる。……何してーんだコイツ。
「大体、僕ら自体がカワイイですからね」
……何言ってやがんだ、コイツ。
頭煮えたか?
俺もだが、一瞬、囲んでた奴等が呆気に取られてる。
「そおーれ!」
隙を狙ってたのか、直ぐ近くにいた、さっきティムを掴んでた奴が頭から吹っ飛んで、ゴミ箱に突っ込みやがった!
……うわ、コイツ、蹴り飛ばしやがったぞ。
よくこの狭い空間で立ち回れんな。喧嘩慣れしすぎじゃね。
「じゃあ従兄殿。可愛く色々片付けましょうか」
「やめろボケ!」
つかこっちに野郎を投げてくんな!!
こっちはガキの姿で、しかも変なヒラヒラ服着せられてんだぞ!!
ああもう、腕力は自信ねーから、魔力かよ!!
つか、この姿で魔術とか使えんのか?
「おいガキ、こっち来い!!」
って、こっちも危ねえ!!上から掴みかかって来やがった!!
「おおっと、危ないですよ、従兄殿」
「なにしやがる!!」
何で俺を抱えてんだコイツ!!さっきから気持ち悪い呼び方しやがって。
つか、人を抱えたまま奴等を蹴んな。酔う!魔力が練れねえだろうが!!
ヒランヒランこの布が視界を遮るし、当てらんねえだろうが!!
「やめろバカ!!」
「楽しいですよ、久々にね。大っぴらに悪人を殴れると面白いですねえ」
蹴り倒しながら俺を抱えて回るなっての!!
「こ、この野郎!!」
「従兄殿」
って、おい!!奴等の1人が殴りかかって来てんのに、俺を盾にする気かよ!?
「いきなり、しょうめんむけるヤツが、あるか!!」
「ギアヤァアア!!」
手加減、出来たのか!?
兎に角練れた分の魔力を適当にぶつけたら……け、結構吹っ飛んだな。
ガキの体の具合がよく分からねえ!」
転がる野郎どもに、散らばったゴミの山。
……路地が余計汚くなった気がすんな。
後で掃除にでも来た方がいーかもしんねえ。勿論、アレキちゃんに呪いを解かせてからだがな!!
「あー、気持ち良かった!」
「はなせボケ!」
人が倒れてる中で俺をブンブン振り回すな!!全然良くねえ!
「うう……」
「わあ、お誂え向きにひとり、分かりやすくご存命ですねえ」
いや、他の奴等も死んでねーよ。
思う存分殴る蹴るしといてワザとらしーな。
「じゃあ、君にご案内頂きましょうか。悪者の親玉退治に」
「だ、誰が吐くか!それに」
そいつが血の唾を吐きながら、何か言おうとして……その瞬間。
ごうっと、信じられない位の魔力と空気が震えた。
「あーあ」
「な、何だ!?」
「ハァ!?」
あっちの通りで、何かが爆発してんじゃねーか!?
しかも、何か覚えのある魔力が……。この、離れてても絡んで焼けつくタチの悪い魔力は……アレキちゃんしかいねえ。
「こっちが陽動、あっちが本命、ですよね?」
「ひっ!?」
咄嗟に逃げようとした奴の足が縺れて転んだ。
位置的に、ティムが奴の直ぐ真横に何かを投げやがったな。
しかし、こっちが陽動!?どう言うこった。うわ、焦げた臭いまでしてきやがる!
アレキちゃんの方が本命!?
ハア!?聞いてた話と違うじゃねえか!
「『魅了無効』は君達のご主人にとって魅力的みたいですねえ。まあ、悪事にたっぷり使えますもんねえ。おまけに、ユール公爵の泣き所ですし」
「おま、お前は……何故其処まで知ってる!?」
「いけませんねえ、そんなに簡単に吐いちゃいけませんよ?お仲間は減りに減って、壊滅的なんでしょう?」
ざり、とティムが一歩踏み出した。
逃げようと後ずさる奴の足元に、黒い何かが?何かが絡み付いてやがる。何だあれ気持ち悪い。
黒い、ぬめっとした草?か?見たことねえ。アレは滑りそうだ。何処から持って来やがったんだよ。つかよくあのぬめっとした草?投げられたな。
いや、待てよ、壊滅的?
俺らが絡まれて、敵のアジト的な所を壊滅させんじゃねーのかよ!?それがこのガキの姿になる呪いを解く条件だろ!?
「茂みで公爵を襲った彼を囮にして、お呼び立て頂きまして。彼方に6人、此方に4人。ワザワザアジトを抜け出して、総力で掛かってこられましたもんね。折角の機会でしたしね」
「ハァ!?」
元々、敵のアジトなんて無かったってことか!?
あの野郎!!つか、ティムも言えや!!
