3.折角此処まで来たのだから(レルミッド目線)
お読み頂き有難う御座います。
「それでもよ!!スキルの細かい事は何だか分からないけど、うら若き女性が怯えて困っているのよ!?」
うら若き……今の見た目は何つったっけ?ガーゴイル?だけどな。まあ其処突っ込む所じゃねーけど。
しかしサジュの姉ちゃんは声デケーし煩えな。
「そうか、好意で助言したがそれでも助けたいのか。中々に無責任極まりないと思うぞ。だが、まあ好きにするがいい。どうせどうしようもないぞ」
「ぐ!!何て嫌な性格の白フードなの……!!」
「其処は否定しねーけど姉さん、口調!!」
地団太踏む女なんて初めて見たな。草原にも中々いねー。
一々行動が大袈裟でデカいしな
しっかしこの姉弟、ホントに似てんな。ツラは似てねーけど。
「赤フード!!アンタは未だ人としての心は有るわよね!?ひとでなし加減を見せつけないわよね!?」
「ふむ、普通に失礼だがレルミッドへの評価が悪くないなら許そう」
……ルディは相変わらず訳が分からねえな。後俺に対してもそんなに評価良くもねーし。
「俺に何をしろってんだよ」
「……そうね、赤フードって偉いんでしょ?だったらレッカの事可哀想じゃね?って言うとかどうかしら」
ハア?意味が分からねえな。偉くねーし。
言う位なら構わねえけど意味が分からねえな。
横のルディも首傾げてっしな。
「ふむ、意味が解らんが」
「だって赤フードって王族なんでしょ?赤フードが言ったら警備が厳しくなって、レッカが安全になるんじゃ無いかしら!!」
「そ、そう!?ですか!?ぜ、是非お願いします!!」
サジュの姉ちゃんはいい考えでしょ!とばかりに胸張ってるし、レッカ迄こっちガン見してきやがる。
いや、期待されても俺に権力ねーし。
単に親戚のオッサンが王様で、近衛騎士のオッサン……叔父上様が身内なだけだっつーの。
あ、祖父ちゃんは侯爵か。
……地味に周りだけが偉いっつー感じだな。俺自身には何もねー。母ちゃんが王族だった、ルカリウム一族のガキってだけだ。
最近鳥の世話位しか行ってねえな。て言うか思い出したら目が痒くなってくる。ウゼエ。
「俺に其処迄権力はねーよ」
「そうなの!?ちょっとぐらい言って見なさいよ!!目指せ良い目的に繋がる職権乱用よ!!」
薄々思ってたけどアホかコイツは!!乱用してどーする!!
それすんなって奴だろうが!!良いも悪いも無く、悪いっての!!
「ハア?アホか!?職権がねえのに乱用が出来る訳ねーだろ」
「え、無いの!?王族なのに!?」
「……どうもサジュの姉君は、王族の権利を『都合よく何でも我儘が通せる手段』だと誤解しているようだな」
ルディが心底珍しい生き物を見たみたいな表情してやがるな。
……違うのか。前の王のジジイと王妃のババアからして王族って結構やりたい放題してたし、俺もそう思ってた。
だが、ルディとオッサンは我儘放題しちゃあいねえか。今の所……。ティムの野郎は……国内じゃあしちゃあいなかったな。
……アレキちゃんは好き放題してやがるがな。
「違うの!?だって学園……!!いえ、しつこかったわね。御免なさい」
「ふむ?マデルに絞られたのが効いたようだな」
「うっ!!」
「そそそそそうよ!!実はマデル様だけじゃ無いのよ!!驚いたでしょう私も驚いたわ!!ええ!!えええ!!とっても怖いのよ怖かったんだから!!」
「姉さん、話が進まねえから!!」
サジュ迄顔色悪くしてやがんな。ねーちゃん達、何やったんだ?
