13.サポートキャラはカウンセラーじゃないんだよ (ニック目線)
お読み頂き有り難う御座います。
コレッデモンでご飯中のニックが絡まれております。
日当たりが少し控えめだけれど、清潔な食堂は今日も美味しそうな匂いと活気に満ちている。
コレッデモン王宮には食堂が有るんだよ。騎士さんも文官さんも使える、広ーい食堂が!しかもリーズナブル!いやあ、福利厚生が超整ってるよね!神官やってたときイチイチお外にご飯に出るの地味ーにめんどかったんだよ。いやあマジ有り難いね!
ぐふふ、贅沢に慣れちゃうなあ。こういうささやかだけどキッチリした福利厚生ってマジ贅沢なんだよね。ギンギンギラギラピッカピカはド庶民モブなボクには畏れ多くって程遠いんだよ!
「まあ、偶然」
やん……。濃いグレーの髪に、青緑の目の……今日一番会いたくない御方に声を掛けられちゃった。ふざけてもテンション上がらねえんだけど。
1秒前のボクのご機嫌が吹っ飛んだよ。
偶然?そーんな訳なーいじゃーん。
5回連続したらそれって故意だよ恋じゃ無いで候。何でもかんでもそじゃね?
そして同席を許可してないんですよ、ビックリの押しの強さだよね!と返せるほど度胸も距離も詰まってないボク、オルガニック・キュリナです!
「オルガニック様、オルガニック殿とお呼びしても?」
………殿と様にどう違いがあるんだろう、それ。
心の距離ならガン開き中なんだけど。無視……するには対岸の視線が超怖いよ。どうして!?あんなに仲良く喋っていたのに!!……いや嘘ついたよ。ちょいギシギシな雰囲気でした。……この、ご令嬢のせいね!!お隣に我が物顔でお座りしてくださるの止めて欲しいです!!
「……………あんのー、こ!困るんですが」
困ってる所じゃない迷惑かけられさなんだけど大したコメントが出ないって言う!!この!ボクのチキンさがね!!こうね!バカなの!?もっとガンゴン力強く言うべきなのにね!でもね……よく知ってても知らなくても人に強く言いづらい小心者なの!!だって!怒鳴るの嫌いだし何より此方にお世話になりたてなのに他の方々への心象が!!皆さん良くしてくださるのに好感度下げたくナッシン!!
「あら、何もしておりませんでしょう?お隣に座るのも駄目です?初なんですのね」
おお、ボクの弱っちい反撃も何のそのな余裕な感じ。
うええんぴえん、少女漫画の押しの強い意地悪イケメンみたいな科白だな……。その場合ボクというモブがヒロイン化してしまうんだけど。なんと言うエグい話だ。そもそも絵面嫌すぎるね。
「…………キエラー、オルガニック殿がー嫌がってまーすよー」
「そんなこと有りませんよね?」
と言うかね、よくこの……チュイ卿の真ん前で出来るよね。
何?当て馬なのボク?それなら甘んじて受けるけどこの空気違うよね!?滅茶苦茶嫌なのん!!
「話し合いしましょう、キエラ」
「話すことなんて無いわ。私は心変わりしたの」
その御心、ボクに移してくださいますなよん!バサッて、チュイ卿の羽が逆立ったよーに見えるんだけどおお!?意外と縦に動くね?他の機会で知りたかったな!!
「ふん、そんな怖い顔でオルガニック様を睨まないで。怯えてしまわれるわ」
「とんでもない、ボクはチュイ卿が親切で大好きです。恙無く穏やかーな友情を築ければ嬉しいと願っております」
「俺もーですよ」
うん、このぎこちないけど微笑みゲットの為!ボクは頑張ったよ。
『貴方の番としてなら尊重するけど、お嫁さんとしてはキエラさんにこれっぽっちも魅力を感じた覚えはない』ってなことをお伝えする為、言葉とリアクションを大きく頑張ったよボク!!若干喉を酷使したよ!!
誰かホント褒めて!!背水の陣で頑張ったんだってば!!なのに、なのに!
キエラさんは諦めない。隔日でプレゼントを頂く。最初は突っ返してたんだけど、ボク自らが会いに来てくれると周りに触れ回ってたらしくて!!
陰険!!女の人怖い!!
「チュイレルとは仲が良いんですね……」
いや、そーんな切なさ全開な御顔して、羨ましがるう!?そんならとっとと和解して親睦を深めりゃ宜しいじゃありませんか。ボクを巻き込まないで欲すぃんだけどおお!
と叫びたい叫べないボクチキンモブです。
「キエラー、一体何が不満なんですかー。俺が何か貴女に心無い事をしてしまったんですか?」
「いいえ貴方は誠実よ。でもしつこく番え番えと求愛してきたから嫌になったの」
「愛する番にー愛を告げないなんてーおかしいでしょー」
「……愛する、ね。どうせ番でなきゃ私なんて歯牙にもかけない癖に」
……ドストレート過ぎやしませんか。
効いてるこっちが恥ずかしいで候。て言うか、何なの?痴話喧嘩?
