15.自宅なのに、未だに色々分からないのよ!
お読み頂き有り難う御座います。
大概の人達と仲の悪い義兄さまですが、ルディくんと揃えば、更にモメます。
「ねえアローディエンヌう、やだやだやだあ!!何でショーンをウチに入れなきゃいけないのお!!」
「義兄さま、お静かにしてくださいません!?ブライトニアが起きますでしょう!!」
「大体何でフロプシーを抱いてるの!?図々しいフロプシーなんか窓から棄てよおよお!!」
「はあ!?何言ってますの棄てますか!」
「気持ち悪い上に煩いアレキだな。僕だってお前の家に行く我慢を強いられていると言うのに」
「は、はわ……。あのあの、えっと!!」
「ブミ……シュビ……」
……歩いて5分の家に馬車で帰るもんだから、余計時間が掛るのよね……。
いや、個人的には歩いて良いし、ここに居るどなたも歩くのを嫌がらないんだけど、面子が面子の身分なせいで許されなかったて言うか。
街中なら兎も角、貴族がひしめき合って住んでいる東地区で王子様と筆頭公爵とその嫁を歩かせる訳には行かないらしいわ。私なんぞ誰も知られてないと思うんだけどな。駄目なのね。
しかし……此処にいらした時、ルディ様歩いていらしたように見えたし、私達も超歩きで来たんだけど……ってのは駄目みたい。
えっ、歩くの?みたいな視線を騎士様方から頂いてしまったし、場違いな申し出ってのは分かるんだけど……。
間に合わせ、というものの充分立派な馬車に揺られながら、ブライトニアの背中を撫でる。少し寄れているけれど、薄茶色の毛皮は艶々でモフモフしているわね。
前にいらっしゃるのはルディ様とフォーナ。私の横は、当然のように座る義兄さま。豪華な面子よね……。悪役令嬢ふたりと王子様とヒロインが乗ってる馬車……素敵!!なーんて現実逃避をしたいわ。
ええ、見た目は物凄くキラキラして輝いていて麗しいのに、空気がド修羅場って言うかいつも通りって言うか。
いえ、義兄さまとルディ様が同乗しているのに事件が起こっていないというだけで有難いのかしら?
ってそんな馬鹿な。ちょっと色々諦め過ぎと言うかスルーし過ぎよね。
心労をお掛けしますね、義妹姫ってテイト隊長様のお言葉が……身に染みたかもしれないわ。
それにしてもブライトニア、よっぽど疲れたのかめっちゃ寝てるわね。
いや、起きたら起きたでフォーナを蹴ったりしそうだから寝ていて欲しいけれど、保護したあの子達をどうするのかも聞きたいし……。
「それにしても、薄着の皇女が人助けをするとはな」
「酷いですよルディさん!!オールちゃんは優しい子なんですよ!!」
「そうか、基本誰にでも上から目線で苛烈な様しか見ていないな。優しい場面を目撃したことが無かったぞ」
……ルディ様が仰ることが否定できないな。確かに目立った善行を積んでる訳じゃ無いけど、暴れてるけど……個人的には可愛いんだけどな。
其処が甘いって言われるのかしら。
「ア、アロンさんには優しくされてますよ!!」
「馬鹿じゃ無いの、アローディエンヌの方がフロプシーに散々優しくしてる」
「優しさの掛け合いは素晴らしいと思います!!」
「は?何勘違いしてるの?ホント我慢ならないよ。大体お前等姉妹は本当にアローディエンヌからの搾取が酷い。ああ焼きたい。ねえ丸ごと焼こうよアローディエンヌう。ああ、裂いてもいいね。ねえねえさっきのフランベルジュ気に入った?」
何でよ!!お肉かお魚の調理法みたいにウキウキ言わないでくれる!?
いやまあ、確かに剣を振るう義兄さまはカッコ良かったけど!!残虐さが増すというか悪役よねと言うか!!……って、そうじゃなくて!!
「ですから!!そう軽々しく人を焼かないで裂かないでくださいます!?大体別に何も搾取されてませんから!!」
「アロンさあん!!」
大体そう言う意味で搾取されたって思ったのは、思い出すのも腹立たしいけどロージアだけよ!
