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サポートキャラに悪役令嬢の魅了は効かない(その後の小話集)  作者: 宇和マチカ
悪役令嬢は暗躍せり

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7.闖入者の正体とその妄執

お読み頂き有り難う御座います。

残酷表現が御座います。苦手な方はご注意を。

「貴方の事は知ってますよ。以前に見目麗しい使用人の男性を茂みに引きずり込んで返り討ちに遭われた事もありましたね」

「そっ!!そんな事は知らん!!」


 何それ!?使用人さんが強くて良かったけど、普通に事件よね。通報しなかったのかしら。はっ、まさか身分差を利用して揉み消し!?有りうるわね。下衆っぽいわ。

 でも草原におられたのに、ティム様の情報網凄いのは何故かしら。私は王都に居るのに全く知らないわ……。新聞もこの頃シアンディーヌに付きっきりで適当にしか読んでないし。


「脅したら更に返り討ちにされたんでしたっけ?結局お金で解決を計ったらしいですね」

「な、あの者……!!よくも触れ回ったな!!」

「目撃者の口に戸は立てられませんしね、ねえそこの君」

「……左様ですね」


 流石、ティム様にルーロ君。呼び合いをしないのね。うーむ、慎重でいらっしゃるわ。私も口が滑らないようにしないと。

 義兄さまはこのがなり立てる人を所謂ザマアがしたいみたいだけど……私、要らなくないかしら。

 あ、罵られる要員が居るとか?そういやさっき酷いこと言われてたわね。命の危険が感じられないから気にならなかったわ。


「貴方のご親戚が幼い時に見目麗しい高貴な身分の女性に襲いかかって、処分されたのをお忘れですかね」

「えっ」


 小さい女の子がこの人の親戚に襲われたあ!?

 何て下衆な……って何処かで聞いた話ね。

 そう、私の膝に横座りした上、胸に凭れてる義兄さまが義姉さまだった時とか……。歳も丁度この位の時に……。

 て言うか義兄さまは何故そんな暇そうな顔してるのよ。自分が仕掛けた事でしょう!?ま、まさか飽きたの!?


「で、一族没落の原因となった赤い髪の少女を逆恨みして……何故か執拗に拘って、でしたっけ。返り討ちにされた使用人の髪の色も赤」

「き、貴様……」


 目の前の貴族の顔色がどす黒くなってるわね……。

 でもあまり恐怖は感じられないのはどうしてなのかしら。迫力が無いと言うか……。

 嫌だわ、まさか私、殺伐に慣れたの!?変な慣れ方しちゃったなあ。モブなんだから危機管理をキッチリしないといけないのに。


「それにしても、こんな素行を続ける君を親御さんはどう考えているんでしょう。

 何故罪もない異母弟君を犠牲にして、君を遠縁に託して改名までさせて守ったんでしょうねえ。やはり王位継承順位25.5位が魅力的なんですか?」

「何故それを知っている間男!!貴様さては高位貴族だな!?」


 え?何その中途半端なその小数点。

 そのピリオド要るのかしら。どう順位に作用するのかしら?切り上げ切り捨てじゃ駄目なの?

 普通、継承順位はパシッと整数なんじゃないの!?ああ意味が分からない。でも此処で聞ける空気じゃ無いし!!


「僕は貴族じゃ有りませんよ。ねえアローディエンヌ?」

「はあ、そうですわね」


 貴族の上の王族でいらっしゃるしなあ。王侯貴族じゃないですよね?って聞かれたら違いますわねって答えるけれど。

 そういう思惑込みで聞かれていそうね。

 あ、ティム様が私に向かって微笑まれたわ。一瞬牙が見えるの。が相変わらず笑顔が怖くてらっしゃるわ……。前小型の肉食獣みたいだったけれど、今の背丈ではそれは失礼な比喩かしら。

 この方だけでも、あのがなり立てる人の10倍怖いものね……。まあ、真剣に怖いのは膝の上の義兄さまだけど。


「何!?小賢しい平民の分際で高貴なる私をコソコソと嗅ぎ回ったと言うのか!?卑劣で矮小な輩が!!」


 はあ!?何て事を!いやそれは無いんじゃないの!?流石にイラッとしたら、義兄さまが小さい手で私の服をクイクイして……ニコッと頷いた。

 ……えっと、義姉さまの真似をして何か言えってこと?