ボクマジ蚊帳の外感なんだけど。
「狼狽えましたわ。オルガニック様、ではまた」
……場を乱すだけ乱して帰って行くの良くないと思いまーす。
ちょっとあの人、ボクの好みじゃないかなあ。
「キエラはーー番に対して物凄く嫌悪感を持っているんですよー」
「そうみたいだね……。チュイ卿には申し訳ないけど、態度良く無いと思っちゃう。ボクの手には負えない女性だと思うよ」
「心優しいんですよー。ただー思い込みが激しくてねー」
へえー……思い込みが激しい女性とボクって縁が有るなあ。
いやー、有って欲しくないんだけどなー。
「昔、キエラの幼馴染でノコギリ鮭の獣人が居たそうなんです」
「ぶそっ、そうなんだ……」
……ノコギリザメではなく、サケ……。お魚好きのボクだけど、この世界には知らない動植物で溢れているんだよね……。
いや、笑う所じゃないんだけど。
どんなビジュアルなのか気になる気もするけど、お顔を見て失礼してしまう予感しか出ないよ。
どうしよう、鮭顔だったら。いや、どうしようもないんだけど!!
「悲しい事にキエラと彼は恋に落ちー、いずれ所帯を持ちたいとー願ったそうなんですー」
「おおう!?」
つ、番嫌いの話ってやっぱりバックグラウンドが有ったんだね!?
そりゃそうか。まあ、世の中には偏見だけで獣人さんを嫌う人も居るからなあ。差別的に扱われてたってのも聞くし、サロ卿の番の子犬ちゃん&カータちゃんも随分差別されて来たって言うし!!
ボクはキエラさんが気に入らないからつい色眼鏡で見ちゃってたのかもと反省反省。それでも不愉快なのは消えないけどね!顔に出せないだけだぜで候!!
「でー、ノコギリ鮭のー獣人は番を見つけたんですねー。それも他国でー」
「お、おおう。そりゃ世にも悲しい物語だね」
「まあー子供同士間のー戯言なんでー潰えてしまってざまあみろー」
「……チュイ卿、私怨が怖いよ」
ボクより歳上なのに美少年感の残る顔でザマアミローは怖いですしおすし。
過去への私怨メラメラジェラってるじゃ無いですか。
でも成程なあ。それでキエラさんは番に恨みを抱いちゃってる訳か。
……益々ボク関係なくない?
「で、彼らの間に生まれたのは何故か丸い鳥の子供だったんです」
丸い鳥?なんじゃそりゃ。ボクの知識に有る鳥なのかな?地味ーにボクの知ってる生物とニアミスするのが有るからなあ。そのまま前世知識まんまの動物も居るんだけどね。
目の前のチュイ卿はワタリアホウドリだし、黒猫卿は猫ちゃんだし。不思議生物ばっかが獣人な訳でも無いんだよなあ。其処は統一して欲しいような気がするよ頼んますよ。
あ、そうじゃないや。
鮭から鳥って生まれるもんなの?ちょっと進化過程って何だっけ?
常識がグルグルかき回されるなあ。
「……うんあれ?鮭さんは?何故鮭から鳥がお生まれになるの?どういう獣人マジック?お魚要素は鳥になるの?」
「流石にー無いでしょうー。普通は先祖返りを疑うんですがねー……」
「普通、先祖返りってレア……稀少なんじゃ無いの?」
「そうですね、稀少ですー。だからー、ノコギリ鮭の彼は、苦しんで苦しんだ上に細君の浮気を疑ったーそうです。番を疑うなんてあるまじき行為ですがー」
そうなんだ……。
番の男女のアレコレはよく分からんちんだけど、ラブの熱量すごいねへえーとしか言えないなあ。
でもまあ考えてみりゃ、フツーの人間の男女だって色合いの違う子供が産まれたら浮気を疑うって言うもんなあ。
ただ、この世界、髪の毛と目の色はフツーに親と違うんだよね。寧ろ一緒なのがレアケース。だから厳密浮気は其処では測れないけど、魔力の質?で検査する事も出来るらしい。怖いね!浮気はするもんじゃないね!
まあ、種族が違えばそりゃ浮気を疑っちゃうのも分かるかも。
……常識はところ変われば品代わるって言うけど、見えるものって確実だからなあ。
そもそも親のせいだし、子供には浮気云々関係無いんだけど。
でも、鮭さんは番さんの浮気を疑って苦しんじゃったんだね。真相は解んないけど。
「優しいキエラは里帰りしたノコギリ鮭を懸命に慰めたそうです。棄てられた側がですよ!?縋りつかれたその頭を足蹴にして抜いて輪切りにしてゴミに出せばいいのに!!」
「コメントが怖いよチュイ卿!!」
「ノコギリ鮭に、番でなくてもいいから慰めて欲しいと言われたそうでして!!図々しいにも程が有る!!」
おおお?うわああん、ドロドロしてきたなあ。
そっりゃ嫌いじゃないけど!!ボクが絡んでなきゃね!!
