9.徴呪章院への立ち入り許可は取られていない(レルミッド目線))
お読み頂き有難う御座います。
仕事をしてたら呪われた被害者レルミッド視点でお送り致します。
「ルカリウム殿下、あの……その、閣下がお出でになられました」
「……あぁ?」
誰だよ閣下って。
いやそもそも俺を殿下とか呼ぶなや。単なる庶民だっての。
そう怒鳴りてえ所だが……。この気弱な奴にそれを言ったってしょーがねえ。
「いいかレルミッド。お子様が考える以上に立場ってもんが有るからな。敬称は職責上で呼ぶんであって、そいつだって好きで呼んじゃいねーからちゃんとやれ。
お前だって大人になるんだからな、規則と秩序は守れ。
それは王城でも草原でも大して変わらんからな!」
叔父上様に釘を刺されてる以上……ああ面倒臭え!!
ムカつく事に、俺は今、王城の徴呪章院で働いている。
オッサンの思惑通りな。理由は有るし引き受けちまった自分も腹立つ。
この、本のぎっしり詰まった建物は使われて無かった割には無駄に広い。
長方形と円を組み合わせた変わった形の二階建ての建物で、吹き抜けの割には暗い。光が本を痛めるらしく、明かり取りの窓は最小限の……要は辛気くさい建物だ。使われてる床材まで暗い色だしな。
嫌になる位本だらけで、無秩序に積み上げられてる。
そこかしこから雪崩れて落ちそうだ。積み上がってるホコリもな。
しかもコレ、全部呪いの本だからなふざけんな。
頭に当たったら呪われたりしねーだろうな!?
あー、呪いとかマジ関わりたくねえ!!
で、何人か可哀想に俺の下に付けられた部下が何人か居るわけだ。まあ、隠しもせず胡散臭そうに見てくるもんだからな。
「俺みてーなポッと出のガキの下に気の毒になとは思うが、俺だって望んでの事じゃねえ。割り切って貰うしかねーな。
嫌なら出てけ。止めねえ」
最初にそう言っといたら、次の日にゃ5人くれー居なくなってた。
残った奴等はビクビクしてやがったな。
「あの、殿下……そ、その」
「多かったし、別にいい。整理からだな、始めるぞ」
しっかし、此処には上の言うこと聞かねー大人が多いもんだな。
あの前の王のジジイと前の王妃のババアが牛耳ってたから仕方ねーもんなのか。
まあ、王城の人数合わせどーでもいーけど。
そもそも1人かと思ってた位だしな。後、結構な確率でルディが来やがる。
「残ったのは8人か。まあ、妥当な所だな」
「妥当か?」
「『謎の殿下』に従う違和感は有るだろうが、保守的でいいことだ。僕も此処で働きたいな」
「止めとけや。ホコリ塗れになんぞ」
「ホコリ位構わんぞ?」
あの時も目茶苦茶遠巻きだったな。
そんな感じで残ったら職員?と付かず離れず……遠巻きにされまくってってのが正しいか。俺は呪いの本の整理に取りかかっていた。
まあ、魔術と似たような内容が多い。だが、魔術と違って……呪いを掛けるには色々下準備がいるみたいだな。
あのアレキちゃんトコのチビが本職みてーだが。
「閣下って誰だよ。そんな偉そーなのに会う予定ねーぞ」
「お前の方が偉そうだろ、鳥番」
この、ゾクゾクゾワゾワする声は……うわ、やっぱりかよ!
何処から入って来やがった!!
見た目だけは篦棒に良いが、タチがそれ以上に悪過ぎる輩が来やがったじゃねえか!!
「表でお前の鳥が鳴いてたよ。世話の放棄?外道だね、ペットにちゃんと責任持てよ」
「煩えな。親戚のオッサン共に餌は貰ってる筈だっつーの」
大体あれは勝手に着いて来やがるが、一族の財産みたいなもんで、個人のペットじゃねーし!
ペットなら猫買うっつーの!!
