12.可愛い子に騙されては駄目なのに
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「信じられないわ赤フード。滅茶苦茶美少女じゃないの。くっ、悔しいわ!!でも若様の方が遥かにお美しいし、シアン姫様の方がお可愛らしいのよ!見なさい、もにもによ!」
「ぼもあ?」
「ケンカうってんのか」
おお、勢いが凄いわね。
そもそも何故ドートリッシュがシアンディーヌをレルミッド様に突き出して、怒っているのかしら。
吊り目の可愛らしい女性が、芋虫を美少女いや美少年に……。
……傍から見ると、凄い絵面よね。その芋虫私の娘だけどさ。
まあ、分からんでもないのだけど。
肩にかかりそうな位の少し長めの灰色の御髪はサラサラで、滴るような紫の瞳は灰色の長い睫毛に覆われてキラキラ。室内なのに煌めく風のエフェクトが舞ってそう。
大人しそうな儚さな……滅茶苦茶可愛い美少女ぶりでらっしゃるものね。
義兄さまとはまた、ジャンルが違うからどっちが良いとかでは無いしね。光の美少女属性って言うのかしら。ルディ様もショタ化されてお並びになられたら……きっと目が潰れるわね。自信あるわ。
そういや昔……超遠目からしかお姿を見たこと無かったのよねえ。脳内ストックも無いから悔しいわ。美少女だったんだろうなあ。
あ、美少女じゃなく美少年だったわ。いけねえ、認識をつい口に出しそうよ。
「野郎でも面白いくらい薄紅似合うな、先輩。アレッキオ卿も似合いそーだけど」
「おまえらきょーだい、アタマおかしーだろボケ」
「俺は外で薄紅は着ない」
ええ、いや、嫌がっておいでだけど本当にピンクがお似合いだわ……。べた褒めしたいけど、激怒されるから絶対追撃しないけど。私は空気の読めるモブなのよ!!
しかし、思い出したくないけど、私が子供の時に義姉さまとお揃いで着せられてたピンクのフリフリ思い出すなあ。
……本当に服に存在を消されていて、ホントモブが何の冗談だよ!?だったけどね。
て言うか、今の義兄さまでも元の義兄さまでもピンクは似合うと思うんだけど、好みじゃ無かったのね。確かに暗めの色ばっかりのお召し物だしな。
いやそもそも、そうじゃなくてよ。
何故今のレルミッド様のサイズのヒラヒラピンク子供服が用意されているの。おかしいでしょ。
やっぱり、間違いなく、嫌がらせとしか思えないわ。
ちゃんとお着替えになられたレルミッド様、お育ち&お人が良ろし過ぎるわね。義兄さまの口車&場に流されてしまれわれたのかしら。よく丸め込まれてるから超解るけど。
もしかして他に何か意図を以てのことなのかしら。
「何故この寸法の子供服が用意されているんですの、義兄さま」
「え、嫌がらせだけど」
「てめえ!!」
「やっぱりなんですの!?」
外れてほしかったのに!!何なのホント、酷すぎるわ。
「煩いなあ。大体拉致されやすそうな格好を選んで用意してやったのにピイピイ煩いんだよ」
「拉致されやすそうな格好!?」
「子供が好きな選民意識の高い変態って、過保護な脱がせにくそうな着飾った子供が好きでしょ」
「えっ、そうなんですの!?」
そんなセオリー初めて聞いたけど!?
「いや義妹殿、普通に貧民街とかでもガキの拉致起こってっから」
「そ、そうですわよね」
くそう、義兄さまの尤もらしい適当な話にまた騙されるところだったわ!!
「何にせよ子供に危害を与える変態は駆逐すべきよね!若様、何なら私もか弱そうな感じの囮に!」
「いや、姉さんは見るからに強そうだから囮になんねーよ」
「失礼ね!!!」
「そもそもおまえ、ガキじゃねーだろ」
それ以前に妊婦さんを囮にすべきじゃないわよね。
そして、その事実をサジュ様にお伝えしないのかしらドートリッシュ……。
今更だけどご家族より前に知ってしまって良かったのかなあ。
「兎に角、外を適当に彷徨いて拐われて、壊滅させて来いよ」
「ふざけんなボケ」
「……義兄さま、レルミッド様だけに負担が大きすぎますわ。そもそも義兄さまが悪いんですのよ。やっぱり無償でお解きくださいな」
「ええー?やだあ」
やだあじゃなくて!
