1.逃げ出したご利益(レルミッド目線)
拙作、サポートキャラに悪役令嬢の魅了は効かない(完結済み)の小話集その1です。
本編を読まれないとなんのこっちゃとなります。
先ずは第一弾。主役、アローディエンヌが出産後、籠ってる間のお話となります。
巻き込まれることに定評のある口の悪い系王族、レルミッド視点です。
「それでね、シアン姫様ったら可愛いのよ。天井を這っての追いかけっこがお好きみたい」
「マジか、スゲーな姉さん。でけえ芋虫と遊べるなんて羨ましいぜ」
「もにもに這い寄ってこられるのがねえ!可愛らしいのよホントに!!サジュもお邪魔させて頂ければいいんじゃない?」
「いや、芋虫……じゃねえや、シアンのことアレッキオ卿に前聞いたらよ、冬眠後の母熊みたいなノリですっげぇ睨まれたんだよな……」
街をブラついてたら、町娘みたいな格好の女と、騎士服の……見覚えのある顔は似てねえけど中身は似てる姉弟が駄弁ってやがった。
……て言うかその話題、街中でいいのかよ。でけえ芋虫って時点でギョッとしてる通行人が居やがるぞ。
つまり、この間生まれたアレキちゃんの娘……なんつったっけ、シアンだっけ?の話か。
義妹が産んだ芋虫だよな。赤ん坊の泣き声の芋虫だろ、この前見た。どーでもいいけどどうやって性別分かったんだ?
しっかし、流石アレキちゃん、獣人でもねーのに訳分かんねえ血筋だって……言いたいが。
俺にもその血が流れてるのが何ともな……。……俺に芋虫のガキが出来る可能性もあるってなあ……。まあ、虫は嫌いじゃねーけど、あの姉弟程でもねーな。何でそんなでけえ芋虫と遊びてーんだ訳分からねえ。
そーいや義妹もフツーだったな。あんま知らねえけど、フツー貴族の女って虫嫌いなんじゃねえの?でけえ芋虫産んでも平然としてたな……。あの家の中じゃ未だ話が通じる方だが、アイツもマジ変わってんな。
しかし、何でアレキちゃんが気ィ立ててんだ?別にアイツが産んじゃいねーだろうが。フツー、ピリピリするって母親の義妹の方だろ?でもアイツ、無駄に冷静だからな……。スキルのせいかもしんねーけど、あんま苛々してんの見ねえよな。
ってアレキちゃんちの事なんてマジどうでもいいけどよ。
しっかし、……サジュだけなら声掛けてもいーけど、あのサジュの姉ちゃんは初対面から喧嘩売ってきやがったからな……。面倒臭え。
……通り過ぎるか。別に用事ねーし。
「げっ、ドスケベ赤フード!!」
いやシカトしろや!!サジュは気付いてなかったんだからよ!!
つかその変な渾名マジ止めろや!!通行人が更に不審な表情で見てきやがるだろうが!!
「ちょ、止めろよ姉さん!!先輩!!シカトして行こうとすんなよ!!」
「……お前のねーちゃんの目つきを見てから言えや。流石にこんな街中で女とドツキ合いになったら親戚のオッサン共と叔父上様と祖父ちゃんからドツかれんだよ」
特に親戚のオッサン共は面白がって寄って集ってきやがるからな!!
後地味に叔父上様と祖父ちゃんの説教ついて来るし長くてウゼエし!!
「くっ、受けて立つと言いたいところだけど、今バルトロイズ家にマデル様がお出でなのよね……!!」
「いや、マデル様居なくても通りすがりの先輩と戦おうとすんなよ。何処で聞いてるのか知らねーけどオレまで滅茶苦茶怒られんだぞ」
成程、そんでコイツらこんな街中に居るんだな。バルトロイズ家で駄弁ってりゃいいのにと思ってたけど、コイツら二人、マデルねーちゃん苦手だもんな……。
まー、何が苦手なのか分かんねーけど。結構マトモだし、それに美人だしいーねーちゃんじゃねえか。
あんま言うとまた巨乳好きだのなんだの言いやがるからなコイツら!!放っとけや!!