フォーナはちょっと性善説が過ぎてるとは思うけど滅茶苦茶いい子だし、ブライトニアだって懐いてくれて心を赦してくれているし。
「綿毛神官とフロプシーのせいでアローディエンヌが危険な目に遭ってるのに!?怪我をさせる訳無いけど、もっと」
「いやだから!!仮に何か有っても義兄さまが私を常にお守り頂いているんで、良いですってば!」
……ああもう!!恥ずかしい!!何でこんなことを人前で言わなきゃいけないの!!ほら義兄さまの顔がフワフワとニヤけて来てるし!!ルディ様から不可思議な生物を見ているような視線を頂いてるし!!
「ア、アローディエンヌう!勿論だよ僕は君をずうっと守るの!!」
「……アローディエンヌはアレキにあんな守られ方を受け入れているのか?理解しがたいな」
「え?」
「煩い黙れショーン」
あんな?あんなって……。確かに建物へ被害甚大だったけど……。
それとも、あんまり残虐な真似はやめてだのとか言うの、煩かったかしら。助けて貰った立場なのに無責任かしら。
「まあこんな所でする話題でも無いな。アレキをもっと追い詰められるよう、どんどんアレキに不信感を抱け。限界だと思ったら教えて欲しいぞアローディエンヌ」
「馬鹿じゃ無いの。俺に不信感をアローディエンヌが抱く訳無い」
「……いえ、義兄さまは結構信じられないような不審な事をしてると常々思ってますわ」
「ええ!?酷おい!!僕はこんなに、こおんなに!アローディエンヌを世界の誰より愛して信じてだあい好きなのに!!」
「あ、アロンさん!!アレッキオさんを信じられないんですか!?」
いや、何でフォーナ迄そんなウルウルした目で見てくるのかしら。
何なのこのヒロインと悪役令嬢のウルウルした目のダブル攻撃。珍しいにも程が有るけど何故向けられるのが私!!
「信じられないか、それはそうだろう。懸命だなアローディエンヌ。よくこんなのに執着されて、時に世界中の誰よりも不憫だなと思う時が有るぞ」
「いえまあ……全てが万事信じていない訳では無く、信じられないなあと思う場面が多々あるだけですわ」
「何が!?何処が!?教えてアローディエンヌ!!気を付けてしないようにするからあ!!」
「普通直すから、ではないのか。直すとも思えんが」
「いえ、義兄さまは御変わりになられないかと思いますし」
「さっきから煩いんだよショーンに綿毛神官!!火だるまになって落ちろ!!」
「は、はわあ!!す、すみません!!ご夫婦のお邪魔でしたね!!」
「いえ全然邪魔じゃ無いわよ!!寧ろ付き合って貰って御免なさいね!!」
……馬車が家に着くまで……本当に長かったわ。
ええ、美形の舌戦にはわはわ言うのって二次元に限るわよね。いえ、はわはわ言ってたのはフォーナだし実に似合っていたけれど。
……此処にレルミッド様がいらっしゃれば……。
しかも着いたら着いたでまた義兄さまがゴネだしたし!!
「ああ、ショーンが僕達の家に入るのってホント気持ち悪い。せめて消毒費に大掃除費に通行料に滞在1分毎5万を払うなら庭に短時間置いてやるけど」
何でや!!
どんだけぼったくる気なの!?しかも庭!?曇ってて雨降りそうなのに!?
「義兄さま!!何を仰ってますのよ!!すみません、ルディ様!!お出で頂いた身で重ね重ねご無礼を!!」
「はわあ!!ご、御免なさいアレッキオさん!!あのあの、お邪魔にならないようにしますから!!」
「ブグ……」
あ、もぞもぞしてると思ったらブライトニアが起きちゃった。
そりゃこんなに煩ければ……いえ、結構ガチ寝だったわね。
「大体何時までその恰好なのフロプシー」
「ゴギャア!!」
「お前本当に魔力切れよく起こすね。魔力欠乏症で死ねばいいのに」
「義兄さま!!ブライトニアが好きでこの姿になった訳では無いんですのよ!!」
「どうだか。その格好だと蝋燭野郎にも甘えられるしアローディエンヌだって甘いじゃない。たいして可愛くも無い癖に図々しい」
「グギケゲカアッ!!」
「ブライトニア!!」
「あのあの、オールちゃん、私の魔力を……あいたっ!!」
「ブガッ!!ガグウ!!」
「フォーナ、大丈夫!?」
「は、はうう。大丈夫です、有り難う御座いますアロンさん」
前足でフォーナを叩いたブライトニアはフンって鼻を鳴らしている。
「まあ止めておけ。付与スキルもない上に同属性でもなく、魔力相性が悪ければ、即、反発が起きて魔力が譲渡されない上に骨と皮になるぞ」
「ええ!?」
「えええええ!?そ、そうなんですか!?」
怖!!危な!!そ、そんな恐ろしい事になるの!?
