16.不法侵入者が危ない
お読み頂き有り難う御座います。
ユール公爵邸は広くて大きいし、人によっては明日の太陽が見られない事もあります。
「ギャアアアア!!」
何なの急に!?
えっ!?野太い悲鳴が聞こえるんだけど!!誰!?
まさか侵入者!?えっ!?こんな時に!?
義兄さまとブライトニアが駆けつけたのは、このせいなのね!?
単に保護した子供達に託けて喧嘩しに行ったんじゃ無いのね!?今までの行いが行いだから結構疑っていたわ!!
私達が踏み込むと其処には……真っ赤に染まった炎と、血の海が広がり、目を覆うような凄惨な現場が……。
とかでなくて本当に良かったのだけれど、何なのこれは。
「ほ、ほどけ!!この私を誰だと思っている!!何だこのウサギの化け物はっ!!痛っ!!」
部屋の真ん中から人が吊り下げられているわ……。えっと、歳は未だ若いみたいだけど、誰?
ブライトニアがその人をげっしげっし蹴ってるし、子供達は部屋の片隅で震えているのに……義兄さまは長い足を組んで鷹揚に長椅子に座ってるし。
突っ込む所じゃ無いけれど、アレ何処から持ってきたのかしら。客室に長椅子なんか置いてたっけ?
一体どうなっているの!?
「どどどどなたですか!?お、オールちゃん!!人様を足蹴にしては失礼ですよ!!いえ、でもアレッキオさんが止めておられないとは知らない方?えっと、し、侵入者さんなんですか?」
「グブガアッ!ガギイ!!」
「義兄さま、これは何なんですの!?」
「あーアローディエンヌう、こっちこっちい。もおー、ショーンと離れてえ!」
笑顔で手招きする場合じゃなくない?!滅茶苦茶カオスなのに!!
「それにしても、アレキは面倒臭いな。レルミッドが言う通り、魔王城は頷ける造りだ」
「何ならお前も出られないようにしてやるけど」
「僕はアローディエンヌにお招きに預かった身だからな。今の僕の身の振り方はアローディエンヌに従うぞ」
「え!?そんな、ルディ様、勿体無いお言葉ですわ。どうぞお寛ぎくださいませ……」
「もおー、アローディエンヌったらあ!ショーンを歓待なんかしなくていいよお!」
「お、降ろせえええ!!誤解なんだ!!」
って、確かにこんな人が縛られてる現場で言う事じゃ無いわよね。でもどうしたもんなの!?何故自宅で人が吊るされているの!?足は細いのに、お腹が凄い大きさなのに、あの縄?大丈夫なの!?
「!?き、貴殿はショーンと呼ばれていたな!?ショーン王子殿下では無いのか!?痛いっ!!退いてくれ!!」
「…………」
「えっ、ルディさん、お知り合いの方で!?」
「……そんなには知らんな。僕は興味の無いものへの物覚えがよくないからな」
「嘘つけ根暗ショーン。滅茶苦茶関わってただろ」
………御存じなのね。そして義兄さまも御存じみたいね。
「私ですショーン殿下!!ネテイレバの輝ける痛いっ!」
「フンブギャ!」
「ブライトニア……」
滅茶苦茶、緑色の頭を蹴飛ばしているんだけど。せめて名乗りぐらいさせてあげられないかしら。
「………義兄さま、せめて床に下ろして差し上げては」
「えー、侵入者だよ?せめて炙らないと」
「腹の脂が溶けて痩せるんではないか?こいつの父親がティムにそんなことを言っていたな」
「ティミーと!?ティミーと申されましたか!?ティミー!!償わせてぐがはっ!!」
「フブンッ!」
「はわあ!!オールちゃん!!オールちゃんの蹴りが侵入者さんの顎に!!」
カオスだ……。どうしたらいいの。
………ティム様にも関わりのある方みたいね。ネテイレバ、とも言っていたけれど。
ネテイレバ……って、あの、変な名前の王妃の祖国よね。ちょくちょくこの間から名前を聞くなあ。そう言えばこの子達が逃げた理由ももネテイレバに起因するわよね。
……………。
……………あれ!?
………う、動かなくなってしまったんだけど!?
