14.王子様は検分に
お読み頂き有り難う御座います。
王子vs悪役令嬢です。始まってずっと嫌い合いですね。
「聞いたぞアレキ。茶番を繰り広げてアローディエンヌに庇ってもらったとか。相変わらず歪んだ思考だな」
………ルディ様とお会いするのも久しぶりよね。相変わらずキラキラされているし義兄さまと仲は険悪だわ。私の知らん間に和解してくださっても全然感動するのになあ。ああ、背後から火花がフワフワ漂ってくるし!
で、でも茶番?どういうことなのかしら。
………何だか楽しそうなのが若干……いえとても気になるわね。何時かのって言うか、初夜会のような義兄さまを窮地に追い込んでやりたいみたいな、そんなお顔に見えなくもない。
フォーナもちょっとビクビクしてるわね。
「えっと、茶番?どういう事ですのルディ様。お聞きしても?」
「構わんぞ」
「グゲエ」
うお、相変わらずキラキラな王子様スマイルが眩しい!力なきモブは消し炭になりそう!
ルディ様は後ろの酷くブライトニアが壊した上に、更に義兄さまが壊した壁を見ておられるわね。
うっ、薄目で見ても被害が甚大過ぎる!!どうやって弁済したもんなの!?張本人達は何故か私にべったりだし!!
「アローディエンヌが拐われる直前で踏み込んだものの、武器が壊れて危機に陥り、形勢逆転……したのだろう?」
「はい、よくご存じで」
見てきたみたいなコメントね。詳しい報告がルディ様の元に行ったにせよ本当にその場で見てた人に聞いたみたい。
「実に作為的でおかしな現場を拵えたと思わんか?」
「はい?」
「はえ?」
え、作為的でおかしい?
どういうこと?作為的って、一体誰に……?思わずフォーナと首を傾げてしまったわ。
「は?邪推の戯れ言はやめろ、ショーン」
「どうせ、相手が刃潰しを持っているのを見込んだ上で、わざと割れ易いフランベルジュを持っていったんだろう。実に茶番をやらかしたな」
義兄さまとルディ様がモメだした。
………?作為的でおかしな現場を拵えたのは、義兄さまってこと?
つ、つまり、えっと。義兄さまは私のピンチにいいタイミングで踏み込んだのは………?
「え?ええ?それは……義兄さまはある程度事情をご存じでわざと負けるような振る舞いを為さったって事ですの!?」
「はわあ!?そそそそ、そ!?」
何で!?何の為に!?
私、結構心配したのに!!柄にもなく叫んだのよ!?今から思うと実力も見合わない癖にこっ恥ずかしい事を!
「いや、義妹姫………そういう訳でも有るような無いような……ですよ!」
「はわあ……えとえと」
「グギブゲ………」
「…………」
テイト隊長様のフォローが真実味を増すんだけど!!義兄さまは人の背後で頭を撫でるだけだし!!
何なの!?義兄さまは……分かっててワザと窮地に陥ったの!?皆様を巻き込んで!?態々被害を甚大にして!?
………嫌だわ、何時もの通りね。派手なやり方の被害甚大は十八番しゃない。とても普通にやりそう。
じゃなくて!!
「義兄さま!!」
「ふうーん、アローディエンヌはショーンの戯言を聞くの?信じるの?僕の話より?ふー」
「ひっ!!」
「グギャ!!ガアッ!!」
此処で耳に息を吹き掛ける!?ただでさえ耳がゾワゾワするような甘い声に色々乗せないで!!滅茶苦茶ビクビクするじゃないの!
くそう!負けるもんか!!無闇な被害甚大を巻き起こしたキッパリ義兄さまを叱らなきゃ!!只でさえ義兄さまとブライトニアに甘いって言われてるのに!!
「じゃ、じゃあ言ってくださいな。お伺いして納得したら義兄さまの方を信じますわよ!」
「ア、アロンさん立派です!!」
え!?全然立派じゃないけど!?
後ろから抱きつかれてるから、振り返れない情けない姿だけど!!
フォーナの感性って、……ヒロインだからかしら。何処かしら性善説過ぎてちょっと不思議ちゃん寄りよね。其処が良いところなんだけど。
邪気だらけの性悪ヒロインダメ絶対よ。地雷だわ。
「そうだねえ……。先ず、アローディエンヌが変なのに絡まれてるって聞いたのが、シアンディーヌが階段の天井照明に登った時でね」
何ですって!?
階段の天井照明って………えーと、3m位上に取り付けてあるアレ!?
何であんな高いところに登れるのあの子は!!色々言おうと思ったことが頭から吹っ飛んだじゃないの!!
