4.魔法使いと悪役令嬢の登城(レルミッド目線)
お読み頂き有り難う御座います。4代目ヒロイン、フォーナ登場です。
レルミッドの母方の実家、アルヴィエ家にお世話になっているようですね。
「そんなことが有ったんですね……。レッカさん、何てお労しいことでしょう」
レッカの体は変わんなくて、取り敢えずサジュんちに泊めるってことになった。
ルディはおっちゃんの家に帰って、俺はじいちゃんの家に戻って……待ってたフォーナと飯を食ってる。
どっか行こうかと思ったが……何か疲れた。
地味に暗い顔でもしてたか、フォーナが訪ねてきてざっと説明しながら……何かの肉の煮たのを食ってる。
献立考えてくれる奴には悪ぃが、俺はあんまり豪華な飯ってのは良く分かんねえな。
「ご本人には何の責も無いことで命を狙われるなんて……本当に辛いことです。オールちゃんにも多々有ったようで、本当に……不甲斐ない姉で……」
「フロプシーは蹴散らしてただろーし、そっちは放っとけや。お前も、その……何つーか、生きてて良かった」
「はわ、レルミッドさん……お気遣い本当に嬉しいです!」
頬を染めて喜ぶ目の前のフォーナだって、口に出すのも辛いような酷い扱いを受けてた、らしい。
そん時に俺が居てやれば、と思った事は何度もあるが……居たとしても力が足りねえしな。
……考えても仕方ねえが、イラッとする。
「フォーナ」
「はい?」
「お前、昔に比べて今はマシか?」
「マシだなんて、レルミッドさん。とんでもありません」
え?
マシじゃねえのかよ!?
…………な、何だよ。何でマシって言わねえ?俺、何かしたか?
腹ん中が、グルグル渦巻く。
面倒臭い魔術を発動させるときみたいに。いや、勝手に………。
マシじゃねえの?
お前、もう俺が……。
「レルミッドさんが御傍に置いて下さるこの毎日が、私、夢のように幸せです」
「は」
何だって?
……人の動揺を余所に、フォーナは能天気にこっちに笑いかけて来やがる。
「かけがえの無い方ですもの。本当に、私に御心を寄せてくださって有り難う御座います」
「おま……ハズイんだよ!!何で飯の時にンなこと言うんだよ!!あ、味解んねえだろーが!!」
「は、はわわ!!す、すみません!!」
息が止まるかと思った。
何だよ、さっきの。
いや、フォーナが言った事も、ハズイ、けど嬉しい。
だが、あの魔力の流れは………。
……もしかして、この……椅子の石のせいじゃねーだろうな?
つかコレ、地味に重てぇし肩凝るし、一瞬でも外そうもんなら外に椅子来るしよ!!
……ホント壊してえ、あの椅子。
「ルディさんがレッカさんを保護なさるんでしょうか。えっと、ドゥッカーノの王位継承権第一位のショーン殿下なのは驚きましたが……」
「見たまんまっぽいけどな」
「はあ。ルディさん、結構レルミッドさんに似ておられますし……」
「似てねーだろ」
あんなキンキラと似てる訳がねえ。俺は見た目が地味根暗そうって言われたこと有るからな。勿論、そいつはブッ飛ばした。
「何かあんのか?」
「何か、と言いますか。皇籍を抜けた私が言うのもなんですが」
「単なる雑談だろ」
「サジュさんがご同情を寄せられたのも無理もないことです。境遇が悲惨すぎますし」
「………まあな」
「ええと、私は王族であるルディさんがレッカさんを保護をされるのは良いことだと思います」
「何でだ」
「何かが起きてもきちんとした捜査がされるからです。勿論、捜査した上で闇に葬られることは有りますが」
「…………意味ねえだろ」
………闇に葬られた事があるんだろうな。実感が籠ってやがる。
「サジュさんはご立派ですね……」
「にしても、何でかお前、最近……ちゃんとした事言うな」
「そうですか!?お勉強の成果が少し出ましたか!?」
「勉強?」
「はい、少しでもレルミッドさんのお役に立てればと……体は何時衰えるか解りませんが、知識は何処へも行かないからと」
……地味に努力してんだよな、コイツも。
「……ただですね、少し……いえ、結構、分からない部分が有りまして」
「アァ?」
「レルミッドさん、宜しければご教授を願えませんでしょうか……!!」
……フォーナがプルプルしながら差し出して来たのは……何だコレ、神学?回復魔術……?ってオイ!!
