8.鳥と誰かが来たみたい
お読み頂き有り難う御座います。
シアンディーヌと戯れるドリー目線です。
「もあー」
「シアン姫様、たかいたかーい!」
「っも!」
あーお可愛らしいわー!何てモチモチしたお体なのかしら。
本当にこんなに愛らしいなんて、素晴らしいわね!やっぱりシアン姫様は世界一可愛らしい芋虫だと思うわ!キャベツをもしゃもしゃ噛んでるお姿も愛らしいわね!!
和むわねえ。
「やっぱり将来は蝶々になられるのかしら。きっと可愛らしさの塊から美しさの権化になられるのでしょうね!」
「あもあ?」
人の形に変身されると若様似でいらっしゃるけど、お髪は義妹姫様譲りの綺麗な灰色がかった黄色なのよねえ。瞳の色は若様譲りで!
「お髪と目の色が似るなんて、流石おふたりのお子様、奇跡的だわ!」
「んむまも……」
そしてあのおふたりのご息女だもの。目が眩む程美しく目茶苦茶賢くご成長なさるでしょうし、蝶々の羽を背負ったお姿……華やかで素敵でしょうねえ。
きっと求婚者が引きも切らず、モテモテで血で血を争う戦いになってしまうわ。
うーん、それはダメね!そんなのを可愛らしいシアン姫様に近づけてはダメよ!危険な輩は排除すべきだわ!
「もみ……うう」
あら?シアン姫様が私のお腹に這い寄って来られたわね。
あっ、ちょっとくるっとお体を丸めてウネウネされているわ。
お乳かしら?それともオムツかしら?このお体なのによくズレないわよね。このオムツよく出来てるわ。お高いんでしょうねきっと。
我が子が産まれたらウチもコレを使いたいわー……なーんて!気が早いかしらキャっ!いえ、今からコツコツ1枚1枚買って貯めたら良いわよね!どれ位の量が必要なのか後で使用人さん達に聞かなきゃ!
あっ、でも今はシアン姫様のご機嫌の方が大事ね。意思表示をなさるように鳴かれてるけれど、流石に獣人の鳴き声は分からないわね……。芋虫のお体で鳴かれるなんて本当に奇跡的!
取り敢えずお部屋の隅に、確か新しいオムツと替えの台が有った筈ね。
お腹はさっきからキャベツ食べられてるもの。大丈夫だと思うわ。
うーん、シアン姫様のお陰でメキメキとオムツ替えの技能が上がるわ!
私の子供は勿論、近所に芋虫系獣人の赤ちゃんが産まれた時に手助けが出来るわね!
あ、何と義妹姫様や若様もオムツ替えをこなしてらっしゃるのよ。あれだけ高位貴族でいらっしゃるのに、おふたりとも目茶苦茶家庭的よね。素晴らしい家族愛だわ!!
最初見た時は、眼病に掛かったか幻覚魔術に填まっちゃったかを疑ってしまったのは内緒よ。
「むむもん……」
綺麗にさせて頂いて満足なご様子ね!私の膝に登って来られたわ!ああ、癒されるお体ねえ。
「あ、シアン様、私とルーロ様にも赤ちゃんが授かったんですのよ。丁度今いらっしゃる辺りに入ってますの!生まれたら是非とも仲良くしてくださいね!」
「むあ?」
「個人的にはルーロ様似な男の子が良いんですけれど、ルーロ様似な女の子もとても可愛らしいと思いません?どっちにしても賢い子が希望なんですけど……私に似たらどうしましょう」
「すぴ……」
あ、危ない危ない。私に登ろうとした姿勢のまま眠ってしまわれたわ。
「ありがと、ドートリッシュ夫人」
「御免なさいねドートリッシュ。シアンディーヌを見ていてくれて本当に有り難う。
「いえ若様……ええええええ!?」
こ、この若様にそっくりな可愛い子、何処の何方あああ!?目茶苦茶可愛らしくていらっしゃるけれど!!
「俺だよドートリッシュ夫人」
「お初お目に掛かりますわよね!?まさか若様のご親戚!?」
「……ドートリッシュ、この子供はアレッキオなの」
「まあ、若様と同じお名前!!」
「むももめー」
「あっ、シアン姫様!!」
いつ起きられたの!?
相変わらず跳躍力が凄すぎるわ!!あのもにもにしたおからだの何処にそんな筋力が隠されているのかしら!!
じゃなくて!!
「よっと」
「に、義兄さま、大丈夫ですの?」
うわっ、あの美少年やるわね。シアン姫様を受け止めてるわ!!この頃少し重くなられてきたのに!!
「まあシアンディーヌ程度なら大丈夫だよ。これ以上重いなら難しいかも」
「私が抱きますから」
「ええー?偶には僕優先にしてよー」
ええと、ええとおおあれ!?
こ、この息の合うやりとり……。
「本当に若様なんですのね!!疑って申し訳ありませんでしたわ!!」
何てことなの私ったら!!恩人を疑うなんて万死に値するじゃないの!!
あああ、お辞儀ごときじゃ許されないかもおおおお!!