まあ無駄にルディに噛み付かなくなったのはいいこったな。
ガチで喧嘩も出来ねえし、地味に面倒臭えんだよ。
「では仮に、レルミッドがそれを願い出て王城の警備が厳しくなったらそれでどうする?」
こて、とルディが小首を傾げてやがる。相変わらず無駄にキラキラしてやがるし。
コイツホントにツラいいな。俺よりタッパ有る癖に。
「警備が厳しくなったら忍び込む人が減るじゃ無いの!!レッカの安全が守られるわ!!」
「期待に応えられず悪いが、レッカは保護しているだけで有って王城の正当な住人では無い。厳重な警備の元には置かれんだろうな。つまり今とあまり変わらんぞ」
「!!」
「そーなのか?」
勝手にアレキちゃんが連れて来たとはいえ、そりゃ気の毒な話だな。
だけど俺は単なる親戚のガキだからな……。ルディみてーに王子でもねーし。
母ちゃんは最近王城にいるみてーだが。
「面倒臭いから言っておくが、小者は減るだろう。だが、ネテイレバの使者が正式に訪ねて来ればレッカを渡さざるを得ない……かもしれんな」
「ひっ!?」
目に見えてレッカがビクッてなってんな。
「レッカ、ネテイレバへ行けば悪い事だらけでも無いかもしれんぞ。滅茶苦茶忠誠心に溢れた部下に囲まれて幸せに滅茶苦茶安全に暮らせてお前に心酔する男が許嫁として待ってるかもしれん」
「いや流石にそりゃねーだろ!!何処の妄想だよ!!」
まあ、ねーだろーな。
つか下心も無しに会った事もねー女に其処迄入れ込む野郎はキモイだろ。
「何故だ?ご婦人ウケが良さそうな耳障りの良い文句を並べたつもりだが」
「……先輩、オレがルディ様苦手な訳分かるだろ?シレッとこのツラで思ってもねー事言うから苦手なんだよ」
「ルディだけに限った話じゃねーだろソレ」
面倒だし言わねーけどアレキちゃんもティムもそんな感じだろーが。
つかルディ、結構苛々してやがんな。よっぽど面倒臭えと見た。
まあ分からなくもねーけど。
「全くだ。サジュは単に僕が嫌いなだけだろう。別に構わんぞ」
「いや、そうは……えっと……!!くっそおやり辛え!!」
サジュ迄地団太踏みそうな雰囲気だな。
「落ち着けやサジュ」
「ご、御免ねサジュ……!!」
「まあ!!流行りの大衆演劇みたいな話ね……。この前通りかかった劇場のチラシを見たけど、ちょっと見てみたいわ!」
「そ、そう!?ですか……。お芝居なら、ちょっと見てみたい、です」
んな変なモンが流行ってやがんのか。世も末だな。
つか何でルディはんな変な出しモン知ってんだ?地味に訳が分かんねーな。
こーゆーなのが趣味なのか?
「勿論僕の趣味じゃ無いぞ。ミニアがお忍びで連れて行けと言った題目にそんな戯言が書いてあったんだ。主人公を信奉する者には王子も居たが、チラシを読んだだけでも中々に凝った妄想だった。王族が一個人を信奉する?有る訳無いのにな」
……まあ、同感だが、ネタにした現役の王子にシラッと凝った妄想って言われた劇作家も気の毒かもしんねーな。
つかミーリヤねーちゃん、ルディと演劇行きてえんだな……。
「戯言言うんじゃないわ白フード!!乙女の夢じゃ無いの!!」
「うん?君は既婚者だろう?あの小さな石板の伯爵に知られたら面白そうだな」
「はあ!?」
「君がそう言う浮気に憧れているとは知らなかったな」
「ちょ、ぐおおおおおお!!違うのよ!!単なるお芝居が観たいってだけよ!!」
「姉さん落ち着け!!単なる芝居の話だろ!?ルーロは其処迄視野狭くねえよ!!絶対嫉妬しねえ!賭けてもいい!!」
「それはそれで嫌だわ!!ちょっとくらい嫉妬して欲しいのおおおお!!」
いや煩えし。お前の旦那のあのチビの嫉妬がどーとか知らねえよ。
「……じゃあ、レッカを守るにはどーしたらいいんです?」
「サジュ、有難う!!」
「見つかりづらい場所で誰かが貼り付いて守るしかあるまいな。王族に狙われるとしつこいぞ?」
「何ですって!?王族のアンタが言うの!?」
また食って掛かりそうだなサジュの姉ちゃん。
……?ルディの笑いかた、変だな。何でだ?……いや、あー目が笑ってねえな。
「ああ、保証するぞ。何を隠そう殺された僕の母とティムの母が立証しているからな」
「うっ……」
「あ……すみ、すみま……せん」
地味に嫌な空気だな、オイ。
……まあ、反論しづらい事をしれっと言うのは良くねえ傾向だな。
レッカも……一応話聞いたんだろーな。
コイツの場合、マジの親だしな……。棄てられたとは言え。
「ルディ、レッカ自体が何かした訳じゃねーんだからよ。助けてやれや」
「レルミッドは優しいな。其処は僕の悲しみに寄り添って見棄てる方向へ行くべきだと思うぞ」
ルディは金色の睫毛をバシバシ動かして、俺を見つめて来た。
……。
…………?
………………いや、訳が分からねー。何でガン見してんだ?
周りも何固唾を飲んで見守ってんだ。
「滅茶苦茶棒読みで言うなや」
「えと、何この怪しい雰囲気……です?あの、レルミッドさんて黙ってると」
「ちょ、レッカ!!それ以上は良いから!!ガチの先輩とルディ様に殺されるぞ!!」
「ハアン?」
何で俺とルディがレッカを殺すことになんだよ。
「何でもねーから!!何でもねーから先輩!!」
「……僕とレルミッドの恋愛対象は女性だ」
何んなこと憮然としてルディが言うんだ?