「ってオイ!!神官だろ!?何でコレが分かんねえんだよ!?」
「はうううう!!」
「つか余所の神の事なんざ俺が分かる訳ねえだろ!?」
「違うんです!!我が神の教えを押し付けたいんじゃないんです!!教義内容をおさらいしようと神殿から送って貰ったらさっぱり分からなくて!!あ、後、魔術も全然分かりません!!」
「どーやって理解せず使ってんだよボケ!!」
「感覚です!!」
「感覚!?感覚で魔術使ったら、大技の時に内臓煮えたり吹っ飛んだり固まったり溢れたりするって習っただろうが!!」
「ふえ!?そうなんですか!?棒術の感じじゃダメなんですか!?」
「知るか!!俺が棒術やってるように見えんのか!?」
何初めて聞いたみたいな事言ってんだコイツ!!初歩の初歩だろ!!
魔術を使うには天才だろうが凡才だろうが感覚に頼っちゃいけねえって!!
「あの、その……」
「フォーナ、お前……神殿で魔術習ったよな?」
「はう、はい……!!」
習ってそれかよ!!
つかコイツ、回復魔術使ってんのチラホラ見るが、どーなってんだ!?
内臓が丈夫なのか!?
……あのフロプシーの兄弟だしな……。丈夫なのかもしれねえけど!!
「……よくいるんだよ。『何か分からないけど発動した。俺は天才だから大丈夫だろう』的なしょーもない自己判断で魔術使う奴」
「は、はえ……。す、すみません。あ、あの、天才だからだとは思ってません」
「まーお前はそうだろーな。でもな、いんだよ」
「はわ……」
学園でも居たしな。イキッた上医務室送りだった奴。後、カッコいいとかで長い詠唱考える奴。
ガキの頃やるけどな。やったけどな。
まあ、直ぐにボコられるけど。普通詠唱なんかしてたら格好の獲物だろ。敵は待たねえよ。
俺の場合はルカリウムの親戚共に殴られつつ会得したけどな……。
あの学園、チンピラに絡まれてルディが毒盛られて無駄な書き取りさせられたって思い出しかねーかもな。
碌でもねえな。潰れろ。前通る度イラッとすんぜ。
「発動手順を短くすることは出来る。例えば俺とか、アレキちゃんはまーまー発動早え。……それを感覚で使ってるように見えんだろーな?アァ?」
「お、仰る通りです」
「……省略してもいい基礎を短縮するか、飛ばしてるだけだ。アレキちゃんの火花は知らねえけどな」
アレも謎だよな。魔力なのに魔力じゃねえ。
今考えてもイラッとしたら火花飛ばすとか非常識過ぎる。
「レルミッドさんは賢いんですね……」
そんな尊敬します!!みたいな顔で見られてもな……。
それにしても今までよく体中の魔力が固まらなかったもんだ。ゾッとする。
努力してんな、は前言撤回する。
コイツ、努力させなきゃなんねえ。
頭の方で。
「……飯食ったら見てやる」
「あ、有難う御座います!!レルミッドさん!!貴方は本当に得難い方です!!」
何可愛い顔で抜け抜けと……ちょっとドツキたくなったんだがな。
地味にニックが苦労してたんだな。よーーーーーく分かった。
……フォーナが一般人以下にアホ過ぎてな。
イラッとすると大声出んだろ。んで、とうとう怒鳴りそうになったところを叔父上様に怒られて、ついでに王城に行けとか言われた次の日。
取り敢えずフォーナに何が分からないのか書きだしとけっつっといた。
何でも岩運び?の方が楽らしい。
……あの謎の消えるオバケ石像作りの手伝いと比べる事か?分かんねえな……。まあ、人には向き不向きが有るけど……流石に魔力を固まらせて死んでるとか嫌すぎる。
基礎ぐらい押し込まねえと……。
「シアンディーヌ、ちゃんと捕まって」
「あー」
「話が通じないね、シアンディーヌ」
「べー」
「文句?俺だってさっさとアローディエンヌの元へ帰りたいんだよ」
「きゃた!」
……考えながら歩いてたら、人混みにぶつかりそうになった。
誰だよ!?こんな所で溜まってたら迷惑だろうが!!
「?」
……。
どっかで見たこと有る赤毛がデケー独り言言いながら歩いてやがる。
成る程な、アレを遠巻きに見てんのか。
「……こそこそ人を見るな、有象無象」
「ひっ!!」
うお!!こっちまで飛んで来やがったし!!
