10.復讐するは彼に有る
お読み頂き有難う御座います。
ブライトニアが暴れた宿で女子会話から始まりますね。
「ウサちゃんのー宥め役にーお花ちゃんがーいてくれて良かったわー」
「よ、良かったです!!」
「ガ?グキャア!!」
「ブライトニア!!」
あ、危な!!
何でまた飛び立とうとするのよ!!折角大人しくなったのに!!蹴りを繰り出そうとしてるし!!
「あうっ!!ひえっ!!た、頼りない姉ですみません!!」
「ゴキャバゲフブ!!」
「困ったちゃんねー。でもーこの分じゃーコレッデモンにー連れてく訳にもー行かないわねー」
「ゴゴブブ!」
あっ!!おでこをつつかれるマデル様の指を前足ではね退けた!
「あっ、ブライトニア!失礼でしょう!」
「ミャグブウ!」
「はわああ!!オールちゃん、お怪我をさせちゃいますから駄目ですよお!!」
「まあーそれよりもー、具体的にー何をするかねー」
「グゲッブ!!」
ぜ、全然気にしておられないな。ブライトニアはブスブス鼻を鳴らして怒ってるというのに。
コレが大人の余裕なのね……。素敵だわ……。精神年齢が高い筈の私ったら何の余裕も無いのがまた悲しいというか。
……いや、そう言う問題じゃ無いわね。
「あのあの、その方にお手紙を書いて、ニックはオールちゃんと婚約をしているので駄目ですってお伝えするのは如何でしょう」
「ギャガブ!?グググ!!ギャア!!ブビビブブ!!」
「まあー聞かないでしょうねー」
そ、そうなのね……。
そんな大人しい方でも無いのか。そりゃそうか。出会い頭にプロポーズするようなアグレッシブな令嬢が「彼には私と言う婚約者がいるの、諦めてください!!」だと中々……。逆に燃え上がったりされるのかしら。そもそもこんな大人しそうな科白、ブライトニアが言わないわね。
……と言うかオルガニックさん、押し切られたりしないかしらね。
勿論、不誠実なことはなさらないわ、信じましょうと先程は言ったけれど……。所詮精神論じゃねえか知らねえよ!!奪ったもん勝ちだぜ!!みたいな価値観の方には通じないわよね。
うーむ、押しの強い人に穏やかに諦めて貰えそうな感じ……。
「君たちの愛の強さには負けたわ……」みたいな?
駄目だ、そもそもそんな漫画みたいな科白を言いそうな人が居たら笑いそうだし、至るであろう過程も全く思いつかんわね。
「コレッデモン王国でオルガニックさんとブライトニアが仲睦まじい姿をお見せするとか……では如何でしょう?」
「あらー?今のーウサちゃんの姿でー?」
「ゲゲゲグブブブ!!」
た、確かに今のオルガニックさんとブライトニア……。間違いなくペットと戯れてる感じしか出ないわね。
ブライトニアが羽と耳を逆立てて滅茶苦茶怒ってるけど、マデル様の仰る通りどうしようもない事実だわ……。
えっと!取り敢えず撫でておこう。
「よ、よしよしブライトニア。落ち着いて話し合いましょう」
鳴き声を解読出来ないんだから、話し合いも何も無いんだけどね。そこはこう、ニュアンスで何とか……うん。
難しいわ。
「で、ですが……ニックはきっとオールちゃんのその姿だと仲睦まじくすると思いますよ!!ニックは動物さんにモテモテですからね!!」
「グギャ!?ゲゲゲゲブブビイ!!!ガアアア!!」
「え、どうしたのブライトニア!!何で急に暴れだしたの!?」
また耳が跳ね上がるレベルで滅茶苦茶怒って前足をだしだし動かしてフォーナを蹴ろうとしてる!!
「もしかしてー、ニックちゃんがーモテて来た動物の中にー獣人が居たらって事で怒ってるのー?」
「ガギャ!!」
そんな馬鹿な……。オルガニックさんって其処迄動物にモテるの?凄いな、ケモナー垂涎の能力ね。流石攻略対象だわ。オルガニックさんのルートってどんなシナリオだったのかしら。地味に気になってきたわ。
「居たかも分からないー子達に妬いても仕方ないでしょー。それにー今コレッデモン王国に向かって貰うとーウチのチュイレルちゃんとーウサちゃんがー管理不行き届きを巡って殺し合いになりそうだからー来て貰っても困るわー」
こ、殺し合い!?そ、其処まで過激になりそうな話なの!?肉食動物同士の獲物がブッキングしたみたいなノリに聞こえるわ……。
「こ、殺し合いに、管理不行き届き……ですの?」
「番の子がー目移りするのはー獣人的にはー管理不行き届きなんですってー。番のー心をー縛っておけないからってー」
其処まで管理区域になるの!?無茶苦茶じゃないの。
「流石にそれは無理なのでは。目移りする方は相手の気持ちまでお考えにならないでしょうし」
その、えっと、オルガニックさんにプロポーズしたって言うキエラさんって方の考えも分からないしな。
お家の為に目的が有ったとか?かもしれないわ。ガチで好きになられたケースも勿論あるけれど。
「そもそも、キエラさんと言う方が一目惚れで衝動的にお手紙を用意したのか、他に目的が有るのか……其処も分かりませんわよね」
「そーうなのよねー」
「はわ!?ま、まさかニックが好きじゃないのに何か理由があってニックに告白をされたってことですか!?」
「グギャ!?」
お、察しが良くなってきたのねフォーナ。
やっぱり好きな人とひとつ屋根の下に暮らしてると恋愛経験値が爆上がりしてレベルアップが見込めるのかしら……!?