「つか、マデルねーちゃん、オーフェンのオッサンと結婚したんだっけか?事実婚か?コレッデモン王国で式挙げんのか?」
「いや知りたくねーし式なんて恐ろしすぎて出たくねーんだけど。悪夢過ぎだろ!!」
オーフェンのオッサンの養子じゃなかったかよお前……。
何でそんなに怯えてんだ。結構強い癖によ……。
「オイ、当事者で身内だろーが」
「うう、出来ればサジュだけでお願いしたいわ……」
……さっき、三つ編み逆立つ勢いで俺に殺気放って睨んでた奴とは思えねえな。ガタブル震えてやがるし。
「………ぁ………す……けぇ……!!」
あ?
何か……風の動きがおかしいぞ?
……上か?
まさかフロプシーがまた何かどっかで暴れてやがるのか?
止めろよな……。この頃義妹が出て来れねえからって、俺はあいつと全然関係ねーのに抑えつけられるってだけで呼び出されんだぞ!!
つかニックが何とかしろやって言いたいトコだけど……泣きながら詫び回ってるトコ見るとな……。アイツマジ不憫だよな。無駄に同情心が湧いてきてマジ困る……。
って、フロプシーの気配じゃねえ?
何だこれ……風の魔術の気配じゃねえ?
「先輩?」
「……!!サジュ、上だ!!」
「え?うおっ!!何だアレ!!金色の塊……!?」
「金色の羽が付いた生き物だわ!!」
金色!?
何でそんなもんが……空にあんだよ!?
えっ、マジ見えねえぞ!?何処だ!?何処に……結構遠いな!!サジュとサジュのねーちゃん、よく見えたな!?どうでもいーけど、コイツらマジで貴族育ちなのかよ!!
「もうダメ、羽が……重いいいいいい!!」
ホントマジどうでもいいな!!ま、魔力!!くそっ、魔術に関しちゃサジュは役立たねえし、サジュのねーちゃんもワタワタしてやがるだけだな!!ま、魔力!!集中!!えー何だ!?しょ、障壁!!重たい塊が降って……!!
こ、コレ……弾いたら駄目な奴だよな!?そっちの方が楽なんだけどよ!!
どおおおおおおっ!!
超急いで練った俺の魔術が、金色の羽が生えた生き物をぼわんと……跳ね返して、受け止めた。
……。
ぼうん、ぼうん……ぼん、ごろごろ……。
間抜けな音がして、金色の塊が地面に転がってきた……。
い、一応生きてるか?動いてる……な?間一髪で……受け止められたか!?殺してねえよな?
に、しても……。
何だこの生き物。
……少なくとも、草原や王都ではいねえ生き物だよな。
……大きさは、大人よりちょっとだけ小さいか?
細かい金色の鱗がびっしり生えたびっかびかした体に、蝙蝠みたいな羽。小さい頭に、でっけえ鉤爪の生えた足……。
あ?……この足、どっかで見たな。
にしても疲れんなオイ!!こんな急速に魔力練ったらしんどいんだけどよ!!
「……ぜえ……ぜえ……」
「……な、何だか凄い不思議な生き物ね……」
「うわ、派手だな……」
……コイツら!!
何か野次馬も集まってきてやがるしよ!!
「うぐ……あ、足擦った……」
「喋った!!喋ったわよサジュ!!」
ハァ?空から落ちて来たの助けてやったのに足擦った位で煩えな!!
……ん?