あの火花、マジどーにかならねえのかよ。面倒臭え野郎だな!!
義妹がいねーとホント迷惑な野郎だ!
って、火矢みたいなのも飛んでねえか!?……まあ、ウゼーのは分かるけど……。
取り敢えず結界貼っといたら、がちん、って火矢を弾きやがった。
「危ねーな!!」
「何、文句有るの鳥番」
「ばうー」
「ハア!?有るに決まってんだろ!!」
って、何時の間に寄ってきたんだコイツら!!
アレキちゃんは今日も相変わらず無駄にツラいいが、抱えた赤ん坊の背中揉んでんのはなんでだ。
普通、赤ん坊っつったら上向きに抱かねえ?
ん?赤ん坊?
「………誰だそいつ」
「は?その歳でボケた?ショーンなんかとツルむから脳細胞が死ぬんだよバカじゃないの」
「お前ブッ飛ばすぞ!!」
「短気鳥番。あんまり大きい声出すな、シアンディーヌが吃驚する」
「…………シアンディーヌ?って、ハァ!?あの芋虫か!?」
……芋虫だったよな!?普通の赤ん坊にしか見えねえけど!?
そういえば、義妹と同じ髪の毛の色……って珍しい話だな。目は薄青い……アレキちゃんの色か。
普通、親の色なんか受け継がねえのに。
変わってんな。流石アレキちゃんの子供。
………まだ赤ん坊だが、ツラは完璧アレキちゃんのツラだな。
しかし、これがあの芋虫か!?どうなってんだ、全然分からねえ。獣人って訳が分からねーな。
「芋虫の何が悪い。視野の狭い鳥番だな」
「芋虫しか見てねーんだから、赤ん坊出てきたらビビるだろーが!!」
「獣人なんだから人に変化もするだろ、非常識」
「煩えんだよ!!つか、何しに来た!!」
「は?此処、俺の職場なんだけど。寧ろお前がいる方がおかしいだろ」
「好きで来てねえよ!!オッサンに呼ばれたんだっつーの」
「は?陛下に?」
「あうぶー」
「………シアンディーヌ、向こう行こう」
「あー」
「オイ、無視すんなや」
難しい顔しながらいきなり向こうに歩いていやがった!!
話中にコイツ!!
つかどっか行くんなら俺とは違うところに行けや!!
「あー」
「何、何で付いてくるの。鳥番と話すことなんて無いよ」
「俺もねーよ!てか何でお前とかち合うんだよ。義妹の方が未だ話通じんのに」
「は?俺のアローディエンヌと何を喋る気。アローディエンヌはお産後で大変なんだよ。ああ痛かっただろうに可哀想な僕の愛するアローディエンヌ」
「あれから3ヶ月経ってんのに未だ体調悪ぃのか?」
「馬鹿なの?俺がそう周りに言えばそうなんだよ」
「…………」
つまり、義妹は元気なんじゃねーか。
嘘っぱちばら蒔いてんのかよ。過保護なコイツだから納得はするけどよ。
「大体、乳飲み子を抱える母親を登城させたいなんて頭がおかしいだろ。忙しいし疲れてるのに」
「義妹、疲れてんのかよ」
「多少使用人に任せりゃいいんだけどね。基本、シアンディーヌは誰にでも懐くけど俺かアローディエンヌの元に這い寄ってくる。ねえシアンディーヌ」
「ぶあー」
頬っぺたつつかれてるアレキちゃんに似た赤ん坊……芋虫だもんな……。
………芋虫か。今の見た目は普通の白いおくるみっーの?巻かれた赤ん坊にしか見えねーんだけどな。
しかし、義妹にはあんだけデレデレしてやがるが、案外子供には普通………いやまあ、他人よりはツンケンしてねえか。
「あーウザイ。騎士サジュをガーゴイルごと取り込もうとしたショーンの話でも披露されるんだろ」
ハアアアア!?
面倒臭そうにとんでもねーこと言いやがるなコイツ!?
「ハァ!?何で知ってる!?っていうか、ガーゴイルってレッカか!?ってサジュごと!?」
「何、現場に居たのに其処気付かないの?まあ、鳥番は興味無いだろうしね」
「いや、ねーことはねーけど」
身内だしな、一応。
あんだけ必死で生きたいっつってんだから。
「何なの?浮気?………あー、そう」
「ハア!?」
相変わらずムカつく言い方だな!!