「公爵と公爵夫人。ふたりとも欲しいなんて、贅沢ですよね」
「あ、あ……」
「ねえ、何故かユール公爵から逃げられていましたもんね。今回こそ、出し抜ける。そう思っていたのでは?」
ティムが、犬歯を剥いて嗤ってやがる。
今は味方?だが腹立つ嗤い方しやがって。
……こんな暗がりで、追い詰めて嘲笑いとかベタ過ぎんだろ……。悪者臭い横に居んのイヤなんだけどよ。
逆光で怖えだろーな。
「見張っていたんですよね?でも、視線って目立つんですよ?見つめ返されて居ても気づかない程真剣だったんですね。お疲れ様でした」
「う、わあああああ!!」
「あぶねっ!」
「っ!」
この野郎!!
ゴミ箱投げてきやがった!!目眩ましにもなるし嫌がらせにもなるし、地味に効く手段を!
てか、あんなベタベタした足元でよく投げれたな!?
咄嗟に風の結界が間に合って良かったぜ。流石にゴミ箱被りたくねーわ。
どうでもいーが、この服の洗濯代要求されそうで目茶苦茶腹立つな。
「有り難う御座います、助かりました」
「うさんくせーな」
うえ。散らばったせいで、目を刺すみたいなゴミの臭いが目茶苦茶しやがる。
「ギャッ!」
ティムは、サカサカ動いて敵を踏んで、またこっちに戻ってきた。
容赦ねーな。いや、無力化は大事だけどよ。骨がミシって軋む音聞こえたぞ。過剰……でもねーか。またゴミ投げられても困る。
「まあまあ。人間、思いもよらぬ事で死ぬものですから。命が助かって助かりました。お礼を申し上げます」
「それより、こっちがオトリってどーゆーこった!?」
「まあ、平たく言っちゃいますとですね」
「はやくいえや!!」
「過去の因縁の相手やら、誘拐組織やら、大がかりな捕物帖に見せかけてですね、実は後一歩の所まで追い込んでいた訳です。
ハッキリ言って、アレッキオの部下の皆さんで事足りた訳ですが、生かさず殺さずジワジワと甚振って居た訳ですよ」
「なげえ!!」
「僕やレルミッド、サジュ・バルトロイズが絡めば実に派手に映るでしょう?」
「なんのはなしだ」
前置きが長えんだよ!!
「絵面が派手でしょう?流石に兄上様はご登場されるのを阻止した訳ですが」
「ハァ!?」
絵面!?兄上様って、ルディか!?
登場って、そういや、あんなに騒ぎになって、サジュ迄駆け込んで来たのに、ルディは来なかった。
王城内にも関わらず、だ。
足止め喰らってたってことか!?
「アレッキオがアローディエンヌに構って欲しいものですから、ダシにされました。
僕は、その片棒を担がされた訳です。実は僕も呪われてるんですよ」
ほら、と俺の前にしゃがんで、長ったらしく伸びた白い髪の毛を避けた、首筋に……。
目茶苦茶見たこと有る、欠けた盾の徴が……。
「か、『かけたたてのひご』!!」
「今、僕アレッキオに魅了され中なんですよ。辛すぎます」
呪った上で魅了しやがったのか!?
通りで、こんなくだらねーことにティムがアレキちゃんに従順な訳だ!!
あ、あの野郎!!
い、い、怒りでクラクラしてやがった!
「ちゃんと操られないと解いて貰えないんです。ですから、レルミッド。僕を恨まないでくださいね」
「ふ、ふ、ふざけんなアレキちゃんのバカやろう!!ブッとばしてやる!いくぞティム!ぶんなぐる!」
ボケッと半笑いのティムの手を掴んで、俺は焦げた臭いと魔力を辿ることにした。
あの野郎、呪いとか本気でふざけんな!!その辺に呪い掛けまくりやがって、魔王か!!
「……本当に親愛なる我が従兄殿は口は悪いし早とちりですし喧嘩っ早いですけど、情が深くて頼りになりますねえ」
「アァ!?」
くそっ、歩幅が違って歩きにくい!!
「もしもの時はレルミッドに頼ることにしますね。僕、こう見えて薄命な方なので」
「ずぶといクセして、なにいってんだ!!」
「兄上様では我が物とされてしまいますし、レギでは危うい。フィオール・ブライトニアでは秘められませんからねえ」
「グダグダいわねーで、はやくあるけ!」
意味が分からねえ!!
「では親愛なる従兄、レルミッド。抱えましょうか?」
「やめろ!!」
本当にコイツ魅了されてんのか!?
何時も通りにも見えてきたぞ!!
ルディ君程ではありませんが、魅了喰らって、ティムは義兄さまに従順にされておりました。
悪役令嬢の魅了はサポートキャラには効きませんが、王子様達には効きます。