て言うか、そんな怖いお話だったのね魔力の譲渡って!!
てっきりもっと軽く出来るものだと……。魔法の才能が無いからって全然知らなかった……。あれ?でも魔法使ってるフォーナは何故知らないのかしら?やっぱり未だお勉強苦手なのかしら。
いや人のことより自分の事よね。無知が激しすぎるわ。
あれ?でもルディ様、前にも魔力の譲渡って為さってなかったかしら?
「ですが魔力の譲渡って……ルディ様、ミーリヤ様に以前為さってましたわよね?」
「ショーンの手が早いからだよ。ああ厭らしい気持ち悪い悍ましい」
「手の早さでお前にとやかく言われる筋合いはないぞ」
………何だか爛れてる雰囲気の話に行きそうね。
とても気にはなるけれど話を変えよう。
「兎に角、あの子供達のお部屋に……え?」
「モグミャ」
あっ!?ブライトニアが私の腕の中から飛んで行っちゃった!!
相変わらず何故か羽を動かさない飛び方というか、浮き方ね。
あ、2階に飛んでいったみたい。
「アイツ………またアローディエンヌの力を利用したな!!ふざけるなフロプシー!!」
「えっ!?何が!?全く何とも有りませんけど!?」
「ええ!?アロンさん、魔力付与出来るんですか!?す、凄いです!!」
「いえ全くそんなこと出来た試しが無いわよ!?」
「アローディエンヌ、来て!!お家に入って!!」
「はあ?」
そもそも義兄さまは何をそんなに激怒しているの!?
と、兎に角義兄さまに着いていかなきゃ行けないの?って、足早いな!!
「と、兎に角お二方もどうぞお入りくださいませ」
「ふむ、邪魔をする。成る程な、蝙蝠ウサギは魔力で飛ぶそうだぞ」
魔力で飛ぶ……。そんな話を前にも聞いたわね。確かに、あの蝙蝠の羽だと体を支えられそうにないものね。ウサギの体は鳥じゃないからどうしてもモフってしてモチャってしてるし。
ってそうじゃなくて。
「えっ、ブライトニアは……回復したってことですの!?」
「うん?元々水属性は他よりも回復力向上効果が僅かに有るのを知らんのか?」
「そうなんですの!?」
初耳よ!!何その情報!!
「そ、そうなんですか!?」
「まあ、べったりくっつかんとどうにもならん産物だがな。前にも魔力切れになった時、薄着の皇女はアローディエンヌにくっついていたと聞くぞ。回復が早まるようにだろうな」
えー知らなかったわ。
そんな便利な能力が………でも僅かに有るだけで、しかもべったりくっつかんといけないのか。……汎用性はゼロね。
やっぱモブである私なんかの能力は、華々しく花開いちゃう時って来なさそう。悲しいような納得なような。
「わっ、お嬢!?」
「そのお姿は!!」
「きゃあ!!」
「うわあああ!!」
それどころじゃ無さそうな悲鳴が2階の奥からしているんだけど!!
転けそうなぐらい頑張って足を動かさなきゃ!!
「こ、此方ですわお二方!!」
「歩きづらそうだな、アローディエンヌ。手を貸すか?」
「いえお気遣いな……!?はあ!?」
「はわああ!!」
何でよ!?
ルディ様のお申し出に返事をしようと思ったら、廊下を火球が走り抜けてきたんだけど!!
何で廊下に火球!?あっ、もう見えない!!
「アローディエンヌに触るな、女の敵野郎ショーン!!」
え!?何処から叫んでるのよ!?全く姿が見えないんだけど!!しかも火花が段々濃くなってるし!!ああもう、熱で暑い!!
「………不愉快な家主だな」
「申し訳御座いませんルディ様!!」
「は、はわあ!!アロンさん、ルディさん、ご無事で!?」
「御免なさいねフォーナ!!出来れば私から離れないで!」
「そうか、アレキを歯噛みさせてやるのもいいな」
「申し訳御座いませんが、お控えくださいませルディ様!!」
えっと、自宅の癖にホント遠いな!!確か客室はあっちの筈!
出会った時からブライトニアがアローディエンヌにくっついてた理由のひとつが明らかに。
撫で方が好みの手をしていたのも有ります。