浮気なんなするかよ!!
「まあ鳥番が綿毛神官を棄てようがどうでもいいけど、ガーゴイルを拾うのはやめた方がいいよ」
「ハア!?フォーナのこと言ってんのか!?棄てる訳がねえだろ!」
「お前、魅了に耐性低いみたいだしね。まあ、あのガーゴイルはそういう使い途しかないだろうな」
「使い途って、お前……」
「忘れたの?あれの魂の本質は、『王女ローリラ』」
「!」
アレキちゃんの薄青い目が、俺を射抜いた途端、いや、一瞬?
グラッとして、飲み込まれそうになる。
……会った当初、似たような感覚に襲われたことがある。……意識ごと持って行かれそうな……。
ってしっかりしろ!!アレキちゃんが腹立つのは今に始まったことじゃねえ!!
「お前の祖父を傷付けて祖母を愚弄して母親を痛め付けたんだろ?ショーンとティミーの母親も殺してる。あれは、『欠片』だ。屑皇女とゴミクズを見ただろ」
「アイツらは本人のせいだろーが。レッカは、本人の、せいじゃねーだろーが」
……ローリラのババア。俺の血縁上の祖母。それは、聞いたっつーか何故か読まされたけどな。
……まあ、聞かされずに正解だ。ブチ切れて会話になんなかっただろーからな。
……あの祖父ちゃんの傷が、あのババアのせいだったとはな。
「その上で?ガーゴイルを庇うの?」
「別に庇っちゃいねーよ」
「でも悪意は抱いていない。お優しいね鳥番。だけどね、俺は覚えている」
……コイツ、本当に悪いツラで笑いやがるな。
赤ん坊のシアンが全く動じてねーってのが……異様だ。身内だからか?
義妹似なのか?いや其処は怖がってワンワン泣きゃいいのによ。ビビる位なんつーか、黒いぞ笑い方が。火花も散ってやがるし……。何で火傷しねーんだ。
現に遠巻きの奴ら、座り込んでる奴もいるし……って言うか、何で俺らが見世物になってんだよ。
暇か?暇なのか?
「なりたくもない立場から抜け出すには、本人が努力しなければ無理だよ。お情けを借りて這い上がれたら?その後、必ず狂う」
「……」
そんなもんか?
いやでも……レッカの事とか知らねえしな。
「でもまあ、ガーゴイルを他国に売りつけるにしろ……いい駒とも言えないしね」
「お前、イトコを売り払うとかよく言えんな」
「馬鹿なの?王族に生まれた女の行方なんて、利益か金銭に利用されるだけだろ。私だってなりたくもないショーンの婚約者にさせられたんだからな。それこそ、ガーゴイルの両親のせいだね」
「あたー」
………そーいやルディとアレキちゃんと婚約してたんだったな。
忘れてたぜ。義妹義妹煩かったしな。
「まあいいや。解決策はひとつだろ」
「何かあんのか?」
「は?馬鹿なの?殺せばいいだろ?」
「だからそれが……!!」
殺すなっつってんだろうが!!と叫ぼうとしたとき……。
「人の従兄に何を吹き込んでいる、アレキ」
「……お前が絡むと面倒だよ本当に忌々しいな」
………王子っぽい……いや王子なんだが、そんな格好のルディが何時の間にか後ろに立ってやがった。
……その後ろには固い顔のサジュと、スゲエ帽子の……レッカか?
……手は普通だ。人に戻れたみてえだな。
「…………っ」
「アレッキオ卿……いや、解るけどよ」
「何」
「………いや、何でもねえ。兎に角だ、レッカに関してはルディ様を頼ることにする」
「ふーん」
…………心底どうでもよさそーだな。
まあ、アレキちゃんが義妹以外の事で動揺してんの見たことねーしな。
「所でアレッキオ卿、聞きてーんだけど」
「は?未だ何か有るの?」
「その赤ん坊、誰の子だ?」
「…………俺の子だよ馬鹿じゃないの!?」
………やっぱそう思うよな。
俺ら、芋虫しか見てねーし芋虫だと思うよな。
悪役令嬢アレキちゃんこと義兄さま、アレッキオ・ユール登場で登城致しました。
タイトル……これが書きたかったので御座います。
娘シアンディーヌは芋虫の獣人にて御座います。虫でも獣人扱いされる雑な世界観はそのうちご披露にて。