「義兄さま!?あの、吊られてる人、動いてませんわよ!!」
「さて、炙ろっか」
「いや何言ってますの待ってください!!」
「アレキに同意したくなど無いが、それに構うと碌なことにならんぞ……。そこの者達、大丈夫か?恐ろしい目に遭ったようだな」
あっ!!そ、そうだったわ!!そもそもこの部屋でこの子達の保護をしてたのに!!流石ルディ様だわ!
「は、はい、いえ」
「あ!有り難う御座います」
「直ぐにお嬢が来てくださったので!」
「そして公爵様も!」
酷いわ。キラキラした4対の目が義兄さまを見ているのに、ガン無視ね。
………義兄さまはこの子達を助けに来たんじゃなくて……別の目的が有ったんでしょう。流石にそれは私でも分かるわ。言いたかないけど義兄さまはボランティアの人助けはしないもの。私が頼んだから、家に入れるのを渋々受け入れたように見せかけたのかも。
………有り得るな。
この吊るしてある縄からして用意が良すぎるもの。……まさかとは思うけど、元々有る仕掛けなのかしら。
……何故客室に。後で問い詰めなきゃいけないわ。
「ブギウ!」
「………と、兎に角お疲れ様、ブライトニア」
あ、ブライトニアがドや顔しながらこっちに飛んで来たわ。
「ブライトニアはこの子達を助けに行ったのよね。うんうん、よくやったわブライトニア。偉いわ」
「ブミ!」
あ、抱けってことよね。と思ったら!
「アローディエンヌにベタベタと!触るな!!」
「ガゲ!?グググキャ!!ガギャアズッブッ!!」
「ちょっと義兄さま!!」
「は、はわあ!」
首根っこを掴まなくても良いじゃないの!ああ、ブライトニアが滅茶苦茶怒ってジタバタしてる!!
「兎に角、此処に魔力砂がある。話にならんから事情は薄着の皇女を元に戻さねばな」
ルディ様がフード付コートのポケットから紙袋を取り出された。
魔力砂?それでブライトニアが人の姿に戻れるのかしら。レルミッド様がいらっしゃらなくても?
「グブ!?ガガカッ!!」
「えっ、ルディさん、オールちゃんを治してくださるんですか?あ、有り難う御座います!!」
「余計なことを……。フロプシーなんか黙らせときゃいいのに」
「アローディエンヌ、薄着の皇女の仕度を出来るか?」
「は、はい!」
「頼むぞ。その間、このマグカッツ・ドー・ネテを起こさねばな」
………マグカップみたいな名前なのね。吊るされてる人。
また、オルガニックさん以外誰もウケてくれないパターンだわ……。いや、ルーザーズの子達のファミリーネームもかなりの物だったけれどね……。嫌だわ、これって内輪ウケの逆バージョンになるのかしら。
名前が出たけど、何故か義兄さまは驚いていない。どうして?嫌そうな顔はされているけれど……。
兎に角、ブライトニアを元に戻さなきゃな。……砂が入った袋を渡されたけどどーすりゃいいのかしら、コレ。
それに、ルーザーズの子達の部屋を変えた方がいいわね。えーっと、何から指示したもんか。
「奥方様、此方へ。まあ、こんな埃だらけでお痛わしい。直ぐにお湯浴みとお召し変えを」
「皇女様もお連れ致します」
………いかん、ボケッとしてる間に使用人が色々既に動いてくれてるし。
せめて指示ぐらいビシッと出来ないの私!?
「あ、アローディエンヌは僕と入ろうねえ」
「入ろうねじゃないでしょう!?何言ってますのよ!!入りませんわよ!!ブライトニアを投げないでくださいます!?」
何でや!!
ルディ様やフォーナ、ルーザーズの子供達の前で何言ってんのよ!!真っ赤になってるじゃないのおおおお!!