「はぁ!?またシアンディーヌが!?」
「え、シアンディーヌとは………公爵家の芋虫姫ですか」
「え!?芋虫姫!?」
「あっ、しまった!いやその、申し訳ない義妹姫に公爵!シアンディーヌ公女の事情を知っている者がつい親しみを込めてついお呼びしているだけですので!!」
「ほう、捻りも何もない渾名だな」
「俺とアローディエンヌの愛の結晶に失礼。か弱い赤ん坊に何を求めてるのか知ってるし、悪用したら親族一同焼くから」
「有る訳無いでしょう!!噂通り怖いですな公爵は!」
い、芋虫姫………。また変な渾名になっているのね。
ルディ様の仰る通りそのまんまだけど。別に捻ってほしい訳でもないけど年頃になったら傷付かないかしら。いやそもそも年頃になったら蛹になるの?蝶々になるの?それに従って噂も三段階!?
ってそんな渾名に感心してる暇は無いのよ!!そっちはそっちで心配だけど!!
「いや、義兄さま!変な事でテイト隊長様に食って掛からないでくださいな!!それよりも!お話が済んでませんわよ!!」
「ブボゲ!」
「義兄さま、本当にワザと負けましたの!?」
「最後に勝ったよ。見たでしょ?そこの騎士達も目を覚ました従業員達もノコノコ後からやってきて、遠巻きに見物してたしね」
い、嫌味だわ。確かに割って入って欲しかったけど……あんな過激な戦いに実力も無しに入れないのは分かるけど!物を落とすとか色々あるじゃん!!……無能な役立たずモブが言えた義理じゃないかもだけど!
騎士様がたが目を逸らしたり俯いたりされて……っていつの間に囲まれていたの!?
「僕を庇ってくれるアローディエンヌはとっても凛々しくて可愛かったねえ。きみのそういうところ、だあいすき!」
弾んだ甘い声と一緒に、ふわ、と義兄さまの赤いフワフワした赤毛が私のおでこに降り掛かった。
ちらちら光る、赤い火花が見えて……。
…………そして、むちゅ、と吸われる感触も!!
…………!?
ひひひひ人前で何してくれてるのこの人は!!
「いいい、いや話を反らさないでくれます!?まさか、グレッグさんにワザと負けられるフリを為さったんじゃ………」
「ショーンはそう持ってきたいみたいだし、第三の隊長テイトも疑惑の目で見てるけど、違うよお」
「いや私はそんなこと思ってるようで思っておりませんよ公爵!」
………思っておられるみたいね。ルディ様の表情は変わられないわ。相変わらず麗しいお顔で……リアクションが読めない方……。いや、私に言われたかないでしょうけど。
「グキャッ!」
「うわ何!?何ですの?!」
くるっと体を回されて、視界が変わる。
上を向いたら………薄い青の瞳が近い。近すぎるわ!!
「だってさあ。折角乗り込んだんだよ?僕、あの薮医者に思い知らせてやろうと思ったの。だって調子に乗りすぎじゃない。僕のアローディエンヌに滅茶苦茶馴れ馴れしいの、ホント許せない」
「はあ?」
「ちょっと梃子摺ったけど、絶対的な立場で勝てると踏んだ相手に……簡単に逆襲されたらさあ、どう思う?
死ぬほど悔しいでしょう?腸が煮えくり返るよね?絶望すると思うんだあ」
つらつら、と流れるように紡がれる甘い声に……しん、と静まり返ってしまったわ。
何言ってんのこの人は、ってのと………怖すぎだろって思いと!!
満面の悪い笑顔で何を言って、やってのけたのよ義兄さまはあああ!!
「………!!」
「何であろうと悪辣だな、アレキは」
「…………ブゲガキャ」
「………………公爵は、公爵ですね」
「あ、でもでもね!アローディエンヌに庇って貰えたのは思ってなかった!」
「え?」
そうなの?え、さっきのルディ様のお話だとワザと負けて私の必死さを見たいとかそんな風にも聞こえたんだけど。
…………目を見たけど、相変わらず甘えたような雰囲気。嘘は……つ、吐いてない?み、見抜けない!!
「うんうん、良いこと聞いちゃった。心配させて御免ね。ありがとねアローディエンヌ!今日も愛してるからね!!」
「は………はあ!?」
きゃっ、言っちゃった!みたいに頬を染めるの止めてくれない!?滅茶苦茶感染るんだけど!!