「勝手に入ってくんな」
「お前が管理し始めてから煩いね。今まで誰も俺を止めなかったのに」
「無人だったからだろーが」
「そうそう。何を勘違いしたのか勝手に着いてくる輩も居たから、燃えない程度に平べったく伸した。裂くのは本が汚れるしね」
「聞いてねーよ」
アレキちゃんの事だから殺りたい放題しやがったんだろ。
何でこんなのに纏わり付きたいのか訳分かんねーな。
こんな物騒な奴、女でもお断りだ。
「それで、整理は済ませた?さっさとやれよグズ。仕事出来なさすぎじゃないの?」
「ざけんな。
1ヶ月足らずでこんなデカイ建物整理出来る訳ねーだろ」
薄青い目で周りを一瞥して、嫌味ったらしく笑いやがった。ムカつく野郎だ。
「散らかってるなあ。前と一緒」
「おい、そんなら何しに来た。まさかイチャモン付けに来たのかよ?」
「そんな訳無いだろ」
目的の場所が分かってるのか、床に積み上がった本の間をスイスイ抜けて行きやがる。
未だマシな書架に立ち止まると迷い無く、本を抜き出した。
毒々しい装丁の本だな。悪趣味か。間違いなく本屋で並んでたら無視する種類の本だ。
「有った」
「おい、勝手に持ってくな!非常識か!」
整理中なのに持ってこうとしやがるしな!!
「煩いなあ。俺にも権限有るの忘れた?健忘症か、その歳で綿毛神官のお荷物になるんだ。いい気味」
「煩えな、お前は何でもかんでも勝手にやり過ぎなんだよ!大体覚える程の事でもねーだろうが!!」
「まあ、此処じゃ身分がどうとかは最小限だからある意味お前にはお似合いかもね。未だ暑苦しくてジケッとしてるし」
「煩ーな」
「物知らずな鳥番に教えてやるよ。湿気は本に良くない」
本に?……まあ、一応呪いの本だが、ちゃんとした方がいいんだろうな。
乾かせばいーのかよ。腹で魔力を練って周りに風を拡散させたらいーか?
取り敢えず建物だけを範囲指定して、魔力を流すと……何故か首に提げてる玉座の破片が光出しやがった。うわ、無駄にキモい。何のつもりだあの椅子。
「おお!流石殿下!!」
「す、素晴らしい!!流石殿下!」
湿気が取れてきた途端、ザワザワしてやがる。
職員の声が近えな。何サボってやがんだ。
「よくもまあこんな暑苦しい空間で我慢してられたよ。鳥番は気が利かないし」
「持ってくなっつってんだろアレキちゃん」
油断も隙もねーな。舌打ちしやがったコイツ。
「ああ、そうだ。じゃあ中身を覚えて帰るよ。それなら良いだろ」
「まあ、出来るモンならやってみろや」
「言ったね」
アレキちゃんの手袋をした指が、ボコボコした気持ち悪い装丁の本の頁を捲った。
気持ち悪い本片手の癖に、無駄に絵になる野郎だな。腹立つ。
「……そもそも何の本なんだ」
「呪いに決まってるだろ」
「何の呪いかって聞いてんだよ!」
「馬鹿なの?教えたら俺に何の得があるの?」
殴りてえ。
流石に人目が有る中でドンパチやれねえし!!
「ああ、でもそうか。実験台」
「は?」
アレキちゃんの赤い髪の毛が舞い上がったと思ったら、アホみたいに細かい模様が展開される。
赤い円に、半円。曲線に、直線が重なって……魔力の気配は無いから、油断してた。
「テメエ!!」
「ふーん、効き具合はこんなもんか」
グルグルと模様が周りを囲んで……気付く。
目線より下だった机に、遥かに高い書架に天井。
ブカブカな服は何だ!?
「な、な」
「じゃあ帰るよ。邪魔したね」
ぽん、と本を書架に仕舞って……音もなく赤毛が出口へ向かう。
相変わらず足音しなくて気持ち悪い野郎だ!!
じゃ、なくてよ!!