……いや、人によるわね。大体私なんぞ義兄さまと4歳から住んでるけど、いい感じの恋愛経験値が無いに等しいわ。
「バガッブゲゲ!?ブギャフブ!?」
「寧ろーそっちのー可能性の方をー気にしてるわー」
「はえええ。そんな難しそうな事が……」
「ええ……?本当にオルガニックさんが好きでって方がお断りのお返事が大変そうだと思うのだけれど」
失礼だけどアワアワしてらっしゃりそうだし、優柔不断に見えるものね。
私がそう言うとフォーナに首を傾げられた。
「はえ?ニックは結構その、気に入らない方には容赦ないですよ?」
「そうみたいねー。ファーレン・カリメラをバサッとフッてたものねー」
「ムフミギャ」
あ、ブライトニアがフンフン鼻を鳴らしてドヤ顔になってるわね。蝙蝠ウサギなのに実に表情豊かね。リアクションが凄まじく大きいのも有るけれど。
「確かにオルガニックさん、カリメラを嫌いだったみたいだものね。……カリメラはどうしているのかしら。許されないのかもしれないけれど……甘いかもしれないけれど、何ともならないのかしら」
「そうですね……ファーレン姉様……」
「ガフブ」
「まあーそっちはー関係ないわねー」
うっ、マデル様とブライトニアはクールだな……。
確かに今出す話題じゃ無かったけれど。
「お嬢さん達、話は纏まったかな?」
「あ、グレゴリオさん」
あ、グレッグさんが此方に歩いていらっしゃったわ。
そういや結構話し込んでしまったわね。お待たせし過ぎてしまった……。
しかも纏まって無いし。
「そういやフィオールちゃん、君の花束ぐちゃぐちゃになってしまったね。少し拾っておいたよ。後、宿の花を分けてくれるそうだからどうぞ」
「グギャ」
見回したら綺麗になってるし、あんなにいらした従業員さんの姿も見えない。め、滅茶苦茶いい方だわグレッグさん。あんな態度をした私達に……お片付けのお手伝いかつ、そんな所に気配りをしてくださるなんて。
ブライトニアに無事な数本の茶色のコスモスと他のお花を渡してあげてる……。でも今のブライトニアの手じゃお花持てないわね。
あ、前足たしたししてる。持てって事ね。
「ブライトニア、私が持つわ」
「ブミイ」
「それで、君達の用事は済んだかな?」
「まあー状況説明はー出来たわねー」
「そうかそうか」
……ぽん、ぱしゃっ。
……え?
え?何?水の音?
「……あ……なた」
「ま、マデル様!?」
急にマデル様がふら付かれている!?ど、どうして!?急に体調を崩された!?胸を抑えていらっしゃる!!慌てて駆け寄ろうとすると、急に引っ張られた。
……え?
ぐ、グレッグさんが私の手を掴んでる。何で!?
「急に飛び出すと危ないよ、アロンちゃん」
「アロンさん!?ぐ、グレゴリオさん!!何を!!」
「ぐ、み……!?」
「ふわ!?お、オールちゃん迄!?」
「ブライトニア!?」
ブライトニア迄膝の上でグタッとしだした!?い、一体どうしたって言うの!?何か毒ガスでも発生してるって言うの!?
「アロンちゃん、君って公爵令嬢だったんだね」
「……は!?」
は!?な、何の話!?
公爵令嬢!?いや、一応今は公爵夫人……なんだけど。
「ユール公爵の妹で令嬢なんだってね。宿の人に聞いたよ。成程ね、だから見つからなかったんだ」
「え、いや……」
情報が古い気がするんだけど、結局何が言いたいの?
「グレゴリオさん!?あ、アロンさんを離してください!!」
「アロンちゃんは王子の婚約者なんだってね」
「はあ!?」
「はい!?」
婚約者!?王子!?って、どちらの何方よ!?
王子って……ルディ様かティム様の事よね!?
そ、それに王子様の婚約者って、義姉さまのことだったじゃない!!
情報が古い上に間違っている!!
いや、そんな経ってないから巷の噂ってそんなもんなの!?そうよね、同じ階級でもないんだから一貴族の婚姻がどうとか気にしないか!!あれ!?でも私と義兄さまの結婚、新聞に載ってたんじゃ!?何で知られて無いの!?
で、でも迂闊にそんな事言って良いのかしら!?今、誤解を解いて……いい所なの!?