「ほら見ろ、茶番だぞ」
「ル、ルディさん!!愛し合うご夫婦に茶々を入れてはいけません!!」
「………け、結局公爵は何をしたかったのでしょう」
「アレキの行動理由か?アローディエンヌ絡みだな」
「そ、それは分かりますが………。何をサボっている!貴様ら業務に戻らんか!貴様とカニの鍋茹でにするぞ!!」
………本当に叱責の仕方が独特でらっしゃるのね、テイト隊長様は。
いや、バカップルだなーみたいな空気があの発言に持ってかれたから其処はとても良いんだけど。
「そんなことより、アレキ。お前が閉じ込めた哀れな獣人の子供だが」
「キブウ」
え、ルディ様はそんな事までご存じなの?す、凄いな。
「人聞きの悪いこと言わないでくれる。フロプシーが拾ってきたガキ共を優しいアローディエンヌが保護したんだよ」
「いえ、浅慮でしたわ。国から追われていてもご家族がおられることを確認しなかった私が愚かでしたの」
だからあんな……て言うか目の前の散々な瓦礫の山が積み上がってしまった訳だし。
………シアンディーヌが手を離れたら働いてお返し出来ないのかしら。働き口が見付かれば良いけど、責任を取りたいわ。
しかもグレッグさんへの多大なご迷惑の償いも………。
「アローディエンヌ、普通はこんな直ぐ道端でズタボロなガキの身内なんて見つからないよ」
「言い方!!」
「ズ、ズタボロ!?こ、子供さんがですか!?」
「後、アイツアローディエンヌにイヤらしい視線を送ってた。嫌い。絶対他にアローディエンヌに変な思惑を抱いてる」
「寧ろ義兄さまの方がべた褒めでしたけれど」
「そう?」
………義兄さまの私へのフィルター掛かった見方は相変わらずおかしいわね。シアンディーヌのついでに目を診て貰ったことも有ったけど、何の疾患も無かったものね。絶対おかしいのに。
「ブァミ」
………静かだと思ったらブライトニアがスピスピ寝始めたんだけど。
………疲れたのかしらね。ブライトニアも色々考えが有ると思いたいんだけど、オルガニックさんへのプレゼント買いに出掛けたんだもんね……。
そもそも、今、意思疏通が出来ないもんなあ。
ちょっとさっきの水も乾いてモフモフ……いや、毛皮がヨレてるわね。お風呂に入れてあげてブラッシングしてあげなきゃ。
「ね、寝ちゃいましたねオールちゃんったら」
「渦中の尊き方は……実に自我の強いお姫様ですね………」
「まあ、どちらにせよアレキ」
「アローディエンヌ、帰ろっかあ。フロプシーはショーンか綿毛神官が世話すりゃ良いよ」
「いや何を言ってますの!?」
よくこの話の流れで帰ろうとするわね!?何時もの事だけど!!
「いやそんな訳には参りませんよ!!王城にお出でください!!」
「嫌だね。俺は今日から3日は非番なんだ。滅びようが壊滅しようが絶対に行かない。アローディエンヌとシアンディーヌと過ごす」
「いや、いっつも過ごしてますでしょ!?」
寧ろ帰ってこない事無いわよね!?有り難いことに子育てノイローゼに掛からない位、常日頃義兄さまと一緒に居るわよ。
で、散々ゴネた義兄さまは……。
「分かりました、もう公爵のお預かりの子供達の現状を殿下に判断して貰いましょう!!」
「何故僕が?」
「公爵に喧嘩売りに来られただけで済まされては困りますから!!」
テイト隊長様に匙を投げられてしまったわ……。
「ショーンを家に入れろって?隊長テイト、おかしいんじゃないの」
「では登城為さりますか!?」
「…………」
「ひ!ひええ!!あ、熱いです!!」
「そんな人を殺しそうな顔で睨むようなことですか!?火花を仕舞ってください!」
「だってえアローディエンヌ!僕らの愛の巣がショーンに汚されるんだよ!!」
「前にもお招きしましたでしょう!?ルディ様、どうか当家でお預かりのあの子達とブライトニアに、お知恵を貸してくださいますか」
「………ふむ、まあ、レルミッドへの土産話にはなるか。魔王の館とも呼んでいたしな」
「途中で焼け死ねショーン」
「義兄さま!!」
「あ、あのあの………私はマデルさんをお見舞いしたいんですが」
あ、そ、そうだったわ。
私も……と言おうと思ったら物凄く微妙な複数の視線と絡み合ってしまったわ。
え、どういうことなのかしら?
「…………フォーナ、だったね。秘蔵っ子の宝を拗らせた卑猥かつネチッこい世界にやるわけには行かん」
「ちょっと、隊長テイト。アローディエンヌに猥談を聞かせるなよ」
「アレキのその発言がいかがわしいぞ」
「はえ?あの、えっと?」
い、いかがわしい!?何で?お見舞いなのに何が?
「ごほん、マデル嬢は我が部下の熊野郎のオーフェンがネチッと面倒を見ますので、養生されるでしょう。明日くらいには面会が可能かもしれません」
「あ、そうですわよね。魔力を失ってご気分が……」
「回復魔術が御入り用でしたら私がお役に立てます!」
「魔力は直ぐ回復するでしょうけどな……」
び、微妙なお顔だな。何があると言うの……。バルトロイズ様とマデル様の平和な大人イチャイチャじゃないの?
「もう良いでしょ。知り合いの事情でも気持ち悪い聞きたくない」
「相変わらず心の狭い潔癖だな。何を気取っているんだ?気持ち悪いぞ」
「煩いよ手当たり次第来るもの拒まず」
………と、兎に角マデル様は久々の逢瀬を楽しまれるってことで良いのよね。
確かにバルトロイズ様にお任せした方が……他に聞くのは明日でも。グレッグさんの御沙汰もお口添えしたいし。
………兎に角、ウチで義兄さまとルディ様の会談を……平和的に修正出来たら良いのだけれど。
義兄さまもルディくんも、騎士団とある程度仲が良いです。
ちょっと鬱憤を晴らした義兄さまはアローディエンヌがいるので、穏やかな対決となっております。本当です。