「ド、ドートリッシュ……お辞儀は結構よ。意味が分からないことばっかりやらかす義兄さまが悪いの」
「ええー?アローディエンヌひどおい!」
「兎に角そんな早いお辞儀を何回も止めましょう?お腹にも良くないし、ふらついたらどうするの?さあ、座って頂戴」
手ずから椅子にお導き頂いてしまったわ。……ななな何てお優しいの、義妹姫様ったら。
そしてお隣のシアン姫様をお抱きになった若様……。失礼だけれど美少年って巨大な芋虫をお抱きになっても麗しいのね。若様もそうだったけれど、美しいって奇跡的なのね。
うーむ、お可愛らしいわ。
何がどうしてこうなったのか分からないけど、若様はお小さくても神がかったお可愛らしさなのね……。そしてお小さいのに妖艶な所がシアン姫様とは少し違うわ。義妹姫様とお並びになられると仲の良いご兄弟のようねって……義理のご兄妹でもいらっしゃったわね。
色々こんがらがってきそう。
「ドートリッシュ、具合はどう?御免なさいね、シアンディーヌを預けてしまって」
「美味しいお夕食と朝食を頂いて今朝から死ぬ程元気ですのよ!」
義妹姫様は本当お優しいわよね……。
「そ、そうなの……。悪阻が心配だったけれど、良かったわ」
「それが全く快調ですの!気のせいだったみたいですわね!走り回りたくてたまりませんわ!」
「そ、そう。お腹の赤ちゃんの為にも控えめな運動がいいわね」
「控えめな運動……農作業で宜しいでしょうか!?」
「えっと……農作業に急を要しないなら、お医者様とご相談した方が良いけれど。一般的にはお散歩とかでいいんじゃないかしら」
「まあ、お散歩ですか」
成程、お散歩……。流石義妹姫様。優雅なご提案だわ。
早速毎日歩きましょう!王都のウチにお庭は無いから、王都の内周を5周くらいで間に合うかしら!ついでに夕飯の買い物をして帰れば良いわね!
「若様、お客様です。サジュ・バルトロイズ様ともうおひとりで御座います……」
「えっ、サジュ!?」
そういやサジュに連絡するの忘れてたわ!子供が出来たことちゃんと報告しなきゃ!あの子も結婚することになって、とうとう叔父さんなのね。感慨深いわ……。
「ああ、来たの」
「義兄さま、何だか庭に……何処かで見たような鳥が飛んでますけど……」
此方のお庭が広くて素敵だから鳥が映えるわねえ。……赤白だなんて、随分派手な色の鳥ね。珍しいわ。お金持ちは南国に住む派手な色合いの鳥を飼うって聞いたことが有るけど。
あっ、でもシアン姫様に危険じゃない!?窓を開けないようにしないといけないわ!!
「鳥番の鳥だねえ」
「えっ、鳥番って、レルミッド様!?レルミッド様って鳥をペットにされてましたの!?」
「鳥番だからねえ」
レルミッドって……確か赤フードの名前よね。アイツ鳥なんか飼ってたのね。こんな変わった鳥を複数飼うなんてお金持ちなのね。でも何で放し飼いなのかしら。鳥だから?そのまま逃げちゃわないの?変な飼い方だわ。
「アレキちゃん、一体なにしてくれてんだボケ!!」
「おわちょっと待て先輩!!暴れんなよ!!」
「サジュ!いいところに!」
「話は後だ姉さん!!先輩を捕まえてくれ!!」
あら、この灰色の髪の子供誰かしら。
とっても可愛らしいわね。高価そうな緑色の子供服だけど……何でサジュと居るのかしら。迷子?
「鳥番の癖にうるさいなあ。ちょっと小さくした位で本当に心が狭いよね」
「せまいひろい、のもんだいじゃねーんだよ!!」
……まあ!この子供大人しそうな顔割に若様に掴み掛かろうとしてるわ!
……どっかで見たこと有るわね?特にこの紫の目……。
「……まさか、レルミッド様ですの?えっ、どういうことですの?義兄さまの仕業ですの?」
「そーだよ!!あーもうウゼえ!なぐらせろや!!」
「えっ、ホントに赤フードなの!?どうなってるの!?」
「いや、姉さん。その辺話すと長えんだけど」
「もにゃ……」
「煩いなあ鳥番!シアンディーヌが起きるだろ!勝手に押し掛けてきて本当に迷惑なんだよ失せろ!」
「おまえのせいだろうが!!」
失礼極まりないわね!
でも、この顔でキャンキャン言われると、中身が赤フードでも何だか微笑ましく思えてしまうわね。育つと顔は良くても許しがたいけどね!
「と、兎に角義兄さまの仕業なんですのね!?それにしても何てお可愛らしいのかしら、レルミッド様」
まあ、義妹姫様ったら!
確かに若様と並ぶと……目茶苦茶目に麗しくて優しいわね。お気持ちは分かるわ。
うーん、こんな可愛くて綺麗な子供が居るのねえ。私とサジュなんて子供の頃はもっと小汚なかったしね!勿論貧しくも楽しい日々だったから辛くは無かったけど!
「えええ!?こんな乱暴者の何処が良いのアローディエンヌ!!僕の方がずっと可愛いのに!!」
「うるせー!お前もじゅーぶんランボーモノだろーが!!」
うーん、この言動。確かに赤フードそのものね。
見た目おとなしめの女の子みたいなのに……残念な奴だわ。
「まあ、確かにアレッキオ卿は乱暴者だよな……」
「全くですわね」
「まあ、若様は乱暴者なんかじゃ有りませんわよ!!」
「そうだよ!僕、理由もなく乱暴なんかしないからね!」
「よくもまあ……。ですが、兎に角ご事情をお聞かせくださいな」
うーん、シアン姫様をだっこしながら義妹姫様にくっつかれる若様は本当にお可愛らしいわ。まるでぬいぐるみを抱いてお姉様に甘える子供のようね。
でも一体本当に何が有ったのかしら。
あの庭の鳥も全く飛ぼうとせずこっち見てるし……赤フードって変わってるわよね。
被害者がもうひとり。