しわがれちゃあいるが、どっかで聞いた声だな。
「サ、サジュ!!」
「はあ!?」
……金色の塊がサジュの名前を呼んでやがる。
騎士団関連か?って、こんな種族居たっけか?コレッデモンと違って、ドゥッカーノは普通に人間が多いよな……。ティムの野郎くらいか?いや、知らねーだけかもしんねえけど。
「こ、この金色の不思議な生き物と知り合いなの、サジュ!?」
「いやいやいやいや!!知らねえよ!!」
「ハァ?知らねえのかよ」
「わ、私……!!私、ご利益無い……!!たすけ……!!」
あ、喋りやがった。しっかし、……ご利益?何じゃそりゃ。
……助けてってことは誰かから追われてるって事か?結構目玉ギョロっとしてんな。えーと、茶色の目か……。どっかで見た色だな。
「……この生き物、拝まれてるモンなのかよ?神殿関係か?」
「神殿!?じゃあえーと、ニックだろ!!もしくはルーロ!!姉さん、ルーロだ!!」
「……いや、ニックは神殿辞めてんだろ。それに今コレッデモンの筈だろ」
「え、じゃあルーロさま!?え、えーと、今日は夕方まで帰られないのよおおおお!!」
「……何か知らねーけど、任していーか?そいつ、サジュを呼んでたじゃねえか」
面倒になって来やがったな。
つーかルディんちに行く予定だったんだよ俺。
滅茶苦茶苛々してそうだな、アイツ。
「先輩、オレと姉さんをこんなややこしい現場に放置してくつもりかよ!?どう見ても何かヤバいだろ!!」
「そ、そうよドス……赤フード!!さっきの呼び方は謝って改めるわホント御免なさい!!私が失礼だったわ御免なさい!!だから手を貸してください!!」
「……」
……何なんだこのサジュのねーちゃん、お辞儀の速度が尋常じゃねえぞ。
つかまた野次馬が増えて来やがったし!!
「いや、だから何で俺だよ。フツーに……お前の保護者のオッサンか、騎士団を頼れや」
「現場に先輩が居たって時点で同罪だろ!?巻き込んだ時点で怒られるんだからいいじゃねえかよ!!」
「何の罪が発生してんだボケエエエエ!!」
「おおおお怒られるの嫌よ!!この間から怒られ通しなのよおおお!!」
オイ、何なんだこの姉弟!!自棄になり過ぎだろうが!!つか其処迄ビビる程怒られ過ぎだろ何してんだコイツら!!
「楽しそうな見せモノかと思いきや……レッカを挟んで何を揉めているんだ、お前達」
「あん?」
結構いた野次馬を掻き分けたのか、白いフードを被った背の高い男が何時の間にか俺の横に立っていた。
……うわ、出て来たのかよ。
「……くううううう!!!王…じもがあっ!!」
「それ言っちゃダメな奴だろ姉さん!!って、ルディ様、え、レッカ!?」
……は?あー、レッカって何だっけか。
えーと、ああ、そうだ。アイツだ。ソーレミタイナでアレキちゃんが拐った、鉤爪足のスゲー女。あのボケババアの王妃の娘……暫く見てねえな。
「……ハア!?」
ちょっと待てや!!
レッカの金色は足だけで、こんな全身不思議なギョロ目生き物じゃ無かっただろうが!!
いや、でも……このでっけえ鉤爪の足!!それっぽいけどよ!!