「あらそうなの?まあ白フードと赤フードの関係なんてどうでもいいけどね!!」
「姉さん!!!!」
「ほほう、そうかサジュの姉君。その言葉、ミニアにも話しておくぞ」
「そ、そうだった!!そ、そうよね白フードにはミーリヤ様がご執心……!!それだけは止めてえええええ!!!!本気で悪う御座いましたからあああああああ!!」
「えっ!?何!?あ、あのドリーを怒らないであげて!!ください!!」
「そもそもだが、レッカが要らん事を言いだしたんだったな」
「……そ。その!!つ、つい!!ちょ、ちょっと色んな演劇が好きなんでその線で……ほ、本当にすみませんでした!!」
……コイツら何を言いてえんだ?演劇の話か?
「折角東地区で近くなんだからレッカをアレキの家にでも放り込んだら良かったな。自動的にこの世から平和に逃げられたのにな。まあ多少丸ごと焼きたてにされた上で、と付くが」
「!!!!」
いやまあそうだけどよ……。
つか、うーん……。
ルディ、キレてやがる。
……レッカがビクビクしてやがんな。姉弟の顔色まで悪ィ。
「……ルディ」
「僕は従兄と遊ぶのを楽しみにしていただけなんだがな……こんな所で時間を潰したくないんだ、分かるな?」
「脅すなやルディ」
「うん、そう言えばレッカの両親は僕の母の仇でもあるんだぞ?うん、良く無いな」
「……!!」
いや、まあ……そーだけどよ。
言い方がマジ思い付きっぽいな……。
「……そう言えばとか言ってる時点であんま気にしてねー気がすんな」
「そうなの!?」
「いやルディ様、口出ししてアレですけど、レッカが何かした訳じゃ無いだろ!?」
「サ、サジュ。ありがと……御座います」
「ふむ、やけに肩入れするな、サジュ。そんなにレッカを守りたいか?」
サジュがレッカの前で庇ってんな。
まあ、サジュ的にも……何かあんのかもな。見棄てらんねえ何かが。
結構無謀な奴だが、いい奴だしな……。俺に言われたかねーだろーが地味に気が長えようで短いけどな。
「……まあ、少々飽きたからな。守る方法な、無くも無いぞ」
「有るの!?じゃあとっとと言ってよお願いします白フード!!」
サジュの姉ちゃんは偉そうだか腰が低いんだかどっちかにしろや……。
「そんなに気に掛かるんなら、この屋敷に迎えてバルトロイズ夫人にすればよかろう。ただ……」
「ハア!?」
「……!?」
「え、ええ!?れ、レッカをサジュのお嫁さんにしろってこと!?え!?そう言う関係だったの!?」
「いや、違……!!」
「ち、違う、ですけど!!」
……おいおい、ルディ……。
自分がミーリヤねーちゃんに色々されてるからって、オイ……。
いやでもミーリヤねーちゃんをいいように揶揄ってる気もすっけどな。
ってそうじゃねえな。
「……ルディ、ただ何だ」
「レッカが金色のガーゴイルであることは変わらんし、『甘美なる余所見先』のスキルもある。既婚者になっても良からぬ輩から集られるだろうがな。一生」
「い、一生……」
「サジュ、サジュの姉君。だから面倒だと言っているんだぞ?それでも助けたいと気軽に言ったんだ。身内になるぐらいの根性が有るんだろうな?発言はきちんと立場を弁えてしろ。伯爵夫人に、子爵令息」
…………地味にまた権力者っぽい言い方だな、ルディ。
「僕は今のところ面倒だが守られる立場なんだぞ?その僕に助言を求めて安くつくと思うのか?」
「ひっ!?お金が絡むの!?た、高いの!?」
「そうだな、僕が即位する羽目になれば、色々な」
「………ルディ」
「分かった、分かりましたよ!!」
「アァン?」
何だよデケー声だな、サジュ。何が分かったって?
「レッカは取り敢えずウチで預かります!!流石にウチまで押し掛けてくる奴は撃ち払って叩き斬る!」
「ほ、ホント!?」
マジか。……サジュ、其処迄やるか?