 ええー、そんな変な期待を向けられても困るわ。と、兎に角ティム様をこれ以上暴言に晒してはいけないわ!結構……いえかなり迷惑を掛けられたし堪えてなさそうとは言え、王子様に失礼を働かせる訳にはいかない!


「……この方を卑劣で矮小な輩と仰いました?」

「煩い小娘が!大体お前の愚かな偽善のせいで、アレッキア様を手に出来る機会を失したんだ!!」


 アレッキアを手にする機会を失した……!?

 脳裏に浮かぶのは、あの雨の器の茂み。赤い髪の少女を押さえつけていた……大柄な子供!!

 私は記憶力がそんなに無いけれど、この顔に見覚えが有ったと言うことは……!!


「……貴方、まさか昔に義姉さまを襲った子供!?」


 信じられない!!どうして此処に居るの!?


「っ!!か、勘違いするな!!私は罪など犯してはおらん!!手違いが有っただけだ!!」

「ははあ、成程成程。当時のショーン王子殿下の婚約者殿はよく襲われていたと聞きますが、貴方が最大の加害者なんですね」

「だから違うと言っているだろう!!」

「私の偽善のせいだと言ったわね。私はこの通りこの歳まで殆ど外に出ず世間知らずなの。だから、子供を助けたのは一度きり」


 目が血走ってるわね。

 勿論あの事件や、私が知らない時に義姉さまが晒された危険については、養い親達が一番悪い。義姉さまの無差別魅了のスキルによって起こされたことだけど、義姉さまのせいじゃない。守るべき大人が守らなかったせいよ。

 子供であった加害者だけのせいではないけれど、義姉さまを傷付た来た奴ときたら……許せる訳がないわ!!


「証拠があるのか!?」

「そりゃあ、普通に有りますよ。ねえアローディエンヌ?」


 えっ、私に何故振られるの!?

 知らないわよ証拠なんて!!て言うか今の発言じゃ駄目なの!?物的証拠ってあの茂み位しか無いでしょう!!


 人が背中に汗びっしょりになってるっていうのに、膝の上の義兄さまがにんまり笑う。

 何なのよもう!!

 ああもう、義姉さまの真似、義姉さまの真似……。

 悪役らしく、偉そうに…。


「……寧ろ、罪がないと思うのはどうしてかしら?」

「何!?」

「貴方、使用人を追い払って我が館に不法侵入しているのよ。しかも、私を貶め、お客様に暴言を吐いた。その事は分かっているのかしら?」

「それがどうした。警備騎士か衛兵でも呼ぶのか?後ろ暗い事があるのは貴様らの方だろうが。ええ?昼間から男を引き込んだ公爵夫人。どうせそこの使用人ともよろしくやっているんだろう?ふしだらな女だ」


 ルーロ君にまで気持ち悪い目線を投げ掛けている。

 腹立つわねこの人。

 久々にイライラしてきたわ。


「貴方、私以上に世間知らずでいらっしゃるのね。不敬罪ってご存じ無いのかしら?」

「下賎な生まれの成り上がり身の上で何を偉そうに」

「そう宣う貴方はどう高貴な御生まれなのかしら。御存じ?」

「子爵の子息ですから、アローディエンヌよりずっと下の身分ですね」

「何なんだ貴様は!!」

「そもそも何故、当家にいらしたのかしら。口汚く罵り侮辱する為に?夫に復讐?それとも義姉さまが目的なの?私を脅せば義姉さまに会えるとお思いで?」


 あ、口を閉じた。

 成る程なあ。義姉さまに会いたかったのね。

 当てずっぽうだったけど当たるもんね。怒りの力で頭が明晰になったのかしら。前のマグカッツさんだったかしら。ネテイレバの人も義姉さまに会いたいが為に入り込んで来たんだものね……。

 何だか腹が立つわ。人の伴侶に横恋慕だなんて、失礼ではないの!?