何その妖艶にあざとい顔。……とってもハタきたいわ。コレが小悪魔って奴なのね知ってた。
「義妹殿の頼みでも解かねえなら一生解かねえなコレ……。先輩、オレも着いてくからその犯罪者の巣窟を撲滅しに行こうぜ」
「アレキちゃんのおもわくにのるのが、しぬほどイヤすぎんだけどよ」
「我儘だな鳥番の癖に」
「義兄さまのせいでしょうが!」
「そもそもさ、見るからに騎士の風体の隻眼の大男がくっついて回ったら拉致なんて起きないだろ。考えろよ騎士サジュ」
「いや別にガチの隻眼じゃねーんだけど」
「通行人目線で考えろよって言ってるんだよ」
「た、確かにサジュ付きじゃあんまり拐われそうに無いですわね、若様」
いや、安全なのはいいじゃないの。
拉致されないのは結構な事なのに、何なのかしらこの会話。
義兄さまのせいで久々に常識が死にそうなんだけど、どうしたらいいの。
「では、僕が引き受けましょうか」
「うわビックリした!!誰だよアンタ!?いや、ん!?」
「えーと、見たことあるわね」
あれ、ドートリッシュってティム様とイマイチ面識無かったかしら。
「げ、ティム」
「ティム様ぁ!?」
「はい、ティミー君こと、ティム・ジニーです」
「意外と遅かったねティミー」
うわ、戻っていらしたのね……。見た所、返り血とかは無いみたい。
良かった、穏やかに済ませてくださったのね……。きっと裁判沙汰とかで長期労働とかなのよね。ええ、きっと……まあ、そっちが良いかどうかは兎も角として、人道的だものね。
そしてルーロ君が居ないけど何処へ行ったのかしら。
「ええ!?何スかその顔どうしたんです!?」
「眼帯のサジュ君に指摘されるような傷です?獣に引っかかれて切っただけです。手当が遅れたので跡が残りました。いやあ、草原は物々しいですねえ」
あ、そうだったんだ……。特に突っ込んだらまた暗いエピソードが有るのかしら突っついたら駄目ねと思ってたけど、意外に普通の理由でいらしたのね。
いや怪我に理由もへったくれもないんだけど……この方危ういからなあ。刹那的と言うか。
「つかおまえ、ホントにウチにいたのか」
「これはレルミッド、可愛らしいですねえ。ルカリウムでも君程可愛い子は居ないですよ」
「ドツくぞボケ」
「ティミーと鳥番ねえ。まあ、犠牲はお前らでいっか」
「ハア!?」
「ええ!?」
ちょ、今義兄さま何を言ったの!?
ま、まさか……。
「義兄さま、今、何て仰いました!?」
「え?聞こえなかったあ?じゃあ可愛いアローディエンヌに説明してあげるね?鳥番とティミーを変態退治に放り込むことに決めたあって言った」
「いやだから止めません!?騎士団の方々にお任せしましょうって私もお願いしてますけど!!」
「ふふう、だあめ」
人の膝に顎を載せて微笑まないで欲しいんだけど!!可愛いけど!!
「いやいやいや、義妹殿の言う通りだ!!オレにはそう聞こえてもねーし!?」
「え?何がマズイの?」
「姉さん!!忘れてるみてーだけど、このティム様は第二王子!!後、忘れがちだし忘れてたけど先輩も結構高位の王位継承者!!」
「……うおおお!!そ、そうだったわ!ご、御免なさい不敬を!!」
「良いんですよルーロ君の奥方殿。お元気そうで何よりです」
「ううう急に優しい微笑みが怖くなってきたわ……」
あ、ドートリッシュがシアンディーヌを抱えたまま後ろに飛び退いてしまったわ。て言うか良いのかしらこんなに機敏で。
お腹の子供さんに障らないのかしら。運動神経良いなあ。
っていや、今はそうじゃなくてよ!!
「義兄さま、ティム様とレルミッド様を囮にする気ですの!?」
「高位の奴が無辜の市民の恐怖の根源に立ち向かい矢面に立つって素晴らしいじゃない。僕は絶対やらないけど」
「義兄さま!!」
義兄さまが無辜の市民の為に立ち上がる訳無いのは分かってるけど、酷いな!!