「は、はわあ!?ご、ご夫婦ともなると、は、はわあ……」
「いや入ってないから!!入りませんから!行きましょうブライトニア!」
「ブグ?モガア」
義兄さまが離したブライトニアを、思わず抱き寄せたら、片耳をもふっと動かして前足でペシペシ私の腕を叩いてきた。
「ふざけるなフロプシー!!アローディエンヌう!酷いよ僕と言う世界一愛して大好きで唯一な伴侶の前で他人とお風呂なんて不潔だよ!?」
「人前で伴侶にお風呂に入ろうって言う方がどうなんですの!!直ぐ戻ってきますから、ちゃんと!穏やかに!為さってくださいね!」
「アローディエンヌううう!」
………追ってきそうだけど追ってきてないみたい。
「喧しいアレキだな。折角やって来てやった僕とフォーナには茶も出ないのか?」
「い、いえお構い無く!!」
「煩いよ!!ショーンなんか致死毒でも呷ってろ!!」
「ショーンって、ドゥッカーノのショーン王子殿下……」
「………す、凄い方々が来てる……」
「どうしよう……」
「お、お嬢ー!」
「は、はわあ!すみません、えっと、あの、落ち着いてください!私、オールちゃん……フィオール・ブライトニアの姉です!」
…………声が漏れ出てきているわ。滅茶苦茶不安だな。
「グモバ」
「………兎に角、お風呂よね」
ブライトニアの毛皮もヨレてるものね。これ、今戻ったら寝癖みたいな感じになるのかしら。きっとそれも可愛いわね。
しかしよく考えれば、同じ現場にいたフォーナも入った方がいいと思うんだけどな。でも……折角子供達の相手をしてくれているのに戻るのも……。話の後で綺麗になって貰わなきゃ。
後、この砂袋も……どのタイミングで使えばいいのかしら。ウサギの砂浴び的な感じ?それとも妖精の粉的な振りかける使い方?
「………ブライトニア、この砂の使い方分かるかしら。砂浴び?お風呂の前にした方がいいのかしら?」
「奥方様、魔力砂は普通の砂とは違いますので、お湯浴みの後で皇女様に振りかけられたら宜しゅう御座いますよ」
「そうなのね。有り難う、教えてくれて」
「ブブミイ」
「ああ奥方様、勿体無い!!ささ、ごゆっくりと!」
……何故使用人は感動しているのかしら。偶に崇め奉られてる気がしてビビるわね。モブを拝んでも何のご利益も無いのに、申し訳ないわ。
……いや、ルディ様をお待たせしてる分、ゆっくりはしてらんないんだけど。史上最速を目指さなきゃいけないわ。
「ブブ!ブガア!!ギギ!」
「……ブライトニア、やっぱり自分で洗わないのね」
さあ洗えとばかりに石鹸の前で寝そべってるな。
いや、いいんだけどさ……。
私とブライトニアがお風呂を終えて、漫画みたいにキラキラした砂を振り掛けたら、元の髪の裾が黒い薄い茶色のグラデ髪美少女な悪役令嬢の姿に戻ったの……。
うん、元々の容姿がとんでもなく可愛いから滅茶苦茶眼福だったんだけど……。
………全裸なの何とかならないかしらね。
いや、お風呂の後だからセーフか……うん、もう、それでいいわ。
用意してあった服をブライトニア共々着せられて廊下を歩いて、客室に戻ろうとしたの。
その最中、ブライトニアが首を傾げてる。
「あのスイカ腹男の名前、ネテと言ったわね」
「スイカ……。いえ、いいわ、知っているの?ブライトニア」
「ネテイレバ王家の傍流の家名よ。つまり敵ね」
「いやまあ……ネテイレバはどう罪になるのかは分からないけれど、ウチに不法侵入してる時点ではそうよね」
「あたくしも最近知ったけど、ユール公爵の館に不法侵入すると二度と出られないそうよ。大量の行方不明者が出ているそうね」
不法侵入が大量!?
「………はあ!?ウチってそんなに不法侵入されているの!?え!防犯がなってなかったの!?」
「気にするのはそっちなの?」
「いや、行方不明者も気になるけれど!!だってウチにはシアンディーヌが居るのよ!」
「アロンとシアンは平気でしょ。馬鹿兄貴が手を打ってないと思っていて?」
………一体何の手を打っているのかしら。安全なのは有り難いけれど非道なことしてなきゃいいんだけど。
「ガタガタと煩いんだよフロプシー!」
「!」
ドアを急に開けないで欲しいわ!!
って、未ださっきの部屋じゃないのに!!
「ふむ、場所を変えたんだぞ。入れアローディエンヌ」
「お前が仕切るなショーン!」
ルディ様もおいでなのね。うーむ、お召し物が普通の魔導師さまみたいなのに、優雅ね。実にキラキラしたオーラをバックに腰かけていらっしゃるわ。
「フォーナは……」
「別室で子供達を見て貰っている。妹と仲は悪いが、普通の子供との相手は上手いようだな」
「あらそう。役立たずな駄姉も偶には役に立つのね。まあ、いても『はわはわ』しか言わない駄姉が居るだけでイラつくもの」
「子供にモテるのは魅力のひとつだと思うぞ」
……?