「大体義姉さまに何の御用なの?貴方のような下衆な方に会わせられないわ」

「あ、アレッキア様が婚姻を為さったと聞いた!!」


 え、義姉さまが婚姻……って、もしかして2回目の……アレ!?

 え、何で漏れてんのかしら。関係者以外招待してない……王城の使用人とかかしら。


「やれやれ、年月が経ったからと言って守秘義務は朽ち果てないんですけどねえ。

 王城の使用人も物理的に風通しを良くせねばなりませんねえ」


 多少過激でいらっしゃるけど、同じことを思われたみたい。ティム様が少々苦い口調でいらっしゃるわね。


「しかも、何の地位も領地も持っておらぬ男と!!何故だ!!何故あの方がそんな憂き目に遭わねばならん!!」


 そりゃ私だから無位無冠で領地も無いけれど。


「はあ、ええ……?強姦しようとした人間が急に何なんですかね」

「あれは、思いの丈が溢れ出て、魅力に抗えなかっただけだ!!私が世界で一番あの方のことを想っている!!」


 む、無茶苦茶な理屈ね。想っていたら何でも赦されるとでも?しかも罪を逃れる為に逃げたのよね?説得力が皆無すぎて、流石にティム様も呆れておいでだわ。


「その割には手を変え品を変え、今迄逃げおおせましたね」

「それも、望まぬ結婚で兄に虐げられ、不遇を囲うアレッキア様の愛を得んが為!!」


 酔ってるのこの人?

 大体何時から義姉さまの結婚が不遇になったのかしら。

 ……膝の上の義兄さまが火炙り、引き裂き……とか小声で言い出したんだけど。


「普通、強姦魔に被害者が抱くのは絶え間ない憎しみと襲われる前の生活に時間を戻して一生関わるなって思いですけどね」

「何を小賢しげに。ああ、もしかしてお前のような間男にもそのような慈悲を高貴な方に受けたのか?良かったではないか」

「貴方、いい加減に!!」


 こ、この人!?

 何なのよ地雷しか踏めないの!?ティム様の深まる微笑みが目茶苦茶怖いわよ!!


「その威勢が続くと良いですねえ」


 弾むようなお声が、怖いんだけど。ウィンクは結構ですから!!


「言質も取って記録出来たことですし、もう良いのでは有りませんか?ねえ、コレッデモン王国モブニカ伯爵ルーロ君」

「そうですね、詳細に記録を取りました。ご協力有り難う御座います、ドゥッカーノ王国第二王子殿下ティム・ジニー様」


 あ、顎が外れる音って結構大きいのね。

 私は、片手で貴族の頭を床に叩き付けるティム様を唖然と眺めていた。

 いやこれは、顎だけで済んでる!?血は出ていないみたいだけど。


「があっ!?てぃ、ティム様だと!?う、嘘だ……」

「王子と言う下賎な身分ですみませんね。

 でも間男呼ばわりはいけませんよねえ。色々有りましたが前向きな気持ちになりましてね。

 僕、年下との女性と結婚したところですし」

「えっ!?そうなんですの!?」


 えっ、カリメラは!?

 前向きな御気持ちにって仰ったわ。それに、年下。……相手はカリメラではないのね。いえ、私が口を出せる立場では無いのだけれどモヤッとするわ。


「お恥ずかしながら新婚なんですよ」

「馬鹿な……!

 ティム王子はちょっとしたことで表に出て来れぬ体になった腰抜けだと」


 はあ!?ちょっとしたことで!?ティム様の過去のことをちょっとしたことで!?

 な、何なのよコイツ!!

 確かにティム様はかなり歪んでいらっしゃるし、義兄さまとはまた違った怖さだけど、コイツが罵ることでは無いわ!!


「ははあ、未だ立場が分かってないんですねえ。君の大好きな階級制度で言えば、僕は王子で、彼は伯爵です。

 ちゃあんと弁えてくださいね?」

「ぐがっ!」

「ティム様、程々に。奥方様の前ですし、床が汚れます」

「固いことを言わないでください。此処、それ仕様なんでしょう?」

「そ、それ仕様!?」


 拷問用の部屋ってこと!?だから此処に誘き寄せたの!?