「……レ、レッカ?えーと、えーと、レッカ……って、あの、家系図でおう……」
「姉さん!!」
「ふむ、道端でする話では無いな。しかし……逃げて来たように見えるが……苛められたのか?まあいい、僕には関係無いな。では行くか、レルミッド」
「あ、あー……」
まあ、確かに関係ねーけどよ……。特に俺もルディもレッカとも仲良くねーし。
しかし、フッツーに見棄てる気だな、ルディ……。
「ままま待って!!いえ待ってくださいおう……白フード!!」
「サジュの姉は服の形態で呼ぶのを好んでいるのか?しかし、それだと別の服も着たときどう呼ぶんだ?」
「くううううう!!あ、揚げ足取るんじゃないわよこの……!!し、白フード!!」
変わってねーよ。……思いつかなかったんだな。コイツ、性格が良いのか悪意が無いのか機転が利かねえのか知らねえけど結構残念だな。
「ルディ様!!レッカだったら、ルディ様のイト……しんせ……関係者ですよね!?何とか!?」
「何とかと言われてもな……。面倒な気配しかしないんだぞ、なあレルミッド」
確かにな……。王城絡みなら余計に面倒臭え。
オッサンに連絡取っていい奴か?コレ。
渋い顔をしてる俺らに姉弟は必死なツラだった。……コイツら、地味に人がいいよな。どーせ騎士団が駆けつけて来んだから放っときゃいいのによ。
「……仕方ないな、重しの牢獄が其処の路地を入った奥に有るが、其処で話を聞くか?」
「ろ、牢獄はちょっと……や、止めてあげたいわ……」
「流石に罪人でもねーのに牢獄はちょっと……」
牢獄はねーだろ……。
……ルディ、マジで面倒臭いみてえだな。
つか、おっちゃんの家……その牢獄とやらよりもかなり直ぐ其処なんだけど……上げたくねーんだろうな。
「なら何処で話を聞くんだ?人事不省の人間を気が付くまで寝かせて置く所など、近くに無いだろう」
「……」
まあ、俺も親戚の家を家主と息子の許可も無しに紹介出来ねえしな……。
「多分、騎士が事情聴取に来ると思うんで、……その後オレの家に、行きましょう……」
……帰んの嫌そうだな。じゃあ止めときゃいいのによ。
「ふむ、バルトロイズ家と言えば、東地区か……。地味に遠いな。やはり面倒だ。
任せたぞサジュにサジュの姉君」
ルディが滅茶苦茶キラキラした笑顔で言い放ちやがったら、サジュの姉ちゃんが見る見る内に顔色変わってやがる。
「いや一緒に行って頂戴よおおおおお!!地味に根に持ってるわねアンタあああああ!!」
「いや?君の失礼な行いを覚えてはいるが、それは手打ちになった筈だろう?単に面倒なだけだ」
「うおおおおお!!更に性格悪いのよおおおお!!」
「煩えな……」
確かに……ズラかりたくなって来た。面倒だ。
どっか逃走経路……。あん?
……何時の間にか、俺の腕をスゲエ馬鹿力が掴んでる。……上を向いたら、サジュの赤茶色の目が笑ってねえ。
「……先輩、来るよな?先輩が来たらルディ様も絶対来る。もう、巻き込まれて貰うぜ……」
「……お前な」
「でかしたわサジュ!!流石私の弟ね!!やっぱり此処は協力しないとね!!」
「……何と、連携か……。全然そんな風に見えなかったが、凄いな」
「ふ、ふふふふ!!ざ、ざまあみなさい!!さ、さあ行くわよ!!」
……絶対偶然だな、コイツら。つか、サジュの姉ちゃんが金色のギョロ目の……えーとレッカを担ぎやがった。
野次馬がどよめいてんぞ。どんな力してんだコイツ。
「……重くねーの?」
「だって、未婚の女性だから私が運んだ方が良くないかしら!!」
「……いやまあそうだけどよ……」
しかし、見た目フツーの町娘が不思議な生き物抱えてる絵面が……えげつねえな。
いやまあ、誰が運んでも……サジュなら獲物っぽいし、ルディは……絶対担がねえな。俺は人間の大きさ担ぐのフツーに無理だ。
「……しかし、僕とレルミッドの約束の邪魔をしてくれるとはなあ。レッカには一体どう償って貰うか」
「止めろやルディ」
つかこの不思議な生き物、ホントにレッカに戻るのかよ?喋れるみてーだけど……。
レッカが何処からか逃げて来たようです。
今回はドリーとサジュ姉弟の積極的な助けの手が有って良かったですね。ルディ君とレルミッドなら放置していました。