「いやアレッキオ卿マジマズイ。先輩くらいなら何時もの事かで流されるけど、ティム様を巻き込むのはヤバい!!つかいつの間に帰って来てたんです?!何考えてんだアンタ!?」
「僕だって帰省くらいしますよ、あはは」
……た、確かに。今までボケッと流されていたけれど……。
ティム様は何を企んでおいでなのかしら。義兄さまに呼び出された、とは仰っていたけれど。
この方が何もなく手助けをするだなんて考えられないわ……。義兄さまの思惑に逆らえないのは兎も角、何か絶対企んでいらっしゃるに違いない……。ホント全く想像つかないけど!!ああもう、ホントこのモブ脳が!!役立たない!!
「まあまあ、レルミッド。僕達従兄弟同士じゃありませんか。偶には交流と知識を深めましょうよ」
「おまえうさんくせーんだよ」
「あはは、散々ですねえ」
……うーん、前とは笑顔が少し違うかしら?ご結婚されたそうだけど、お変わりになったのかしら。
でも、義兄さまの悪巧みにおふたりを巻き込んで放置するわけにはいかないわ……。
「義兄さま」
「んんー?なあにアローディエンヌう」
人の膝にスリスリしてくる義兄さまの頬っぺたを触ったら顔を上げてくれた。
……あざっといわね。
いや、それどころじゃなくてよ。せめて私もあのおふたりの後ろから付いていってご無事を確認するとかしないと!!恐らくサジュ様も後から付けていかれるでしょうけど、サジュ様にも申し訳ない!!
「私とデートしてくださいな。それで……」
義兄さまを連れて行けば、まさかの現場にも対応が可能かも!!
……被害甚大になるかもしれないけれど、おふたりだけにするよりは、きっと……いや、どうかしら。
勢いで言っちゃったけど、あのおふたかたのピンチに助けて……くれるのかな義兄さま。
早まったかしら。
「するううううう!!」
「煩っ!!」
煩い!!至近距離で叫ばないで欲しいんだけど!!
あああ、しまった。間違えたわ。
私とデートのフリをして、っていう話が出来ない!!
「おまえら、イチャつきてーならおれらが帰ってからやれ」
「失礼ね赤フード!!私と違って義妹姫様は色々お考えの上ご発言なさってるのよ!!」
「い、いえ……今ちょっと、勢いで言ってしまったけれど違うのよ!!」
「アローディエンヌからのお誘いだなんて嬉しいなあ今日は記念日だねえ!!来年は盛大に祝おうね!!」
「いや何を祝うんですの意味が分からない!!そうでなくてですわね義兄さま!!」
「うんうん、お前らサッサと行って壊滅してこいよ。邪魔!
報告は要らないよ勝手に調べるから。俺はアローディエンヌとのデートに忙しいからサッサと出ろ!」
「良かったですわね若様!シアン姫様は私がお預かりしておきますわね!」
「いえちょっと待って頂戴ドートリッシュ!!義兄さま!!」
「アローディエンヌう?」
くい、と顔を包まれた。近い!!近い近い近い!!赤い睫毛が私の顔に付きそうな位顔近づけて来てるし!!
……い、いつの間に膝の上に乗ってんのこの人!!
全然気配を感じなかった!!
「義兄さま、近いんですが」
「普通だよねえ?」
「仲良いですねえ。何だか退廃的な雰囲気が漂ってますけど」
「解りますけど、何なんだ。アレッキオ卿がチビなのに何なんだあのエロい雰囲気」
「絵になるわあ。流石若様と義妹姫様」
「いもうとがおそわれてるっぽいし、ハンザイくせえ」
いやあああああ!!
絶対絵になんかなってないわよおおお!!
「義兄さま、失言でしたわ。大体今の義兄さまのお姿でデートだと、レルミッド様の仰る通り、犯罪っぽいですし」
「なあんだ、何の問題も無いよねえ。大体アローディエンヌ、小さい僕も好きでしょお?」
さわ、と義兄さまの指が私の唇をなぞる。
いや、えっと、確かに好きだけれど。
近い、近いんですって義兄さま。ドサクサに紛れて膝を撫でるな!!
「だあって、ずうっと見てるもんね。そういう目で」
にやあ、と悪い微笑みで、かぷりと。
反論しようとして開けた口に、口に!!
人の、人の見ている前で……齧り付かれた。
何時もとは違う、小さな、柔らかな甘い唇が、私の口に!!
ああ、本当にどうしてくれようこの悪役令嬢!!
今日も義兄さまの悪事を止められなくて、良いようにされてしまった!!
義兄さまは記念日が大好きなタイプです。
 