暫くじーっとサジュを見てたルディは首を傾げてやがる。理解できねーんだろーな。
まあ、正直俺も解らねーが、これがフォーナなら………まあ、似たようなもんか。最初思いっきり見棄てる気だったしな。要らんこと言わねー方がいーな。煩そうだしな。
……今日はフォーナと夕飯でも食いに行くか。
「………考えなしだな、サジュ・バルトロイズ」
「よく言ったわサジュ!!流石私の弟ね!!」
「だから、ルディ様!アンタも権力振り回すんならちゃんとやれよ!王城が荒れてんなら何とかしてください!!でねーと、仕える方も愛想尽かすぞ!!」
「ふむ、成程。レッカ」
「は、はい!!王子様!!」
「ふむ、次に往来で僕をそう呼んだら埋めるぞ?」
「じゃあどう呼べば!?です!!」
「そうだな、別に親しくもないしな……。呼ばれたくはないが、ルディでいい」
「……ヒデェ……」
いや一々俺の顔見んな、分かるけどよ。
でもなあ、状況が状況なだけに、其処まで嫌ってやんなよ、とも言い辛えな。
「充分考える時間は得ただろう。身の振り方を決断しろ。陛下のご厚意に甘えて宙ぶらりんな立場を楽しめる状況でも無かろう?」
「!!」
「え、立場?どういう事!?」
レッカにオッサンが何か言ったのか?
「ふむ、マデルが怒り狂うのも分からんでもないのどかさだが大丈夫か?危機感が無いのか戦闘特化過ぎるのか……。貴族としては致命的だな。どうでもいいが」
「白フード!あの方々のお名前は出さないでくれる!?私は日々を生きるので精一杯だったのよ!!権謀術数とか不向きなの!!」
「まあ僕が助言することでも無いか。嫌われていることだしな」
「どういうこった、ルディ。レッカがどーした」
「ふむ?陛下が養女にしようかと申し出られたが保留にしているだけだが。まあ、市井の暮らしが懐かしいのは分かるが選り好み出来る立場では無いな」
「養女ぉ!?」
サジュの姉ちゃん声デケエし。
だが、養女?オッサン、んな事考えてやがったのか……。
でもまあ、実質レッカには保護者が居ねえから順当なとこなのか?
王妃のババアの実家からも狙われてっしな……。
「……陛下、私のことで、要らない責任を……。家族に、なってくれるって、ですけど」
「サッサと受け入れていれば表向きに警備も付くだろうから、大っぴらに狙われる立場にはならんぞ。まあ、コソコソ狙われはするだろうが」
「結局狙われるんじゃ無いの!!」
「だから無駄だと言っているだろう」
……地味に嫌な空気が漂い始めたその時、俯いてた金色の頭が上向いた。
ギョロっとした茶色の目が潤んで、……結構怖えな。
「う、う……すみません。ホントにすみません……。ご迷惑掛けてすみません!!ですけど、私、生きたいんです……。だって、ゴミ箱から此処まで生きて来れたんだもの、です!!」
「レッカ……」
「ルディさんや、あの赤毛の人が私を嫌いなのは分かります!!出来るだけ目に入らないようにします!!でも、私、生きたい!!親の事で振り回されても、生きたいんです!!」
「ほう、……意外と面倒臭いな、レッカ。ああ、平伏さんでもいい」
長椅子から降りて何すんのかと思ったら、ルディの足元にしがみ付きそうな勢いだった。
……コイツ、そういや孤児だっけか。
色々押し殺したような目……にも見える。色々苦労してんだよな……。
「そうか、生きたいか。では仕方ない。手を貸してやろう。勿論、僕の味方になる覚悟は有るな?」
「み、味方してくれるんですか!?」
「レッカが僕の味方をするんなら多少の便宜は図ってもいいぞ」
レッカの顔が目に見えて明るくなっていく。
案外凶悪なツラっぽいが、表情豊かなもんだな。
ただ、暗いトコで出会いたくないツラではあるけどよ。
「な、なります!!してください!!」
「ちょ、レッカ!!ちょっと考えた方が!!……で、でもそうね、えーと、どうしたら……!!他に思いつかないわ!!ちょ、赤フード!!」
「いやだからさっきから困った雰囲気になったら俺見んの止めろや」
「だって!!レッカが白フードに誑かされたらどうすんのよ!!」
「いや姉さん待て。……ルディ様、味方になったら保護っての本気ですか?」
「信じられんならそれでもいいぞ。僕が嫌ならティムにでも打診するか?今は草原だが」
「あ、ティミー……」
レッカはティムの事そう呼ぶって事は親しい方なのか?
でもなあ、アイツは胡散臭い事子の上ねーし、何より色々ぶっ壊れてやがるし。
「いやそれは絶対駄目だろ!!ああもう、八方塞がり過ぎんだろ!!頭が爆発しそうなんだけどよ!!」
「まあ、僕に任せておけば僕の好き勝手に取捨選択して適当にやるがな」
「何て奴なの白フード!!」
「ドリー、だ、大丈夫です!!わ、私ルディ様の味方、なります!!」
え、決断早。
……大丈夫か、コイツ。
ルディ君はガーゴイルを手に入れた!という雰囲気では有りませんね。
因みにユール公爵家ではアローディエンヌがシアンを追いかけている最中です。