思い出し怒りか翼を広げてきて、おあ!ボクの定食のお皿を守らなきゃ!!
「で、結局キエラさんは鮭さんを慰めてドロドロな恋の沼にズブズブ沈んでっちゃったの?」
よし、死守できたよ。幾らリーズナブルなお食事でも食器壊したら自費で賠償だしね。器物破損良くない!
「その頃には俺が居ましたからー、沈んでませんし沈ませませんでしたよー。でももっと早く彼女を見つけていれば……」
そこは愛の力でリカバリー出来てキエラさんを救い出せた、んだよね。
アレ?だとしたら何でキエラさんはチュイ卿にフォーリンラブしないの?ダメンズから救ってくれたのに。
初恋の魔力って奴で結局忘れられないのかな?
て言うか鼻息荒くなって来たよチュイ卿。怖いけど此処で話をぶった切れる程ハートが強くないの、ボク。
「それで鮭さんはどうなったの?」
「番を信じられずに野垂れ死にましたー。つい1ヶ月前に。これでーキエラの憂いがー無くなったと言うのにー」
………鮭さんへの追悼コメントが短い&酷い。チュイ卿の立場からすると当然なのかもしんないけど。
でも、その番さんはどうしてんのかね。その丸い鳥の子を抱えて……。ボクが気にするこったぁ無いけどさ。
「でも何でボクに白羽の矢が当たるのかね?ハッ!?まさかボク、鮭さんと似てるの!?」
えっ、この押しも押されぬモブ面が!?まさかボクってお魚顔なの!?言われたことない!!特徴無い顔だなって親にも言われてるこのモブ面が!?でもモブだから量産されている可能性有るかも!!
まあ、本来はお魚獣人さんでもお魚顔ではないんだよね。前の職場にヒラメ似の神官居たけど、彼は獣人とは無関係だったしね。異世界でも現実と常識はマジムズいよね!
「ノコギリ鮭の?あー……目はー臙脂でしたねー!」
………またピンポイントにボクの目立たないチャームポイントを!!
初対面で気付かれたこと無いよ!?オレンジ系の光源の下なら間違いなくおんなじ色だからね!
くすん!皆の憧れオッドアイ持ちキター!!なのに一向に理解されない羨ましがられない気付かれないとガッカリ三拍子なのは泣いてないよ!!エルジュ卿も似たようなお悩みが有るって聞いたからね!でも赤寄りの青と青寄りの赤の方が羨ましいよ!!
銀と黒とか赤と青とかになりたいよねって半時間語り合ったなあ。どうでもいいんだけどね!
「えと……片目だけなんだけど、よく気付くね」
「後ー、ニック殿の境遇はー有名なのでー。就職の由来がー速く広まったのもーありますけどー」
「そうなんだ……。確かに会う人に親切にして貰えて有り難かったで候」
「隙有らば奪い取ろうとする動きもー有りましたけどー。まさかーキエラが思い詰めてるとはねー」
………と、言われてもなあ。
確かにボクはブライトニアから逃げ腰で逃げたいけど、キエラさんを好きになるかは別の話で御座候。
そもそも押しの強い女性はお断りしたい傾向であってね。
ボクの事情を解ってるだの聞いてるだの同情するだの言うんならさ、ソコん所配慮して欲しいよ。
傷付きやすいアラサーなのは御一緒でしょ?ソコが嫌ならボクからは手を引いて貰いたいよ。
それ抜きにしても彼女の事情も納得できないしー………そーんなややこしーい境遇なら益々近寄るのご遠慮したいなあ。チートゼロなモブだから、態々解決に動きたくもないしー。
大体ボクはサポートキャラであって、カウンセラーヒロイン……じゃねえ!ヒーロー枠では無いんだよね。
どっちかいうとコメンテーターに近いのかな、サポートキャラってば。
彼らのこんがらがった恋愛の紐解きをお手伝いするなら喜んでやるけどさー。困るわー。早く解決して!!他人事で悪いけど、お断りし続けるしか出来ないから!!
………こちとら!ブライトニアが怒り狂ってコレッデモンに来るかどうかヒヤヒヤなんだからね!!
取り敢えず貢ぎ物のウサ耳帽子は後ちょっとで完成するよ。マデルさんに何故か臙脂を強烈に推されたから臙脂色の帽子だよ。
もっと明るい可愛い色の方が若者にバカウケなんじゃないのとは思ったけどね。ソコがオッサン目線なのかな。おにゃのこの流行りはオッサンには判らないからマデルさんに従っといたけどね。
「兎に角チュイ卿、出来うる限り貴方とへばりついて歩くので、ボクをキエラさんから遠ざけて下さい!!」
「此処までー協力的なー恋敵はー居ないですよねー」
「恋敵ちゃうから!!」
地味に目の奥の怒りがチラついて見えるの、マジ怖いよ!!
獣人にも色々居るようですね。
 