何だこの小さい手足。頭は重てーし、グラグラする!!
「で、殿下……」
恐る恐る近寄ってくる職員共が、怯えた目で見て来やがるが知ったこっちゃねえ!
「アレキちゃんの野郎、俺を呪いやがったなあああ!?」
「そんできがついたらガキにされてたんだよ!!」
「因みに偶々オレが通り掛かったら絶叫が聞こえたから駆け付けたら任された」
服の調達やら何やかんやで怒鳴り込むのが遅くなったけどな!!
て言うかガキだからって、何でオッサン共に揉みくちゃにそれんだよ!要らねえだろ!!
「本ッ当にアレッキオが申し訳御座いません!!直ぐに解かせますので!!」
「ええー?やだよお」
この野郎!!何マジのガキみたいに義妹にしがみついてんだ!
だが、素直に呪いを解くとはこっちも思ってねえ。
「やだよおじゃ有りません!!被害が私だけだと思ってたから違和感と不自然と意味不明を流してましたけど、レルミッド様を巻き込むなんて何事ですの!!そもそも徴呪章院?呪い!?」
「の、呪いは……恐ろしいですわよね」
「ドートリッシュ、気分が!?」
義妹は呪いやら徴呪章院を知らなかったみてーだな。アレキちゃんの囲い込みか。
サジュのねーちゃんはある程度知ってるみてーだが、ガタガタ震えすぎだろ。
「じゃあ無差別に其処らの貴族に掛ければ良かった?それも運試しで面白いか」
「いやアレッキオ卿、鬼畜かよ」
「義兄さま!!あら!?よく見ればサジュ様、お顔にお怪我を!?そんな中、申し訳御座いません!!」
「いや、物もらいみてーなもんだから大したことねーよ、義妹殿」
物もらい……。全然違うだろ。タチの悪さは似たようなもんかも知れねーがな。
眼帯に気付いた義妹が指摘して慌ててんな。無表情だが。
「て言うかサジュ、良いところに来たわね!後で話が有るんだけど」
「いいぜ、先輩が元に戻ってからな。つかアレッキオ卿、解いてやってくれよ。流石に練習台は酷すぎるだろ」
「ガキみたいな気性なんだからお似合いだよ」
「ブッとばすぞ!!」
「義兄さま!!何だかよく分かりませんし、後でご説明頂きますけどレルミッド様はお仕事中だったんですのよ!?」
「うん、だから耐性無くて要領の悪い鳥番が悪いんだよね」
「ハァ!?」
義妹の膝に乗ったアレキちゃんは義妹にベタベタしてやがる。
「それに気軽に言うけどね。解呪は高くつくよ?」
「たかくつく!?」
「いやアレッキオ卿が自分で掛けといてかよ!?」
「誰が掛けようが呪いは呪いでしょ。人によって同情したから無料なんて罷り通ると思うの?」
「ご迷惑掛けといて何を言ってますのよ!?」
本気で、アレキちゃんと関わると碌な事ねえな!!
義妹の口添えでも駄目とか……。あーでも、基本コイツ、義妹の言うことも7割聞いてはいるが従わねー気がする。マズッた。
「そもそも俺が無意味にお前に何かすると思う?」
「なにをさせるきだよ!?」
「そのルカリウムの見た目でちょっとね」
「ルカリウムのみため……?」
俺の見た目が何だってんだ。嫌な予感かしかしねえ!
コイツに従いたくねえ!!
「ほかにのろいをとけるやつ、いねーのか?」
「私の旦那様がそうだけど……お勧めしないわ赤フード」
「えっそうなの!?ルーロ君が!?」
「なんでだよ」
「いや先輩、マジ止めとけ。高額請求されるからな……」
そんな死んだ片目で見てくんな。その顔色怖すぎるだろ。
どんだけボラれんだよ!?
しかもあのチビ、アレキちゃんの手下だろ!?巡り巡ってどっち転んでもアレキちゃんの思惑通りじゃねえか!!
義兄さまは今日も傍若無人で自由です。
 