この変な雰囲気で……と、兎に角変な事を言わずに否定しなきゃ。
「わ、私が王子様の婚約者な訳が有りませんでしょう!?この見た目ですわよ!?」
「御謙遜を。君は可愛いよアロンちゃん」
「そうですよアロンさん!!今日のお洋服もお似合いですし、どうぞ自信を持ってください!!」
「いやフォーナ迄何の話なの!?マデル様とブライトニアが苦しそうなのに何を言ってるの!?手を放してくださいます!?」
「しっかりしてるね……」
そりゃ話題が散らかるのは義兄さまに鍛えられてるからな!!
ってそうじゃなくて!!
ど、どうして!?軽く持たれてるのにどうして振り払えないの!?
「はわ、どうして!?どうして魔術が使えないんです!?」
魔術が使えない!?
フォーナがぐったりしたマデル様に回復魔法を掛けようとしたみたい、だけど。
いつも優しく黄色く光るその手は……今は全く、反応せず何も光っていない。
ど、どうしてなの。何が起こって居るって言うの!?
「マデル様、ブライトニア!!しっかりなさって!!誰か来てくださいな!!」
「少し君達とお話したいからね、皆来ないで貰ってるんだ」
「……い、一体皆さんに何をなさったんですか!!」
「まあまあ」
傷の多い、人の良さそうなお顔で笑われるグレッグさん……。だけど、どうして?何が目的なの?
……ブライトニアが甥御さんを拉致したみたいなもんだから、復讐!?
私がその子達を匿っているから怒ってる!?
あ……そ、そうだわ。ちゃんとれっきとしたお怒りになる理由、あるわ。
そりゃ私達に復讐したくなるわよね。ええ、当然だし滅茶苦茶普通だわ。
……どうしよう、滅茶苦茶心当たりが有り過ぎて誤解だと言えないし被害者面していい立場じゃない。
ああああああ!!私ったら何てことを!!
「グレッグさん……いえ、グレゴリオ様、甥御さんの件ですわよね?ブライトニアに代わってお詫びを申し上げます。私の責任によってちゃんと甥御さんをお返し致します」
「はわ!?ど、どういう事なんですか!?ナンパでは!?」
「いえ全くそれは誤解なのよフォーナ!!」
「ああ、そっちもね」
え、そっちも?
そっちもって、どう言う事?グレッグさんは甥御さんを助けたいが為に私達に声を掛けたんじゃないの!?そして復讐したいんじゃないの!?
「取り敢えず、君達に来てもらいたい所が有るんだ。此処の人達の無事と引き換えに、私について来てくれるかな?」
「………」
顔色を失ったマデル様、動かなくなったブライトニア。
そして、静まり返った……私達以外の気配のない宿。
……助けは来ない。来るはずが無いわね。
「……ぐ、グレゴリオさん……一体、何が目的でいらっしゃるんですか!?」
「それをご説明したいんだ。フォーナ、そして……王子の婚約者殿」
「だから違うって言ってますでしょう!?」
「ど、どうして……どうしてこんなことを……」
私とフォーナは大人しく付き従う事しか残されていなかった。
……どうしよう。コレって……早めに帰れ無さそうだわ。
……困ったなあ。
何故か、グレッグさんから命を狙われるような、恐ろしさとか危機は感じないんだけど……。
泣きじゃくるフォーナの肩を抱いて、グレッグさんについて行こうとした、その時……。
ゴガガガンっ!ガシャッ!!ガガッ!!
……は、はあ!?
な、何!?何この破裂音と物が壊される音!!
「っ!?危ないね!!」
この、意味の解らない襲撃は何!?一体何故!?
か、庇って下さったみたい、だけど。
滅茶苦茶後ろで壁とか物が壊れてるんだけど!?
折角皆さんが片付けた意味が!!じゃ、無くて!!
何この……銃で撃ったみたいな跡!!!何でそんな事になってるの!?
「……俺の妻を連れて、何処へ行こうっての、薮医者」
毎日聞いてる割にゾクゾクする甘い声が、凍っている。
目の前には、逆光を背にした燃えるような赤い髪の……。
……何時も苛つくと纏っている火花は、今は何故か周りに散っていない。
片手に何か、棒状の物を持っているけれど……逆光で顔も見えないし、持ち物の見た目も分からない。
だけど……顔は見えなくても死ぬ程怒ってるのが分かる、彼は間違いなく私の伴侶……。
家で子守してる筈の伴侶……。
いや、死ぬ程有難いんだけど……いいタイミング過ぎやしないかしら。
私、GPS的な物を付けられてないわよね!?気にする所其処じゃないとは思うけれど!!
それにしても……逆光の義兄さま、滅茶苦茶怖いわね。シルエットだけなのに。
何と言うか、火花が無くても……炎が燃え盛って無くても、焼け焦がしそうなオーラが滅茶苦茶漂っている。
悪役令嬢なので、義兄さまが怒ると火花が無くても怖いです。
 