あっ、奥で縛られてる人が!!
………?あれ?緑色の髪とか黒い目の色、顔立ちは一緒なのに………。
見た目が、いえ、さっきと違う?
何故かお腹がへこんでる!?どうして!?
「………彼女達は……」
う、うわあ。顔に青アザが出来てるんだけど。
義兄さまに引っ張りこまれて、部屋の中の長椅子に座らされた。
勿論義兄さまが横……。ブライトニアは空いてる椅子に座ったみたい。
「義兄さま、いえアレッキオ。暴力を振るいましたの?」
「えー、下ろしただけだよ。ぶちっと自重で怪我しただけ」
「まあ、顔の骨は折れてないから良かろう」
「期待ハズレね。まさか、あたくしに痛め付ける部所を残しておいてくれたの?」
「ブライトニア、事情もお聞きせずに暴力に走るのは良くないわ」
「………公爵夫人、話を聞いてくれるだけでも感謝する……」
さっきとは様子が違うわね。余程義兄さまに脅されたのかしら。
それにしても、どうしてウチに不法侵入を……。義兄さまの怖い噂を全て詳しく知らない私でも、此処に忍び込めば酷い目に遭いそうなのにと分かるのに。
「この罪人は、マグカッツ・ドー・ネテ。父親に送り込まれたんだよ。川に放り込む生け贄と、ガーゴイルを連れ帰れってね」
「…………い、生け贄!?」
思わずマグカッツさんを見ると、悲壮な顔をしている。………泣きそうな顔は、嘘を吐いているようには見えない。
生け贄って………どういうことなの!?
「まさか、子供達の部屋に入ったのって、彼等をということですの!?」
「あの子供達が生け贄にされるだなんて、知らなかったのだ!!」
「人んちに押し入って人拐ってこいって時点で、非道な悪行決定だろ。考える頭は空だし馬鹿だ」
「くっ!!金のガーゴイル、レッカ様にお目通りをティミーを通して願い出たのに、返事が無かったので」
「ティムは療養中だからな」
………療養……。いえまあ、お心を草原に癒しに行かれたと言えば、療養みたいなもんかしら。物は言いようね……。
いや、それよりも。
「どうして、あの子達を生け贄に……」
「川に子供を放り込むと、氾濫が止むと信じている人任せな人殺し思考が蔓延っているからだろうな」
「あ、どうせならショーンを放り込めばいいよね。全魔力を使って埋めてやれよ」
「お前が入って乾上がらせてやれ。その余波で茹でられれば良いぞ」
「このスイカ男を放り込めばいいんじゃなくて?」
「ヒッ……!!」
………マグカッツさんがすがるように私を見てこられているわね。
で、出来るかなあ。でもこの場には押さえられそうなの私しか………。ああもう!
「話が逸れていますわ。義兄さま、穏やかになさってくださいませ。ルディ様、失礼致しました。ブライトニア、おしとやかにして頂戴」
「えー」
「えーじゃありません」
文句言いながら腰に回ってきた手を叩きたいけんだど!!
「まあいいわ、アロンが言うんじゃ仕方なくおとなしくしてやってよ。それで、結局このスイカ男の父親は誰なの?皇帝の息子?」
「惜しいな、前皇帝の血筋だぞ」
「と、言うことは………レッカ様の従兄弟の方ですか?」
「あ、ああ。いえ、はい」
「正確に言えば側室との孫で名ばかりの領地の臣下に落とされた男で、レッカはゴミ箱に棄てられたがな」
「…………」
「あら、つまり、捨て駒なのね」
「まあユール公爵邸に忍び込ませる時点で、陰惨に殺されるに等しかろう」
………ウチってどういう評価なのかしら。
いや、義兄さまは一体何を過剰に仕出かしているの!?
そりゃ、不法侵入は悪いけど陰惨に殺すって何よ!?
上を向いて、出来るだけ眉間に力を入れて睨んでもにへっと微笑んで来るだけだし!!
刺客?が捕まってました。
許可なく入れるけど許可無しでは出られないユール公爵邸。
ドゥッカーノの王都とそこは同じですね。