 うわ、義兄さまってやっぱり怖いんだけど。

 若干身を引こうとしたら服を捕まれて笑顔を向けられた。


「だあめ、アローディエンヌう」

「に………あ、えっと……んがっ!?」


 今義兄さまを呼んで良いの?いや、ややこしいな。

 挙動不審になった私の顔に小さい手が添えられたかと思うと、の口、吸った!!

 あの貴族に目茶苦茶ガン見されてるし!!


「さあて、コソコソと逃げ回ってた屑。

 惨たらしく殺したい奴だと思ってたんだ」


 ぴょん、と膝から飛び降りた義兄さまは、貴族の側に近寄って……手を伸ばしても捕まれない位置で立ち止まる。

 可愛らしく小首を傾げてるのが、またあざといわ……。


「アレッキア……様!?」

「ははは、バーカ。ハズレだよ屑」


 まあ、義姉さまではないけど本人なのよね……。こっちからだと背中向けてるけど悪い顔してるんだろうなあ。


「いや、その美貌は、そのお声はアレッキア様だ!!お歳は違うが、私の女神!!」


 いや、そもそも歳が違ったら別人じゃね?ってならないのかしら。

 いや、本人だけどさあ。


「口と下を炙ります?」

「それは後だね。取り敢えず目的は果たしたし、ティミーの好きにしていいよ」

「僕、そんなに破壊衝動は無い方なんですけど」


 いや、思いっきり人を蹴っておいて、それは説得力が無いんですけど……。


「よくもまあ、ヌケヌケと仰いますねティム様」

「そんな、アレッキア様!お待ちを!!私は小さい時から貴女の事を、貴女の事だけを!!」


 義兄さまは、手を伸ばしてきた貴族をひょいと避けた。

 そして私の方へ駆け寄って、ぼふんと音を立てて抱きつかれる。


「ぐえ!」


 い、勢いが有りすぎじゃない!?椅子ごとコケそうなんだけど!!

 チートとは言え、子供の姿の義兄さまに倒されそうって……悲しいわね。


「さあて。御免ね罵詈雑言に晒させて」

「にい、あ、貴方様のせいでは有りませんが……」

「不愉快を我慢してくれて有り難うね、アローディエンヌう。

 証拠も、アローディエンヌのカッコいい所も見られたからなあ」

「アレッキア様!!」


 私と義姉さまの出会いの切っ掛けになった人。

 罰は下ったのだろうと、その後は全く気にしていなかったけれど。

 逃げ延びて、義姉さまを虎視眈々と狙っていたなんて。恐ろしくて今頃震えが来た。


「僕とアローディエンヌを邪魔する下衆な屑には、絶え間ない苦痛をやってる」


 義兄さまは私の手を取って、バルコニーに繋がる後ろの窓を開けて私を連れ出した。


 入り口側にあの貴族が居たからだろうけど……何故バルコニーに。あれ?え、此処、他と作りが違うわよ!?何でこんなところに階段が!?え、何処に繋がってるの!?知らないわよこんなしかけ!?

 いや、それどころじゃなくて!!ああもう、シリアスになれないな!!


 ルーロ君が綺麗なお辞儀と共にパタン、窓を閉めてくれて……静寂。


 振り向いても、一切の音がしなかった。


「ルーロ君やティム様に、危ないことをさせますの!?」

「やだなあ、アローディエンヌ。危ない目に遭うのはひとりだよ」


 にこり、と笑った義兄さまは……シアンディーヌに似ていた。

 夢の中で見た、アウルくんにも。

 赤い髪だったアウル君の方が似ているかしら。


 はあ、……こういう風に育ったらどうしよう。

 いや、でも自分で身を守れるようにならないと困るし……。




義兄さまの気は済んだのでしょうか。

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登場人物紹介
矢鱈多くなって来たので、確認にどうぞ。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新、ありがとうございます。 あの事件の実行犯はすでにけちょんけちょんにされて、 この世からおさらばさせられているとばかり思っておりました。 まさかご存命でしたとは・・・。 ある意味お義兄さ…
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